第7話「幸せの絶頂と迫る総力戦」
◇
「なっ、なんだこの力、有り得ねえ!! これが継承者かよ……おもしれえ!! ニーちゃん!!」
「ああ、行くぞ」
レイ・ブレードを一閃すると敵は闇と風の障壁を展開する。しかしそのままレイ・ブレードを伸ばしてロードを貫通……したかに見えた瞬間。
「がはっ」
「なっ!? 変わり身って忍者かよっ!?」
風のロードが消えたと思ったら目の前には奴の部下の闇刻術士が俺のレイ・ブレードに串刺しにされていた。そして光の粒子となって浄化される。
「もらったぁ!!」
「させないわっ!! レイ・アロー!!」
いつの間にか俺の後ろに出現した風のロードはそのまま闇の真空波を放つが、その真空波に合わせて放ったサラさんの光の矢が全て相殺し打ち消した。フォローされて無ければ危なかった。
「クソっ!! 二対一かよ!!」
闇の竜巻で身を守りながら、その内側から闇の真空波でけん制をしてくる。コイツはおそらくは接近戦は出来ない。だから間合いをここまで気にして戦っている。
そして恐らくアイリスの両親もそこで攻めあぐねていたと見るべきだ。すると俺のすぐ後ろにヴィクターさんが降りて来た。俺同様に黒い竜巻から距離を取ったようだ。
「おい継承者!!」
「なんですかっ!? お父さん!?」
「お義父さんと呼ぶな!! お前、あの闇の刃を斬れるな?」
それに頷くとPLDSを使って作戦内容を伝達して来た。でも、これは……なるほど確かに、役割分担なら俺がこっちで納得だ。頷くとヴィクターさんはニヤリと笑った。
そしてすぐに俺達は跳び上がるとロードに肉薄し両腕からレイ・ブレードを展開し二刀流にして闇の真空波を切り裂く、今度は俺の後ろに付いていたヴィクターさんが前に出る。これを交互に繰り返し接近戦の距離まで一気に飛ぶ。
「無駄なんだよっ!! 二人で来てもこの竜巻と、風の刃の前では俺んとこには来れねえ!! その間にコイツの餌食だ」
焦ったロードは温存していた闇の刃と自らを守る闇の竜巻を同時に展開して叩きつける。そして仮に突破しても奴には身代わりの術のような瞬間移動がある。しかし既にヴィクターさんは先ほどの俺の攻撃で術の仕組みを見切ったようで、その解決策もPLDSに送られてきていた。
「それはどうかなっ!? 継承者行けっ!!」
「はいっ!! レイ・ブレード、伸びろおおおおお!!」
二本のレイ・ブレードを展開し無数の刃を切り裂く。そして至近距離、俺が黒い竜巻を切り裂き間髪入れずヴィクターさんがロードに斬りかかる。この速さなら仕留められる。
「だ・か・らぁ~!! 無駄なんだよぉ~」
またしても闇刻術士を身代わりにして攻撃をかわした風のロードが次の攻撃のモーションに入った瞬間、ヴィクターさんが声を上げた。
「いや、これでいい!! サラっ!!」
「ええ、やっと捕まえたっ!! グリム・チェイン!!」
その瞬間、何も無い空間から四本の光の鎖が同時に出現し風のロードを捉えた。ジタバタ足掻くが動けない。ならばと瞬間移動をしようとするが出来なかった。
「あなたのその術は連続で行えないと分析されてる。そしてあなたは瞬間移動なんてしていない。ただ風の聖霊力で音速で動いていただけ。だから私は後方でずっと力をチャージしていた。この時のために!! レイ・キャノン、フルチャージ!!」
アイリスの言う通り原理は簡単で、早く動いていただけ。そして後方で最大限まで聖霊力を貯め込んだアイリスの特大の一撃が放出された。
その光の奔流は身代わりの、いや移動して入れ替わるための要員の闇刻術士をも巻き込んで奴まで迫る。これでおしまいだ。
「入れ替われないっ!? 誰も居ない!? 範囲も広すぎる……チキショー!! こんな、こんな膨大な聖霊力なんて聞いてねえ……聞いてねえぞおおおおお!!」
そして光に包まれた風のロードは断末魔の叫びをあげて光に溶けて浄化された。それを最後までヴィクターさんが確認していたようだが俺はそれよりもアイリスが心配になり飛んでいた。
「大丈夫か!? アイリス!!」
「レイ、心配し過ぎだよ~。私だって出来るんだからっ!!」
「そこは心配してないさ。ただあれだけの聖霊力を放出したんだ疲れてないか」
そんな事を話していたら後ろから気配がしたから振り返るとアイリスの両親が立っていた。さらにその後ろにはSA3のメンバーと生き残りの術士たちも揃っていた。
「きっさま!! アイリスから離れろ!! しかも現場を放棄して真っ先になど!!」
「そうだレイ。君は継承者では有るが俺の部下でも有る。現場を勝手に離れるのは論外だ」
「はい。申し訳有りません。周囲の索敵及び安全確保の義務を怠りました」
そうだった。敵の消滅を確認したから後は現場放棄なんて無責任だ。いくらアイリスが気になってもヴィクターさん達みたいに現場保存を優先しなくてはいけなかった。
「パパ、それにワリーも!! レイは悪くない、私を心配しただけで!!」
「アイリス、彼はあなたと違って我が社の社員なのよ。命令系統に逆らったのだから注意くらい仕方ないのよ」
「でも、ママ……パパも」
俺の迂闊な行動でアイリスを悲しませるとは……最低だ。力を得て少し調子に乗っていたのかも知れない。独断行動を取るなんてアイリスが心配だからと心が乱れすぎてしまった。
「ただ、民間人でもあるアイリスの保護を優先したのは悪くない判断じゃないと思うわあなた。それにワリーも、そもそも護衛なんでしょ?」
「それはそうですが我らのセクションのミスでも有りますから」
「そうだ。そもそも俺もアイリスの傍に行きたかったのにこの若造が一目散行ったのが――「あ・な・た~、お小言はこれで手打ちよ。それに、これ以上はあなたのためでもあるわ。ねえアイリス?」
そう言うとアイリスが頷いて俺の左腕に抱き着いたままヴィクターさんを睨みつけると、ウッと一歩引くヴィクターさんにアイリスは非情な一言を放っていた。
「パパなんて、だいっ嫌い!! 私のレイがここまで頑張ってくれたのに~!!」
「なっ……娘が、娘が反抗期に……やはり修行と言って親父に預けたのが失敗だったじゃないかっ!! おまけに悪い日本人の男にまで引っかかって!! 光聖神よこれも試練なのか」
その後ソッポを向いてしまったアイリスとヴィクターさんの冷戦は収まらず何とも言えない雰囲気になってしまった。
「ま、アレだな。姫様ラブなのは良いけど現場じゃ自重しろって事だ継承者さま?」
「そうね、でも、アイリス優先なのは仕方ないかもしれないわ。ワリーもその辺は分かってるわよ」
ジョッシュとフローが落ち込んでる俺を察してすぐにフォローを入れてくれた。ベラの方はアイリスと話しているようだ。少し厳しい表情をしてこちらに戻って来た。また、お小言かな?
「ああ、二人ともすまない。今後は軽率な行動は気を付ける。ベラもそれで許してくれると――「いえ、今回はお嬢様の方を優先されて構いません。ワリーは少し頭が固いと私も思ってましたので」
意外と俺の行動を評価してくれたようだ。色々問題点は多かったのだがアイリスの友人としては大変好ましいと言ってその場を離れてワリーの方に行ってしまった。
その後、俺とサラさんの説得でアイリスがヴィクターさんに謝って何とか丸く収まったのだが新しい問題が発生した。
「えっ!? 支社長夫妻も本社へ? ですが、そうなると後処理は?」
「そこでお前だ、ワリー。な~に、ここのナンバーツーはお前の親父だ。二人で仲良く業務に当たってくれ。俺も親父……じゃなくて当主に用が有る。それと引き続きアイリスの護衛にお前の部下を借りる」
「ごめんね。ワリー、私もお義父さまと少しお話が有るから、このまま地下駅から行かせてもらえないかしら?」
結局ワリーを置いて俺達SA3とアイリスの両親でロンドンに戻る事になった。俺はてっきりアイリスと一緒に居たいからだと思ったら今回のバーミンガム襲撃についてアレックス老と直接話をしたかったそうだ。
ちなみに帰りの列車の中ではムスッとしたアイリスを何とかご機嫌伺いをしようと話すと条件に今度の休日のデートで手を打つと言われ俺は喜んでデートしようと言った。
しかしこれがマズかった。またしてもヴィクターさんが絶対に許さないと言い出し列車内では俺を盾にするアイリスと暴れるヴィクターさんを抑えるサラさんとSA3メンバーという事態になってしまった。だけど今思えばこの時が一番平和だったのかも知れない。
◇
そしてそれから三年、ニューストリート駅襲撃事件の傷も癒え闇の勢力や超常的犯罪も落ち着き始めていた時だった。最後に起きた昨年の一大決戦で俺はロンドン市内において四卿の炎と水のロード二人との戦い勝利した。
しかしその戦いでロンドン橋や、その周囲に多大な被害及び戦死者、更には一般人にも多数の被害を出してしまった。当然ながら隠蔽を行いこれは一般的には爆破テロ事件扱いとなっている。
しかしロードを全て倒したのに戦いは終わらなかった。なぜならロードは全員が新世代だったからだ。封印が解けた強力な術士や聖霊それに今まではダークフレイ以外は封印が解かれていなかった旧代のロードも封印が解かれたのだ。
そしてその戦いで倒した新代のロードは旧代を復活させるための陽動に使われた。そしてこの半年は必死にその行方を探していたのだが中々見つからず時間だけが過ぎていた。
「ふぅ……」
「レイ……」
俺は二〇歳になっていた。あの家を追い出され寒空の下で震えて追放されてから実に五年の歳月が経っていた。あれから背は伸び、体躯も一人前の大人の男性らしい成長を遂げ、昔はワリーやジョッシュと並んでいたら差の有った身長も今は大差が無くなっていた。
そんな俺は本社の演習場でヴィクターさんと対峙していた。
「行きますっ!! おおおおおお!!」
「来いっ!! レイ!!」
互いに術無しの模造剣だけの戦い。俺は実家の剣術とこちらの戦い方を合わせた戦法を、対してヴィクターさんは代々ユウクレイドル家に伝わる騎士の剣術と剣道を研究した型を使っていた。互いに一進一退の攻防の中で俺達は互いに何度も打ち合った。
これまでの戦績は俺の0勝3敗、術があれば俺が圧勝出来るが、純粋な剣術ではヴィクターさんは圧倒的で一度も勝てていなかった。毎年一回、稽古以外での実戦形式の真剣勝負を挑んでいた。
「っ!? まだまだっ!!」
「ふんっ!! 甘いぞっ!!」
そしてその時は来た。俺の剣がヴィクターさんの模造刀を弾いて首元に剣を突きつけた。カランと剣が転がる音がして演習場にアレックス老の「そこまで」と言う声が響いた。
「はぁ、参った……俺の負けだ」
「はい、ヴィクターさん。やっと勝たせてもらいました」
「ふっ、ほれ、行けよ。アイリスが待ってるぞ。頼んだぞ……」
そう言うと演習場の隅でサラさんと座って待っているアイリスの方に歩いて行く。サラさんはヴィクターさんの方に向かったのを見送ると改めて彼女と向き合う。
成長したのは俺だけじゃなくてアイリスもだった。あれから背も伸び、より美しさに磨きがかかり数年前と違って大人っぽくなりサラさんと並んでも今はもう見劣りなんてしない。
「レイ、お疲れ様。ついにパパにも勝っちゃったね?」
「ああ、やっと勝てた、やっぱりヴィクターさんは強かったよ」
「ふふっ、だって私のパパだもん当然だよ~」
そして彼女は俺を見つめてくる。あの時俺を救ってくれた少女は当時と同じ青く澄んだ瞳と今もキラキラ輝くシルバーブロンドで俺を見てくれていて俺の頬に自然にキスをしてくれた。
この三年で俺達は自然と愛し合い恋人同士になっていた。ここでいつもなら認めんとヴィクターさんが言ってくるのだが今日は静かだった。
「お、そろそろだな? ほれ、お前の荷物」
「ああ、サンキュ、ジョッシュ……ふぅ」
「頑張れよ継承者様?」
そう言うとジョッシュは演習場を出た。気付くと周りには誰も居なかった。さっきまでは本社の光術士のほぼ全てが俺達の戦いを見ていた。しかし今ここに居るのは俺とアイリスの二人だけだ。
「アイリス……」
「はい」
「俺はボロボロになってここに辿り着いた。それは試練であり、宣託のあった光聖神の導きの行動だったのかも知れない……でも……」
そこで俺は言葉を切る。彼女を見ると頬が上気しているのが分かる。自惚れていいのだろうか……期待してくれているのだろうか? だけど俺は自分の思いの丈をぶつける、それだけだ。
「この気持ちは、俺の想いは……誰のものでも無い俺自身の想いだ!! 君に出逢い救われた。そして気付けば恋に落ちていた。だからこれから先も俺とずっと一緒に居て欲しい…………結婚してくれアイリス」
「はいっ……私も……同じ気持ちです。愛しています……レイ」
俺はジョッシュから渡された荷物からそれを取り出す。そして彼女の前で片膝を付き婚約指輪を掲げた。
それを彼女は涙を浮かべながら頷いて「つけて」と言われたので立ち上がり彼女の手を取り指輪をはめた。給料三ヶ月分とは言ったもので去年から貯めていたものだ。大奮発だった。
「綺麗……ありがとう、レイ……似合う、かな?」
「ああ、世界で一番似合っているよ。アイリス」
そして俺達は互いに見つめ合うと自然と唇を重ねていた。
「んっ……はっ、ふぅ……今、私は世界で一番幸せだよ」
「ふぅ、俺もだから二人で世界一かな?」
と、二人で見つめ合っていたら演習場の入り口からぞろぞろ拍手をしながら入って来る本社の人間たちといつものメンバーが居た。ジョッシュとフローも並んで拍手をしている。
実は二人は昨年結婚している。さらにワリーとベラも付き合っているのだが結婚はまだ先のようだ。アレックス老とヴィクターさん、サラさんとSA1や再編されたSA2のメンバーも居た。
「おめでとう、アイリスそして黎牙、光位術士としても何よりアイリスの祖父としても祝福しよう」
「ふぅ、なんせ俺に勝った男だ。親父とローガン以外だとお前が初だ。だから、まあ、なんだ……認めてやる息子よ。アイリス、幸せになるんだぞ? 愛想尽かしたらいつでも――イタタッ」
「あなた? プロポーズしたばかりの二人に余計な事言わないの、アイリス良かったわね素敵な旦那様で」
アイリスが家族に祝福を受けている中で家族が居ない俺はSA3やSA1、最近は教官の真似事をしていたSA2のメンバーに揉みくちゃにされていた。
「やろう!! もっと面白いのにしろよ!! 真面目過ぎかよ!!」
「あなたよりは誠意があって私は好きだったわ。レイ、おめでとう。元教育係としても同僚としても祝福するわ」
「レイは真面目だから良いのです。お嬢様をお任せするにはこれくらいの方で無いと安心出来ませんから」
「今や名実共に光術士のエースであり継承者のレイなら文句など出ないさ」
そしてその日は婚約記念のパーティーに移行した。最近はこのような慶事は少なく大いに飲んで盛り上がった。そしてその夜、俺はアレックス老とアイリスそして彼女の両親、いや今日からは義理の両親の四人に集まってもらった。
◇
「集まって頂いたのは俺の自身の事です。俺は光の継承者としてもう四年です。なのでこれはアイリスにプロポーズを断られても言おうと思ってました」
「レイ? 私が断るはず無いのに~どうしたの?」
「そうだね。でも改めて、許して頂けるのならば俺は炎央院黎牙と言う人間を消して別な人間になりたいと思っています」
そう言った瞬間、アレックス老以外の三人は明らかに動揺していた。てっきり結婚式とかそういう話だと思ったのだろう。
「おいおいレイ、そりゃ一体どう言う事だ? 別な人間って」
「そうよ。こんなおめでたい日に……説明してくれる?」
義理の両親はさすがに訝しむように俺を見る。そしてアイリスの表情は暗かった。俺の言う事が分かっているのかも知れない。だって、これから俺は俺を殺す算段について相談しようとしていたのだから。
プロポーズの日にこんな事を言うのは不謹慎なのは分かる。だけどこのタイミングで話さなければならない。たぶん近い内に総力戦が始まるから、だから雑事はなるべく早く済ませたいからだ。
「はい、アイリスを、妻を心配させないためにもキチンとお話します。聞いてくれるか? アイリス?」
「うん。レイの話ならちゃんと聞くよ」
そして俺は口を開いた実家との、炎央院家との決別と絶縁をするため、その理由と決断を話すために……。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
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