第七十九話「予言と予感~朔編~」
「──っ……」
朔が目を開くと、自らの身体の上に重みを感じた。
「……」
ゆっくりとその重みのほうへ目を向けると、そこには結月がおり、身体を預けるようにして眠っていた。
(結月か……)
よく見ると、涙が滲んでいた。
「朔様……」
寝言で朔の名を呼ぶ結月。
その言葉を聞いた朔は優しい顔つきになり、ゆっくりを手を結月に持っていく。
その手は結月の目元に吸い寄せられ、涙を拭う。
(心配をかけた。俺は死なない、結月……)
すると、安心したような顔つきになる結月。
気持ちよさそうに寝返りを打つと、朔の胸にすり寄る。
「病人だということがわかっていないのか」
朔は呆れつつも、自分の胸にすり寄る結月を可愛く思った。
「お前は昔から変わらない……」
朔は昔を思い出していた──
──17年前。
朔は、父である時哉に連れられて涼風家へ挨拶に来ていた。
「千里、うちの息子の朔だ」
「一条朔でございます。本日はご挨拶できまして、光栄でございます」
千里と妻の静香が、時哉と朔に向かって座る。
「時哉からよく話は聞いているよ。すごい溺愛っぷりでね~」
「おい、やめろ」
「そうなのよ、いつも時哉さん朔さんの話ばかりなの!」
「静香さんもやめてくれ、恥ずかしい……」
「ふふふ」
静香が手を当てて、上品に笑う。
「そういえば、お前の娘さんはどうした?」
「それがな……挨拶させる予定が、侍女と遊ぶと聞かなくてな。すまん……」
「まあ、今度また会えるだろう。相当可愛いのだろう?」
「当たり前だ! 俺と静香の子だぞ?! 可愛いに決まっている!」
「お前も親バカだな」
笑い合う一同。
その中で朔は遠くの庭に小さな少女を見つけた。
(ん……、あれは……?)
楽しそうに侍女のような女と毬で遊ぶ少女。
なんともあどけない、天真爛漫に遊ぶ様子に朔は思った。
「ガキだな……」
自分の胸で眠る結月を見て、昔を思い出し朔は笑った。
(そうだった、最初のこいつの印象はそれだった。今思えば……)
ふと天井を見上げ、見つめる朔。
(無邪気に遊ぶこいつが羨ましかった)
朔は結月の幼い頃の姿を思い出したあと、結月を起こすため、声をかけた。
「おい」
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