努力と才能、夢と路上ライブの結末。
《弊社では山本舞奈様が活躍できる場所をご用意することができないという結論に至りました》
私はオーディション落選の連絡メールを見た後、部屋に籠もりずっとフテ寝をしていた。
ようやく目が覚めてもやる気が出ない。
一体何度目のオーディションだったのか。
最初の十回までは数えていたのだけど……もう思い出せない。
いつまでも寝っ転がってスマホで動画を眺めてしまう。
ずっとずっと。
——おなかすいた。
最後これを見たら、食事の準備をしよう。
そう思って開いた動画に目が釘付けになる。
聞き覚えのある声、見覚えのあるキーボード、懐かしい演奏のクセ。
学生の頃一緒にバンドをやっていた亮治と瓜二つだった。
動画には胸から下の演奏風景しか映っていない。だけど鍵盤の上をリズミカルに走る細く長い指、張りのある声を視聴すると「彼だ」と確信する。
——音楽をやめていなかったんだ。
動画の編集や演出をしたり、もっといいマイクを使えばもっと人気出そうなのに。
動画紹介文も、実際の映像もあまりに素っ気なかった。
彼はパソコンに詳しかったので、この手の編集はできるはずだ。
弾き語りの様子はとても楽しそうだ。彼の声がスキップをするように跳ねていた。
声もノっていてキーボードが奏でる伴奏と良く合っている。
私は動画を見て、ぼんやりとセピア色に染まる高校時代の風景を思い出す。
なんとなく。
ほんとうになんとなく。
何かを期待したわけでもなく「私のことを覚えている?」とダイレクトメッセージを送ってみた。
返事は来るのだろうか?
高校生の頃、亮治と二人でバンドを組んでいた。
私はギターで弾き語り、彼はキーボードでコーラス担当。二人で文化祭やライブハウスの企画に参加して、何度かライブも行った。
時間を忘れ本当に夢中になって、音楽を楽しんでいた。
亮治とのセッションはいつも刺激的で、歌った後のお客さんの反応に体が 痺れた。
彼には間違い無く才能があった。私よりもずっとずっと。
だから私は一生懸命努力をして、彼に追いつこうとしていた。
将来は夢を追い、共に音楽の道を歩むのだと勝手に考えていた。
「ね、将来どうするの?」
進路希望の用紙が回ってきたとき、彼に尋ねる。
私は音楽を専門的に学ぶため、音楽大学を受験するつもりでいた。
一緒に行けるのなら心強い。
しかし彼は……どこか遠くつめて、まるで他人ごとのように言う。
「俺は、オヤジの会社を継ぐんだろうな」
彼の父は数十人の社員がいる会社を経営していた。
高校を卒業したら、すぐに入社することが決まっているそうだ。
「音楽は……やめるの?」
「続けたいけどな。でも、舞奈みたいには無理。趣味としてさせてもらえるのかもな」
亮治は少し寂しそうに笑った。
才能のある彼が、現実的な道を歩む。
才能の無い私が夢を追いかける。
現実というのは……思い通りにならないものだと初めて感じることだった。
進路が分かれてしまったことで、私たちもバンドを解散した。
お互いに、もっと気持ちが強ければ恋人として一緒にいられたのかも知れない。
高校を卒業して離れ離れになった時、寂しいとは思ったのに泣くほどの悲しみは抱かなかった。
彼もきっと同じだったと思う。
「舞奈か、久しぶり。元気?」
亮治からあっけなく返事が来た。
私はその返事がとてつもなく嬉しくかった。
亮治からの返事はいつも早い。
すぐにメッセージアプリのIDを交換して、以前付き合っていたときのように濃いやりとりが始まる。
「元気だよ。相変わらずオーディション受けてる。なかなか受からないけどね」
私は、大学の卒業後は音楽教室の講師をしつつも、大手音楽レーベルのオーディションに応募し続ける日々を送っていた。
「舞奈は頑張ってるんだな。俺はオヤジの会社に入社したんだけど——」
彼は仕事を頑張っているみたいだ。
互いに愚痴を言い合う。
動画サイトは趣味で演奏する風景を流しているのが楽しいだけで、それ以上のことは求めていないのだとか。
亮治らしいな、と思った。
「で、舞奈は今彼氏いるの?」
「いないよ。ずっといない。そっちは?」
「いないのか。そっか……まあ、俺も同じだけど」
彼は忙しくて出会いがないとボヤいていた。
私も音楽のことしか考えられず、告白されることはあったけど断っていた。
付き合ったとしても、楽器や歌の練習をする時間が惜しくて、ほったらかしにしまいそうだったし。
「ねぇ、私路上ライブを週一でやってんだけど、一緒にやらない? 暇なときでいいからさ」
「忙しいって言ったろ。でも、まあ……ちなみに、いつ、どこでやってんの?」
否定しつつも、興味があるのか食いついてきた。
なんだかんだ言いつつ、時と場所を聞いてくれたのは嬉しかった。
「結構近くだな。行けそうなときは連絡するわ」
「うん!」
社交辞令かもしれない。でも、それでも興味を持ってくれたことに、ついつい顔がにやけてしまう。
また、一緒に演奏ができる!
ライブを一緒にやっている妄想を始めた私は、ベッドに寝転び枕に顔を埋めた。
「さ来週末、連休だろ? 路上行けるかもしれない」
亮治は予想より随分早くライブ参加の連絡をくれた。
私はオーディションで惨憺たる敗北を続けていて、落ち込み気味だった。だけど、そんな湿った気分が一気に吹き飛ぶ。
「やった! じゃあ楽譜送るね」
「おう。出来れば、前やった曲にしてくれると嬉しいけど」
「えー、ちょっと古くない?」
選曲の相談をして、数曲の楽譜を送信する。
その中に、一曲のオリジナル曲を混ぜておいた。二人で作った曲は、今風のアレンジを加えて私が編曲したものだ。黙って彼のソロパートを加えておく。
「ちょ、これ俺のソロあるんだけど?」
予想していたとおりのメッセージがあって笑った。でも、まんざらでは無さそう。
私はすかさず、
「嬉しいでしょ、練習しておくよーに!」
と答えたのだった。
当日の準備のことや曲のことなど打ち合わせることは多く、メッセージのやりとりが多くなる。
そして、あっという間に路上ライブの日になった。
二人で一回も合わせず本番ぶっつけだ。
でも、なんとかなるだろうと、お互いのんきに考えていた。
路上ライブ当日。
私がライブ会場に着いたとき、彼は既にキーボードやアンプのセッティングを行っていた。
早足で駆け寄る。
「もう来てたんだ。久しぶり!」
「お、遅い!」
彼は笑いながら答えた。少し痩せたかもしれないけど、それ以外はあまり変わっていなかった。
温かい声のトーン、鋭い視線、柔らかい口元。
女の私が羨むほど、綺麗な指。
「亮治が早いんでしょ」
「まぁな。なんか早く着いちゃって」
「気合い入ってますなー。アンプとか準備してくれてありがとう」
なんのことはない。彼はノリノリだったのだ。
出遅れた分を取り戻そうと、さっそく自分の準備を始める。
「あんまり変わっていないね。痩せた?」
「最近超忙しくてね。やっと少し落ち着いたけど」
軽く会話をした後はお互いが黙々と準備を進める。やっていることは五年前と殆ど変わらなかった。マイクスタンドを立てて、ケーブルを繋いで、楽器をセットして……。
演奏も前と同じようにできれば最高だ。
頭では不安に感じていたのだけど、緊張はしていなかった。
いつも一人でやっているのに比べ、信頼できる人と一緒に演奏するというのはこんなにも安心感が違うのか。
「じゃ、始めるね」
ギターのチュンーニングが終わりお互いの準備が整った。
軽く音も出した。
私はいつもの調子で司会を始める——
雑踏に自分の声が吸い込まれていく。
幸い数人が立ち止まってくれた。その光景は、いつもとあまり変わらない。
顔ぶれは毎回違うので私のファンというわけではなく、とりあえず聞いてやろうという物好きな人たちなのだろう。
「……今日は、ゲストとして高校時代、一緒にやっていた亮治君が来てくれました。久しぶりに二人で演りますので、よかったら聞いてください!」
挨拶と紹介を済ませ、息を大きく吸った。
演奏が始まった。
ああ、この感じ。高校の時から、一切変わらない。
出だしを合わせる必要がある場合は、お互い見つめ合い呼吸まで合わせて演奏を始める。
私のソロパートは、彼が私の気持ちを察し、自然に合わせてくれる。
ハーモニーも、ズレをすぐに修正し合わせ……自然に合っていく。
ラストを決める必要があるときも、互いに目を合わせて同時に音を切る。
やっぱり彼とは演奏の相性がいい。
何もかもが、パズルのピースがはまっていくように隙間なく組み上げられていった。
彼の才能ならば誰とでもも上手く合わせることができるのだろうけど。
今日はいつもより足を止めて聞いてくれる人が多かった。
女子高生、サラリーマン、親子連れ。
彼が加わってくれた方が、より良い音楽が生まれるのだろう。
悔しいけど……。
そして時間はあっという間に過ぎて、ついにラストのオリジナル曲が始まった。
終盤に彼の少し長めのソロパートがある——。
亮治が気持ちだけ前に出た。スポットライトが当たるように、引き立てるように私は控えな音に変える。
「……!」
彼がソロパートを歌い始めた。
亮治のよく通る伸びる歌声がスピーカーから湧き出て、雷鳴のように聴衆を貫いた。
皆が一斉に彼を見つめる。まるで私など存在しないかのように。
まるでアカペラで歌っているように。
コーラスやオケなど必要ないと言うように。
これが「才能」なのかと思い知る。
努力をしたら、このレベルになれるのだろうか?
レッスンに通ったり、こうやって路上で演奏したりして届くのだろうか?
音楽漬けの生活を送っていた私から見ても、亮治は遙かに高いところにいるように思えた。
あっという間に十二小節のソロパートが終わり、私に戻って来る。
しっかり受け止め、エンディングだ。
最後は波が引くように、静かに曲を終えた。
一瞬の静寂がある。そして、わあっと声と共に、拍手が鳴り響いた。
こんなことは初めてだ。私一人の演奏とそこまで違うのだろうか?
「聞いてくださり、ありがとうございます! 本日は以上です」
終幕を伝えても拍手が鳴り止まなかった。それがいつしか手拍子に変わる。
聴衆はアンコールを求めているのだ。
私たちはアンコールがかかると思っていなかったので、曲を準備していなかった。少し亮治と話した結果、もう一度最後のオリジナル曲を歌い、アンコールとさせてもらう。
亮治とのライブは幕を閉じた。
ふう、と一息ついたとき。
聞いてくれた何人かが、話しかけてきてくれる。
「すっごくよかったです。いつもここでライブしてる人ですよね?」
ああ、私のことを認識している人もいたのだ。それが分かっただけでも、今日は収穫だった。
ひょっとしたら最初からいた? 私は嬉しくもあり、気付かなかった自分が恥ずかしくなった。
挨拶をして握手を求められたのでそれに応える。伝わってくる体温が熱い。
一通り話をした後、私は撤収の準備を始める。
すると、亮治が誰かと話す声が後ろから聞こえてきた。
「とても良かったよ。特にラストの曲! 君の声いいねぇ!」
振り返るとチャラい見た目の男性が亮治に話しかけている。
歳は二十代後半? 少し歳上に見える。
「はあ、ありがとうございます」
「そこの女の子と二人でやってんの?」
「いや、彼女とは久しぶりにセッションしました。話はそれだけですか?」
亮治はあまり会話をしたくないようだ。
きっちりサラリーマンしている彼から見ると、あまりに軽いノリが嫌なのだろう。
「その割には息ぴったりだったねぇ! プロ目指してるの?」
「いいえ。全く」
「あ、そうなんだ……じゃあ、そこの彼女は? 名前は……舞奈さん?」
チャラい男性は譜面台の前に垂らしているプレートを見て言った。
プロを目指す……この人は何か音楽関係の人なのだろうか。
もしかしてスカウト?
私は、立ち上がり声の主の方を向く。
「はい、私はプロを目指して——」
「あの、話は終わりですよね? 撤収があるんで、スミマセン」
亮治が私の言葉に割り込んだ。
そして、まるで私を隠すように目の前に立ち塞がる。声が棘をはらんでいる。
せっかくのチャンスを邪魔しないで。そう言おうと思ったけど彼のあまりの剣幕に萎む。
「あ、そう……。じゃ、また今度」
チャラい男性は、あっさり引き下がり去って行く。
それを見届けた亮治は、振り返って私を見つめてきた。
「あんな男、ああいうの、よく声をかけてくるの?」
「たまにいるかな? だいたいは冷やかしだけど」
「舞奈なら大丈夫だとは思うけど……悪い男もいるから、気をつけて」
亮治の顔がちょっと怖い。声も低く響き、怒っているようにも聞こえた。
心配してくれているようだけど、そんなに私が心許ないのだろうか?
「大丈夫だよ」
私は、ただそう告げ撤収の作業を続ける。
さっきのチャラい男性が音楽のスカウトをしていたかどうかは分からない。
だけど、あの男性は先に亮治に声をかけていた。
——才能の差。
その有無でここまで違うのか。溜息が出る。
彼も私の知らないところで歌っている。
でも、それでも、私がどれだけ一生懸命になっても縮まらない差を思い知らされる。
私は知らず知らず俯いていた。
そして、機材を近くに停めてあった彼の車に積み込み、後は帰るだけになった。
幸い、その頃には私の気持ちも落ち着いていた。
顔を上げ、感謝の気持ちを伝えよう。
「じゃあ、帰ろっか? 今日は来てくれてありがとね」
「いや、こちらこそ誘ってくれてありがとな。めっちゃ楽しかった。舞奈はこの後暇なの?」
「んーまあ、用事は特にないかな」
「じゃあ飯でも食いに行かない?」
「うん! 行こ!」
その後は、今日のことや高校時代のこと、そして次のライブについての話をして大いに盛り上がる。
「そういえば、最後話しかけてきた男のこと、ごめんな」
「ん? どうして?」
「いや……別に付き合ってるわけでもないし余計なお世話だったかなって。
あの人と話、してみたかった?」
正直に言うと彼のいうとおり。
うだつの上がらない現状にうんざりしていたので、どんなチャンスであっても掴みたいと思っている。
でも今はそれを正直に言う気が起きない。
この気持ちは嫉妬、なのかな……。
「そんなことないよ。でも子供扱いされた気分になった」
「ホントごめん」
「ううん。ね、来週もやる?」
「ああ、是非やりたい」
「じゃあ、約束ね!」
その後は色っぽい関係になることもなく、私の家まで送ってもらい別れた。
私たちにとって、演奏後の時間は全て余韻なのだ。
二人の一番濃密な時間は、ライブのあの瞬間で既に終わっている——。
翌週。
彼と交わした約束。
しかし……それは、果たされなかった。
「ごめん、今日行けなくなった。ほんとごめん」
私は不意に届いたメッセージを見て焦った。亮治が来られない場合のことを考えてはいたのだけど、いざ現実になると思考が停止する。
きっと仕事なのだろう。私はショックを隠せないまま、会場に向かう準備をした。
「はぁ」
ライブをしている場所に着き、溜息がこぼれる。
元の一人に戻るだけなのだけどとても寂しい。一人でちゃんと出来るだろうか。
「舞奈さん、だね」
急に声をかけられ顔を上げる。そこには、先週ライブ後に話したチャラい男性がいた。
しかし今はスーツ姿でピアスもつけていない。茶髪は少し大人しい色になっていた。
「はい」
「実は、私はこういう者でして」
そう言って、名刺を渡してきた。それには、中堅クラスの音楽事務所の名前が書いてあった。
彼によると、自社で開催するオーディションを受けてみないか、ということだ。たまたま休日に私たちのライブを聴いて、興味を持ったのだという。
そして、彼は……正直に亮治が目当てだったと言った。彼のソロか、私をコーラスに据えて二人での参加を考えていたらしい。
亮治は音楽の道に進むことは無いだろうと伝えておく。
「舞奈さんは、声も、歌唱力も悪くありませんが、熱意がもう少しあるといいですね」
「熱意……」
「はい。もし良かったら、オーディション受けてみてください」
「分かりました」
あてが外れたのだろう。彼は、そう言って帰ってしまった。
やがてライブの準備が整い、歌い始めるだけになった。
以前より目の前にいる人が増えている。亮治のおかげだ。
ただ、彼目当てだったのか、何人か女の子が立ち去ったことに気付いてしまった。
私の歌などどうでもいい、とでも言うように。
——悔しい。
泣きそうになる。
亮治には才能があって人を引きつけていた。
私は、これだけ努力をしているのに……誰一人として……。
目頭が熱くなってくる。駄目だ——。
「あの、今日も頑張ってください!」
一人の、中学生くらいの女の子が話しかけてきた。
私は目元を拭い、中腰になり救いを求めるように質問する。
「……ありがとう。私の歌、好き?」
「はい! いつも、ずっと聞いてました!」
なんということだ。私は、彼女の顔を覚えていなかった。
そうだ……今日はこの人のために歌おう。
私の歌が好きだと言ってくれた、最初の一人のために。
早速、一曲目を歌い出す。
声をかけてきてくれた女の子と時々目が合った。
彼女の目はキラキラしていて、全身で聴いてくれているようだった。
その想いを感じとり声に力が入っていく。
ライブの終わりになる頃には、なぜか涙が流れていた。
その正体は分からなかったけど、今までのどの路上ライブより満足ができそうだと思った。
パチパチパチ……。
ライブが終わると、拍手が鳴り響いた。前回のようにアンコールは貰えなかったけど、確実に最後まで聴いてくれる人は増えていたと思う。
話しかけてきてくれた少女は「また聴きに来ます!」と約束してくれた。
嬉しかった。
以前の、自らの内側から湧きあがる想い。
熱意の意味がすこし分かったような気がした。
亮治に名刺をくれた人のことを連絡する。すると、興味ない、今の仕事を変えるつもりはなく、いずれ自分が父を継ぐのだという気持ちは将来も変わらないということだった。
夢と現実。
彼は現実を選んだのだ。
その日を境に、亮治からメッセージが来ることもなく、私からも送ることはなかった——。
一週間後、私は今、楽器を抱え会場に向かっている。
あのチャラい男性が誘ってくれたオーディションが行われる会場に。
ピロリン。
メッセージが届く。亮治からだった。
ずいぶん久しぶりだ。
「連絡しなくてごめん。なんとなく億劫になってしまった。でも、もしできるなら、また一緒にライブやりたい。それと良かったら俺の動画にも出てくれないか? 俺をこんな気持ちにしてくれた舞奈の音楽を、また聴きたい」
私は嬉しくなって、ついニヤリとしてしまった。
「——きっと、舞奈は有名になる。有名になった舞奈を観客席から応援する未来。それを楽しみにしている」
オーディション前で胃がキリキリと痛み、かなり緊張していた。
だけど、彼のメールを読むうちに、じわりと自信がみなぎり、落ち着いてきた。
才能のある彼が褒めてくれたのだ。だったら、間違いない。
「舞奈さん、頑張って!」
ずっと聞いてくれていたという女の子からもメッセージが届いていた。あれから、よく話すようになって連絡先を交換していたのだ。
それぞれ、返事をしないままスマホを鞄にしまう。
これから、私は、何十回目かのオーディションに挑む。
熱意の問いには、歌で返事をしよう。
目指している現実に向かって、歩き続けよう。
そう私は、改めて決意をしたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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