第九十三話「裏切りの果てに」
「──っ!」
結月と凛以外は目の前で起こる”甘い状況”に一瞬理解が追いつかなかった。
しかし、実桜は直後に『結月は毒を流し込まれた』ことを理解した。
「結月さんっ!」
実桜は結月に向かって叫ぶが、結月はもう意識を手放していた。
地面に倒れそうになる結月を支えると、すぐそばの木にもたれかからせる凛。
ゆっくりと立ち上がり、今度は瀬那たちを見据える凛。
一方、四人が凛の捕縛に向かったあとの宮廷では、朔が動き始めていた。
朔のもとへは元老院が集まり、朔を責め立てていた。
「朔様! 一条家の【宝玉】を盗まれたというのは真実ですか?」
「ああ」
「あれは一条家に伝わる由緒正しきもの。それを奪われるなどあってはならないものです」
「それに盗んだのは愁明家の倅というではないですか。今すぐ愁明家を処分すべきです」
その言葉を聞いた朔がにやりと笑い、永遠に合図をした。
「愁明家の倅か……」
「お前はそれをどこで知った?」
「どこも何も宮廷中が知っております」
「そんなはずはない。今回の一件、現場を見たのは二条 永遠だ。そして、俺は美羽に凛が犯人だということに関して、箝口令を引くよう命じ、今に至る」
「──っ!」
「つまり、宮廷で愁明家が【宝玉】を盗んだことを知っているのは、盗んだ凛と通じていた者だけだ」
「まさかっ!」
「ついでに言っておくと、今回の一件は敵と内通する者をあぶりだす凛の策だ」
「くっ!」
「残念だったな。こいつを連れていけ」
朔の言葉に従い、捕縛部隊が内通者を連れて行く。
「朔様っ! お待ちくださいっ! 朔様っ!」
朔は内通者の慈悲を求める声に耳を傾けなかった。
「琥珀」
元老院の者たちが啞然として動けなくなる中、朔は琥珀を呼び出した。
呼び出しの声に応じ、大きな身体を揺らして朔に近づく。
「凛にことが全て終わったことを伝えろ。それから全員帰還するようにと」
「く~ん」
琥珀は鳴き声で返事をすると、朔のなでる手に一度すり寄って、宮廷から飛び出した。
四人のはるか後方に琥珀の姿を目視した凛。
(うまくいったのですね、朔)
朔と凛の図り事は全てうまくいっていた。この瞬間までは……。
(さて、全員帰還の命を受けましたし、帰りますか……)
凛が瀬那たちに向かって歩き出したところに、魁が現れた。
「──っ!」
次の瞬間、凛は魁の双剣で身体を貫かれていた。
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