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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第72話「涙を拭いて狙うは予算獲得ただ一つ!!」

 レイは一筋の涙を流すだけで少しの間、沈黙していたけど不意にポツリと小さく呟いた。


「初めて……なんだ」


「うん……」


 その一言で堰を切ったようにレイの目から涙が溢れ、口からは嗚咽が漏れていた。


「立派に、なったって……強く、なったって……ううっ、親父っ……父上に褒められたんだ……あんなの……俺、はじめて……なんだよ、くっ」


「うん、強くなったって言ってたね」


 やっぱり私の旦那様はカッコつけだ。それに頑張り過ぎだ。誰よりも褒められたかったくせに意地張って、さっきのも周りには隠せていたようだけど私やSA3の皆には強がりなのは丸分かりだった。


「ああ、本当に、そう、言ったよな? 俺に見事だって……名前、呼んでくれて……ううっ……俺、俺っ……認め、られたんだよな……」


「言ってたよ。ちゃんと私も聞いたし他の人も。だからレイの八年間は……辛くて苦しかった時間は決して全部が無駄じゃなかった……」


「俺、いつも、いつも勇牙が褒められて、炎乃華も認められて……でも、いつかは俺もって、でも追放されて……ううっ、くっ……俺っ……」


 私がレイを抱きしめると縋りつくように泣き出した。三年前、私が消える寸前に見た時と違って今は静かに泣いているけど私の旦那様は泣き虫だ。普段から頑張り過ぎてパンクしそうなのに絶対に泣こうとしない。


「だからね、私の前では我慢しないで良いんだよ?」


 それから泣き腫らしたレイの涙と色々なもので私の服も汚れちゃったから結局いつもの隊服に着替える羽目になってしまった。今度新しい服をおねだりして今日の事も思いっきりイジメちゃうつもりだ。これもお嫁さん特権だからね。


「その、また情けないところ見せたなアイリス」


「私が向こうで家出した時とか、もっと小さい時に泣いてた時なんていっつも慰められてたのは私の方だから、お互い様だよ」


 初めて会った日に、いきなり話しかけて勝手に泣き出した私を必死に慰めようとしてくれたレイ。それから気になって会いに行く度に勉強を見てくれたり遊んでくれた。それにヒナちゃんという親友と出会わせてくれたのもレイだ。


「それでも俺は君の前だといつも泣いてばかりだよ」


「ふふっ、じゃあここから先は最後までキチンと締めなきゃね? 私達夫婦はこのパーティーのホストなんだから」


 私が言うとレイは軽く頷いて表情を引き締め私の目を見て言った。


「アイリス。最後まで見ていてくれるか?」


「もちろんだよ。これからも一番近くでずっと見てるから」


 最後に軽くキスをすると私達は最後の準備を開始した。





 俺は気分を切り替えて会場の中央に立っていた。今まで、この部屋はパーティー会場から巨大な調理場に改造されたが、この最後の状態は会議室のような作りに変えられていた。


「では資料は全て行き渡ったでしょうか?」


 俺はマイク越しにその場の人間に確認すると答えは無かったので話を続ける。この会の最後の締めは……プレゼンだ。


「では当社からのご提案を日本の術師の皆様にさせて頂きます。まずは――――」


 そこからはグループの簡単な紹介をして各セクションの売込みだ。今はワリーが新型PLDSについてプレゼンを進めていた。


「――――以上です。何かご質問があれば伺います」


 ワリーが言った瞬間に手が二つ上がった。一つは涼風家の代表として会に参加している涼風楓、かえちゃんで、もう一人は炎央院炎乃海、俺の従姉だった。


「ではミス涼風から、どうぞ」


「素人質問で恐縮なのですが――――」


 待て、なんか始まったぞ……俺が嫌な予感がして当事者の二人を見るとワリーは目を見開き対する楓はニヤリと口角を上げていた。止めろ二人とも、ここは話し合いの場だ。と思っている俺を無視して目の前の二人の舌戦が開始された。


「ミス涼風の指摘通り、仮称、新型PLDSについては――――」


「つまりコスト面は――――」


「その部分の製造過程については――――」


「では、やはり改善の余地が――――」


 そこから言葉の応酬が続いたがワリーは何とかしのぎ切った。かえちゃんの方も肩で息をしていて互いに睨み合いをした後に質問を終えていた。


「次は私なんだけど良いかしら。それとも休憩を取る?」


「いいえ結構ですミス炎乃海。どうぞ忌憚なき意見を……」


「ええ、では単刀直入に……これはレイ君にも聞きたかったの。あなた達イギリスの術士は何を考えてこの大型PLDSを作ったの?」


 それを言われた瞬間ワリーはかなりの間抜け面をしていて俺が咳払いするとハッとしたように説明を始める。それは闇刻術士に対する説明から始まりプレゼンとしては問題無いレベルだったが俺は理解していた。


(これはあの人の求める解答じゃない……)


 これは日本の術師じゃないと理解出来ない問題だ。俺は横にいるアイリスを見ると頷き俺たちの発表用の資料を持って準備を始めた。


「――――なので、広域に展開することにより闇刻術士に対する備えと結界の強化及び補助に対して有効になると当社では考え試作機を開発しました」


「だから、そうじゃなくて――――「ワリー、ここからは俺とアイリスが出る。悪いがワリーは本質を理解してない……ですよね炎乃海姉さん?」


「そう、あなたは理解してるのね。危険性を……それで?」


 俺の目を見て言うあの人は昔、俺と炎央院の未来について話していた時と同じ顔をしていた。追放の時のような俺を見下すようなものではなく真剣そのものだ。ならば俺も答える義務が有る。


「レイ、どう言う意味だ。今回の戦いでも先行試作機が四卿たちを抑え込むのに活躍したからこれが完成したら恒久的に――――」


「ああ、恒久的な和平を目指す俺たち光位術士の理念に合致するな。でも、それが完成したら一般人はどう考えるか分かるか? 術士や術師なんていらない。その機械だけ有ればお前らは用済みだと考えるんじゃないか?」


 これは俺も英国で聞いた時から懸念が有った。つまり術師や場合によっては戦闘を中心にしている術士の家系もお役御免となる可能性だ。


「レイ、君がそれを言うのは違うんじゃないか? 俺達の目的は闇刻術士を滅することにある。そのために必要な手段は全て講ずるべきだ」


「ワリーの言う事は正しい……けど、それだけじゃ困る人間も出て来るんだ。少なくともこの国の政治家や官僚機構は術師にも、もちろん俺達術士にも優しくない」


 これは自業自得な面も有るのだが、それ以上にコストカットはどの世界にも求められる。そして機械で自動で出来るのならそちらを選ぶのは当然の選択だ。


「だが闇刻術士それもビフォー世代にはまだ対応出来ないし、対術師相手には脆い面も有るから不完全で俺達が不要になる未来は……」


「そんな事は関係無いんだ。対抗手段が有ると教えただけで人は安易な方法に流れる。特にこの国では術師が幅を利かせて来たから厄介払い出来ると分かったら切るに決まっている……そうですよね?」


 俺が叔父さんの補佐をしていた時にも懐疑的な人間達も俺達を立てようとした人間もいたが最終的には胡散臭い人間を見る目が大半だった。つまり信用されておらず隙を見せたら簡単に利用されるし切り捨てられる関係なのだ。


「ええ、その通り。それに誰かさんが意味もなく術を行使して一般に被害を出したり建造物を吹き飛ばしたりと前科も有る。その辺りも向こうは言ってくるでしょうね」


 それを指摘され俺はクソ親父を睨みつけるが寝ていた。このクソ親父は開始五分で熟睡しやがった。さっきの俺の涙を返せと言いたいが、ここはグッと怒りを堪えてワリーやこの場の人間に向かって発言する。


「これは炎央院の問題だとしても他の四大家にも関係の有る話だ。少なくとも術師じゃない一般人にPLDSの存在を知られるのは早いと今はそう考えて欲しいワリー」


「ああ、理解はした。だから最後に聞きたい。今の発言は炎央院黎牙という亡霊の言葉か、それとも俺達を導く光の継承者レイ=ユウクレイドルとしての言葉か?」


 その言葉を受けて場は静まった。確かに言われても仕方ない。俺の発言は日本びいきで元実家の炎央院に忖度している様にも見えるから当然だ。俺は考える素振りを見せながらグラスの水を含み口を開いた。





「どちらもだ。光位術士としても全ての術師に対しても必要なことなんだワリー」


「そこまで言い切れる根拠は?」


 ワリーを納得させる方法は情に訴えかけるのはダメだ。じゃあ何が有るのかと言えば至極簡単だ。


「今回の戦いだ。確かに今回の戦いで大型PLDSは大いに役に立ったが、それ以上に闇刻術士を討滅し止める事が出来たのは日本の術師たちの協力が有ったからだ」


「ならば余計に必要だろう。これが有れば今回の戦いの犠牲者も減ったはずだ」


「ああ、その通り。だがこの国のお偉方は自分達の都合だけでPLDSの技術を奪取するのに躍起になるだろう。そうなった場合に我が社の損失に繋がる。その責任と失った利益をお前が保証できるのかワリー」


 至極単純でワリーは金に、特に予算に弱い。今まで散々と苦しめられたからだ。ここで損失が出た場合、自分の研究なども全てを消される可能性も有り得るのだ。


「だがレイ、これは――――「大丈夫だ俺も考えてる、日本は資金が潤沢だ。そして政府から一番金を引き出せるのは四大家。だから四大家には生き残ってもらう必要が有る。俺達は裏の世界にですら表立って動けないからな」


 そう、四大家には無くなってもらっては困る。日本政府から支援を我が社単体で取り付けるのは時間がかかるし何より光位術士の存在がバレるのはまずい。日本政府には、せいぜい変な術師が増えた程度の誤認識を持ってもらう必要が有る。


「分かった……じゃあ、ここからは交代だ。支社長としてしっかり頼むぞ」


 ワリーの言葉を受けて俺とアイリスが立ち上がり交代する。任せろ予算はしっかりともぎ取って来るからなワリー。


「ちょっと待ちなさいレイ君、それって私達を――――」


「当然、ある程度は言う事聞いてもらいますよ? あとPLDSの予算も出して頂くし日本での試験運用もします。その際に日本政府への働きかけ及び隠蔽作業にも協力して頂きます」


 つまり四大家には俺達のフロント企業のような役割をしてもらう。フロント企業なんて表現が悪いなら窓口と言っても良い。ま、結局は資金源として利用するのだから意味は同じようなものだ。さらにアイリスから面白い報告もあった。


「ところで炎乃海姉さん。その腕なんですが使った物も含めていい値段するんですよ。あと俺の愛妻アイリスの治療というのも破格なんですよ」


「何が言いたいのかしら、そこの小娘からはロハで良いと言われたのだけど?」


 もちろんそれも聞いた。だけど彼女は俺以上にシビアだから肝心な事を言ってない。そう報告を受けている。


「ええ。初回はね? そうだなアイリス?」


「ええ、あなた。龍脈路の維持は大変ですから定期的にメンテしないと、せっかく治った腕が、すぐにボンという事態も有り合えますわ、お姉様~?」


 俺が隣にいるアイリスに向かってニヤリと笑うと彼女も頷きながら言う。見るとその笑顔は随分と底意地が悪い顔をしていた。


「やっぱり爆弾じゃないの!! この腕!!」


「でもぉ~、私が見れば何の問題も有りませんわ? 初回無料で二回目から有料ですけどね。マホちゃんには言ったよね?」


「ちゃんと母様が気絶してる間に読んでおいてって言われてハンコ押した!」


 アイリスさすがだ……ギリギリアウトだが弱味を握っている以上はこっちのやりたい放題だな。同意書を見せつけながら得意顔の妻を見て俺は色んな意味で心強いと思って目の前の従姉を見た。


「子供の契約は無効よ!! それに半ば押し売りでおまけに初回だけ無料なんて詐欺商法は止めなさい。今に天罰が下るわよ!!」


「むしろ誰かを追放したり、暗殺者送ったりした人に今まさに天罰が下ってる最中じゃないですか~? 誰とは言いませんけどね」


 アイリス自身は俺の実家を許す気は有るみたいだけど適度に調子に乗らせないように、こうやって分からせるそうだ。これも俺が最後の最後で甘さが出るからなのだろう。そしてアイリス曰く、俺は真炎と炎乃華には特別甘いそうだ。


「くっ、ああ言えばこう言う……」


「まあまあ、俺の嫁は器量よしで口も達者なので、もっと褒めて下さい炎乃海姉さん。そこで衛刃殿、今なら格安でご息女の治療それにご自身の足も含めて当社で完璧に安定するまで診させて頂きますが?」


 そして本丸の叔父さんだ。見ると苦笑していて俺の言いたい事は伝わったようだ。そして少しだけ思案した後に重い口を開いた。


「それは新型の機械、大型のPLDSの技術に関しても当家に開示してくれるのか? それこそユウクレイドル家の技術も含めてだが?」


「ええ。技術提携という形ならワリーが喜んでしますよ」


 実は炎央院や他の四大家御用達の聖具の工房や特殊な道具を作っている集団も居てワリーはそこの技術も吸収したいと言っていたから現場判断で任せる予定だ。


「ふぅ、つまり機密を政府に漏らさず金だけ引っ張って来いと……中々に無茶を言うな、レイ支社長?」


 叔父さんはそう言うが実際は旨味はあっちの方が有る。何だかんだで五十年は遅れている技術をタダで提供すると言っているのだ。これの意味が分からない訳がない。


(交渉材料はこれで全部……叔父さん、どうですか?)


 そして叔父さんは炎央院の頭の悪い門下と違って俺達の下に入る事を何とも思ってないだろうし名より実を取るタイプだ。つまり炎央院の利益を優先するのであってプライドや権威は二の次だ。


「今日まで炎央院の家に無償で提供した人員及び設備、さらに多数の術師の治療行為その他全ての経費は当社が持っていますし、今回壊れた試作型の大型PLDSの修理費も請求は致しません。今日の契約が叶うのならば……ね?」


「ふむ、昔から交渉事は得意な上に私の教えも踏襲してくれたか、英国へ行き一段と成長したな。そして本当に惜しい人材を外に出してしまった。お前が当家に居てくれればと今も思ってしまうよレイ……」


 昔から評価してくれていたのは家中では貴方だけでした。だから精一杯、今の居場所のために貰っていきますよ。支社の予算を……これが俺なりの恩返しです。


「もしかしたら有り得たかもしれない話ですが……それは二度と来ません。なので外部の人員として手を取りたい。お願いします衛刃殿」


 そう言って頭を下げる。あくまで立場は上だけど俺は叔父さんを立てるのを忘れないし俺達の間だけは平等だと示すために首を垂れる。


「分かった。では当主として――――「ちょっ~と待った!! そんな予算すぐに出せません。今試算したんですけどレイっ……支社長の概算要求は高過ぎです!!」


 全てが上手く行きそうな中で電卓を叩きながらノートPCと睨めっこして流れを止めたのは俺の従妹、炎央院炎乃華だった。




「炎乃華……それくらいは……」


「そうは言いますけど当主、炎央結界の整備を含めた概算も出せてない状況でさらに別予算!! しかも別の枠組みを作れってのも無理が有ります。それに事後処理も一段落付いただけで……」


 そう言えば俺が抜けた後に炎乃海姉さんは治療で動けず他は動けないなら炎乃華が叔父さんと二人で頑張っていたのか。


「なるほど、頑張ったんだな炎乃華……」


 俺が感心して言うと炎乃華の目が点になった後に顔が真っ赤になった。そう言えば昔から褒めたらこんな感じだったな。


「えっ!? う、うん……私、頑張って三日で七割は片付けたんだよ!!」


「凄いな、じゃあ残り一日で全部片付きそうだな」


 それだけの能率なら問題無いだろうと俺が言葉にすると横のアイリスがプッと吹き出していたけど意味が分からない。今の何が面白かったのだろうか。


「うんっ!! 私に予算も会議も全部任せて……はっ!?」


 こうして無事に? 俺達の今後を決める会議は終わった。しかし俺達はまだ気付いて無かった。この会議の裏で静かに闇の胎動があった事に……俺達が見せた一瞬の隙に奴らは次の行動を起こしていた事に……気付けなかった。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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