第九十四話「涼風家の秘術」
結月が目を覚ましたときには、目の前が惨状となっていた。
倒れ込む凛に、瀬那たちが駆け寄る。
(頭がぼーっとする……あれ……私……凛さんに……っ! そうだ! 凛さんに毒を流し込まれて……)
結月は自分に起こったことを思い出していたが、それよりも目の前の状況が理解できなかった。
「凛さんっ?!」
「結月っ! 起きたのか! 身体は無事なのか?」
「私は大丈夫です! それよりも凛さんは!? 凛さんはどうしたんですか?!」
「それが、魁に後ろから突然刺されて……今瀬那と実桜で血止めをしているが、一向に引かねえ」
「く~ん」
「琥珀?!」
瀬那と実桜が処置を続ける傍で、心配そうに寄り添う琥珀。
結月は必死に目の前の状況に頭を追いつかせようとする。
(落ち着け……琥珀がいるということは朔様は無事。それに凛さんに寄り添っているということは、凛さんもやはり事情があって敵と通じていた。それに魁が気づいて攻撃した? なんにせよ、凛さんを助けないと)
もたれかかった木から勢いよく起き上がるが、毒が残っているせいでめまいがしている。
(きつい……けど、大丈夫。凛さんを助ける。死なせない。絶対に全員で帰る)
「私に任せてもらえませんか?」
「結月?」
結月は双剣を抜き、千草色に変化させると目をつぶり、神経を集中させる。
脳内では凛と捜索した涼風家の蔵でのことを思い出していた。
(あの蔵で見つけたわずかな手がかり。あれをずっと自分なりに考えていた。『翠緑の風』。私は知ってる。これは……)
結月の周りに渦を巻くように千草色の光が舞う。
それに呼応するように結月の双剣が脈を打つように、鼓動する。
「我が涼風の名において命ずる。生きとし生けるものへの祝福をこの者に与えたまえ」
その言霊をきっかけに、結月と凛を囲むように光の柱が立つ。
「す、すごい……」
結月の目は藍色に輝き、凄まじいイグの力が結月のもとに現れる。
そしてゆっくりとその光は凛へと吸収されていき、やがてあたりは静かになる。
「……どうなったんだ?」
瀬那たちは結月の行動に圧巻され、状況が掴めずにいた。
結月は力を使い果たし、そのまま地面に倒れていく。
しかし、それを受け止めたのは、凛だった。
「また無理をなさって……」
「凛さん!」
「皆さん、心配をおかけしました。まずは謝らないといけませんね」
「く~ん」
「琥珀もありがとうございます」
「凛さん……大丈夫だよな……?」
「ええ、琥珀が合図をくれました。私は朔と共謀して偽物の【宝玉】を使って一条家の内通者をあぶりだしていました。皆さんにはご心配おかけしました」
「やっぱり凛さんは凛さんだよなっ!」
瀬那は凛に抱き着く。
「これ、離れなさい。魁にかぎつけられる前にさっさと帰りますよ」
「「かしこまりました!」」
瀬那と蓮人は勢いよく、声をあげ、実桜は静かに頭を下げる。
結月は凛の腕の中で眠っていた。
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