第八十三話「それぞれの想い」
──金翠の間。
「なあ、瀬那、なんかおかしくないか?」
「ああ、よそよそしすぎる……」
瀬那と蓮人はまわりに聞こえないようにひそひそと言う。
「……」
「……」
「……」
あれから朔と結月、凛は顔を合わせても他人行儀のように話し、言葉数も少なくなった。
「聞こえていますよ、瀬那、蓮人」
「「──っ!」」
瀬那と蓮人の小さな声を聞き、自分に聞こえていると報告をする凛。
「……」
会議が終わって一通りの確認事項が終わると、朔は一言も発することなく去っていく。
それを見て同時に立ち上がる、結月と凛だったが、お互いに顔を見るとはっとしたように顔を逸らして去っていった。
「……」
その様子を見て実桜は立ち上がり、凛のほうに向かって行く。
「凛さん」
「何ですか、実桜」
「兵の配置と調整について相談があるのですが、一度伺ってもよろしいでしょうか」
「ええ、いいですよ。このまま私の部屋へ行きましょうか」
「ありがとうございます」
──凛の部屋。
「さて、兵についてでしたね」
先に座った凛が実桜にも座るように促す。
「いえ、凛さんのことです」
「? どういうことです?」
「凛さんが何について悩んでいるのか自分にはわかりません」
凛は黙って、実桜の言葉を聞く。
「ですが、まわりは関係なく、凛さんのしたいようにしてください」
「──っ!」
実桜の真っすぐな瞳を見て、全てを察する。
凛は実桜の中で尊敬に値する存在であり、子供の頃からの憧れでもあった。
それゆえに、凛がいつも『まわりに遠慮する』性格なのを知っていた。
「凛さん、私は凛さんが自分自身のための選択ができることを願っています。……すみません、出過ぎた真似をいたしました。お許しください」
「……」
凛は少しの沈黙のあと、息を少し吐くと、実桜の目を見ていった。
「実桜にはかないませんね。私は今悩んでいました、自分がどうするべきか。ですが、やめにします。自分の気持ちに正直になります」
「はい」
実桜が微笑む様子を見て、凛も笑った。
──その夜。
凛は朔の自室を訪れていた。
「朔様、少しよろしいでしょうか」
「入れ」
凛がふすまを開けると、そこには書物に筆を入れる朔の姿があった。
「この間は邪魔をしたな、結月もおま……」
「譲りません」
凛は朔の言葉を遮り、発する。
その言動に朔は書物から目を離し、凛を見る。
「結月さんは譲りません。たとえ、朔であったとしても」
朔は筆をおき、再び凛の目をみて話す。
「あれは俺の婚約者だ」
「『仮初めの』だろ?」
凛の『昔の言葉遣い』にぴくりと顔が動く朔。
「本気なのか?」
「本気だよ」
「……」
「……」
部屋に沈黙が続く。
先に言葉を発したのは朔だった。
「結月はやらん。それでもお前がその気なら、いつでもいい奪って見せろ」
二人の男が宣戦布告した──
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