↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/101

第八十一話「切なさと優しさ」

(凛さんに呼ばれたけど、何だろう……)


 妖魔退治を終えて仮眠をとった夕方、結月は凛に呼び出されて凛の自室兼執務室に来ていた。

 ふすまの前に立つと、結月は声をかける。


「凛さん、結月です」


「どうぞ」


 中から凛の声がしたのを確認し、結月はふすまを開ける。


「失礼します」


 中に入ると、そこは朔の自室とよく似た作りになっていた。


「──っ!」


 結月の脳内で昨日の出来事が頭をよぎる。

 その様子を凛は見逃さなかった。


「結月さん、こちらに来てお酒でも飲みませんか?」


「え……お酒……ですか……?」


 てっきり任務のことで呼ばれたと思っていた結月は、驚いた反応をする。


「ええ、お酒でも飲んで少し結月さんとお話がしたいと思ったんです」


「……それでは、お言葉に甘えて」


 縁側に座る凛のもとへ、結月は歩いていった。

 凛の差し出すお猪口ちょこを受け取ると、凛の横に座って酒をついでもらう結月。


「すみません、ありがとうございます」


「いいえ」


 虫の声が心地よく耳に入る。

 しばらく自然の声に耳を傾けながら、二人で酒を飲む。


 結月の酒が半分になった頃、凛が口を開いた。



「朔のことですか?」


「え?」


 結月は唐突な名前に驚き、お猪口を落としそうになった。


「結月さんの悩み事です」


「──っ! ……なにも悩んでいませんよ」


 凛は自らのお猪口を置くと、結月の顔に自分の顔を近づけ、目を見つめた。

 結月はその綺麗な凛の顔に赤面する。

 いつかのお茶屋の帰りを思い出した。


「嘘つきですね。美羽から聞きました、結月さんが様子が変だと。そして私の部屋を見たときのあなたの顔を見て確信しました。朔のことで悩んでいると」


「……凛さんには嘘がつけませんね」


「伊達にいろんな人を見ていませんからね」


 結月は自らのお猪口を口に運ぶと、凛に昨日の出来事のことを話し始めた。


「朔様と侍女の方が、口づけをしているのを見てしまいました」


「……」


 凛は黙って結月の言葉に耳を傾けている。


「朔様は婚約者です。でも、思い出してしまいました。私たちは仮初めの婚約者。朔様は、私のことが好きではないと」


 結月は俯き、言葉を続ける。


「同時に気づきました。自らの気持ちに。私は朔様が好きです。朱羅をおびき寄せるためではなく、本当に……本当に朔様を好きになってしまった」


 夕日は沈み、月が顔を出してくる。


「こんなに苦しいと思いませんでした。恋が……。だからこそ、口づけを見たときは頭の中が真っ白になりました。どうしていいかわからなくなりました」


 結月は自分自身も気づかぬうちに涙を流していた。


「朔様には好きな方がいらっしゃるのに……私は朔様を好きになってしまった。それが辛いんです。苦しいんです。だから──っ!」


 言葉を遮るように、凛は結月の腕をつかみ、自らの胸元に引き寄せて抱きしめた。


 結月の持っていたお猪口が床に転がって、残ったわずかな酒が零れ落ちる。



「私にしませんか?」



 夜の始まりを告げるように、月が輝き始めた──

いつも読んでいただきましてありがとうございます!


現段階で「続きを読みたい!」「面白い!」と思ってくださっている方がいらっしゃったら

評価/感想などいただけますと作者の励みになります<m(__)m>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。