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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第65話「燈火と決着の行方」

 意味深なクソ親父の言い分は気になったが衛刃叔父さんは納得してくれたようで見ると俺の産みの親の女も何を思ってか二人を見ていた。何を考えてるか分からないが叔父さんが納得してくれたから一応は感謝しておく。


「なるほど、ここでやるのかアイリス……なら俺も、ワリー、準備は?」


 実はこの件については昨日の夜に聞いていた。衛刃叔父さんの失われた左足を復元する。そもそも昨日はこの話がメインで他の報告は二の次だった。


「ああ、アイリスから事前に聞かされていたからな『燈火』も届いていたし衛刃殿にも協力して頂いていたからな」


 日本に来たSA3の他のメンバーは俺やアイリスと違って炎央院の西邸と南邸を拠点にしていた。俺は決戦後から帰ってないから知らなかったが色々と準備をしてくれていたそうだ。


「以前も話はしてもらってはいたが……可能なのか、レイ?」


「問題有りません叔父さん。俺の妻は凄いですからね」


 そう言って俺の横に並ぶアイリスも得意そうに頷いて言った。


「お任せ下さい!! 当社の自慢の技術、いいえレイの研究は確かです。それに副作用に関しては私の術で完璧に抑え込みますので」


 だが、そんな俺達に待ったをかけた人物がいた。


「本当にそれは適切な治療なの?」


 炎乃海姉さんと、そして炎乃華もいた。二人揃って見るのは久しぶりだと思いながら俺は即座に反論した。


「炎乃海姉さん、心配は――――「いいのレイ、あなたには説明する義務が有りますから……大丈夫、あなたの腕とは違います」


「仮に信じた場合でも別の問題が有るわ。炎央院家の当主が謎の技術を取り入れ足を治したなんて知られたらどう思われるか理解してる? 特に今のお父様は代行の時と比べ政府との会合も増えている……意味が分からない貴女じゃないわね?」


 人目が増え要人との会合が増えると必然的に目立つ。この間まで車椅子で片足の無かった人間に足が突然生えて歩き出すのだ。その要人達もバカではないし、むしろ頭の作り的には良い部類の人間達だ。


「ふっ、あのですね俺の妻だってその辺りは、ちゃんと考えて……」


「…………はっ!?」


 少し考えを改めなくてはいけないようだ。しかしこれは仕方ないアイリスはそもそも日本の術師体系や国との繋がりを深く理解していない。


「思った通りね。そちらのお嬢様、いえ巫女様は国と付き合うという意味を理解してない。国は私達を使える傭兵以上に利用できる対象として見ている。私の腕の話だけでも知られたらどうなるか分からないのに、足の再生なんてしたら……」


「確かに国のお偉方なら支援を条件に技術提供の要求くらいはしてくるな……」


 俺の同意する言葉にアイリスの顔色が一気に悪くなっている。


「そっ、それはですね……ううっ、レ~イ~何とかして~!!」


 ここに来て丸投げしやがった。しっかり腕に抱き着いてチラッと俺の顔を見てる。そうだよな、ここまでが全部上手く行き過ぎていた。最近は本当にアイリスに頼り過ぎていた。だから、ここから先は俺の番だ。


「炎乃海姉さんの懸念はもっともだ。なら、いっそ逆にこちらから売り込むと言ったらどうだ?」


「さすがに意味が分からないわ冗談を言ってる場合ではないのよ黎牙」


 アイリスも困惑しているので頭を撫でると視線を感じて後ろを見ると炎乃華がジトーっとこちらを睨んでいる。いや睨んでるというよりも虚無のような目を向けていた。一週間会わない間に何があったんだ俺の従妹。


「ああ、ではまず、これからする施術の説明からだ。ワリー、フロー指示は受けてるんだろ? あれの準備を」


 俺の指示で二人が用意したのは二つのトランクケースと簡単な足を載せる手術台のような物で、アイリスが俺の理想通りの物を手配してくれていた。


「黎牙、強引に進める気なの!?」


「まず見てくれ。これは俺が向こうで完成させた研究成果だ。簡単に説明すると今から再生医学に近い事をする。そしてこれがその核。俺は『燈火ともしび』と名付けた」


 ケースから取り出したのは両手に抱える位の培養槽のようなカプセルだ。溶液に満たされた中にはオレンジ色の淡い球体が浮いている。これが燈火だ。


「これは、聖霊……なの?」


「違う。聖霊じゃない。高純度の聖霊力の塊だ」


 これの基になったのは聖霊爆弾と人工聖霊だ。奴らと接敵した際に驚いたのは、その聖霊力と純粋なエネルギーの塊で意思がないと言う点に着目した。ちょうど自分の研究に使えると思ったからだ。


「レイさんの研究って、まさか共同研究の論文のやつですか!?」


「ああ、清花さんは知ってたよな。あれの発展系だ」


 向こうで二年経った時に俺は研修社員から正社員へ昇格し、その際に自分の研究について考え決めるように言われ、真っ先に思ったのは叔父さんの足の事だった。


「私が入社してからは二人でやってた研究だけど基礎理論は聖霊術でごり押しだから偽装に苦労したんだよね~」


「ああ、そしてもう一つがこれだ」


 残りの一つのトランクケースからもカプセルを取り出すが今度は悲鳴が上がった。それはホルマリン漬けされた足、左足だった。


「これが再生医学の極致、叔父さんに提供してもらった血液と毛髪覚えてますか?」


「ああ、ウォルター殿に提供を求められてな」


「単純に言うと叔父さんの細胞から生み出した足だけのクローンです」


 俺の発言を受けて改めて全員に見せると炎乃海姉さんが疑問を投げかけた。


「それで? あなたの技術が素晴らしいのは分かったわ。素直に称賛しましょう。でも私の疑問に答えてくれてないわね」


「部分的な再生医学はまだまだ発展途上で、いきなり足なんて再生すれば何言われるか分からない……な~んてのが古いんだよ炎乃海姉さん?」


 俺は強気な姿勢を崩さない。先ほどの勇牙と話して言葉にしたことで俺は少しだけ自分と向き合えたから今さら止まってはいられない。


「言うじゃない。だけど一般的には有り得ない魔法のようなものよね?」


「ああ、だから我が社のL&R Groupの最新医療技術として発表する。そのための基礎理論に関する論文は四年前に俺とアイリスの連名で出している。多少の無理は有るが家の会社の発表ならいくらでもごり押し出来る。もう八年前とは違うんだ!!」


 アイリスも横でブンブン首を縦に振る。ふざけているように見えるが本気だ。その証拠に手がキッチリ握られている。


「家の会社か……でもっ――――「姉さん。私は、お父様に……足を治してもらいたい。レイ……さんもこう言ってくれてるしね? 失敗はしないんですよね?」


「あっ……ああ。もちろんだ……俺達に任せてくれ」


 どうしてだろうか賛成してくれた従妹に感謝すべきなのに一瞬だけ複雑な気持ちになった。でもこの期を逃すわけにはいかない。


「なら、私は賛成かな……家族の問題ならあとは姉さんだけだよ?」


「はぁ、分かった。その代わり後でその論文とやらを見せてもらうわ聖霊術が使われているなら興味が有る。あと、ごり押しと言ったけど具体的な方策及び私を納得させる案を出しなさい、それが条件」


 一般に公開してる方では無く社に秘匿している実際の論文の方を見たいと言われ一瞬迷ったが横の妻が間髪入れず了承していた。


「大丈夫です。それに施術の後にもう一つ報告も有りますので、それでお姉様も納得してくれると思いますよ?」


「相変わらずもったいぶった言い方しかしないわね。本当に英国人って皆そうなのかしら?」


 本当にこの二人は水と油の関係だった。アイリス自身も俺と話していた時に何となく、そりが合わないとは言っていたが実際に会ってみて余計に感じたそうだ。


「余裕のあるレディーの嗜みですわ、お姉様。私たち夫婦にお任せ下さい。ね? マホちゃん?」


「うん!! マホ、立派なお姫様になるぅ!!」


「そう言えば前にも……そういうことっ!? あんただったのね!?」


 そう言えば自然と英国でアイリスが口癖で言っていた事を真炎に言っていた気がする。だがそもそも俺が小さい頃にアイリスに言ったお姫様(プリンセス)呼びが始まりなら原因は俺なのかもしれない。


「どっかのこわ~い教育ママよりお姫様の方がいいもんね~? マホちゃん!!」


「あ~!! 話がまとまらなくなるから、そこまで、では最後に叔父さん。家族の了承は取れました。後はご本人の承諾のみです」


「私は、この地位に就いてまだ日も浅い、ならば体くらいは万全にしたいとは思っていた……頼むレイ」


 そこからは早かった。まずは用意した簡易手術台に叔父さんの患部、過去の戦いで失った左脚を出してもらう。


「まずはこの『燈火』を解放します。会場の皆さんも発光するから気を付けて下さい。アイリス、一、二の三でいくからな?」


「うん。いつでも良いよ!!」


 足のカプセルが入った方を持つアイリスも我が社特製の聖霊術の付与された手袋を装着して頷くとカプセルを開いて培養された足を取り出した。


「一、二の……」


「「三っ!!」」


 カプセルから『燈火』を取り出し叔父さんの喪失した足の付け根に近付けるとそれだけでスゥーっと輝き融合しようとする。


「まだダメ!! いまっ!!」


 そして消えるギリギリのタイミングで足と付け根の間に挟み込むようにする。ちなみに衛刃叔父さんはワリーとベラが最初から後ろで抑えている。痛みは無いはずだが聖霊力の余波が凄いから誰かがサポート回らなければ姿勢が保てないのだ。


「ぐっ、何と言う、これはっ!?」


「行けっ!! アイリス!!」


 俺が言うとアイリスは周囲に光の蝶を舞わせると、その蝶たちが叔父さんの足に殺到していく。それが融合部分を包むように輝き出した。


「大丈夫、安定まで、あと少し……はい、最後……レイ!!」


「よしっ!! フォトンシャワー!!」


 まだ繋がりの弱い足の接合部分を急速に回復し固定するためにフォトンシャワーを発動させて無理やり再生させる。この際に大事なのは威力よりもコントロールだ。だからアイリスだと少し威力が強過ぎるから俺がやるしかない。


「すっごい光……どうなったの!?」


「真炎、まだこっちへ居なさい。邪魔になるから」


 後ろで二人の声が聞こえて光が少しずつ晴れて行く。俺とアイリス以外も目が慣れてきたようで会場の視線が集まった。そして注目されるは叔父さんの足だ。


「これって……治ってるの? レイ、さん……」


「ああ、基本的には大丈夫なはずだ。昨日アイリスに渡されたデータが役に立った。腕の再生データなんだが膨大な光位術に反応して腕を繋げた症例でな、これが意外といいデータでな……っと、悪い炎乃華には専門的過ぎたか?」


 それを言うと曖昧に頷かれてどうも調子が狂う。話を戻すと接合のために参考にしたデータをアイリスはなぜか持っていて術後の経過を含め今日の施術にかなりの貢献をしてくれた。


「ええ、そりゃそうよ。私と真炎ちゃんが頑張って取ったデータなんだから、ね?」


「待って、それどこかで聞いた事有る話なんだけど!! あんた人体実験ってそういう事だったのね!?」


 また炎乃海姉さんがアイリスに掴みかかってるけど今は二人は放っておいて叔父さんを見ると不思議そうな顔をしている。


「黎牙よ……立ってみても、良いのか?」


「はい。立つくらいなら大丈夫です。一応は二日は様子を見た方が良いのですが理論的にはすぐにでも立つ事も歩く事も出来ます。肩を貸しますね」


 俺は叔父さんに肩を貸してゆっくりと立ち上がらせた。そして離れると確かに両足で立つ姿が見れた。俺が生まれる前にはこの状態のはずだから実に二十年以上振りに立ったことになる。


「おおっ!! 立てる、ああ……歩けそうだ。痛みも全くないのに感覚は有る……大丈夫だ」


「お父様……良かった」


 炎乃華が泣いていて横の琴音や流美も、もらい泣きしていた。クソ親父は頷いたり治った足を見て呆けたりしていた。それに対して一応は俺の産みの親の表情が印象的だった。叔父さんに対しては複雑な想いも有るんだろう。

 だが次の瞬間には和やかなムードは炎乃海姉さんの怒号で消えていた。


「ええ、良かった……って待ちなさい、アイリス・ユウクレイドル!! 何で私の時は何日も激痛で悩まされて今も後遺症が有るのに、お父様は一瞬なのよ!!」


 気になって見るとアイリスと炎乃海姉さんが本日何度目になるか分からない睨み合いをしていた。だが気になる話が同時に聞こえた、後遺症? それに私の時とはどう言う意味だ。


「アイリス、今の話は俺も聞いてないぞ?」


 俺は叔父さんを炎乃華に任せるとクソ親父が補助に回って叔父さんを支えていたので任せて妻と従姉の方に向かうと掴み合いの喧嘩に発展していた。


「あっ、レイ!! か弱い妻がクレーマーに虐められてるよ~」


「なぁ~にが、か弱い妻よ。この間、私にキツイ一発叩き込んでおいてよく言うわね!! 今だって片手で私を抑えてるじゃないの」


 そんな言い合いの中でアイリスが一瞬の隙を突いて俺の背中に隠れて盾にされた。間に立たされると見下ろす形で炎乃海姉さんと対峙した。小さい頃は見下ろされていたのに今は逆で不思議な気分だ。


「色々と聞きたいけど、炎乃海姉さん、事情を話してくれるか? 俺には普通の光位術による接合で問題無いって報告なんだけど……」


「ええ、黎くん。先ほどのデータと言うのはね……たぶん私よ。私が実験対象だったのよ!!」


 ああ、なるほど、何か細工をしたとは聞いていたが、それで炎乃海姉さんの聖霊力が爆発的に上がっていたのか、でも気になるのはレポートには副作用や後遺症は無かったと書いて有った気がしたんだが……。


「だって衛刃叔父様でいきなり試すよりも生きのいい実験体……じゃなくて、血縁者の人で試す方が良いと思って……」


「「ね~♪」」


 またアイリスの足に抱き着いた真炎と合わせて二人で合わせていた。こいつら一体なにをしたんだと思った俺の脳内に嫌な予想が過ぎった。


「まさか、アイリス……真炎と二人の巫女の聖霊力を炎乃海姉さんに!? そんな事したら普通の術師は吹き飛ぶだろ!? 大丈夫なのか!?」


「へ~、心配してあげるんだ~。でも大丈夫。お姉様には『龍脈路りゅうみゃくろ』を接合部位にくっ付けたからね!!」


 龍脈路とはその名の通り龍脈に繋がるみちと言う意味で名付けられたものらしく未完成ながら聖霊力を豊富に、しかも無尽蔵に供給できる代物だ。


「ただ龍脈路は俺の燈火のプロトタイプで構造上の欠陥が有ったはず……」


 その正体は俺が研究する際に参考にした誰が作ったのか不明の物体のはずで、名前の通り大地の龍脈から直接聖霊力を供給するための疑似接続路で、それ自体が聖霊力を生み出す燈火とは根底から別物で過去に廃棄したはずだ。


「そんなもの私の体に埋め込んだの!?」


 すると俺の後ろに居た二人が顔だけ出して俺達を見て、アイリスが少しだけすまなそうな顔をして口を開いていた。


「だってデータ欲しかったし。出力だけは凄いから炎乃海お姉様にはピッタリだと思って、ね?」


「それで、本音はどうなのかしら?」


「そりゃ、もっちろん、ザマァって、この激痛で少しでも反省しろ、苦しめ~って、思わない事も無かったです……」


「うん。アイリスは正直者だな。炎乃海姉さんを実験体にしたのはダメだけど結果的には成功したし良い被験者のデータも取れた。ま、結果オーライかな」


 アイリスとついでに頭を出して来た真炎の二人の頭を撫でておく、今度から安易に人と龍脈に繋いだらダメだと注意をしておくのも忘れない。これで大丈夫だ。


「結果オーライかな、じゃないわよ!! 私がどれだけ酷い目に遭ったと思ってんの!! 流美は普通に治してもらったって聞いたんだけど」


「流美さんは怪我の具合も普通だったし、あと体が繊細だったから、その点で術師の割に素の体が丈夫なお姉様は完璧な実験体でした。聖霊力が増強したのもハッキリ分かったので」


「母様、無駄に体が丈夫~」


 確かに俺が実家でこの人にサンドバックにされてた時などは炎乃華に隠れていたが研究以外は道場にも頻繁に出入りしていて鍛えていた気がする。


「あんた達ねえ……でも構わないわ、ここに来る前に闇刻術士にも通用するのは分かったし、今こそ決着をつけるわアイリス・ユウクレイドル!!」


「そうですね。良いでしょう!! あとお姉様、私のことはアイリスと気軽にお呼び下さい。毎回フルネームなのはちょっとアレなんで」


 それだけ言うとアイリスは上着を脱ぎ捨てフリル付きのエプロンを身に付けた。対する炎乃海姉さんは戦闘衣のままだったので臨戦態勢だ。待て、何か違和感が有ったような気が……。


「それでは……」


 静かにアイリスが言うと呼応するように炎乃海姉さんの方も呟いた。


「いざ決着を……」


 そして両者が同に吠えた。


「「着けましょうか!!」」


 リベンジマッチが今、始まる……みたいなので、俺は周囲一帯にグリムガードを展開して準備を整えた。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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