第六十七話「刃を交えるその時に」
「待っていたぞ、朱羅」
朔は朱羅に向けて、静かな怒気を含めながら言った。
朔、凛、朱羅。
それぞれが相手の動向を探りながら、ゆっくりと話を続ける。
凛は長く時を共にしたからこそわかる、朔の『異様なまでに静かな気配』に気圧されそうになった。
臙脂色の着物に漆黒の髪がよく映える。
その様子を朔と凛は鋭く見つめていた。
「涼風の娘はここにはいない。お前が仕掛けた囮の討伐に向かっている」
(朔様は囮だということをわかっていらっしゃったのか……)
凛はわずかな違和感や言葉にできぬほどの微々たる『嫌な気配』しか感じていなかった。
しかし、朔は西の森付近の奇妙な霊の噂の段階から、囮の可能性を見抜いていた。
もはやそれは常人のなんたるかではない域であった。
「知っている。お前がわざわざ向かわせたのだろう? この私と会わせぬために」
朱羅はゆっくりと目を細めて朔を見る。
「お優しい婚約者様だな──っ!」
朱羅は言い終わるか否かに右手を上げると、素早く自身の左肩の前で手刀を作り、一気に空を切った。
刹那、朔へ向かい一直線に臙脂色の三日月のような波動が飛んだ。
凛は朔の前にすかさず立ち、人差し指と中指を立てて詠唱しながら結界を張る。
結界に阻まれた朱羅の攻撃は弾け飛ぶように、消失した。
「下がっていろ、凛」
ゆっくりと立ち上がり、凛に声をかける。
「相変わらず行儀がなっていないな、朱羅」
朔は太刀を片手に階段を下りて、朱羅に向かって歩き出す。
やがて、そのまま二人の距離は縮まり、お互いの刀が届くわずか手前にまで迫った。
「分身たちの意識を通してお前たちを見ていたが、骨のあるやつはいなさそうだな」
朱羅は鞘に手をかけてゆっくりと刀を抜く。
同じく、朔も太刀から刀身を抜き、朱羅に切っ先を向ける。
ほぼ同時に一歩を踏み出し、刃が交える。
反射する刀身には、少しも表情を崩さない朔と、にやりと笑う好戦的な朱羅の姿が映っていた。
両者は何度も攻撃をするが、互いの攻撃を受け止め勢いがそのたびに削がれていた。
拮抗しているように見えるその単純かつ高度な刃の交わりに、凛は言葉を失った。
幾度となく攻撃を交わした後に、朔が一気にイグの力を込めて刀から攻撃を放った。
それをすらりと避け、両者は再び一定の距離を保った。
朱羅が自身の顎に手をやって、言葉を紡ぐ。
「少しは骨がありそうだな」
「……」
朱羅の言葉に、無言の朔。
「さすが、時哉の息子か。ああ……時哉は強かったなぁ……」
父親の名を出された朔は、一気に怒気を含んだ表情になった。
と、同時に凛も同じく朱羅を鋭くにらんだ。
朱羅が思い出したかのように、告げた。
「まあ、その時哉もこの俺が殺したんだけどな」
感情の渦が空間を埋め尽くした──
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