第八十一話「切なさと優しさ」
(凛さんに呼ばれたけど、何だろう……)
妖魔退治を終えて仮眠をとった夕方、結月は凛に呼び出されて凛の自室兼執務室に来ていた。
ふすまの前に立つと、結月は声をかける。
「凛さん、結月です」
「どうぞ」
中から凛の声がしたのを確認し、結月はふすまを開ける。
「失礼します」
中に入ると、そこは朔の自室とよく似た作りになっていた。
「──っ!」
結月の脳内で昨日の出来事が頭をよぎる。
その様子を凛は見逃さなかった。
「結月さん、こちらに来てお酒でも飲みませんか?」
「え……お酒……ですか……?」
てっきり任務のことで呼ばれたと思っていた結月は、驚いた反応をする。
「ええ、お酒でも飲んで少し結月さんとお話がしたいと思ったんです」
「……それでは、お言葉に甘えて」
縁側に座る凛のもとへ、結月は歩いていった。
凛の差し出すお猪口を受け取ると、凛の横に座って酒をついでもらう結月。
「すみません、ありがとうございます」
「いいえ」
虫の声が心地よく耳に入る。
しばらく自然の声に耳を傾けながら、二人で酒を飲む。
結月の酒が半分になった頃、凛が口を開いた。
「朔のことですか?」
「え?」
結月は唐突な名前に驚き、お猪口を落としそうになった。
「結月さんの悩み事です」
「──っ! ……なにも悩んでいませんよ」
凛は自らのお猪口を置くと、結月の顔に自分の顔を近づけ、目を見つめた。
結月はその綺麗な凛の顔に赤面する。
いつかのお茶屋の帰りを思い出した。
「嘘つきですね。美羽から聞きました、結月さんが様子が変だと。そして私の部屋を見たときのあなたの顔を見て確信しました。朔のことで悩んでいると」
「……凛さんには嘘がつけませんね」
「伊達にいろんな人を見ていませんからね」
結月は自らのお猪口を口に運ぶと、凛に昨日の出来事のことを話し始めた。
「朔様と侍女の方が、口づけをしているのを見てしまいました」
「……」
凛は黙って結月の言葉に耳を傾けている。
「朔様は婚約者です。でも、思い出してしまいました。私たちは仮初めの婚約者。朔様は、私のことが好きではないと」
結月は俯き、言葉を続ける。
「同時に気づきました。自らの気持ちに。私は朔様が好きです。朱羅をおびき寄せるためではなく、本当に……本当に朔様を好きになってしまった」
夕日は沈み、月が顔を出してくる。
「こんなに苦しいと思いませんでした。恋が……。だからこそ、口づけを見たときは頭の中が真っ白になりました。どうしていいかわからなくなりました」
結月は自分自身も気づかぬうちに涙を流していた。
「朔様には好きな方がいらっしゃるのに……私は朔様を好きになってしまった。それが辛いんです。苦しいんです。だから──っ!」
言葉を遮るように、凛は結月の腕をつかみ、自らの胸元に引き寄せて抱きしめた。
結月の持っていたお猪口が床に転がって、残ったわずかな酒が零れ落ちる。
「私にしませんか?」
夜の始まりを告げるように、月が輝き始めた──
いつも読んでいただきましてありがとうございます!
現段階で「続きを読みたい!」「面白い!」と思ってくださっている方がいらっしゃったら
評価/感想などいただけますと作者の励みになります<m(__)m>




