仲間
今回で少年と死者の森の物語は終わりです。最後までお付き合い下さい。
クレスタン王国の事件から3年後、アランの墓の前にはカイ、デューイ、ザッケルの三人が立っていた。カイは15歳となり身長もかなり伸び、まるで別人の様に変わっていた。
「あれからもう3年にもなるんだね…。」
とカイが墓にしみじみと話しかける。
「あんなにちっこかった坊主が、今やいっぱしの好青年だからな。あっはっはっは。」
とデューイは右手の人差し指と親指でカイの身長を表現し、豪快に笑う。
「デューイ、その身長じゃ、俺小人じゃないか。」
と、カイが間髪入れずにつっこむ。それを横で聞いていたザッケルは思わず吹き出した。
「おっ、ザッケルが笑うのを見るのは久しぶりだな。」
「珍しいよね。いつも真面目で冷静な人だから。」
二人にまじまじと見られて、ザッケルはそっぽを向く。
「上司の尻拭いが大変だからですよ。」
とザッケルは言い訳をする。「違いねぇ」、とデューイはまた豪快に笑った。
「そういやアラン、カイのレイランド国の学校への入学が決まったよ。」
そうデューイはアランに報告した。実は来年の春から、カイはレイランド国の学校に通う事が決まっている。アランはカイの中に様々な可能性を見出だしていた。カイの可能性を広げてやりたい。その為に学校に通わせてやってほしいと手紙でハロルドに頼んでいた。
また、デューイもアランと同じ気持ちだった。このまま貧しい村で一生を終わらせるには惜しい人材だ、と。だからちょっとだけ学校に口利きをした。もちろん賄賂や裏口などではない。カイの実力で入学試験に合格したのだ。
「寮に入るから暫くここには来れないね。」
と寂しそうにカイが俯く。それを聞き、デューイがガハハと笑った。
「寮ったって、長期休暇もあるんだからいつでも来れるさ。」
ワシワシとカイの頭を豪快に撫でてやる。すると「そっか。」とカイの表情が少し緩んだ。
デューイ達北部ギルドの働きで王弟グリムラントが助け出されてから、クレスタン王国は大きく変わった。
まず先王レムリアントの処刑が執行された。国王になる為に邪魔な実の弟を殺そうとし、またその地位を守る為にサムザに手を貸し、民の生活を脅かした愚王レムリアント。最期は死ぬ直前まで、泣いて命乞いをしていたらしい。
「結局、サムザにいいように操られていた、愚かな王だったな。」
そう言い、デューイは空を仰ぐ。
「全ての黒幕はサムザだったとしても、レムリアントは王。王は臣下や民に正しい道を示さなくてはならない。悪事に手を貸すなどもってのほかです。」
とザッケルはなかなかに手厳しい。
「王も人間、道を外す事もあるかもしれない。もしも周囲にそれを正す者が一人でもいれば、何か変わっていたのかもな。」
デューイはレムリアントにほんの少し同情していた。レムリアントの周囲には、レムリアントを利用しようとする者ばかりで、助けようと思う人間など誰一人としていなかった。
もちろん許した訳ではない。レムリアントとサムザのせいで、死ななくてもよかった命が、数え切れないほどいるのだから。
「デューイ、それは自らと重ねているのですか?」
ザッケルにそう問われ、デューイは少し困った顔をした。トップに立つものは常に孤独だ。全員の部下の生活、命、全てがその両肩にのしかかっている。特にギルドの様な仕事は、一つ間違えば命に関わることもあり得る。
「貴方は大丈夫ですよ。私達がいるのですから。特に私は、もし貴方が間違った道を進もうとすれば、全力で止めますからね。例えどんな手を使っても。」
ザッケルはニヤッと笑う。
それを聞いたデューイはゾクッと寒気がした。そう、ザッケルなら止めてくれるだろう。それこそ、例えば、『どんな手を使ってでも』。
「くれぐれも気を付けるさ……。」
とデューイは引きつらせた笑顔で答えた。
クレスタン王国は、新王グリムラントの手腕で、全く新しい国へと変わりつつあった。
まず国中の町や村に兵士を配置し、治安改善に努めた。町外れや森に隠れていた盗賊達も捕らえられ、サヴァン村を襲った者達も捕まり処刑された。
今まで放置されていた国境にも兵士を配置し、他国からの旅行者や移民者に目を光らせる。
城下町であるレイアーヌのスラムは、犯罪者は捕らえられ、貧しい者には補助金が出され、スラムの人々の生活は一気に向上した。
ただし、ボロボロですぐにでも崩れ落ちそうだった家々は撤去され、全員、新たに建てられた頑丈な建物に引っ越しをしなくてはならなかったが。だが、不満を言う者は誰一人としていなかったという。
そしてアランが開発し、ゲイラによって奪われていた黒斑病の進行を遅らせる薬は、アランが開発者であることがクレスタン王国から正式に発表され、サムザのせいで高値で売られていたものが、正規の価格に戻された。
世界中に植えた生命の木の枝も順調に成長し、少しずつ周辺の瘴気を浄化していると聞く。全てを取り去るにはまだまだ膨大な時間がかかるだろうが、確実に前進していた。
クレスタン王国はアランの功績を讃え、グリムラント国王の名のもと、アランに博士号を与える。アランは今後、アラン博士と呼ばれ後世に語り継がれることだろう。世界の瘴気を無くし、黒斑病を撲滅させた英雄として。
「長かったな。」
とデューイは言った。
「そうですね。」
とザッケルが答える。
カイはアランとの旅を思い出す。
色々な奇跡と偶然が重なった出逢い。
「アラン。俺、アランと出逢えたこと、そしてアランを通してデューイとザッケルに出逢えたこと、とても感謝してる。」
三人の周囲に心地よい風が流れる。
デューイは空を仰ぐ。その表情はとてもにこやかだ。
ザッケルは目を閉じて風を感じている。とても穏やかな顔で。
カイは真っ直ぐに墓を見る。希望に満ちた瞳で。
「俺、生きていくよ。命の続く限り。皆に助けられながら。」
今回が少年と死者の森最終話です。長いことお付き合い頂きありがとうございました。当初はもっと短いお話だったのですが、キャラクター達が物語を作ってくれました。作者としては有難い限りです。皆様の心にほんの少しでも記憶に残って頂けたら幸いです。




