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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第63話「揃う巫女達とアイリス先生の歴史講座」

「くっ……まだ、もう一本、お願い、します」


 既に五本目だが俺は一本も取れずにいた。この日の義父さんはとにかく強かった。


「ふぅ、はぁ……相変わらず根性だけは大したもんだな。だがここまでだ。いくら非番でもお前の力が必要な敵はタイミングを選ばないからな」


 そう言われて思い出すのは第二次ロンドン襲撃事件だった。その戦いから既に半年以上が経過し、ロンドン市内は復興しつつあったが未だに傷痕は残っていた。


「ですが新代のロードはあの戦いで全員倒しましたので当分は安全では?」


「そうだ。お前が無茶をしてな……レイ。俺はな今だから正直に言うけどな、お前が無茶をして戦ってもむしろ褒めていたくらいなんだよ」


 意外だった。アイリスやサラ義母さん他にもジョッシュやフローとワリーもSA3のメンバーはベラ以外は俺の過去の戦い方には否定的だったからだ。


「敵を一人でも多く滅する。この世を守り光で照らし闇を浄化する。俺はそれで良いと思ってるんだ。サラも俺の戦い方を納得してくれている」


 俺は無言で頷いた。アイリスは両親が実戦で戦っているのを見たのがバーミンガムでの戦いが初めてだったそうだ。あの時怒っていたのは俺の事も有ったが両親が危険な戦いをしているの間近で見て、その気持ちをどうすれば良いか分からず不貞腐れていた事も有ったらしい。大人になってから当時の気持ちがやっと分かったと夜に話してくれた。


「だがアイリスは違った。そして俺やサラとも違う。一介の光位術士では無いお前くらいしか並び立てない。それには広い視点と視野、思慮の深さを求められる」


「はい。まだまだ知らない事も多く、指導してもらうばかりで心苦しいです」


「おう、だからな、今日は俺が色々と指導してやる。戦い以外でな!!」


 正直なことを言うと当時は早くアパートメントに帰ってアイリスと昼食を一緒にと思っていたのだが色々と考えて義父さん、いや当時はヴィクター支社長と呼んでいた人と午後も行動を共にする事になった。





「ここがサラとアイリスとよく来たレストランだな。二人ともここの海老のリゾットが好きだ。やはり日本人はライスが好きらしいな、お前もか?」


「そう、ですね。英国に来てアイリスの初めての手料理がお粥でしたので好きですが、最近はパン食も馴染んできました。アイリスが毎朝用意してくれるので」


 俺が闇刻術士に襲われてアイリスに助けられたあの日、ベッドの上で食べたお粥は世界で一番美味しかったと今でも言える。だが義父さんは俺のそんな解答は求めていなかったようだ。


「ああ、そうだろうなぁ!! 父親の俺にしてたのが全部お前のとこに行くんだからそうなるだろうよ!! 次だ、次に行くぞ!!」


 涙目になりながらも俺を何軒かのレストランに案内してくれたり行きつけのバーの紹介もしてくれた。


「次はここだ」


「ここって……いや、男二人で入るのは」


 俺は大通りの高級店が立ち並ぶ通りに来ていた。その中でも男二人では絶対に入らない店先に来ていた


「いいから来い。お前も何度か来る事になる」


「い、いや、でも俺は……支社長~!!」


 そして俺は将来的に父となる人と二人で初めて入店した。そこは英国でも指折りの高級宝石店だった。


「お待ちしておりましたユウクレイドル様」


 すぐに店員の女性が俺たち二人の所にやって来た。支社長は知り合いなのか?しかし宝石なんて縁の無い人だと思っていたから意外だった。


「意外か? だが俺もサラにプロポーズする時には婚約指輪エンゲージリング結婚指輪マリッジリングもここで用意した」


「ユウクレイドル様、こちらの方は?」


「あっ、えっと自分は――――「俺の息子のようなものだ気にしないでくれ、それよりもあいつの誕生日が近いからな今年は少し奮発したいと思ってな」


 サラさんにサプライズをしたいから俺を連れて来たのだと当時の俺は謎の納得の仕方をしていた。でもそれ以上に俺はこの人に息子と言われたのが少しくすぐったくて嬉しかった。こんな風に息子なんて呼ばれたのは生まれて初めてだったから。


「そう言えばアイリスの指のサイズは何号だ? 知ってるのか?」


「えっと、まだちゃんとした、こういう店の指輪とかは送った事が無くて……」


 恥ずかしい話、この当時はデートで立ち寄った露店のもの位しか贈った事が無かった。センスも無いが、それ以上に何を送ればいいのかを全く分からなかった。ここに来て実家でこの手の雑事のほとんどを流美に任せていたのが仇になった。


「なら7号にしておけサラの指輪をこの間付けてピッタリと言っていたからな」


「そ、そうなんですか……」


 その後もなぜか宝石の意味やリングの選び方、困ったら今日、案内してもらった店員に聞くようにと色々と世話されてしまったのだが、今日の事はアイリスやサラさんには内緒だと言われた。


「サプライズだからな? 男同士の約束だ!!」


「え? あ、はいっ!!」


 そして俺はそれから数ヵ月後にもう一度この店を訪れる事になる。結局その日は夕食を義父さん達の家に招待され一瞬迷ったが既にアイリスも家で待っていると言われその日は泊まって行く事になった。そして数ヵ月後あのプロポーズの日に繋がる。




――――現在(パーティー会場)


「裏で二人、そんな事してたんだ……」


「それで俺がアイリスの婚約指輪を買いに行ったら義父さんが居たんだよ。そんでアイリスにプロポーズする前に俺と勝負しろとか言い出してさぁ……」


 実はこの日を境に俺とヴィクター支社長、いやヴィクター義父さんとは二人で外食をしたり色々とロンドンの街の楽しみ方を教えてもらっていた。そんな中で俺は自分なりに調べた上でジョッシュにだけアイリスへのプロポーズ計画を教えていた。


「あ~、分かった。パパ、相談されると思ってたら自分に話が来なかったから待ち伏せしてたんでしょ?」


「ご名答、いや、でもさ娘さんを下さいはプロポーズの後だろ? 普通に考えて、それを誰かが漏らしたんだよなぁ?」


 そう言って俺は横の相棒兼親友を見る。横でアイリスの作った料理を食べながら

いつの間にか近くにいた涼風家の長女、楓と話していた。もちろん犯人はジョッシュだ。直接問い正したことは無かったが、いい機会だから答えてもらうことにした。


「悪かったって、仕方ねえだろ支社長がいい酒奢ってくれたからさ……つい、な?」


「俺は信用して話したのによ? ま、その結果があの大会の始まりだったんだよ」


 その後にヴィクター義父さんとなぜかアイリスのための婚約指輪を二人で選び、さらにプロポーズをするなら劇的に決めるべきだと熱い持論を展開された。最後に自分への事前の相談も無かった事からペナルティを与えると言い出し光位術士の武術大会を開くとその場で宣言した。


『俺に勝てんようでは娘は嫁にやらんぞレイ!! 勝負だ!!』


 と、こんな事を言い出したんだ。店でこんなこと言うから当時の俺は恥ずかしくて急いで店を出ようと必死だった。そして社内や支社の英国中の猛者を集めてトーナメント形式の数百人による武術大会が開催され名前が『アイリス杯』となった。


「ああ、パパそういうとこ有るよね。イベント好きだし盛り上げるの大好きだし」


 本当にその通りだ。横でその血がしっかりと流れているのが確実な俺の妻を見て俺は苦笑しながら同意した。


「そうだな。あと意外とロマンチストだ。ちなみにその時には俺のことをもう認めてくれていたらしいんだ」


「うん。だって家にたまに戻ると『レイとは一緒じゃないのか?』とか『もしかして何か言う事が有るんじゃないのか?』とか言って……母さん呆れてたもん」


 なんかサラ義母さんに悪い気がして来た。見ると清一とジョッシュそれに途中からいた楓、かえちゃんも苦笑していた。そう言えばと気になって会場を探してみると彼女の妹の琴音と、そして一週間ぶりに見たのは従妹の炎乃華だった。


「そろそろ――――来ても――――」


「で、でも――――私……」


 控室から戻ると戦闘衣から紅い着物に着替えていた。普段通りで良いと言ったのだが、反対に会場の隅でエレノアさんと話しながらこちらを虎視眈々と見ている炎乃海姉さんは戦闘衣のままだった。臨戦態勢というやつだろう。


「まったく、どうなる事やら……」


「あらら、二人の惚気話に会場中が興味津々だったよ? レイくん?」


 血縁上の両親ですら聖霊を飛ばして今の会話を聞いていたようで、その事を教えてくれたのは楓だった。ちなみに真炎は今はアイリスの足に抱き着いて俺と楓を見ながら唐突に言った。


「アイリス姉様? 何でこの人に言わないの?」


「う~ん、それは今日の目玉の一つだからね、でも、いっか!! と、言うわけでレイの妻のアイリスです。初めまして風の巫女の涼風楓さん?」


 アイリスの発言に驚く一同だったが一番驚いたのは当の本人だった。


「私が……冗談、では無いのよね?」


「なっ!? かえちゃんが風の巫女!? 本当なのか?」


 光聖神は決戦前に既に巫女の二人と俺は出会っていると言っていた。確かに涼風家の術師なら適性は有る。彼女は研究者そして術師としても優秀だが、それでもアイリスを始め他の巫女とは圧倒的に力の差があるから違うと考えていた。


「覚醒前の巫女は力が封じられてる状態よ? 昔のレイと一緒なの。だから巫女同士の共感意識でしか分からない。私以外だとマホちゃんは居るから、ヒナちゃ~ん、こっち来て~!!」


「あら、お呼びですか? レイさん?」


 風の早さで来たのは水の巫女のヒナちゃんだ。体調もよくなったようで一安心だ。


「ヒナちゃん? 呼んだの私だよね?」


「すいません。レイさん。こわ~い元締めに呼ばれてしまいましたので後ほど」


 俺に茶目っ気たっぷりにウインクしてアイリスの方に向き直るヒナちゃんと本気で怒ってない……と、思うアイリスを見て少しだけ気分が落ち着いた。


「何よ~!! 巫女のまとめ役なのは事実だけど!!」


 二人とも相変わらず仲がよくて安心した。アイリスに対等の友人はかなり少ない。従者や年長者に囲まれて甘やかされてることが多く喧嘩も滅多にしない。その点で小さい頃からヒナちゃんとは何かにつけてよく喧嘩もしていた。今回もじゃれ合いのようなものだろう。


「あらあら、わがまま気質で指示出したがりは変わりませんね? レイさんにもそうやって家庭で圧迫を? あら、怖いですわね~?」


 ただのじゃれ合いで仲良く……仲良くしている……はず。


「そっか~ヒナちゃんは、まだ独り身だから夫婦生活を知らないから推測しか出来ないもんね? でも大丈夫。私たち、円満な夫婦生活してるから!!」


 気のせいだろうか空気が重い。昔は言い合いをしてただけで今も同じはずなのに……どうして、こんなに違うんだ。


「アイリス姉様と水の巫女の人から黒い何かが出てる~」


「真炎、気のせいだ、いいな?」


 闇を浄化する筆頭の巫女たちから闇なんて出るはずが無い。ジョッシュと近くにいたフローを見るが目をそらされベラからは睨まれた。


「う~ん。気のせいかな?」


「それよりアイリスさん、それと氷麗姫も私が風の巫女って本当なの!?」


 そう言えば忘れるところだった。かえちゃんが風の巫女という話だった。


「そうですね。マホちゃんとヒナちゃんもちょうどいい機会だから巫女の探知をしてみて、何か普通の術師と違うでしょ?」


「なんかチカチカしてる……楓お姉さん」


「ああ、なるほど……聖霊力が点滅してますね。これが兆し、なんですか?」


 俺にはイマイチ分からない感覚だが目覚めた巫女たちはお互いに存在を分かるそうだ。俺の存在も特殊なのだが、それと同格なのがアイリスを含めた巫女の存在だ。


「基本はアイリスの、光の巫女の補佐だが単体で術師を大きく凌駕する力を持っていて四大聖霊神からの直接の庇護下に有るんだよな?」


「うん。私なら光聖神、今は特例でレイもだけど、マホちゃんなら炎皇神、ヒナちゃんは水明神って具合で聖霊神が付くのよ。現に二人には直接連絡を取れるように聖霊帝が守護聖霊として付いているわ」


 この話には光位術士以外の人間は驚いていた。歴史的には知らされてない封印されていた事実だから仕方ない。


「あの、話に全然付いていけないんだけど、今の私の状態は覚醒前なのよね? それに四大聖霊神って何なの? 四大聖霊帝との違いは?」


「それは私たちも聞かせてもらいたいアイリスさん」


 そこで車いすを押されて来たのは炎央院家の現当主で俺の叔父の衛刃叔父さんだった。押しているのは炎乃華で目を背けられた。いったい何が有ったんだか、この間まではウザいくらいに構って欲しそうにしてたのにな。


「ではここでアイリス先生による正しい歴史解説の時間に入りま~す!! まずは光位術士の起源は実は分かってません。最古の記録は2000年前と言われてますけど、はっきりと残っている記録は約1000年前です」


「未だに信じられないな。レイにも聞いたが私たちは世界大戦より前から確認されている位しか歴史は無いと思っていた」


 叔父さんが言うのも理解出来る。そもそも闇刻術士・旧代の封印が解かれたのは今から十年前、つまりは俺の覚醒の二年前だ。それまでは四百年の間、奴らは封印されていた。


「術師の起源はそれより前、約400年前に生み出されました。これは文献に残されています。本社からデータを取り寄せてますので後で各家に寄贈させて頂きます」


「全ては400年前の戦い。闇刻術士との戦いの際に劣勢に立たされた私達のご先祖様が戦力を強化するために作り出されたのが術師の始まりです」


 それは俺や光位術士の一般常識だ。クリスさん、それに涼風の妹の方の琴音、あとは炎乃華を始めとした俺の両親も驚いていた。


「いや、炎央院の人間には俺が説明しただろ!!」


「黎くんの説明で理解出来るほど我が家の人間のオツムが良かったらあなたを追放しないでしょ~?」


 皆の輪の中から少し外れて一人で大ジョッキのビールを飲んでいるのは炎乃海姉さんで、ピッチャーを持って傍にいるのは流美だった。何だかんだでこいつらは仲が良いのかもしれない。


「そりゃそうだ。って他人事にしてるけど、あんた主犯だからな!!」


「あら、それはごめんあそばせ? 流美、おかぁり!!」


「炎乃海様、その、これから大事な話や色々と有るのでお酒は程々に」


 その面々を見てコホンと咳をすると再び解説に入るアイリス。いよいよ巫女の話に入るようだ。


「そして先の戦いで最後まで戦い抜いたのが光の継承者と側近の四守護騎士と呼ばれる五人の部隊で、そして闇刻術士を封印したのが光の巫女とその補佐の四封の巫女と呼ばれた術師の中でも選りすぐりの力を持つ四人だったんです」


「選ばれし精鋭ってわけね、それが私なの?」


「ええ、自覚もしちゃったし近い内に完全覚醒すると思うよ楓さんの方はね? 問題はもう一人かな?」


 そう言うとアイリスは意味深な視線を別な方向に向けて言った。その先に居たのは俺の弟だった。


「まさか、ぼ、僕なんですかっ!?」


「勇牙? いや、違う……隣の……クリスさん?」


 そう、見ていたのは勇牙ではなく横のクリスさんだった。今はきれいにドレスアップしていて髪も下ろし完全に女の子になっている。確かに男にしては整い過ぎてた顔立ちだし体付きも華奢だった。


「私でも分かりましたよ。アイちゃん、土の巫女は彼女……なんですね?」


 困惑する楓を置いて今度はもう一人も言い当てるアイリス。当然、クリスさんも困惑していた。


「ま、正確には大地の巫女なんだよね。炎の巫女も『火』じゃなかったでしょ?」


「え~私も、どうせなら疾風の巫女とかの方が良かったんですけど……」


 水と風はそのままで火と土はなぜか名前が改変されたそうだ。これは400年前の時に決まったらしいから真相は不明らしい。


「へ? あ、あのぉ……私、自分で言うのもアレですけど弱いですよ?」


「楓さんはそうでも無いんだけど、あなたの場合は特にレイと状況が似てて力が凶悪過ぎて封印されてるのよね……大地の巫女は四封の巫女の壁だから……」


「ま、これで今日の目玉その一、四封の巫女のお披露目は完了ね!!」


 なぜかビシッとブイサインを決めるアイリスと真炎そしてヒナちゃんの三人と困惑する残りの巫女らしき二人。そして唖然とする俺達その他のメンバーだった。


「じゃあ、そろそろ私の紹介もお願いしますね~。アイリス様?」

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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