第七十四話「当主の器」
男が振り上げた刀は朔へと向かっていったが、朔はそれをひらりと避け、刀を空を切る。
「──っ!」
「刀の師範である兄貴の攻撃を避けた……」
朔は腰にある鞘から刀を抜き、構える。
男は再び刀を構え、朔を狙う。
「ぐっ!」
すると、朔の後ろから凛の苦しそうな声がした。
振り返ると、そこにはもう一人の男が放った吹き矢が、凛の左腕に命中していた。
「──っ!」
朔は吹き矢を放った男ににらみをきかせる。
そして、刀を持った男が再び朔に襲い掛かろうとした。
「そこまでだ」
男は森の奥から聞こえる声に動きを止めた。
朔はそれに対し、ぽつりとつぶやく。
「ようやく来たか」
森の奥から、宮様こと時哉とその従者十名ほどが現れた。
「宮様っ?!」
凛は時哉の存在に驚いた。
それは二人の男も同じであった。
「息子を誘拐、そして一条家ゆかりのものを傷つけた謀反の罪で、お前たちを捕縛する」
その言葉を合図に、従者たちが一気に二人の男を包囲して捕らえる。
捕縛した様子を確認すると、時哉は朔と凛のもとに近づいた。
「お前たち、よくやった」
「遅すぎる。凛の手傷を了承した覚えはない」
「すまん、朔。到着が遅れた」
朔と言葉を交わすと、時哉は凛のほうを向いて膝をついた。
「凛、申し訳なかった。私の到着が遅れたばかりに怪我をさせてしまった。宮廷ですぐに手当させよう」
「──っ! お身体を上げてくださいませ! 私は問題ございません!」
この事件は、二人の男が一条家の治世に不満を持ち起こした謀反として処理された。
しかし、捕縛の最初の罪が『宮様のご子息誘拐』であったことは民衆の間では知られていない。
当初、この二人の男たちの謀反の気配に気づいた一条家だったが、証拠を掴めずに捕縛が難航していた。
そこで、朔が自ら荷車に忍び込み、疑似誘拐を起こすことによって捕らえることにした。
全ては時哉と朔、刑部省の長である愁明家の当主であり、凛の父親である鏡花のはかりごとであった。
朔と凛はその夜、宮廷の縁側で月をみながら話していた。
「凛」
「はい、なんでしょうか」
「俺のせいで巻きこんで悪かった」
「お気になさらないでください。全ては父も一枚かんだはかりごと。私がとやかくいうことではありません」
「その自己犠牲、やめろ」
「え?」
「お前はその自己犠牲で俺に仕えるな。俺が一条家の当主になったとき、傍で支えるのはお前だ。そして、お前は俺の傍で俺を守るのではなく、『俺とお前』を守れ」
「──っ!」
(あの時、私は決心した。この人と共にこの綾城を守る。そして、一生朔に仕えると)
朱羅の攻撃を凛の結界が阻む。
そして、凛の構えた刀は、青碧色へと変化していった。
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