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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第83話「友情と祝福、それぞれの形」

後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。


「じゃあ明後日には東京に?」


「ああ、ジョッシュは引き続き置いて行くし朱家の人間は来週には全員日本から撤退が決まったよ。炎央院の補助の人員も含めて全てね」


「そう、助かるわ。正直いつまでもいられても迷惑だったしね」


 涼風の邸の別館を使っての宴は始まってから既に一時間、俺も多くの人間にあいさつ回りをし一段落ついた所で、やっと楓と巧の二人と顔を合わせていた。


「今回は悪かった。巧もだいぶ嫌な思いをさせたと聞いた。謝罪するよ」


「気にしないくれよレイ。それに俺は術師じゃないからさ、こう言うのにはもう慣れっこさ」


 言うと楓の顔が微かに曇っていた。その顔は俺と中学の頃に話していた表情と同じで今日初めて意味が分かった。俺を通して巧を思い出していたんだ。


「そうか……気持ちはよく分かるよ」


「楓から聞いた。ある意味で俺より大変だったんだろうね」


「ああ、まあな。不幸自慢したいわけじゃ無いんだけどな……」


 俺達はある意味似ていて、でも今の立場は丸っきり逆だ。俺は追放されその果てに死ぬような思いをして術士となった。

 巧は追放はされなかったし死ぬような思いもしなかった。だけど日本でずっと窮屈な思いをしていただろう。これを不幸なのかと話すよりも俺の中で建設的な考え浮かんで楓の方を見ると意地の悪い笑みが出ていた。


「何よレイ君?」


「いんや楓じゃなくて、巧に聞きたい事有ってさ、お前は好きな子とか居るのか? あと戦いが落ち着いたら結婚とか考えてるのか?」


 貸しが二つも有るからな彼女、かえちゃんにはさ。だから少しアシスト兼イジワルすることにした。


「ちょっとレイ君!!」


「何で楓が騒ぐんだよ。俺は巧に聞いてんだよ? な?」


「あ、ああ。そうだね……昔から気になる子は居たんだけどさ」


 そんな事を話していたら楓は気付けばいなくなって野郎二人で会場の隅で話していた。酒が入っていたからか俺も巧も口がだいぶ滑らかになっていた。





「俺はボロボロになった先で妻に救われてさ。それ以来ゾッコンで、いや違うな、もっと前に実は会っててさ」


「え? つまり幼馴染みたいなものだったのか?」


「ああ、似たような感じかな」


「じゃあ俺も話すけど、俺が気になってる子は幼馴染でさ。たぶん相手には気付かれてないと思うんだ」


 いやいや、さっきから楓を目で追ってる時点で丸分かりだからな。それにしても楓も分かりやすかったけど巧も案外バレバレだな。こりゃ本人達同士だけが気付いてない感じ、これが『両片思い』とか言うやつか。


「い、いや、それは……秘密だ。それよりレイ、君に聞きたい事が有ったんだ」


「俺にか? 何だよ」


「そのさ、レイはアイリスさんと結婚してて愛人を二人も抱えてるだろ?」


 ちょっと待て、そう言えば氷奈美と流美はそう言う扱いなのか。これは訂正しとかないといけない。


「げほっ、ごほっ!! いや違うから、二人は部下だぞ」


「そうなのか。でも二人は明らかに……じゃあ愛人をさらに増やそうと考えてるって言う噂もデマなのかい?」


「そんな噂まで有るのかよ……いやいや無いから、俺はアイリス一筋だから」


 別にアイリスが恐妻だと言う訳では無いが間違いなく彼女は怒るだろうし、悲しむだろう。俺はそんなのは絶対に望まない。もし有るとすればアイリスが望み俺が受け入れた時のみだ。ま、そんな事は絶対に起きないだろうけどな。


「俺が聞いた話だと炎央院には君のハーレムが有って水森を抑えたから次は涼風で、その……楓と琴音ちゃんの二人を娶るために今回は来たと」


「俺が二人を? それは有り得ない。てか炎央院の女と俺が付き合うとか寝言は寝て言え、あの家とは今も和解とかしてないからな。社として協力してるだけさ」


「そうなのか、俺は、楓とあんな仲良く話してたからてっきり……輿入れが決まったんだと思ってて……」


「はぁ……巧さ俺から一つアドバイス。好きな人がいて悩むくらいなら早く言った方がいいぜ」


 これは俺がアイリスへの告白に数年もかけてしまった経験上から来る助言だ。俺自身の恋愛経験は二つくらいしか無いから偉そうなことはあまり言えないけどな。


「あともう一つ、恋愛は何でも突然だったりする。告白のスピード云々よりも関係無く気付いたら寝取られてるとか有るからな?」


「えっ!? そ、それは、そんな事なんて!!」


 これも俺の数少ない恋愛経験の一つだ。今は過去の出来事で割り切っているが当時は辛く苦しかったから目の前の誠実な人間には味わって欲しくない感覚だ。


「ま、かえちゃんに限っては心配いらないだろうけどさ。案外とそんな話は転がってるもんさ」


「えっ!? べ、別に楓は関係無いだろ!?」


 思わずと言った感じで巧は声を上げていて俺達に周囲が注目するから俺は軽く会釈をしてグラスを掲げた。それだけで場は静まってくれた。


「声が大きいぞ? まあ聞けよ。昔どっかの無能が家を追放され、守ると誓った許嫁には裏切られ親や親類にも冷たくあしらわれ愛弟子にも見捨てられた。最後は寂しくその男は雪の中いずこかへ消えた」


「そ、それって……」


「ま、誰かは語らないさ。ただ、本当に好きならさっさと告れ。この家で一般人なのに彼女を今日まで必死に支えて来たお前に出来ない訳が無い。違うか?」


「だけど俺は聖霊使いじゃない。彼女の苦悩も分かってあげられない……」


 俺とは違うベクトルの悩みだ。ならば仕方ない是が非でもコイツに告白させてやる。色々と意地になってるし酔っ払ってる気もするが一番はやはり俺に境遇の似てるこいつを応援したくなっているんだ。


「まだ踏ん切りがつかないなら俺のとっておきの話だ。ある男の子の一世一代の告白だ。その子は公園で女の子と出会った。実はその子はお姫様で神様から祝福された特別な子だった」


「今度はお伽話か何かか?」


「ふっ、まあ聞けよ。その女の子は黒髪で勝気な子だったんだけど、ある日神様はお姫様である証を女の子に授けてしまった」


 俺は当時を思い出しながらゆっくりと語り出す。俺とアイリスの出会いと別離の話だ。


「その証とは髪の毛と目の色を変えられてしまう祝福だった。でも当時、女の子は泣いてしまった。そりゃいきなり銀髪と青い目になったら当然だ」


「銀の髪……それに青い目って、それって!?」


 そう言って俺は会場で光の蝶を出して流美と一緒に挨拶回りをしているアイリスの方を見た。よく見ると楓とも合流して何かを話している。


「泣き出した女の子を見て男の子は決心した。何が有ってもその子を守るって、そんで泣かせた神様を許さないって宣言したんだよ」


 ある意味、俺の初めての反逆みたいなもので封印された過去、こういうのを黒歴史と言うんだろうかと苦笑しながら俺は手持ちのグラスの中身を一気にあおった。


「そうか。でもそれは男の子も特別だったからじゃないのか?」


「そうだったのかもな。だけどその男の子は当時小学生だったけど……家でこう呼ばれていた『無能の黎牙』ってね?」


 そこで俺は一拍置くと目の前の巧を改めて見て言った。


「もう一度言う。動くなら早く動け。無能で悩んでいたガキは多くのものを失った。だけど動いた時よりも動かなかった時の方が後悔したらしい」


「レイ、ありがとう。覚悟が決まったよ。ただ一つだけ頼みが有る」


 まだ何か有るのか、いや多分、アイリスに告白する前の俺もこんな感じでSA3のメンバーをやきもきさせていたんだろう。


「何だよ、仕事の話以外なら聞くが?」


「もし、俺が楓に振られたら、やけ酒に付き合って欲しい……」


 俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていただろう。だけど本人は真剣な顔をしていて酔いはすっかり醒めているようだ。


「は? ふっ、分かったよ。だけど言っておく、その未来は来ないよ」


「それは光の継承者としての力から来る何かなのか?」


 俺は一瞬だけ目を瞑った後にかぶりを振ると口だけニヤリと笑って言う。


「いいや。友としての勘さ」


「……行って来る。骨は拾ってくれると嬉しい」


 巧はテーブルに置いてあったショットグラスの中身を確認しないで一気に飲むと真っすぐに歩いて行った。





「拾うまでもない。お前以外はみんな成功するのを知ってんだからな……にしてもテキーラとか度数高いけど大丈夫か」


 俺が巧の置いたグラスの中身を見ていると肩をポンと叩かれた。酔ってるとは言え俺に気配を感じさせずに近付くなんて誰だよ。


「おう、継承者様が青春してるから気になって来ちまったぜ?」


「んだよジョッシュ、見てたなら声かけろ」


「いやいや、昔どこかで見た光景だと思ってな?」


「そうか? 俺には記憶にないが?」


 そうだった。一番マズイ奴に見つかった。さっきの話の七割は俺の過去話だけど最後の友として勘の下りはある人間の丸パクリだったんだ。


「思い出せてやろう、確か『俺は、俺はアイリスにふさわしっ――――「やめろっ!! フローに言いつけんぞ!!」


「じゃあ俺も姫様、いんやアイリスに告白スポット教えてくれ~って泣きついて土下座して来た話をしちまうぞ?」


 俺の恋愛相談はこいつとフローがメインで、さっきの巧みたいな感じで悩んでウジウジしていたのは過去の俺も一緒だった。


「あのなぁ――――「他にも『俺は未熟で彼女のために相応しい男になれるなんて思えない。だけど気持ちが抑えられない!!』だったか~?」


「それは墓場まで持って行くって言ったよな!! それで高い酒奢ったよなぁ!!」


「酔ってるから覚えてねえぞ~?」


 どうしてだろうか今日の俺は良い感じで沸点が低いぞ。頭もぽわ~んとしている。だけど断じて言わせてもらおう、俺は酔ってない。


「ああっ、じゃあ久々に白黒つけるかジョッシュ!!」


「いいぜ、聖霊帝に頼らなきゃ五分五分だぜ相棒?」


「違いますぅ~!! アイリスへの愛の力が有るから今の俺は全開ですぅ~!!」


「うっわ、お前ガチ酔いか。前に教えたよな酒の席での失態は二流のやる事だってよ」


「へっ、心配無用だぜ相棒!! なぜなら俺は、酔ってないからなぁ!!」


 俺は少しだけフラつく足取りで別館の外の庭に出るとスカイを呼び出し結界を張ってもらう。気のせいかスカイが出るのを嫌がってるように見える。


「いいかレイ。それは酔っ払いのセリフだボケっ!!」


 そして俺達の武器無しの殴り合いが始まった。





「ずっと待ってたんだから、遅いわよ」


「ごめん楓。もう覚悟は決めたから、これからもずっと君を支えるよ」


 私の目の前で一組のカップルが誕生していた。見届け人ってわけじゃないけど偶然その場に居合わせたのは私とひなちゃんの二人だけだった。


「おめでとう楓ぇ~!!」


「おめでとうございます楓さん、それに巧さんも」


「ありがとう。光と水の両巫女立ち合いなんて史上初でしょうね」


 そう言って見つめ合う二人は今日この場では完全にベストカップルだ。ここは別館の脇の廊下なのだが人は不思議なほどおらず私達四人だけだ。


「出来ればレイに一言お礼が言いたいな。俺を後押ししてくれた友に」


「私は文句言いたいわ。レイ君も余計なことを~」


「ふふっ、レイは二人のこと凄い気にしてたんだよ。だから許してあげて」


「まあ、アイリスがそう言うならね。でも偶然とは言え人が少なくて良かった。衆人環視の中で告白は恥ずかしいし」


 照れてる顔は幸せそうでこっちまで嬉しくなる。私も手に持ってるシャンパンをコクリと飲んでいると緊急通信が入った。相手は流美ださんだった。


『奥様!! 緊急事態ですっ!! 黎牙様がっ、いえレイ様がご乱心です!!』


 開口一番、流美さんがこんな通信をして来るなんて何が有ったのだろうか。私は急いで光の蝶たちを会場中に飛ばすが愛しの旦那様は見つからなかった。


「どう言う事? レイに何が有ったの流美さん!?」


「アイちゃんどうしたの? 誰からですか?」


 思わず声に出していたのに気付いたのは、ひなちゃんに指摘されたからで私もかなり動揺していた。


「えっと、何かレイが大変みたいで流美さん!? 二人にも通信を共有するね」


『今、外でレイ様とジョッシュさんが殴り合いを始めて、しかもギャラリーがいっぱいで止めるのも難しくて……』


 要領を得ない通信に私達はとにかく庭に出る事にした。そこで広がっていた光景は例えるなら場末のバーだった。さっきまでは上品なパーティー会場だったのに一歩外に出たそこは全くの別物となっていた。


「何でこんな事になってるのよ……レイ」





「さあ、張った張った!! 今話題の継承者と札幌を守って戦っていた守護者の素手の殴り合いだ~!!」


「俺は継承者に賭けるぜ!!」


「なら俺はジョシュアさんだ!!」


 ギャラリーは盛り上がり、そして俺達も盛り上がっていた。一般人も居るパーティーだがそれでも聖霊使いが圧倒的に多い。つまりこの手の荒事は皆大好きだ。


「剣以外も上手くなったじゃねえかレイ!!」


「優秀な仲間に鍛えられたからなっ!!」


 俺のストレートがジョッシュの肩を掠めて反対に奴のフックが俺のボディに刺さった。


「だが、狙いはまだまだか?」


「ぐっ、そうみたい……だなっ!!」


 そう言って俺はフックのお返しに頭突きをして距離を取った。頭がクラクラするけど気分も上がって来た。


「ってぇ……おまえ、そう来るのかよ」


「まあな……頭使えって、昔言ってたろジョッシュ?」


「ああ、言ったなぁ!!」


 そして互いのストレートで俺達の拳はクロスカウンターのように交錯する。だけど掠めただけですぐに距離を取る。俺達の一挙手一投足に怒号と悲鳴が交互に大きくなっている。


「今んとこオッズはジョシュアが八倍、引き分けが十倍!!」


「じゃあ俺は手堅く継承者様だな!!」


「でも素手だろ、なら継承者か……」


「みんな継承者に賭けたら賭けにならねえだろ!! もっと賭けろ~!!」


 どうやら俺は大人気なようだ。そして威勢のいい賭け声の中で聞き覚えのある声が聞こえた。酔いと軽く頭がシェイクされてて思い出せないが女の声だ。


「あ、あの……じゃあ私、引き分け――――「待ちなさい――――、引き分けじゃなくて――――さんに、私の分込みで!!」


「おお、やるねえ、お嬢ちゃん!! それにご婦人も!! 合わせて大五枚とは二人とも豪胆だっ!! さあさあ賭けの主導が女任せでいいのか!! 日本の男は〇ンタマ付いてんのかぁ!!」


 声から察するにあれはエウクリッド家の術士だな。ったく、賭けなんてしやがって俺が俺に賭けられないじゃないか。


「そこまで言われては仕方ない!! よし、俺も賭けよう。ジョッシュ殿に!!」


「おおっ!! さすが涼風のご当主様!! 男前だねえ!!」


 早馬さんまで参加したせいで一気に他の人間まで賭け出して場の盛り上がりはいよいよ最高潮だ。


「大人気だなレイ!!」


「日本じゃ絶対にあり得ないと思ってたよ!!」


 俺達はさらに拳をぶつけ合い牽制で蹴りも互いに放つ。幸い顔は無事だが頭はタンコブ出来てそうだ。


「はぁ、じゃあ蹴りを付けようか!!」


「おうっ!! 行くぜ!!」


 そして互いに最後の一撃を繰り出した瞬間、俺とジョッシュは同時に意識を手放していた。





「まったく……ジョッシュはまだしもレイも何してるのよ~」


「奥様、助かりました私ではもう止められなくて」


 私は状況を判断すると即座に介入して二人を気絶させた。シャインミストの応用で二人の聖霊力を一時的にオーバーフローさせたのだ。


「数分したら元に戻るから、それとひなちゃんも会場中にお願いね?」


「はい。お任せを、葵、じゃあ降らせて、大量に!!」


 ひなちゃんは私が言う前にすぐに察して水の聖霊帝を出していた。気付いたのは楓と流美さんだけで二人は即座に結界を展開していた。


「会場中、みんな一度、頭から水被って正気に戻りなさ~い!!」


 そしてこの日、函館の一部、それもある郊外の邸にだけ局所的な記録的大豪雨が発生するという不可思議な事件が起きたのだが付近の住民は口を噤んだと言う。そしてこの記録は公式記録からいつの間にか消されていた。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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