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少年と死者の森  作者: 柊 里駆
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再会

初回ぶりのネネとゾーダの登場です。デューイ達も出てきます。読んで頂けたら幸いです。

カイ達一行は砦に一泊し、翌日の夕方にはナリーシャ村に着いた。村に帰ったカイは村の皆から暖かく出迎えられた。


しかしカイの安否を心配していた祖父には、説教と拳骨を食らった。その後抱き締められ、


「良かった。無事でいてくれて良かった。」


と、泣かれてしまった。自分勝手な行動で、こんなにも家族を悲しませるのだということに気付き、カイは反省した。


「じいちゃん、これをネネに。」


「何だ?この薬は。」


「ミレンの花の根っこから作った薬だよ。」


「そんな本物かどうかもわからんものを……。」


と言おうとした祖父を、デューイが遮る。


「その薬は信用できるものですよ。何せ今世間で出回っている薬を開発した研究者自らが作ったものなのですから。」


カイはデューイを見上げる。


「俺の話を信じてくれるの?」


「ああ。昨晩、お前さんから預かった手紙を読んだんだ。あの手紙を書いたのは間違いなくアランだ。疑って悪かったな。」


「ううん、いいんだ。あんな話を聞かされたら誰だって疑うよ。信じてくれてありがとう。」


祖父はデューイとカイを交互に見た。いつの間にこんなに仲が良くなったのか。しかしカイとデューイが大丈夫と言うならと薬をネネに飲ませてみることにした。


薬を水に混ぜ、飲みやすいようにする。それをゆっくりゆっくりと休ませながら全て飲ませた。


最初飲み始めた時には荒かった息も、段々と落ち着いてきて顔色も良くなってきた。そして翌朝……。


早朝のまだ朝日が昇る前、カイが自室で爆睡していると、突然祖父ゾーダのカイを呼ぶ叫び声が聞こえてくる。


「カイ!来てくれ!ネネが!ネネが!」


何事かと、カイはドタバタと慌ててネネの部屋に向かった。


「じいちゃん、ネネがどうした……あっ!!」


カイがネネの部屋に着くと、そこにはベッドで起き上がっているネネと泣きながらネネを抱き締める祖父ゾーダがいた。


「……良かった……良かった!!」


カイもゾーダとネネの肩を抱き、三人で大泣きした。その様子を、一晩ゾーダ家に泊めてもらっていたデューイとザッケルも見ていて、二人で軽く右手の拳をぶつけ合った。


翌朝、日が昇り皆で朝食を済ませた後、デューイとザッケルは素早く旅支度を終え、村を出発しようとしていた。カイ達も家の入り口まで二人を見送りに来ている。ネネも僅か一晩で少し歩けるようになっていた。やはりアランの薬は素晴らしい。


「デューイさん、ザッケルさん。孫達を助けて頂きありがとうございました。また近くに来ることがあればいつでも寄っていって下さい。」


と、ゾーダが二人に深々と一礼する。デューイとザッケルはこれから死者の森に向かう。砦で手紙を読んでから、カイを村に送り届けたらもう一度、森に戻ると決めていた。


「いいや、俺達は何にもしてねぇ。強いていうならアランのおかげだな。」


「そんなことないよ。俺を村まで安全に送ってくれたし、何よりデューイさんの説得がなければ、ネネはまだベッドの上で苦しんでいたかもしれない。」


「ありがとよ、カイ。その言葉だけで俺達の苦労も報われるってもんだ。さて、そんじゃ俺達そろそろ行くわ。」


「おじちゃん達ありがとう。」


とネネが可愛く手を振る。それとは反対に、少し暗い表情でカイは俯いていた。


「……本当は俺も着いていきたいけど……。」


「止めとけ。やっと家族の元に帰って来たんじゃねぇか。わざわざ自ら危ない所へ行く必要はねぇ。」


「……うん。……アランをよろしくね。」


「わかってるよ。俺達に任せとけ!」


そう言ってデューイとザッケルは旅立った。カイは二人が見えなくなってからも、ずっとそこで見送り続けた。


デューイとザッケルは再び死者の森へと向かう。目的はアランの研究書類と、アランの亡骸を回収する為。


普段戦い慣れているデューイとザッケルにとって、山小屋まで行くことはそう難しくもなく、途中何度か小物モンスターと戦う場面はあったが、あっという間に辿り着いた。そして手紙にあった通り、山小屋の床板を剥がすと、アランの研究書類が出てきた。


「……これは……流石はアランと言うべきか。」


書類を読み、デューイは驚き、瞳を輝かせる。


「…巨木の枝を植えた土にリリアの花の種を植えて育てる、というのは手間ではありますが、ミレンの花と同じ成分のリリアの花ならばそこらの野原でも咲いてますから、特効薬が今だに無い事を考えるならば、やる価値はあるでしょうね。」


ミレンの花はそこいらに咲いている花ではない。だがリリアの花ならば直ぐに手に入る。後は枝の浄化作用をリリアに移すだけだ。


「これさえあれば黒斑病に対抗することも、世界に広がる瘴気を消すこともできるかもしれない。」


「……称賛されるべき本人が亡くなっているのが非常に残念ですね。」


「そうだな。アランが生きているうちにこれを世間に発表出来ていたなら、もっと言えば10年前に発表出来ていたら、アランの人生もこの世界も、もっと違うものになっていただろうな。」


ザッケルは苦々しい表情で俯く。ザッケルの気持ちはデューイにも痛いほどわかる。


「…………。」


デューイはザッケルの背中をポンポンと優しく叩く。


「……アランを追い詰めたあの国王には、それなりの報いを受けて貰うさ。」


そこにはネネが飲んだ薬の作り方と、浄化作用の強い巨木の事について書かれていた。二人は書類を回収すると、今度はアランの眠る洞窟に向かう。


デューイとザッケルは少し迷いながら、やっとの思いで洞窟を見つけた。二人とも普段滅多に死者の森には入らないし、もし入ったとしても道から外れることも、ましてや瘴気の濃いこんな場所に来ることもなかったから、ここにこんな洞窟があるという事は、今日初めて知った。


長い洞窟を抜けると、そこは別世界だった。その空間だけまるで天国のいるような錯覚に陥る。一本巨木がそびえ立ち、周囲に白い花が咲き乱れる美しい風景。


デューイとザッケルはゆっくりと巨木に近付く。


「……アラン。」


巨木の下にアランはいた。


二人はその遺体の前で立ち尽くす。


暫く無言でアランの亡骸を見ていたデューイは、静かにザッケルに話しかけた。


「……ザッケル、すまないが、俺は今から部下のお前にみっともないところを見せる。」


「……私も…です。」


デューイはバッとその場に膝を折り、両手を付く。まるで土下座をするように。


「……アラン、アラン!すまなかった。お前を守るとか言いながら、俺はお前も、お前の大切な人達も、誰一人として守れなかった。」


デューイの目から流れた涙が次々と地面の土を濡らす。


「その上10年間も、こんな所で独りぼっちで…。」


ザッケルも泣いていた。デューイのように声に出すことはなくとも、その想いはデューイと一緒だ。


デューイは、すまない、すまないと何度も謝り、その内その言葉は嗚咽へと変わっていった。


それほど長い時を一緒に過ごしたわけではない。この長い人生で考えれば、ほんの一瞬とも言えるだろう。それでもデューイとザッケルはアランを長年の友のように思っていた。


デューイとザッケルとて、アランを探さなかった訳ではない。アランが確実にこの森に入っているのを知っていたし、この森を境に消息を断っている。この森で何事かがあったことは明白だった。実際森に探しに来たこともあった。しかし深追いは許されなかった。


まず、ハロルドから死者の森の奥地までアランを探しに行くことを厳しく止められていた。ハロルドとしては大事な部下達を失う訳にはいかなかったのだろう。恐らくデューイでも同じ判断を下す。


そしてデューイには妻子がいて、まだ子供も幼かった。今自分が死ぬ訳にはいかなかったのだ。ザッケルもまた同じだった。妻は既に他界しているが、その妻との間に生後間もない赤子がいる。今は年老いた両親が面倒を見ているのだが。


アランの行方がわからなくなった頃、デューイとザッケルはハロルドにサヴァン村を襲った盗賊の討伐を願い出た事もあった。しかしハロルドはそれも拒否をする。


ハロルドの考えとしては、今ここで盗賊を討伐しても、また別の盗賊が現れる。クレスタン王国の上層部が変わらなければ、いたちごっこになる事はわかっていた。


ハロルドはクレスタン王国が変わるその時を待ち続けた。しかし終にハロルドが亡くなるその時まで、王国が変わることはなかったのだ。


しかしデューイとしてもザッケルにしても、自分達のせいでアランが行方不明になり、亡くなってしまったという負い目がある。何としても一矢報いてやりたかった。


「アラン、お前さんは優しいから、きっと俺達が危険を冒してまでお前さんの敵を討つことを喜ばないと思う。だからこれは俺達北部ギルドのケジメとして、クレスタン王国の国王を玉座から引きずり下ろす。」


デューイとザッケルはアランの亡骸に誓った。






















デューイ、ザッケルとアランの10年ぶりの再会です。とはいえアランは遺体なので、話すことも出来ませんが。しかし、デューイは熱い男ですね。部下の前で男泣きするし、ギルドマスターなのに平気で動きまくってるし。書いていて楽しいです。これからもよろしくお願いいたします。

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