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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第71話「越える背中と継承者の涙」

 アイリスの言う通り、これはヴィクター義父さんの技だ。ユウクレイドル家は騎士の家系だったが、ある時から使命を守るために主君を王から神へと変えた。

 しかし騎士なのは変わらず戦い方の基本となっていた。そして義父さんは西洋剣術以外にフェンシングの動きも流用していた。先ほどの俺の動きがそれだ。


「なるほど、面妖な動きと思っていたが海外のものか……」


「英国での剣の師匠の技だ……ヴィクター義父さん、感謝します」


 さらにスピード上げて行く。斬るよりも突く、あの人に俺はこの戦い方は向いていないと言われた。だけど俺はこの戦い方を出来るようになりたくて頼み込んで基本の型を叩き込んでもらった。


「異国で得た力……か。なるほどな、しかし我が国の術師ではまず見ない戦い方だ。やはりお前が拳ではなく剣を選んだのは……」


 そう言いながら目の前の炎皇は両腕から炎の爪、刃のような状態にした拳を突き出し俺の突きに対抗して来た。だからこそ今ならあの技が使える。


「炎皇流……炎輝一閃!!」


 暁の牙に炎の聖霊力を込め横に一閃して炎の斬撃を飛ばす。だがこの技にはさらに仕掛けがある。


「その技はっ!? くっ、やはり避け切れんか……厄介な」


 親父も気付いたが既に間合いは俺の得意とする距離だ。そのまま炎の斬撃が奴の炎障壁に触れた瞬間、弾けて爆発する。この技の本領は触れた瞬間に爆発して目くらましをする所にある。


「四卿にも通じた技だ、光栄に思えよっ!!」


「くっ、俺も過去に一度しか受けたことが無い……そもそも炎皇流を正しく受け継いだ剣士など奴しか居ないと思った。だが、面白い、奥伝解放……」


 奴の拳が紅蓮に染まる。つまりは終ノ構に入ったことを意味する。その拳で俺の発生させた目くらましを散らすと赤い鎧のような炎に包まれ現れた。

 これが炎央院の現在の最高峰にして日本の術師でも最高位の力を持つ男の本当の本気。


「ならば……今度も乗り越えるのみだ!! 焔の太刀、終ノ型『炎殺御免』参る」


 俺も白銀の炎を展開して対になるような型を展開し奴と対峙する。そして同時に宙に跳び上がり衝突すると俺の白銀と奴の真紅の炎がせめぎ合う。

 前回はこの時点で圧倒していたのに押し切れない。やはり神器の力だけではなく親父の聖霊力そのものが増幅している。


「力が、力が溢れる!! 迅人を倒した時よりも、令一と御前試合をした時よりも土門翁と戦った時よりも……誰よりも今のお前は、強い!!」


「そうかよっ!! でもまさか……俺が、ここまで来れるなんてな」


 もし八年前の俺に今の状況を話したら、どう思うんだろう。家族からは見捨てられ味方は誰もいなくて、大事なものを全て失って泣くのを堪えて追放された俺。

 それでも生き足搔いて、がむしゃらに必死に戦い抜いて今戦う相手は日本最高峰、小さい頃この男の背を見て誇りに思い、いつかは継いでみせると誓って必死に過ごした過去を思い出す。


「はああああ!! どうした戦闘中に考え事とは余裕だな黎牙っ!」


「ふっ、違うさ……噛みしめているだけだ、この瞬間を」


 俺は笑いながらも少しづつ押され始めている。やはり火影丸よりも炎の聖霊力の浸透力が低い。

 対して向こうの神器だが、あれは風の神器で本来なら相性はよくないのだが中央の宝玉の存在、過去を回想している内に思い出したことが有った。


「そう、これこそが『獅子の涙』……我が家の至宝だ」


 一度だけ見たことが有って、あれは炎乃海姉さんと蔵を漁っていた時に見つけた覚えがある。当時は使い方は分からず最後は姉さんが役に立たないからと放置して俺が慌てて箱に戻した物だ。


「っ!? 神器の一部だったのか……」


「そのようなものだ……当主になれば嫌でも知ることになる秘密というやつよ。これを出した以上ワシは、いや俺は負けない、負けるわけにはいかんのだ!!」


 あの男が全力で戦うのは四大家を統べるための修行の旅で最後に戦った水森家の当主、令一氏以来なはずだ。俺は幼い頃その戦いの話を子守歌に……あの女に聞かされ寝かしつけられていた時もあった。

 ああ、いつか目の前にいるこの男のようになりたいなんて思っていた時代も確かにあったんだ。だから……。


「だから……」


「だから何だという黎牙!!」


「だから、俺は貴様を越えて行く、過去を乗り越え今を彼女と生きるために!!

行くぞ炎央院刃砕、秘奥義……」


「来るか、俺に二度同じ技は通用しない事を教えてやる黎牙っ!! 秘奥義――」


 俺は暁の牙に白銀の炎を纏わせ炎聖術の技としては最高の一撃を放つ準備のために両足に炎気を爆発させ突撃した。


「炎滅紅覇の一拳……炎の断罪を受けよ!! 黎牙、この技は二度は負けんぞ!!」


 そうだろうな、だから俺は技としての最高の一撃を放つ準備をしている。最強の一撃では無く、最高の一撃を……。


「……ではなく!! 炎皇流、炎牙双極斬!!」


「なっ、なにぃ!?」


 俺の突きが奴の拳を弾き軌道をズラした瞬間に、ほぼ同時に奴に炎の斬撃が真正面から入る。頭と心臓をほぼ同時に斬って突く技、炎乃華や一部の炎央院の剣士が使う技で俺も帰国して使ったし四卿にもアレンジ技を使った一番信用している技だ。

 それを奴の秘奥義の威力減衰と軌道をそらすのに使用した。これで最高の一撃を入れる準備は整った。


「くっ、勢いは止められたが、まだだっ!! もう片手が残っている!!」


 そう、奴は両手で秘奥義を打てる。そんな事は昔から知ってる。それも小さい頃によく語られた話だからだ。右が使えぬなら左、左が敗れたのなら右で勝つ。

 そうして四大家の頂点に立ったから俺も両手を使えるようになれと言われた。だからそれを今から実践してやるよクソ親父。


「いいや、終わりだ!!」


 俺は双極斬を決めた瞬間には既に暁の牙を手放していた。そして構えた俺の拳には白銀の炎が燃え上がっている。準備は万端だ。


「なっ、何っ!!」


「剣だけで勝てぬのなら、拳も使えるようにすれば良いだけ、これが今の俺の全力だああああああ!! 秘奥義、|白綾目へ捧ぐ軌跡《B e l o v e d ・ I R I S》!!」


 俺の秘奥義は実はかなり単純で白銀の炎を相手に叩きつけるだけ、最初から剣にまとわせる必要なんて無かったのだ。それに気付いたのはダークフレイを倒した時だった。

 あの時、奴を浄化して巻き上がる炎は剣だけではなく俺の拳も一緒に燃え上がらせていた。だから拳でも使うことが出来ると確信していた。

 何より俺だってこの男の息子なら拳が使えなきゃ悔しかったからコッソリ日本でも、それから向こう(英国)でも修行はしていた。


「拳だと!? この土壇場で、だがっ、拳で俺が負けるわけには……」


 奴の真紅の拳が下から突き上げられるように放たれ、俺の白銀の拳と正面から激突する。一瞬のせめぎ合いの均衡は簡単に傾いた……俺の方に。


「いいや、この突きは誰にも止めさせない!! はあああああああ!!」


 バランスが崩れ、両者とも倒れそうになるのを俺だけは踏ん張りながら勢いを強めて、そのまま奴の拳ごと俺の一撃を強引に押し込んだ。


「くっ、負ける……のか、拳で、俺の戦いが、敗れる……のか……」


「はぁ、はぁ、はぁ……俺の、勝ちだっ……」


 俺は奴が気絶するのを確認するとそう宣言してフラフラになる。炎聖術のリミッターをすぐに解除しなければと思い光位術を使おうとするが、それより先に俺の体が回復していく。振り返るとそこに最愛の人がいた。


「お疲れ様。レイ」


「ああ、ありがとうアイリス。それと悪いな」


 フォトンシャワーが俺を包んで回復する。見ると親父の方もフローが回復していて、あの女も横で親父を見ていた。


「え? 何が?」


「俺は炎央院の家には戻らない。だからユウクレイドル姓のままで頼むよ」


 俺が冗談めかしに言うと彼女も一瞬驚いた顔をした後にプッと吹き出して笑顔を浮かべて俺を見て言った。


「もうっ、分かってるよ……レイはず~っと、レイ=ユウクレイドルだよ。私の大事な旦那様。三年前のあの時から……ね?」


 彼女がそう言うと俺は抱き寄せ頬に軽くキスをする。そして再度確かめるように強く抱きしめた。


「アイリス。これで俺は本当の意味で先に進める気がする。全部君のおかげだ」


「ううん。レイがここまで必死に頑張ったからだよ……」


 今度は正面から見つめ合うと互いの唇を重ねた。これはある意味で俺の実家への訣別と新しい未来へ進むための大事な戦いだった。アイリスの眼を見ると頷いて彼女は俺に微笑んでくれていた。





「うっ、く……俺は……」


「兄上、年甲斐もなく無理をしましたな」


「父さん、大丈夫!?」


 見ると親父の方も意識を取り戻したようだ。衛刃叔父さんや姉妹と真炎、それに勇牙とクリスさん他にも何人かが集まって心配そうにしていた。フォトンシャワーを使われていたし問題無いはずだ。


「レイ、行かなくていいの?」


「今さらだよ。それに力は示したんだ問題は無いさ」


「そうじゃなくて~、もう」


 そう言って俺はSA3のメンバーの方に行こうとするが腕を掴まれて動けない。もちろんアイリスだ。また色々と余計なことに気を回しているようだと振り返るとアイリスと少し離れてあの女がいた。


「……何用でしょうか奥方殿」


「夫が話があるので聞いて頂けないかしら、継承者殿」


「…………了解した」


 俺は隣にピッタリくっ付いたアイリスと二人で炎央院の面々が集まっている所に到着すると親父と目が合う。


「負けた。いつ振りか……二十歳になる頃には負けることなど無かった。三十年振りの敗北か、何とも複雑な気分だな」


 無敗の炎皇と呼ばれるようになってから本当に無敗。その男を最終的に俺は四度倒したことになる。さすがに自信が喪失したのか茫然自失といった表情をしている。だが、それより大事なことが有る。


「……刃砕殿、そして当主衛刃殿これにて私の決意、分かって頂いたと思われますがいかがですか?」


「うむ。私は問題無い。流美の件も含め頼むぞレイ」


「はっ、引き受けた以上は必ず……で? 刃砕殿、返事はいかに」


 力の抜けきった親父を再度見ると奴は立ち上がり俺を見た。そして大きな溜め息をつくとゆっくり口を開いた。


「はっきり負けた。しっかり敗北した。手加減された状態で俺は完膚なきまでに負けた……だから何も言うことは無い。面倒だがお前の後任は任された」


「ああ、引き継ぎとかはキチンとやるから心配するな。じゃあな」


 話はそれだけだと切り上げようとする俺の背に声がかけられた。負け惜しみの一言でも言う気だろうかと振り返ると親父は俺を探るような目で見ていた。


「その、出来れば……家に戻った時でよい、また師匠として俺に――――「嫌だ。金輪際そう言うのは一切御免被る。もうこりごりだ」


「レイ……」


 横でアイリスが悲しそうな顔もするが俺もいい加減うんざりしているんだ。その呼ばれ方は……だって俺は……。


「う、うむ。そう……だな、いや、スマン忘れてくれ」


「あんたに我が師なんて呼ばれると、むず痒くなんだよ。だから今日みたいな模擬戦でいいなら気が向いたら、また、相手してやるよ」


 親父や実家の人間達は驚いたように見て来る。あの女ですら驚いた顔を見るのは少しだけ胸がスッとしたが、俺だって自分で何で言えたのか全く分からない。ただ自然と口から出ただけだった。


「レイ~!! 大好き~!!」


「わっ、抱き着くなアイリス!! こ、これはだな、そうだ、総合的に判断して将来の我が家のプラスになる判断しただけであってだな……」


「うんうん。そうだね~!! ユウクレイドル家のプラスだね!! うんうん!!」


 ニコニコして俺に抱き着かれるのは正直かなり照れ臭い。一応は訣別してるとしても目の前の人間は俺の父親であって、その周囲にいるのは俺の親族だ。さすがに一族の前でイチャ付くのは恥ずかしい。


「そ、そうか……だが、良いのか黎牙」


「構わない。炎央院の家はこの国の術師の中枢、それに比べて当社は強いと言っても日本では無名。取引先に愛想よくするのは当然だ。じゃあ先に下に戻る」


「ま、待て、黎牙よ……」


「なんだよ、俺の言いたい事はもう――――「強く、なったな……。本当に強く立派になったものだな……」


 今、目の前の人間は何と言ったんだと理解が追い付かなかった。見ると勇牙や炎乃華を始め、その場の全員が驚いていた。


「はっ、今さら何を言うかと思えば……あんたに言われるまでも無い。俺はここにいる大事な妻や仲間を守るために光の継承者として八年間戦ったに過ぎない。その過程で自然と強くなっただけだ」


「そうか、だがお前は本当に強くなった。それだけは言いたかった。見事だ黎牙よ」


「ふっ、話はそれだけか。では下で色々と準備をするから動けるようになったら来てくれ。俺は先に戻る……」


 本当に今さらだな。俺は今度こそ奴に背を向けるとアイリスを置いて少しだけ急ぎ足で一人歩き出す。まだ最後の仕事も有るしな。あとは妻に色々と言われるのも照れ臭い。それだけだ……。





 壮絶な戦いだった。そうとしか言いようのない戦いだった。確かに私たち光位術士の戦いに比べたら術の威力もそこまで強く無いけど、あの二人の戦いには、それだけじゃない何かが有った。


「凄かった。黎牙兄さん……あっ、違ったレイさんだった」


「別にレイならどっちの名前で呼んでも良いと思うけどね~」


 どうやら炎乃海お姉様を蹴っ飛ばした後から私にも少しは心は開いてくれたようだ。夫の実家との関係は良好なのが大事、立ち位置的に炎乃華さんは小姑に近いから仲良くはしたい。ただしレイを狙っているのなら返り討ちだけどね。


「あっ、アイ……リスさん。でも私、さっき一からやり直そうって」


「そうは言ってるけどレイって凄~く甘いから逆に「レイさん」とか呼ばれると泣いちゃうかもね~」


 私が言うと炎乃華さんも苦笑して黎牙兄さんは強いから簡単には泣かないと言う。それを聞いて私はレイが思った以上に日本の実家の人達を騙せていたの知った。


「まさか、あれだけ強くて自分に厳しい人が、ですか?」


「ま、レイは強いけど、厳しいかな~? あと意外と脆いから……じゃあ私も下で準備が有るから炎乃華さん達は少し時間を空けて来てね~」


 それだけ言って屋上を離れようとする私の周りにSA3の古参の四人が集まっていた。だから私はすぐに友人たちにお願いする。


「私とレイを二人きりに、そうね……十分だけお願い」


「分かりました、お嬢様お任せ下さい。セーラ様には私が」


「なるほど、ここは任せな、行ってやれアイリス」


 お願いするとベラとジョッシュが返事をくれた。さらにフローとワリーは頷くと会場に散って結界を強めこの場の人間が自然と外に出ないようにしていた。


「ありがと皆、ちょっと行ってくるね」


 そして私は下の階に降りると誰も居ないパーティー会場に、ポツンと一人その場に佇むレイの背中を見つけた。


「レイ、上は全部結界で封じて来たから十分くらいは二人きりだよ。セーラにお願いして警備の光位術士も上だから、だから、ね」


「だから、どう、したんだ?」


 背を向けたままでこちらを見ないで言うレイは心なしか震えている様に見えたから私は確信を持って一歩近づいて静かに言った。


「お義父さま、褒めてくれたね?」


 私がそう言った瞬間、振り返ったレイの頬を伝う何かがキラリと光り反射した。レイの瞳から流れたそれは涙だった。


「やっぱりね……もう」

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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