第九十五話「偽物」
「やはり愁明の倅は囮でしたね」
「ああ、よくまあ宝玉まで精巧に作って騙そうとしたな……」
朱羅の手が偽物の宝玉を握りつぶす。
砕け散った欠片が朱羅の膝元や畳に落ちる。
「さて、そろそろ涼風の娘と一条家を潰しに行くか」
朱羅の不気味な笑いが月の光に輝く。
それに対し、魁は静かに頭を下げた──
「凛さん、ほんとに何もないんですか?」
「はい、もうこの通りです」
「じゃあ、結月ちゃんの力で良くなったってことですか?」
「おそらくは……」
凛はそう答えつつも、自分自身の身に起こったことをあまり理解できていなかった。
(魁に刺されたあと、意識が混濁する中で、結月さんの懸命に叫ぶ声を聞いた。私を”呼び戻す”声を……)
凛と瀬那は薄暗い廊下を通り、泉水の間へと向かう。
(あの声を聞かなかったら私は確実に……)
泉水の間へと到着する凛と瀬那。
そこにはすでに朔、実桜、蓮人がいた。
「遅れて申し訳ございません」
「いい、具合はどうだ?」
「問題ございません。結月さんに助けられました。やはり結月さんの発動したのは……」
「『翠緑の風』か」
「はい」
朔と凛の言葉に蓮人が割って入る。
「その『翠緑の風』っていうのはなんですか?」
「結月さんと以前、涼風家の蔵に行った際に書物に書いてあった『涼風家の秘術』のようなものと推測されます。おそらくですが、これが治癒の力を宿す意味合いが書かれていたため、涼風家の引き継がれるべき力の一つがそれだったと思われます」
「では、結月さんは治癒できる力を自力で見つけたと?」
実桜が凛に対して尋ねる。
「はい、もしくは……」
「もともと知っていたか」
朔の発言に守り人の目線が集中する。
「詳しくは本人に聞いてみるしかあるまい」
「はい。結月さんはまだ眠ってらっしゃいます。起きたら伝えるよう美羽に言ってあります」
「わかった」
──結月の自室。
「ん……」
「気がついたか」
布団に横たわる結月の目の前には、朔の顔があった。
「朔様っ!」
「全く面倒をかけさせるな」
「すみません……凛さんは無事ですか?」
「ああ、お前のおかげでな。…………礼を言う」
「とんでもございません!」
「具合はどうだ」
「気分はいいです。でもどうして朔様がここに……」
「たまたま寄っただけだ」
そういう朔は目を逸らしてそっけない顔をしている。
それが『嘘』であることを結月はわかっていた。
「ありがとうございます」
「お前が発動した『翠緑の風』は、父親から受け継いだものではないな?」
結月はその言葉を聞くと、黙って頷いたあと、ゆっくりと語りだした。
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