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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第70話「三度目がダメでも四度目の正直?」

「兄上、黎牙の晴れ舞台なのですから、ここは大人になって頂かないと……」


 あれから三十分、叔父さんが親父を説得しているが効果は無かった。


「そもそもワシは責任を取って当主を二十年以上も続けたのだ。術も好き放題使えず、少し威力を間違え建物を吹き飛ばせば国のお偉方や周りの者から文句を言われ、聖霊達には月に一度、山を吹き飛ばす以外は好きにさせてやれず、辛い思いをさせた……この苦しみが分かるか!!」


 言ってる事が本当に自然災害だなクソ親父。当主にした爺様や長老連中共の気持ちも分からないでもない。


「分からねえよクソ親父!! 自重しろ」


「嫌だ嫌だ!! 責任の有る仕事なんて二度とやりたくなどない!!」


 ここまでは殆どが全て想定内だった。叔父さんの足を治すのも巫女の紹介も、唯一のイレギュラーは結界の綻びなのだが、ここに来てもう一つの不確定要素が出てしまった。


「あの、衛刃殿、いえ当主。この人はともかく私を戻してもいいのかしら?」


 そして一番の問題、俺の因縁深い過去のトラウマが喋り出した。


「それは問題無いかと、まず義姉上の奥伝については涼風家そして他の分家や嵐野家の生き残りからの聴取により対策を講じてあります」


「あら、用が終われば座敷牢行きかと思ったら違うのかしら?」


 叔父さんや炎乃海姉さん辺りには効かないだろうし、炎乃華には対策を教えてやる予定だから問題無いはずだ。クソ親父は……普通に効きそうで大丈夫なのか。

 それに炎央院家の主要な人間には効かなくても十選師を除く門下の人間は簡単に術で籠絡できそうだし不確定要素が多過ぎる。


「はい。奥伝に関しまして解析は終わってますので、義姉上には政務をメインにやって頂きたいのです」


「それこそ冗談では無いの? それに直系でもない女の私を?」


 まさにその通りでクーデターを起こそうとしていた人間を中枢に置くのは無理が有る。今は大人しいが次また問題を起こせばそれは任命した叔父さんの責任になる。

 そして本人も言っているが炎乃海・炎乃華と違って奴は涼風家の分家のさらに傍流の家系の女だ。炎央院家の通例では中央の政務に関わる事は出来ない。実際に炎央院の会議の場にはいつもこの女は入れなかった。


「残念ながら当家に選択肢は有りません。里中も失脚するのが確定した今、真に信用出来る家があまりにも少ない」


「なるほどね。それなら首に鈴が付いてる方が信用出来るってわけね……今の伯母様なら例の拘束具があれば動きも封じれるしね」


 炎乃海姉さんが言っているのは俺が本社から借りている拘束具で目の前の女の術を封じる事が出来る。今日はさすがに外しているが、あれさえ装着すれば問題無い。俺も納得しかけた時に叔父さんが口を開いた。


「あ、あれは……その、もう無い。損傷してな……ほぼ消滅した」


「なんですって!! まだ解析もしてなかったのに」


 炎乃海姉さんの解析とかは置いておいても、それは変だ。あの拘束具が破壊される事は基本的に有り得ない。


「叔父さん、どう言う意味ですか。あれは闇刻術士用の拘束具で並の術士では破壊はおろか傷つける事も出来ないはずで……まっ、まさか……」


 俺はその中で唯一の例外に思い当たり後ろを見た。そこにはコッソリ逃げようとしていたアイリスがいたので首根っこを捕まえ逃がさないようにする。


「な、ナニカシラ~、ダ~リン。私、のどが渇いたからお水……」


「あれを破壊できるのは守護者クラス。つまり本社の上層部かSA3ならジョッシュが出来るかどうかな強度……ワリーなら分解出来るかもしれないが……」


「どう言う事なんですか黎牙兄さん?」


 炎乃華と勇牙も不思議そうな顔をしているが逆にエレノアさんや一部のSA3のメンバーは理解したようでアイリスを見た。


「そこの女の拘束具を破壊できる人間は日本では俺かアイリスくらいだって言ってるんだ。その上で俺は違うから犯人は一人だ」


「ふっふっふっ、さすがは私の旦那様。こんなに早くバレるとは名探偵も真っ青な推理力で素敵!!」


 いつの間にか諦めて逆に抱き着いてきた妻を見ながら呆れ半分と怒り半分の複雑な心境の俺に対して後ろから悲壮感漂うワリーの声が聞こえてきた。


「アイリス、ほ、本当に拘束具を壊したのか?」


「だって、あんなの付けたままじゃお義母さまとお話出来なかったし」


「じゃあ、本当に……残骸は!? 残骸だけでも」


 さすがに残骸は回収していたらしくて部屋の奥に取りに行ってしばらくすると無残な姿になったそれがワリーの下に戻ってきた。


「そんな……これには壊れた神器の欠片と聖遺物まで練り込まれているのに……なんて姿に、ベラ、お前がいながらどうして……」


「すいませんワリー。私では止めることが――――「待ってワリー、ベラは悪くない。私が無理やり頼んだからで……」


 互いに庇うなら悪いのはアイリスだとすぐに分かった。そして理由は察しが付く。十中八九、俺のためだろう。


「アイリス。それは聞かないからな。どんな形であれベラは職務をこなせなかった。例え君の願いであってもだ……」


「いいのです。お嬢様。私が甘かったのです……」


 ベラが悪くないのは分からないでもないが最後は甘さを見せた彼女のミスだ。ここで庇うのは彼女のプライドも許さないだろう。


「で、でも……」


「ベラがアイリスに甘いのは俺も把握していた。すまない俺のミスだ」


「気にするなワリーが悪いんじゃない。休暇で妻の行動を把握してなかった俺にも原因がある。後でアイリスには反省させる。本当にすまない」


「は~い、反省してま~す」


 全然反省してない態度の妻を見ながら俺は頭を切り替えて本題の方を考える。このクソ親父たちを説得するのは骨が折れそうだし、なによりアイリスと衛刃叔父さんの顔を見て理解した。


(俺にコイツらを許せって、そういう意味だよなアイリス、それに叔父さんも)


「どうしたのレ~イ?」


 この世界で一番可愛い嫁が反省など微塵もしてない無邪気な顔で俺を見て来る。悪いが俺はそれほど単純でも何でもない。だから答えは決まっている。


「たとえ君の願いでも――――「優しいあなたが、世界で一番だ~い好きだよ!!」


「あ、これダメなパターンだ」


 ジョッシュが天を見て溜め息をつく。さすがは俺の戦友だ。俺の最大の弱点をよくご存知で、さらにフローがこちらを見て言った。


「そうね。レイは一度もこれに勝てたことは無い、勝率は今のところゼロ」


「光の継承者の弱点は『巫女のお願い』なのは我らの中であまりにも有名な話だ」


 ああ、そうだ。その通りだエレノアさん。小さい頃も再会して英国で一緒に戦った時や結婚後も『アイリスのお願い』だけは断った事が無い。あの日誓った彼女のために戦うという決意だけは未だに色褪せていない。


「くっ…………元当主夫妻の望みは……なん、でしょうか……。ある、程度……ならば……相談に……乗らせて、もらおう」


「「なっ!?」」


 目の前の俺を追放した二人が心底驚いている一方で叔父さんは頷いていた。何より横の妻が笑顔で俺を見ながら背伸びして頭を撫でてくる。悔しいが今の俺は過去の恨みなんかよりも妻の笑顔の方が大事だ。


「さっすが私のレイ、よっ!! 日本支社長!! そして私は支社長夫人!!」


「日本に居た頃の黎牙、いやレイは慈愛に満ちていたが堅物で、そこを心配していたが人を愛しここまで成長してくれたとは……」


 アイリスの謎の持ち上げ方も片足を光らせながら涙ぐむ叔父さんの声も右から左に流れて行く。俺がここまで妥協したんだ。さっさと答えろ。


「私は、この人の判断に従うわ。今さら条件など出せないもの。だからお任せします。あなた……」


「う、うむ……そうか。ではもう一度真剣勝負をしてもらおう黎牙!! 今度こそお前に勝ってみせる、我が全身全霊をかけて!!」


 やはりそうなるか、この脳筋クソ親父はそれくらいしか言ってこないだろうと思っていたから構わない。四度目も返り討ちにしてやる。


「あとで駄々をこねられても面倒だから今の内に言いたい事があれば言ってくれ」


「うむ。では三度目の時と同じ条件での決闘を望む」


 つまり俺が秘奥義を習得した時、聖霊抜きの技と術のみ戦いで俺は炎聖術のみで光位術士の力は使わないと言う戦いだ。つまり炎聖師として戦うことになる。俺の本来の炎聖師として成長していた場合の姿で戦うという意味だ。


「分かった。俺が勝ったら今度こそ文句は言うなよ」


「言わん。だがワシが、いや俺が勝ったら…………家に戻ってこい黎牙」


 その発言がどれだけの意味を持つのか分からないはずが無い。目の前の男がいくら脳筋でもそれくらいは理解はしているはずで、その一言を発したことに俺は驚きと困惑を覚えた。


「今のお前なら資格は有る」


「勝手なことを抜かすなよクソ親父……だが感謝する。少しも手加減はしなくて良いのが今のでよく分かった。上で戦おう」


 そして俺達はホテルの屋上に向かう。会場の人間も全て屋上について来た。外は夕日が上り始めたばかりだ。小さい頃は苦手だった夕焼けの景色、家に帰らなくてはいけなかったから。

 でも今は違う。あの戦いの後、夕焼けの公園でアイリスと再会した時に吹っ切れた。だから四度目の正直だ。アイリスが戻った今の本当の俺を見せつけてやる。





 そして俺達が屋上で構えた瞬間アイリスが屋上全域に巨大な結界を展開する。その結界は外に被害を出さないためのもので外界と隔絶した空間を作り出した。


「感謝する、嫁殿」


「いえいえ。お気になさらずに、お義父さま?」


「アイリス!! 俺は認めてないから……まったく困ったもんだ」


 どうしてか怒りよりも気恥ずかしさが湧いてくる。やはり俺はアイリスにはかなわない。そんな風に思っていると目の前の親父が苦笑して言った。


「それが伴侶を持つと言う事だ。黎牙よ……」


「抜かせ。こっちは準備が出来ている。そっちは慣らしはいいのか?」


「問題無い……また、これを使う事になるとはな……」


 俺の装備は暁の牙Ver.2.0で対する親父は聖具が前回の戦いで壊れたので無手でやろうとしたが流石にハンデがあり過ぎるので、どうするか考えていたら、あの女が予備の装備だと言って渡していた。


「あなた~!! 頑張って私を支社長夫人にして~!! あ、でも炎央院アイリスでも悪くないかも?」


 SA3全員に総ツッコミを入れられている妻を見ながら俺は黒の刃を構える。対する親父は両手に指抜きグローブを付けた。全体的に深い緑と金糸の模様が入り中央には赤い球体のような物体が付けられているのが見える。


「では行くぞ!! 黎牙」


 俺はそれに答えず無言で斬りかかる。親父は咄嗟に炎障壁を両腕から展開して俺の挨拶代わりの一撃を防いでいた。装備の力のおかげか聖霊力が数段階は上がっているようで、グローブ中央の球体に俺の太刀が弾かれた。


「なっ、兄さん!! いきなり不意打ちなんて」


「いや、それでよい黎牙!! そして勇牙見ておけ、これが……実戦だ」


 そして俺達は仕切り直しに離れると互いを見てニヤリと笑い相手を見て言った。


「合図が無いと戦えない奴なんて――――」

「常在戦場の視座を持たぬ者など――――」


 そして互いに相手に向かって聖霊力を爆発させて同時に飛び掛かった。


「「戦場には立てない!!」」


 俺達の聖霊力の力場が形成され奴の拳と黒い刃がジリジリとせめぎ合い均衡が崩れる寸前で互いに離脱する。それぞれ足に炎気放出フレイムアップを発動させ俺達は互いに距離を取った。炎聖師の戦いは一撃離脱で火力を前面に押し出したものが基本となる。


「ふっ、やはりさすがは……我が……」


「炎聖術だけの勝負なら互角か、さすがは炎皇と言っておく。それとその聖具いや違う、それは神器だな!? 中央のは聖遺物の宝玉か!?」


 俺が叫ぶと親父は無言で奥伝を開放する。まるで勝負はこれからだと言わんばかりで俺も即座に対応して奥伝を開放し互いに壱ノ型で黒の刃に炎をまとわせた。





「あ~!! 思い出した。あれって涼風家の失われた神器『断空ノ破迅拳』じゃない!! 確か二十年以上前に紛失したって……」


「楓姉ぇ、それってお父様、先代が紛失したっていう、でも何でこんな所に……」


 涼風家の二人の叫びを聞いて私は少し離れた所にいた女性の近くに移動する。いくら下位術師用だとしても神器は神器だ。それを二十年以上も秘匿しておきながら涼しい顔して観戦している人に話しかけた。


「やりますね。お義母さま? あんな隠し玉を用意してるなんて」


「何の事かしら……あと私をそのように呼ぶと、あなたの夫が万全に戦えないわよ? いいのかしら?」


 そろそろレイのこと息子と呼んで欲しいのに、この人もレイも本当に意地っ張りで難儀な性格。でも、その性格はそっくりで親子だとハッキリ分かって嬉しい私もいる。あと一押しなんだけど、今はそれよりも言うべき事と聞く事が有る。


「レイのこと心配してくれてるんですね!! でも大丈夫。私の夫はこの程度じゃ負けません。それにこれから先の事を考えたら乗り越えなきゃいけない壁ですから」


「っ!? そう、意外とスパルタなのね。甘やかすだけなのかと思ったけど」


「愛してますので、あなたと一緒でね? それでお話の続きは?」


「ふぅ……あれは涼風家の先代、迅人様に頂いた物なのよ」


 そう言った時に涼風の姉妹が一気にこちらに接近するのを察した私は周囲にグリムガードを展開する。


「なっ!? アイリスさん邪魔をしないで下さい」


「そうです。これは我が家の問題です」


「まあまあ、二人共お話を聞いてからでも、ね?」


 そう言って私は二人の足をグリムチェインで縛って地面に下ろした。風聖師は機動力が他の術師とは段違いだ。場合によっては浮遊系の術まで使うから縛って地面に縫い付けるのが一番効果的だ。


「見えなかった」


「一応言っておくけど私、エレ姐さんにも何度か勝ったこと有るから。二人とも意味分かるよね?」


「エレノアさんに……よく考えたらレイ君のパートナーなら強いのは当然か……」


 そんな話を私達がしている間にレイと刃砕お義父様は一進一退の攻防を繰り広げていた。そして私はその横顔を見て確信した。


「ふふっ。レイ、すっごく楽しんでる」


「あの人も年甲斐もなく、まったく、血は水よりも濃い……か。因果なものね」





「くっ、攻めきれない。前とは違うと言うことか!?」


「お前に敗れてから俺は一から鍛え直した。若い頃からの修行を一から全てやり直したのだから……なっ!!」


 確かに過去の戦いでは今ほど動きはよくなかった。正直なところ期待外れで俺はこんな弱い奴にビクビクして情けなく家を追い出されたのかと、こんな程度だったのかと過去の戦いで内心複雑だった。


「まさか本当に腕が錆び付いてだけとは、一ヵ月で全盛期か!!」


「まだまだ。若い頃はこんなものではなかった!!」


 また勢いを増した拳を刃が弾いて間合いを取ろうとした次の瞬間、後ろから鋭い蹴りが背中を掠めた。速い、明らかに過去の三戦より強くなっている。


「ならば!! なっ!?」


「頭脳戦、頭を使って戦う、俺には出来ない戦い方だ。だがっ!! それは二十年以上前に経験済みだ!!」


 背後への一撃から次に来るパターンを二つに絞って俺が予想したものは炎聖術による牽制か、奥伝の拳と蹴りのコンビネーションだと思ったが、違った。


「ぐっ……はぁ、いってぇ……頭突きだと?」


「ふっ、どうだ黎牙よ、頭を使ってやったわ!!」


「意味が……違うんだよ!! クソ親父が!!」


 俺は即座に構え直し弐ノ型を奴は弐ノ構に入った。再度ぶつかるが今度は同じようにはいかない。暁の牙と奴の神器がぶつかった瞬間に俺は刀を軸にしながら、その場で体を捻って相手の攻撃をかわした。


「むっ、これはっ!?」


「そこっ!!」


 さらに振り向きざまに炎聖術を放って目くらましにして死角を作り出し、炎の中から足を半歩出しつつ連続で突きを放った。


「今のは、なんだ、足さばきも体さばきも全てが違う……まるで別人。そもそも動きが剣術では無い!?」


「それはどうかな? 続けて行くぞ!!」


 俺は今度は体を伸ばし足のターンを駆使して突きを繰り返す。牽制に流美の使っていたフレイムダミーを使って今までの正面から斬撃主体の戦い方から突きの動きに合わせたトリッキーな動きに切り替える。これはあの人の戦い方だ。


「あっ!? あの動き、パパとそっくり!!」


 アイリスは気付いたようだ。俺の英国で鍛えた剣の腕を見せてやるよクソ親父。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


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