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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第一章「目覚める継承者」編
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第8話「炎央院黎牙死す、訣別の始まり」

 実はこの話は過去にアレックス老には何度か話していて俺は俺自身、炎央院黎牙を消す方法を探していた。俺の居場所がバレたら実家はきっと追手を放つ。

 逃亡生活中の半年間は発信機を壊してからも怪しい動きをした人間とニアミスしたし、襲撃も数度された。あれは間違い無く俺に対する追手で、あれから五年経った今でも警戒は怠らないでいた。


「皆さんにも軽くお話しましたが、俺の実家は炎聖師の家系で、日本では間違いなく最高峰……そして国家の支援も受けています。なので俺の戸籍に変化があれば追跡される可能性が有ります」


「しかしお前の実家か、親父に聞いていたがそんなにマズいのか?」


「少なくともこのユウクレイドル家のような温かさとは無縁の家です。いえ、それは俺が無能だったせいなんでしょうが……」


 そう言って少し暗い感情が頭を過ぎるとすぐにアイリスが俺の横に寄り添ってギュッと手を握ってくれた。あの日の病室の時のように彼女の温もりが伝わった。だから俺はゆっくりと話していく。


「実家から追跡が無いのは単純に俺の所在が分からないからでしょう……フランスに着く頃には追手はいませんでした。もちろん、もう俺に興味を無くした可能性も有りますが、もしここで第三勢力となるなら」


「確かに、ここで下級術師に乱入されたら闇刻術士サイドを利する事になるな……少なくとも無関係の雑魚を守りながら戦うのは無理がある」


「レイ君の話だと実家の方との友好的な協力は難しそうね。それにアフター世代のガチガチの勘違い世代。そんな人達にこの戦いに乱入されたら……」


 そう、状況も分からず下級術師である自覚も無い術師などこの戦いには不要。我が社に所属している各術師のように俺達のサポートや各術で結界の維持などに従事してくれれば良いのだが、あの両親や炎乃海それに炎乃華の姉妹などは間違いなく戦闘に乱入するはずだ。


「日本の術師は過激で武闘派が多いので難しいかと……」


 勇牙や叔父さん、つまり姉妹の父親の衛刃えいば叔父さんなら聞く耳は持ってくれるのだろうが主戦派の勢いの強かった炎央院の家じゃ無理だ。


「でも、レイのご両親や親族ならキチンとお話すれば……」


「ありがとうアイリス。だけどあの一族の事は俺がよく知っている。少なくとも父や母は術師であるか強いか弱いかでしか価値観の持たない人間さ」


「継承者、いやレイの言う通りだアイリス。彼らは術師の中でも取り分け隔絶した環境だ……言わばガラパゴス化したような家系。しかし我々は何としても闇との戦いに勝利せねばならん。わずかな敗因も潰す必要が有る」


 そう、ユウクレイドル家の一〇〇〇年の悲願は闇刻術士の討滅か再封印を行う事による恒久的な和平だ。アイリスの実家の邪魔をあいつら(炎央院家)がするのなら俺はそれを実力で防がなきゃならない。愛するアイリスのためにも。


「以前からレイから相談され考えていたのだが、昨年のロンドン橋の爆発テロで君が死んだ事にするというのは」


「なるほど、確かに一年前ですが最後のロード達のせいで被害者の身元が未だ分からない人が多いですからね。俺の遺留品でも置いておけば……」


「ああ、俺の方でロンドン市警にツテも有るから上手い事出来るはずだ」


 そしてとんとん拍子に話が決まって行く中で最後までアイリスは反対していた。話し合う、もしくは俺の死はやり過ぎだと、だけど最後には従ってくれた。本当に優しい子だ一八歳になった今でもそれは変わらない。


「ありがとうございます。それで図々しいお願いなのですが、俺にユウクレイドル家のファミリーネームを頂けませんか?」


「おいおい。それは、お前なぁ…………こっちは最初からそのつもりだったぞ。むしろ『えんおーいん』の方を残すかの話し合いをする気だったからな。将来のユウクレイドル家の当主が家名を名乗らないのは論外だ」


「その通り、ワシが死んでもヴィクターが、そしてやがてはレイ、君に継いでもらいたい。なんせ少々欲目もあって君を我が家に招き入れたのだからな? むしろ名乗ってもらわないと困るのはこちらなのさ。ハハハ」


 アレックス老もヴィクターさん、いや義祖父と義父がそう言ってくれて俺は感動していた。実家では俺が炎央院の嫡子である事も炎央院の人間である事が恥と言われて育てられていたから。

 そんな俺を二人は俺を必要と言ってくれた。むしろ俺なんてガンガン利用して欲しいくらいだった。家族となる人や仲間に恩返しがしたい。それが今の俺の偽らざる本心だ。


「じゃあ、『レイガ=ユウクレイドル』ってなるのかしら?」


「いえ、名前を変えられるのなら『《《レイ》》=ユウクレイドル』にしたいです。黎牙なんてほとんど呼ばれませんし、俺自身が家と訣別の意味を持って、炎央院家で得たちからなど不用。レイのみで戦い抜くと言う俺なりの決意表明です。ダメでしょうか?」


 サラさんの意見を採用しても問題は無いけど俺はあの家の関係は今はもう邪魔以外の何物でも無いから排除したいだけで、俺とアイリスの今後の人生には不要な関係だから全てを捨て去りたいだけだ。だから名前も一種の呪いのようなので変えたいと思っていた。


「レイがそれで良いなら、もう私は何も言わない。だけど……新しく家族になれたその日に、元の家族と訣別なんて……そんなの悲し過ぎるよ」


 アイリスがまた泣き出してしまった。泣く必要なんて無いと俺は彼女に言が決まって彼女は言ってくれる俺が泣けないからだと、五年前のあの情けない誓いを聖霊を通して知っている彼女は、あれ以来泣く事をせず俺が泣かないのを今も気にしていた。


「俺はアイリスが居てくれるから笑っていられるし、泣かないで済んでいるんだ。だから笑顔を見せてくれよ俺の可愛いお嫁さん?」


「もうっ、レイったら茶化さないでよ……分かった。でもレイの死のプロデュースは私に全部任せて、私の夫は世界で一番素敵なんだってレイの実家や世界中に見せつけてあげなきゃ!!」


 そう言うとサラさんとヴィクターさんを捕まえて何か話し始めたのでアレックス老を見ると首を横に振られてしまった。俺としては目立たずテロに巻き込まれて死んだって筋書きの方が良いんだけどな。





 そしてそれから大体一週間経ったある朝だった。出社すると受付嬢が俺の顔を見て驚いていた。そしてすれ違う同僚たちは、ほとんどがニヤニヤしていた。

 SA1のオリファーさんやローガン師なんかは肩を叩かれ「後で説明はあるよな?」とか言われ俺は困惑したままオフィスに入った。


「お? 来た来たロンドンを救い英雄的な死を遂げたヒーロー様のご出社だぞ~」


「やめなさいジョッシュ、レイあなたこの記事どう言う事なのよ」


 ジョッシュ&フロー夫妻がデスクに付く前に寄って来る。ワリーは居ないが頭を抱えているベラと今朝は早く出社すると先にベッドを抜け出したアイリスが紅茶を淹れながらニヤニヤしている。

 俺の新妻がとんでもない事をしたようだ。ちなみにアイリスは大学へ行かず今年から新入社員として入社し即座にこの部署《SA3》に配属されていた。


「え? いや今朝は新聞をアイリスに持ってかれてしまって……これは」


「ど~お? ア・ナ・タ? 今頃は日本でも英雄よっ!?」


 そう言って得意満面な顔で英国での複数の新聞の一面の記事を見せつけて来た。

 記事にはこうなっていた『勇気ある日本人の青年、ロンドン橋で最後まで避難誘導をして市民を守るために現場に残る』とか『彼こそ本当の英雄だとレスキュー隊も称賛の声を贈る』などだ。

 また、これだけデカイ記事を出して……何をしてるんだか。


「これだけ盛大に教えてあげれば、あなたの実家も追手を送ったり干渉はしないんじゃない?」


「にしてもやり過ぎ……写真は一六の頃の証明写真しか出てないのは助かったけどさ」


 見ると写真は白黒で不鮮明、ただ何となく俺と分かる程度。実際に社内では俺は有名人だから分かったようだけど街中じゃ声もかけられなかったし、見て来る人間なんて居なかった。これで一安心だと思っていたら。次の問題が発生した。





 昼休憩後に俺とアイリスは呼び出しを受けた。SA3とSA1の主要メンバー、さらに主だった光位術士の上役とL&R Groupの役員が揃った会議室で今朝の新聞への掲載について聴取が行われた。しかし実はこの会議室に集まっている人間は既にほとんどが報告を受けていたらしい。


「ですが、当人にはご連絡を頂けると助かりました」


 そう言うと会議室はワッと湧いて笑いに包まれた。サプライズだったらしい。そこでアレックス老、今はCEOが手を揚げて場を静かにさせると改めて今回の説明に入ったのだが、それは俺の出自の説明や今回の新聞記事の掲載についての話だった。


「まずは、私の孫娘の婿で、もはやユウクレイドル家の者となってくれた我が孫のレイについて皆に説明したいと思う」


 目的としては第一に俺、炎央院黎牙を正式な光の継承者として何より英国人としてユウクレイドルの家の者とする事で立場を盤石にするため。


 二つ目はこの偽情報で少なからず闇刻術士サイドも困惑をするはずだと言う点。旧世代ロードは無理でもその下の幹部クラスには少なからず動揺が走るだろうし、末端は継承者が死んだなどと混乱するかも知れない。


 最後に俺の実家の介入と日本の下級術師の流入を防ぐためであると説明された。そして一番の課題が来た。


「失礼しますっ!!」


「今は会議中だぞ?」


 入って来たのは受付嬢と数名の術師の女性だった。確か風聖師の娘達だったはずだがどうしたのだろうか?


「申し訳ありません。我が社へ、と言いますかレイ様への取材が、故人の黎牙様の取材をさせろと来ています」


 えぇ……と、俺が呻き声を上げるとこの件はSA3に一任された。そして俺は当然SA3に居られないので地下にしばらく缶詰にされる事になってしまった。


 ちなみにアイリスもこの件でアレックス老から少しお叱りを受けて暫くは俺と一緒に鍛錬と地下生活となった。


 言い忘れて忘れていたが俺とアイリスは去年から同棲していて本社の地下には居なかった。本社に近いアパートメントを二人で契約して住んでいたからだ。


「パパとママも共犯なのにぃ……分かりました、反省しま~す」


「こら、アイリス。お爺様にもキチンと謝らなくては、当主、それにお集まりの皆様も今回は私と、そして妻がご迷惑をおかけします」


 俺はアイリスを軽く叱りながら頭を深く下げこの会議の場で謝罪をした。概ね好感触に受け取られたのでまずは一安心だ。

 とにかく凄い変な形になったが、これで後はSA3の皆や社の人達に任せて俺はアイリスと二人で大人しくしていれば良い。


 俺達は一年ぶりに地下の寮の部屋に戻ろうとしたら係の者に別の奥の部屋にと言われた。そこは夫婦やカップル用の部屋だそうでアレックス老が俺達のために用意してくれたらしい。


「良かった。いまさら別々の部屋なんて嫌だったからお爺様に感謝しなきゃ」


「ああ、お爺様に感謝だ。さて今日はもうオフって言われたけど、ご飯だけでも済ませるか?」


「ええ、でもレイ、次期当主様のする事は他にも色々有ると思うのだけれど?」


 そう言うと彼女は俺を見つめてギュッと抱き着いて来た。少し頬を染めて潤んだ瞳を向けている。昨晩も何度も見たアイリスの妖艶な女の顔だった。


「ああ、次代のユウクレイドルの血を残さないとな? それと俺の可愛い新妻も満足させなきゃいけないのかな?」


「うん。昨日より、もっと愛して……レイ」


 そして俺は部屋の明かりを消すように光位聖霊に頼むと薄暗い部屋でアイリスをベッドに押し倒した。その日は明け方近くになるまでお互いを深く愛しあった。





――――日本・炎央院邸――――




 日本の炎聖師の最高峰で日本国内において比類なき力を誇り国家との結びつきも深く、裏から日本を支えていると言っても過言では無い四大家の一つ、その本家の邸は重苦しい空気に包まれていた。


「以上が、英国の新聞の内容で……またこちらの映像が――――」


 炎央院の従者で元は黎牙の指南役であった里中祐司がテレビを付けると、どのチャンネルも今の日本はこの美談で持ち切りだった。興奮した様子で女子アナがある人物の来歴を読み上げ、その感想を言っている。


『一年越しに分かったとは言え凄い方ですね! 炎央院さん、珍しい苗字ですけどこんなに多くの方の避難誘導とテロリストと直接戦って足止めしたそうで、正に英雄ですよ~』


『ええ、名前からして旧家の名の有る方かも知れませんね。何より英国でも屈指の製薬会社のL&R Groupに勤めていたそうですからエリートなんでしょうねぇ……』


『続報です英国政府や女王は彼に勲章を贈るべきか検討を開始し日本政府に打診が――――』


 再現映像では黎牙に扮した俳優が決死の救助活動の後にテロリストと戦う様子がピックアップされていた。

 これはもちろん英国で盛大に誇張された情報をさらに日本のマスコミが面白おかしく映像化したものだ。そこでブツッとテレビ画面が切られた。


「何をするんだ裕介?」


「クソっ!! いっ、嫌味かよアニキ!! 今さらこんな奴の事なんてっ!!」


「いや違う俺は状況の確認をしただけだ炎央院の婿殿」


 そう言って二人は睨みあった。血の繋がった兄弟同士であるのにその二人は明らかに敵対をしているように見える。


「控えよ、二人とも」


「「はっ!! 失礼致しました」」


「そうよ裕介、死んだ黎くんなんてどうでも良いでしょう? それよりも炎央院の名が表に漏れたのが問題、そうですよね伯父様?」


「うむ、炎乃海の言う通りだ。里中の二人は黙っておれ、して何か有る者は?」


 そう言うと親族と一門を見るが、誰も意見を言わない。五年前までは大体、二人の人間が的確な意見を当主に進言し合議は進んでいた。しかしその一人は故人であり今のテレビで言うところの英雄であった。なのでもう一人が喋るしかない。


「当主、我らの名が表に出たのは何も今回が初では有りません。それよりもまだ未熟な炎乃華、そして嫡子たる勇牙への接触を心配した方が良いかと、二人とその従者は外と関わりが有りますゆえ」


 そう言ったのは炎央院のナンバーツー、当主の実の弟で炎乃華、炎乃海の父でもある炎央院衛刃(えいば)その人であった。彼は合議の席にも関わらず車椅子で参加していた。


 それは過去の戦いで左足を膝から下を無くしていたからだ。この欠損さえ無ければ彼が当主になっていたと当時から言われていたほどの実力者でもあった人物だ。


「ふむ、ならばしかと二人には言い聞かせよ。炎乃華の付き人は?」


「はっ、嫡子・勇牙様には私が直接、炎乃華様には私の妹の流美がそれぞれ伝達します。直接に下知をなさらないので?」


 祐司が勇牙の事もキチンと言うのは何も嫌味では無く忘れていないと言う意思表示だ。嫡子の次期当主の付き人は自分だと言うでもある。自分の父が今、当主の横に付いているようにそれを顕示するためだ。


「うむ。あれは、あの出来損ないに懐いていたからな。最近はやっと静かになったが、また騒がれても問題だ。上手いこと言いくるめろ」


「当主、いえ兄上、この家に何らかのマスコミ関係者が来る場合もありますので早急にダミーの情報と拠点を用意すべきです。黎牙の事は少なく見積もっても数週間の間は民衆の間で話題に上るはず。我が国はそう言う美談が大好きですからな?」


 そう言うと衛牙は鋭く当主を見る。まるで何かを責めるように静かに彼は鎮座する当主を見続けた。少しの沈黙のあとに当主が口を開いた。


「お前があの出来損ないを気に入っていたのは分かる。だが敢えて名前を出すのはワシに何か含むところが有るか?」


「いいえ兄上、私は――――「お父様は黎くんが大好きだったものね? 私の婿になんて血迷った事を……付き合わされる身になって欲しかったわ。あんな弱い男願い下げだったのに顔が良くて剣が出来ても術の使えない無能なんて私の男に相応しくない……」


 すると親族の序列四位の席で退屈そうな顔をしていた炎乃海が再び口を挟んだ。彼女の思考は強さこそが絶対、故にそこまで愛していない一門で最も強かった裕介を婿に選んだ。


 勇牙には最初から炎乃華と指名されていたので諦めた。しかし隙あらば勇牙をも誘惑をしているとは家中で噂をされていた。


「お前は……そこまで、当主、確かに私は黎牙を推しておりました。それは今も思う所が有ります。彼のような聡明な男を手放したと後悔しております。ですが問題はそこではありません。他の四大家、土と風がきな臭く今回の件を利用してくる可能性が有ると情報が」


「涼風と岩壁ロックウェルが? 詳しく聞こう……」





「ね~炎央院さん。今この話題の英雄様って親族の人、なの?」


「えっ? あぁ、黎牙兄さんね。従兄の人。五年前に家を出て独立した人よ」


「あ、そのぉ、ご愁傷様だけど、どんな人だったの? ネット検索しただけでも中学の時の剣道の大会で全国優勝してるみたいだけど……うっわイケメンじゃん」


「ほんとだ。すっご~い、もう死んじゃったんだよね? 紹介して欲しかったぁ~」


 そう言って普段はあまり高校で話さない人間が炎乃華の周りに集まって来た。今、炎乃華には大きな悲しみと少しの喜びがあった。

 別に友人たちが集まったからではなく自分の剣の師匠で仄かな恋心を寄せていた人が正当に評価された小さな喜びと彼がこの世にもう居ないと言う大きな悲しみであった。


(こんな事なら、あの時ワガママになってれば、勇牙と一緒に黎牙兄さんの処分を……せめて父さんに頼んで匿ってもらえば……私は何を、いまさら)


「ど~したの? 炎央院さん?」


「いいえ、剣道が凄い強くて私の剣の師匠だったんだ……ふぅ」(いつも、頭撫でて褒めてくれたなぁ……頑張ったら……)


「あ、ゴメン。不謹慎だったね!! じゃっ!!」


 そう言って今度は蜘蛛の子を散らすようにクラスメイトは教室から逃げ出すと一人になった。それを確認すると瞳からは自然と涙が出ていた。


 屋敷では下手に泣いていたら誰に告げ口されるか分からないから外で泣くしかなかった。後はバレない場所を黎牙がコッソリと自分と勇牙に教えてくれた。


「黎牙兄さん……最後までカッコ良かったんだ……。兄さんが居なくなってから炎央院の家はずっと家督争いばかりだよ……姉さんも、助言をくれてた人も、皆当主の座の話ばっかり……。ずっと私と勇牙を家督争いから遠ざけてくれてたんだ……」


 そして心の中でまた会いたいと願ってしまった。黎牙の居なくなった家で自分と許婚の勇牙を待っていたのは生き馬の目を抜くような政争で、そこから守ってくれたのは他でも無い、術は使えないが知略と機転でいつも優しくしてくれていた従兄だった。


 自分はあの優しかった従兄を信じず追放に加担した。父に諫められたのに姉に巧みに誘導されその思惑に……いまさら言い訳も出来ないし謝ることすら出来ない。


「黎牙兄さん……ごめん、なさい……」


 彼女はひとしきり泣き終えると表情を戻し炎央院の家に戻る前にまだ中学生の許嫁と連絡を取る。恐らく黎牙の死で家中はまた動く、そのための対策を姉では無く今度は父と組むしかない。

 黎牙がそうしていたように彼女は炎央院の家の将来のために動き出した。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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