逃亡
アランの回想のお話が続きます。アランにとっては辛い過去ですね。読んで頂けたら幸いです。
アランは暫くして、周囲が静かになった頃を見計らって、研究所を脱出した。すると厳つい男がアランに小声で話しかける。
「俺はレイランド国にある北部ギルドマスターのハロルドから依頼されたデューイという者だ。あんたの身柄を保護するようにと言われている。」
と言い、ギルドの会員証を見せてくれた。北部ギルドの副長、ハロルドの直属の部下だという。ハロルドというのはレイランド国にある北部ギルドのギルドマスターで、アランの昔馴染みである。
この世界でのギルドは、『何でも屋派遣会社』のようなもので、職を探す人々がギルドに登録し、依頼人から依頼された仕事を個々の能力に応じて登録者に宛がう。登録者は依頼された仕事を終わらせたらギルドに報告し、報酬を貰うというシステムだ。
大陸の北と南、東と西、そして中央とエリアが別れており、その各エリア毎に本部がある。各国の各町にギルドの窓口があり、そこでギルドの登録や仕事の依頼をし、たまにはクレームの窓口にもなる。
基本的にはエリア内で終わる仕事なら、エリア内の登録者に仕事が割り振られる。他エリアに行くような、例えば配達の様な仕事や魔物退治の様な危険を伴う仕事は、他エリアの本部とも協議し、全国の登録者の中から能力を見て慎重に割り振られる。尚登録者は仕事を断る事もできる。
ギルドマスターとは各エリア本部を統括する最高責任者であり、その能力は他の登録者よりも格段に高い。デューイは副長ということだからハロルドに次ぐ実力者と言うことだ。何とハロルドは自分の信頼の置ける副長をアランの為に寄越してくれたのだ。
デューイは周囲に合図を送る。すると一人の細身の男が目の前の木の上から降りてきた。男は直ぐ様デューイに膝をつく。
「周囲を確認致しましたが人の気配も不審な物もごさいません。」
「そうか、引き続き周囲の警戒にあたってくれ。」
「御意。」
男は一言そう答えると、スッと姿を消した。デューイは男との会話を終えると振り返りアランに説明する。
「あれは俺の部下のザッケルといい、隠密行動を得意としている。真面目で無口で無骨な男だが、俺にとっては一番信頼のおける部下だ。」
「ハロルドと貴方はもちろん、他のギルドの方々も、私達を命懸けで助けてくださりありがとうございます。」
デューイは照れ臭そうに頬をかいた。そしてアランに向き直すとニッと笑った。
「ハロルドの命令ってのもあるんだが、あんたの研究が世界中の黒斑病で苦しむ人々を救えるからってのが大きいな。そんな凄い研究を、この国の連中は自分の利益の為に利用しようとしている。それが俺達は許せないのさ。これからも力になるぜ!」
アランは他の研究所のメンバーには話していないが、実は昔、前研究所所長ゲイラに研究を横取りされたことがある。研究は、進行を遅らせる薬をようやく開発できた段階だった。貴族はゲイラに多額の金を渡し、アランの研究結果を盗み出し、それをゲイラの研究と偽って世間に発表した。
薬の利権は貴族の物となり、薬は高額で売られることとなってしまった。その後、貴族とゲイラとの間で金の事で揉めに揉め、ゲイラは亡き者とされてしまったが。
その事件があってから、アランはとても用心深くなった。アランは秘密裏に自身しか知らない部屋を作り、毎日他のメンバーが帰った後、こっそり一人で研究を行っていた。
それは他のメンバーに研究を盗まれないようにということもあったが、何かが起こった時、メンバーを巻き込ませないようにというアランなりの配慮でもあった。
アランとデューイは周囲を警戒しながら、東のシュタインゲルト国との国境へと向かっていた。クレスタン王国さえ出てしまえば、ひとまずは安全だ。アランは一息ついた後、デューイに尋ねる。
「デューイ、あれからソウマの手掛かりはなにか掴めた?」
「………。」
デューイはとても言いにくそうに俯く。アランはやっぱり、と思っていた。
「ソウマは…スパイだったんだね?」
デューイはハッと顔を上げ、驚いた表情でアランを見る。
「知っていたのか……?」
「連絡が取れなくなってから何となく…ね。ソウマは身寄りがない。だから多分良いように国王や貴族に扱われたんだろう。ソウマはそれで……?」
「…遺体が…見つかった。街の西側の川に浮いているのを近くの住人に発見されたんだ。ソウマの過去を調べたら、幼い頃、この街のスラムで一人で暮らしていたのを、国王の側近に買われたらしい。」
「……スラム……そうだったのか……。」
デューイに話を聞いてアランはソウマの屈託のない笑顔を思い出しソウマの苦労を思う。あの笑顔は作ったものではない。きっと上からの命令に逆らえなかったんだ、とアランはふとそんな感じがした。
「デューイ!」
という声と共にザッケルが姿を現す。ザッケルは慌てたようにデューイに何事か耳打ちすると、アランとデューイに一礼してすぐに姿を消した。デューイがアランに説明する。
「アラン、すまないがこのまま君の婚約者のいるサヴァンまで俺と同行してもらえないか?」
「えっ、サヴァン村に何かあったのか?」
「わからない。君の婚約者とその家族を保護するようにと部下に命令を出していたのだか、連絡がつかないらしい。」
「わかった、急ごう。」
アランは嫌な胸騒ぎがした。アランとデューイは急ぎサヴァン村へ向かった。
そして………。
サヴァン村に着いた二人は、その光景を見て、呆然と立ち尽くす他なかった。あの穏やかなサヴァン村の面影は、もはや何処にも見当たらない。
村に住む人々が暮らす家々やその横にある各家庭で食べる為だけに耕された小さな畑、村に流れる川にあった水車小屋、村の外れにあった牧場、旅人が立ち寄った時に泊まる小さな宿屋、具合が悪くなった時に駆け込んだ薬屋、焼きたてのパンが買えるパン屋、食材を売る八百屋に肉屋、人々の営み、その全てが焼き尽くされてしまっていた。
アランとデューイは重い足取りで、レイアとその家族が暮らす家を訪ねた。そこも見るに無惨な物だった。もはや家の原型は無く、黒く焦げた柱だけがかろうじて残っているのみだった。
段々とキナ臭いお話になってきましたが、ここでデューイ、ザッケルコンビが登場です。実は柊はこのコンビがとてもお気に入りなのです。皆さんもお気に召して頂けたら幸いです。(何の宣伝だ)




