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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第84話「残された謎と疑念」

後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。



「反省してる?」


 早朝から今日も美しい妻のアイリスが腰に手を当て銀髪が風に流されながらも目だけはキリッとして見下ろされていた。その周りは氷奈美、流美と涼風の姉妹も居て呆れたように俺達三人を見下ろしている。


「「「はい……」」」


 対して俺とジョッシュ、そして昨晩の責任者として早馬さんが庭で正座させられていて仕事をしている使用人たちからクスクス笑われていた。


「な、なあアイリス……俺は正座とかマジで無理だから勘弁してくれ」


 この中で唯一の英国人のジョッシュはまだ十分も経っていなのに早くも音を上げていた。俺も最近は正座なんてしてなかったから少し辛い。この中で早馬さんは余裕なのはさすが当主だ。


「ふ~ん、まだ文句言う元気は有るんだね。続行だよ」


「マジかよ……フロー乗り移ってねえかアレ?」


「いや、いつも通り俺の可愛いアイリスだと思うが?」


「いやん、レイったら正直者なんだから~、そんな正直者のレイは反省はもう充分だね。こっち来ていいよ~」


 俺がそう言うとキリッとしていた顔がいつもの可愛らしい笑顔に戻ったが俺も昨日の失態はかなり反省していて思う所が有った。


「いや、昨日は情けない失態を演じてしまったからな。もう少しジョッシュと反省するさ周りの目も有るしな」


「黎牙様、いえレイ様……それこそが本来のあなた様のお姿ですっ!!」


「ええ、昨日は少したがが緩んでしまっただけでしょうね。私の実家でも涼風の家でもレイさんは休まる暇は無かったですから」


 昨日と一昨日は初めての親族と出会い母方の実家の謀反を潰し、さらに闇刻術士の生き残りを討伐するために北海道を縦横無尽に遠征し落ち着いたのは昼過ぎ。そこから一気に昨晩のパーティは忙し過ぎた。


「お前、やっぱ部下とか言ってるけどハーレムって言うのも間違いねえだろ。明らかにレイだけ甘いじゃねえか!!」


「は~い、ジョッシュは静かにしててね?」


 グリムチェインをぐるぐる巻きにされてジョッシュが黙らされてしまい横の早馬さんは冷や汗をかきながら俺へ通信を開いていた。


『ふっ、昨日はお互いやらかしたな?』


『いやいや早馬さんは俺達に巻き込まれた感じですよね? こっちこそすいません』


『止めるべき側がこれじゃな。ますます当主としては落第扱いだ。楓が男なら俺も苦労しなかったんだけどな』


 そう言って二人で楓の方をチラっと見るとビクッとした後に笑顔を返してくれたが目が笑ってない。


『かえちゃんが男か……いや、弟に色々と持って行かれるとコンプレックスにはなりますよ?』


『経験者は語るか。まあ今後は自戒しよう』


 その後、三十分経って解放された俺達は酒の失敗は控えようと改めて誓ったのだった。そしてジョッシュの件は大体がフローへと伝わってしまった。後で直接PLDS経由で通信が来る事が確定したそうだ。





 そして俺達は最後の一日をショッピングと食べ歩きをする女性陣に置いて行かれ涼風本邸で昨日の闇刻術士への襲撃から嵐野家の反逆に関しての公式な報告書を作って過ごす事になった。


「ジョッシュ手が止まっているぞ? 今回は英国に出す方なんだから出来るだろ?」


「ああ、その点は余裕だけどよ。あと一時間もしたらフローから通信が……」


 こんな感じでブツブツ呟きながら仕事を進めていた。そして執務室として割り当てられた部屋では早馬さんも一緒に俺達とPCでカタカタ書類作成をしていた。


「フローレンス氏はそこまで厳しい人なのか? 前回会った時は物静かな女性だった気がしたが?」


「物静かとか早馬分かってねえぞ。ありゃ外向けなんだよ。あいつにレイアローで磔にされたのは一度や二度じゃねえ、それこそ俺がガキの頃から」


「そう言えばフローとジョッシュって幼馴染なんだよな?」


「ああ、俺ん家は守護騎士の家系だから名家のターナー家とは家同士の付き合いでな。俺が……五つくらいにはあいつの誕生パーティーで顔合わせだった」


 そこから本社の幼年訓練施設でサボっている所を見つかり、それ以来しつこく指導されフローから逃げるために訓練を頑張ると言う本末転倒な理由で強くなって今の関係に至るらしい。


「俺の妹も身を固めた相手は幼馴染だしな。案外と世の中には幼馴染が溢れているのかもしれないな」


「そう言えば涼風家としては巧は、その、大丈夫なんですか」


「良くも悪くも楓が長女でも男でも無いから問題は無いさ。前代や他の分家が生きてたら難しかったが涼風は急激に若返ったからな」


「なら、そろそろご当主も身を固めるんですか」


「生憎といい相手もいない上に、この中途半端な能力と家だ。これも当家への罰なのだろうな」


 失礼ながら涼風早馬という人間を表す言葉は『無難』だ。聖霊力も涼風本家の人間としては強くはないが一般的な術師よりは上、しかし奥伝や秘奥義などには到達していない。


「知ってるだろレイなら俺の事をさ。『無難な嫡子』だ」


「ええ。俺は『無能の嫡子』呼びでしたので意識してましたよ」


「ま、今は立場が完全に逆転だがな?」


 苦笑しながらも曖昧に頷くと俺達は仕事だと言って作業に戻った。時折スマホに入って来る通知を見てアイリスや他にも氷奈美、流美や涼風の姉妹の様子と荷物持ちに動員された巧と雄飛の奮闘ぶりが感じられた。


「失礼、三人供少しは休憩したらどう?」


「ああ、流姫叔母さん。すいません」


「旋賀の当主代行にこんな事を、申し訳ない」


 ノックの後に入って来たのは俺の叔母と従妹でお茶とお菓子を持って来てくれたようだ。ご丁寧にジョッシュには紅茶の用意まで有る。


「いえいえ、昨日はご当主様のお陰で懐が潤いましたから」


「え? それは一体」


「ええ、実は――――」


 そう言って叔母さんは昨晩の話を始めた。


――――昨晩


「あ、あの……じゃあ私、引き分け――――「待ちなさい翔子、引き分けじゃなくて光の巫女のアイリスさんに、私の分込みで!!」


「え? でもお母さん賭けの対象は……」


「良いでしょ光位術士のお兄さん?」


「おお、やるねえ、お嬢ちゃん!! それにご婦人も!! 合わせて大五枚とは二人とも豪胆だっ!!」


――――現在


 と言うことが有ったらしい。そう言えば賭けの喧騒に紛れてそんな声が聞こえたような気がしていた。


「そして私達の勝ちだったのよ~。だってあの騒ぎで、あなたのお嫁さんが絶対に黙ってないって思ったからね」


「そ、そうだったんですか……」


「じゃあ昨日の賭けを実質二人だけで?」


 掛け金の総額はいくらか知らないが実質は一人勝ちだろうし総取りだったに違いない。しかも話によると胴元にも少なからず握らせてバレないように動いたらしい。


「それで割を食ったお三方に気持ちだけでもサービスをね?」


「抜け目が無い。いや、この程度を切り抜けられないから嵐野家にも下克上などと考えられたのかも知れないな」


 苦笑しながら緑茶を飲む姿は悩み多き若社長みたいな風格があって俺も少なからず通じる所があって考えてしまう。だがそこで声を上げたのは意外な人物だった。


「そっ、その!! ご当主様は、頑張ってらっしゃるじゃないですか!?」


「えっ? ああ、旋賀の、翔子だったか……ありがとうな」


「い、いえっ!! そもそも今回は母さんとか伯母様が、ずる賢かっただけで……ご当主様は何も、何も悪くないですっ!!」


 力説する翔子は今まで見た中で一番真剣な顔をしていてオドオドしているいつもとは全然違った。焦った姿はいつも通りな気がするが、その様子を一番驚いていたのは母親だったのは面白かった。


「翔子……実の母にずる賢いは無いでしょ。まったく……」


「うっ、それは……でも」


「そうだな。ある意味で旋賀家の、君のお母さんが策を巡らせてくれたからレイも俺の妹も動けたからな」


「お気付きでしたか早馬様」


 楓に聞いたのかと思えば手際が良過ぎてさすがに気付くと言われて納得した。流姫叔母さんも納得していて「御見逸れしました」と感心していた。


「少なくとも旋賀の家には見放されないようにしないとな、それと翔子ありがとう。この通り俺には威厳も何も無いから庇ってくれたのは嬉しく思う。君のような門下のために俺も頑張ろうと思えるよ」


「はっ、はいっ!! あ、ありがとうございます!! しっ、失礼します!!」


 それだけ言うと早馬の分だけお茶のおかわりを淹れると猛ダッシュで部屋を出て行ってしまった。


「ああ、もうあの子は……珍しく落ち着きが無い。お三方すいません普段はあんな子では無いのだけど……では私もこれで失礼します」


 叔母さんも翔子の後を追うと俺達は顔を見合わせていたがジョッシュだけはニヤリと笑って、したり顔だった。





 二人が出て行くとジョッシュは改めて早馬さんを見ると紅茶とビスケットを一口齧りながら、からかうトーンで話し出す。


「意外なとこに人気あんじゃねえか早馬?」


「年寄り連中からはウケが悪かったから若者の方には人気が有るのかもな」


「若者って……早馬さんだってフローやワリーと同い年でまだ二七ですよね?」


「マジか年上だったのかよ。日本人って童顔多いんだな」


 ちなみにジョッシュはフロー達とは二歳差で俺は四歳差、だから二人は俺達の間では通称、年長組と呼ばれている。


「言う程お前も老けて無いけどな? 実際ひなちゃんとアイリスも同い年だしな」


「そういやそうか……って、そうだったよ氷奈美だよ。お前に聞きたい事有ったんだ。聖霊帝のために水の霊場を探してて早馬が教えたんだが、少しな」


「その話か、どうしたんだ?」


「いや、なあ?」


 そう言って目を向けると早馬さんも曖昧に頷いて何か言いにくそうに当時の事を語り出した。


「彼女は水聖師だから君達のようにPLDSは使えないだろ? だから君らに貸与されている大型PLDSの設置場所の近くの霊場を勧めたが嫌だと言ってね……」


「俺も同行しようって言ったんけど拒否られてな。ま、半分裸みたいになるから一人で行きたいって言ったから、はいそうですかって具合でよ」


 水垢離は昨日聞いた感じだと滝に打たれる修業みたいなものだし違うのかと思ったが二人は違うと断言した。


「だってよ。打たれるのは聖霊なんだぜ?」


「え?」


 そこで聞いたのは水垢離はあくまでも聖霊の力を高めるもので聖霊使いは側で見ているだけなのだそうだ。


「いや、ただ熱心な聖霊使いや聖霊力の弱い術師は一緒にやったりするから間違いでは無いのだが……」


 早馬さんが言うには少ないが一緒に滝行をする者もいるから一概に変では無いらしいが疑問には思ったそうだ。


「いつ緊急出動がかかるか分からない日に修業は不自然だ。それに楓や琴音の同席すら断ったんだぜ」


「万全な状態にしたかったんじゃ? 結果的に強襲も深夜になったから聖霊力の回復は正解だったんだしさ」


 確かに違和感は有るけどそれだけだ。ひなちゃんの事だから何か考えが有ったに違いないし、巫女にしか分からない事も多いとアイリスに聞いた事が有ると俺は二人に説明していた。


「まあな……だけど……いや、たまたまか?」


「ああ、だがレイ……俺には彼女が大型PLDSの結界の範囲から逃れたかったように見えた気がしたんだ」


 早馬さんの言葉に頷くとたまには結界外に出たい時だって有るのかも知れないと俺は根拠もなく言っていた。二人もそれきり何も言わなかったがPLDSのつまり光の人工結界の範囲から逃れるような動きなんて普通はしない。


(まるで闇刻術士のような動きか……それこそ有り得ないな)


 俺は一瞬だけ頭に浮かんだ考えを否定して目の前の書類を片付け始めた。そして夕方には女性陣と疲れ切った巧と雄飛が帰って来た。





 翌日は何事もなく俺達は東京へ帰ることになった。今回は実りの多い出張でもあった。水森家の時には氷奈美・清花の姉妹の問題と俺の過去の問題がメインで社としてはプラスは無かった。


「だけど今回は涼風の家の立て直しとクーデターも防げた。おまけに例の脱走した聖霊まで倒せたからな」


「そうですね。レイさんの従兄妹さんも良い方でしたし敵の拠点も潰せました」


 ひなちゃんも賛同してくれるし流美も横で頷いてくれていた。だがアイリスだけが首を傾げていて最後までその理由を教えてくれなかった。


「では私はこれで失礼致します。明日はお迎えに上がりますか?」


「いいよ流美さん。明日は二人で行くから。ひなちゃんの方をお願い。清花ちゃん居ないとたまに寝坊するしね?」


「もうっ、少し低血圧気味なだけです。それではレイさん、それにアイちゃんも私達はこれで」


 家の前で流美の運転する車で送ってもらい俺達は今度こそ家に帰宅した。そしてユーリさんと頼寿さんに北海道土産を渡して今回の騒動が一応の決着が付いた。しかし新たな騒動は意外と早くそれから一週間後だった。





「レイ様には聖霊学の基礎が足りてません!!」


 ある昼休憩の時間だった。先ほどまで出雲のフローと清花との会議を終えて現在、東京支社の面々は珍しく全員が集結していた。


「どう言う事ですか……流美? レイは博士号課程まで修めていますが?」


「その通りだ流美、知っているだろうがレイはアイリスと共同研究をする程で衛刃氏の足も――――」


 ベラとワリーはこう言ってるが俺は内心焦っていた。恐らく流美が言っているのは札幌でのことでアイリスはニヤニヤしてるし、ひなちゃんはチラリと俺見た後にニッコリ笑うだけだった。


「ではレイ様、ご質問が有ります。土聖霊の発生地点について――――」


 そしてそれから数十分の間に俺が答えられたのは数問だけだった。


「レイ、お前……」


「お嬢様、レイが凄くバカっぽく見えます。なぜでしょうか?」


「今みたいな感じでレイが意外と基礎知識が足りないのがバレちゃってね。レイってお爺様からの聖霊学の歴史と専門知識だけで来ちゃったから」


 俺は独学で炎央院で盗んだ知識と英国で修めた最先端と最古の歴史の知識しか入っておらず気付けばここまで生きて来た。


「ですが戦闘やその他の面でもレイは優秀で、そもそも聖霊使いとしての基準はクリア出来ていて問題無いのでは?」


「はい。それは分かります。しかし……」


 流美の言い分は分かるんだけど、こればかりは気になった知識を収集していくしか無いだろうと俺が言った時、ちょうど事務所のドアが開いた。


「お疲れ様です~。志炎美那斗、今日のシフト入りま~す」


「美那斗を送るついでに私も来たぞ、今はちょうど昼休憩か?」


 入って来たのは実質的に炎央院組の二人でエレノアさんと会うのは水森から帰って来て以来だから実に二週間振りだった。


「エレノアさん。お疲れ様です今日は例の件ですか?」


「ああ、本社から正式に辞令で私も明日付けだが日本支社所属の部隊はSA3で君直属になった」


 朝一で俺のPLDSに入った連絡はアレックス老からの内示で本人にも既に伝えてあるとの確認の通知だった。ワリーには前から相談していて最後に俺に回って来たようだ。ちょうど俺が北海道に行ってる間に色々としていたらしい。


「はい。先ほどアレックスCEOからの辞令も確認しました。ただ部隊運用に限っては指揮権は依然ワリーに任せてますので戦闘時はそうなりますが……」


「自分としてはエレノアさんに部隊指揮をお願いしたいのですが……」


 ワリーが言うとベラも横で頷いていてアイリスも反対していなかったが本人が首を縦に振らなかった。


「残念だがそれは無理だ。私の役職はSA3の特別顧問、つまりローガン様と同じ後進の育成という事だからアドバイスはするが直接指揮は取らないさ」


 それを聞いてベラとワリーは露骨に残念がっていた。俺も経験不足の若造だけでやって行くのは限界が有ると不安な気持ちを伝えるとエレノアさんの表情がいきなり固まった。


「レイ……少しいいだろうか」


「え? 何ですかエレノアさん」


「私は、私はっ!! まだ今年で二十九になったばかりだっ!! ワリーやフローとは二つしか離れていないんだぞ!!」


 アイリスの方を見ると手でバツを作っていて俺は特大級の地雷を踏んでいたのに気付いたがもう遅かった。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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