第61話「激おこアイリス」
第三章の前に注意点を書かせて頂きます。
・第二章との間に番外編が有ります。
以上を踏まえた上で読んで頂ければ幸いです。
時は現代、様々な超常の事件が起きた際に裏から世界を守る者たちがいた。聖霊を使役し国を守る者がいた。人それを『聖霊使い』と呼ぶ。そして失われた歴史は再び甦った。光を継ぐ者とそれを支える二人の覚醒と同時に復活を果たした。光と闇の戦いは再び始まってしまったのだ。これは、そんな世界を守るために戦い、そして支え合う二人の物語。
◇
日本大規模通信障害事件、通称『闇に包まれた日』事件。通信障害だけが起きて停電は都内の一部のみだったにも関わらず政府はなぜか闇を強調し国民は疑問に思ったこの事件は政治家や高級官僚らは最後まで表立った発言はせずに杓子定規な説明だけを繰り返した。それから間もなく一週間が経とうとしていたこの日、都内の一部で闇の気配が蠢いていた。
「動くぞ……ロードが隠れられた今だからこそ闇刻術士の恐怖、この国の人間共に見せつけてくれる!!」
そう言うと黒い戦闘衣と簡易的なローブを羽織った三人組は周囲に黒い聖霊、闇刻聖霊を解き放った。そしてそれに吸い寄せられるように悪鬼・妖魔と呼ばれる思念体と物の怪たちが集まる。さながら百鬼夜行のように視える人間には地獄絵図、見えない人間には唐突に精神を蝕まれる悪夢が起きようとしていた。
「ロードのかたき討ちだ!! 盛大に暴れろ闇よ深まれ!!」
「しかし良いのか? この日本には奴らが……」
悪鬼が次々と人々を侵食する様を見ながら一人が不安そうに周囲をキョロキョロと確認しているが残りの二人を歯牙にもかけずに闇刻聖霊をけしかけ自分たちを襲って来る悪鬼と妖魔だけを倒していく。
「問題無い。いくら奴らでも一週間も経たない中での回復は不可能!! 残りは雑魚の下位術師のみ、我ら戦闘に出されなかった補助部隊でも余裕よ」
「そうだ。別な場所でも同士が動いている。それにこの都市の数か所に仕掛けた聖霊爆弾も有る……我らに群がっている間にボカンよ。さあ来い光位術士ども!!」
そして彼らの敵は来た。しかしその敵は予想とは違っていた。三人の男女、長身の男と白い儀礼服を着た二人の少女、男は青い両刃の剣を構え残りの白い服を着た内の一人の美女は弓を構えた。
「これから大事な会だと言うのに……炎央院は何をしているのかしら? 一番乗りが私達とは、今日はせっかくレイさんと会える日なのに、あとおまけのアイちゃんも」
「言うなよ。俺だって実家に帰る前の最後の休日なんだからさ……。それにしても氷奈美お前まだ……いやいいか、とにかく二人とも行くぞ!!」
「とは言っても今は私が一番だけどね!! ま、見ててよ二人とも!! 水森清花行きます!! 光の下に浄化してあげます!!」
清花はPLDSを展開して素早く光の刃、レイブレードを展開する。英国に渡り一月で彼女は光位術士として覚醒していた。そして今回は故郷の日本でのデビュー戦となった。
「はっ!! 光位術士は一人だ。あとは下位術師のサポート要員!! 三人で小娘を潰して、なっ!?」
「舐めるなよ、俺だってあの戦いで生き抜いたんだ!! 並みの闇刻術士に遅れは取らないさ!! 奥伝解放『氷撃破城斬』!!」
神器『水龍の牙』に氷の巨大な刃が付与され一気に叩き落とす単純な一撃だ。しかし奥伝を解放している状態の一撃は威力が数倍にも高まり相手を葬り去るのはあまりにも簡単だった。
「やはり凄いな師匠の会社のエリク汁を飲んでから力が溢れてくる!! そしてワリーさんの作ったこの光位術バッテリーを付けたらここまで威力が出るなんて……」
残りの二人の闇刻術士は離脱していたが一人と周囲の聖霊や悪鬼の数体は簡単に消滅させていた。水森家嫡子、水森清一の神器に装着された物は『試作試験型術師用バッテリー』で一時的に光位術と同様の光の聖霊力を付与する代物だ。
「向こうで何度か開発現場を見させて頂きましたが、使い捨てで二回しか使えないのが問題らしいですから慎重に、それではテスターを頑張って下さいね兄さま?」
「ふふん。そんなの無くても私は本物だから問題無い!! 行くわよレイアロー」
清花はレイブレードを収めると即座にレイアローを放つが命中精度が甘く全て外れて逆に市街地に直撃し信号やビルの外壁が吹き飛んでいた。
「あっ……」
「清花!! あの請求は間違いなく水森に来ますから、あなたのバイト代と光位術士としてのお給料から出してもらいますからね!!」
そう言いながら周囲に水と聖なる力で浄化しながら次々と結界を張り人々を癒しながら周囲をガードしていく様は『氷麗姫』の称号を持つ水森氷奈美。実に彼女らしい鮮やかな手腕だった。さらにその片手間に未熟な妹にも説教もしていた。
「えぇ……そんなぁ。フロー先生に貢ごうと思ってたのに……」
「あのですね、清花? フローレンスさんは既婚者なんですよ? しかも女性です。分かっているのですか?」
「それをお前が言うのかよ……っと、何でもない!! 師匠の手を煩わすまでもない!! 二人ともさっさと倒す。そして会場に向かうぞ!!」
「「はいっ!!」」
水森家の三人が都内某所で接敵していたその時、別なポイントでも戦いが繰り広げられていた。
◇
「燃え尽きろおおおおお!! 爆鎖天昇!!」
「バカな……敵は炎聖師なはずだ!! どうなっている!?うっ、うわあああ!!」
炎の鎖が裏路地から伸びて闇刻術士の一人を捕まえるとそのまま天高く打ち上げられ爆発四散していた。当然、その闇刻術士は絶命していた。
「弱い、弱いわね、闇刻術士!! アハハハハハハ!! 燃え尽きなさい!!」
赤髪を振り乱した鋭い目つきの女が吠えた。赤い戦闘衣とプロテクターは正しく炎央院の家の炎聖師である証だ。しかし纏う闘気と聖霊力は明らかに異質で別格だった。その女、炎央院炎乃海は高笑いを上げていた。
「私達が出るまでも無いとは……しかし威力だけなら光位術士に引けを取らないとは、アイリスも恐ろしいことをしたな」
「凄いです。炎乃海様……あの、エレノア隊長。たぶん私レベルじゃ炎乃海様止められないですよ? 大丈夫なんでしょうか? このまま会場に行って」
その炎乃海を見ながら裏路地から二人の女性が出てきた一人は元SA1所属で現在はSA3特別顧問のエレノア=チェンバレンとSA3特別研修生の志炎美那斗だった。彼女ら二人はここ数日とある事情で炎乃海に付き合っていて今回も同行している最中に事件に巻き込まれていた。
「逃がさないわ、悪鬼、妖魔!! 全部、ぜ~んぶ燃え尽きなさい!! 炎刃の舞!! 炎雀あなたも舞いなさい!!」
昔のようにジャラジャラと聖具は付けておらず装備は短刀と左の腕に付けた腕輪の聖具のみ。今の彼女はそれだけで戦えるほどの強さを身に付けていた。
「待ってくれ、俺は、俺達はただの……」
「関係無い……私の力を試せればそれでね……今の私は娘を取り戻すためなら何でもする!! だから私の糧になりなさい!! 炎気爆滅!! 爆ぜろ!!」
「アアアアアアアアアア!!」
わずか数分、それだけで数百体の悪鬼と妖魔が消滅し三人の闇刻術士が炎によって消し炭にされていた。
「アイリス=ユウクレイドル!! 私にこの力を与えたこと、後悔させてやる!!」
「うわぁ……炎乃海様すっごい。でも本当なんですか? レイ様に聞いた話だとアイリス様って、のほほんとして優しいって話なんですけど?」
「ああ、いい子ではあるのだが少々お転婆でな……レイの前では猫被ってた期間が有ったらしい。私は海外遠征が多くて、よく土産をねだられたものだ」
それぞれ思う所は有るが三人も揃って会場に向かう。ちなみに爆発炎上した路地裏やビルなどは後から到着する炎央院の家の者が対処するから問題無いという炎乃海の一言で二人は納得するしかなかった。
◇
「なるほど、敵は三ヵ所のようで、ここが最後みたいです。ワリー部長」
「そうですかミス楓。ではバッテリー稼働実験を頼む。既に清一君からデータは来たが……なるべく多くのデータが欲しい。ミス琴音もお願いする」
現場には涼風家の令嬢の二人とSA1部長のウォルター=キャンベル通称ワリーと周囲を炎央院家の炎聖師が固めて闇刻術士を逃がさないようにしていた。
「分かりました。それにしてもこんなので威力が上がるんですか?」
彼女たちはそれぞれ神器『風の音色』と小太刀の聖具に清一が装着してた試験型バッテリーを装着する。
「二回しか使えないが容器は聖遺物に匹敵するので使い終わったら回収したい。では二人とも存分に!!」
涼風家の中でも正しく奥伝を身に付けていたのは今は亡き先代の当主と、生き残りの二人だけだった。実は今代の当主代行の涼風早馬は完全に奥伝を身に付けていない。なので涼風家の現有最強戦力はこの二人となる。
「ええ、じゃあ行くわよ琴音!!」
「はい!! 神撃の舞!!」
琴音は舞うように数歩動いた瞬間に消えていた。そして悪鬼が気付いた時には両腕から放たれる真空波を周囲に撒き散らし次々と払われて行く。
「では私は簡単に……絢爛の牙!!」
対する楓の技は実にシンプルで装備している小太刀の聖具に風の聖霊力を付与し斬撃を飛ばすというものだった。見た目は青みを帯びた刀身を振り回すだけだがその軌跡が斬撃となり妖魔とそして闇刻聖霊を捉えていた。
「バカな、下位術師の攻撃が通っているだと!?」
「今のは光の聖霊力が付与されているのか!? 一体どうなっている!!」
「それをお前達が知る必要は無い、イライラしているので鬱憤を晴らさせてもらいます!! レイランス!!」
突如何も無い所から白い光位術士の隊服とローブ姿で巨大な槍を片手で構えたイザベラが出現し、混乱する闇刻術士を貫いて浄化していた。
「いつの間に光位術士がっ!? 正面の敵だけでは無かったのか!?」
「ええ、ですが私だけを気にしてて良いのかしら?」
闇刻術士が気が付くと既に涼風の姉妹は二回目のバッテリーを起動させて術を完成させていた。
「琴音!! あれを使いなさい!!」
「分かってるよ!! これで決めるわ、風・切ぅ!!」
横で楓が背後から小太刀の一突きで闇刻術士を絶命させつつ素早く離脱。残った最後の一人の術士は慌てるが既に上空に舞い上がった琴音は両腕の神器から風の刃を放出していた。
「ぐっ、なんという圧だ。これが風聖術だと!?」
「まだまだ終わらないわ!!」
そのまま空中に風で足場を作り勢いを付け敵に肉薄する。そして足先を中心に風の聖霊力が集中して青く輝き鋭い蹴りの一撃が闇刻術士を貫いた。
「裂空蹴!!」
風切裂空蹴、琴音の切札でレイに繰り出そうとした技だったが、このように予備動作と隙も多かったのであっさり防がれた。しかし他者からの援護があれば絶大な威力を発揮することが出来る。
「決まったわ!! やった楓姉ぇ!!」
「何というか日本の術や技は派手なものが多いですね……」
ベラが関心と同時に半分呆れてその術を評価した。そう、これは術というよりも、もはや聖霊術を使った技だった。
「だが試作型バッテリーのテスターには相応しい。二回しか使えない分その二回に全力を込められるような術の運用が求められるからな。英国の術師では難しい」
「なるほど、結界術や補助術がメインだから攻撃術の使い手は少ないから?」
「それも有るがレイのエンオー流の技と術の合成を見た時から感じていたんだよ」
「では私たちも師事しますか?」
そのベラの発言に頭を振ると周囲の術師や涼風の姉妹に声をかけ事後処理を後続に任せると四人は指定された会場に向かう。ドレスコードは不要、必要なのはチケットだけと言われていたのでそれを互いに確認すると四人はその場から一瞬で消えた。
◇
「これでラスト!! はぁ、はぁ……俊熙さん、凜風さん。こちらは完了です!!」
「ああ、ホノカ。こちらも聖霊爆弾の解除が終わった。これなら予定通りに合流出来そうだ」
一方で都内各所に設置させられていた聖霊爆弾は炎乃華率いる部隊と勇牙率いる部隊でそれぞれ対応する事になった。その際に本隊はほぼ帰国したが今日の集まりに参加予定だった中国の術士の二人と護衛の部隊が帯同してくれていた。
「それにしても良く分かりましたね。聖霊爆弾。聞いてた以上に禍々しいですけど……これも聖霊なんですか?」
「ええそうよ。しかもこれは術士や聖霊の魂や聖霊力で作られた呪詛の塊みたいな聖霊なの。一応はL&R社も対策を講じているらしいけど、私達の実家の『朱インダストリアル』でも裏の仕事で対策用の聖具を開発中なのよ?」
そんなにすぐに対応しているのかと炎乃華は内心驚いていた。自分にも渡された試作型バッテリーといい海外の技術は目を見張るものばかりで自分達は時代遅れの術師なのだと実感させられる日々が続いている。
「こら凜風、それは極秘事項だ。すまないホノカ、今のは聞かなかった事にしてくれると助かる」
「もちろん黙ってますよ。今回の緊急出動でも助かってるのに恩人に恩を仇で返すことは出来ませんから……もう、二度と……」
「ふっ、なに、レイも光の巫女も良い奴らだ。今日何をするかは分からないが気軽に行けばいいさ」
それだけ言うと朱家の兄妹は後続の部隊と合流し指示を出していた。炎乃華は昨日のアイリスとの会話を思い出していた。私は代わりだった、もういらない存在なのか、それでも会って今度こそ、そう考えてしまっていた。
「これも迷惑なのかも知れない……だけど」
そんな事を考えていたら勇牙からの連絡も入った。そのまま実家の本隊と合流して会場に向かうそうだからホテル前で合流しようと言われたので朱家の二人にその旨を伝え炎乃華たち三人は移動術で会場へ向かった。
◇
「皆さん!! おっそおおおおおおおおおおい!! 遅過ぎです!!」
会場のホテルのロビーには純白のワンピースに淡い水色のカーディガンを羽織った美女が待っていた。
「いえ、お嬢様、今回は突然の襲撃でして!!」
「ならどうして私とレイが出撃禁止だったの!? 私達が出れば一気に蹴りなんて」
「アイリス。君と、そしてレイは明日まで強制休暇だろうに、そもそも君に至っては昨日までほぼ休み無しで……」
「ふふん!! 昨日までの行動は私たち夫婦のプライベートだったのよ!! 問題無いわ。お爺様にも許可は取ったしね!!」
かなり大きい声で喋っているアイリスだが実はこれ聖霊通信で話しているのでそれほど周りには迷惑にはなっていないのだ。
「奥様、そろそろ会場に……皆様をご案内しなくては」
「あっ、そうですね流美さん。じゃ行きましょうか? 待ちきれない人も居るようですしね?」
アイリスはそう言うと赤髪の二人の美女を見る。同じ色ながら長さは対照的で姉の炎乃海の方は目に怒りを込めて対して髪の長い方、妹の炎乃華はオドオドした瞳の色をしていた。
「ええ、そうよ……アイリスさん? あの時の言葉、よ~く覚えてるわ」
「ふふっ、お待ちしてました炎乃海お姉様? それに炎乃華さんも」
「はぁ、何したんですかアイちゃん……私ここまで全面戦争になってるなんて聞いてませんけど? 清花は何か知ってそうですね?」
そんな感じで二回に渡ってエレベーターを占領して最上階のロイヤルスイートに向かう一行、そしてまた合流して約三十名がぞろぞろ歩いていく。
「ご覧の通り、最上階のフロア一帯を本日は貸し切りに致しました。そして警備の光位術士もこの階に配備していますからご安心下さい」
「こんなに多くの光位術士、なるほど……光の巫女、まさか三大家のエウクリッド家の者を呼んでいたとはね」
俊熙が周囲の光位術士の隊服を見て言う。実はそれぞれの三大家の白い隊服はローブ以外はバラバラで特に変化が有るのは武闘服をアレンジした朱家なのだがユウクレイドル家とエウクリッド家にも違いは有るのだ。
「ええ、はとこのセーラに来てもらいました。後で皆様にも紹介します。では、本日の主役、私の、だっ、ダーリンが待ってます!!」
「言い慣れない呼び方で、しかも照れるくらいなら言わなければ良いのに、むしろ私が旦那様とお呼びしたいです」
「ヒナちゃん!! そこ静かに!! とにかくどうぞ!!」
そうして扉を開けるとそこには白い隊服にマントを羽織る光の継承者、レイ=ユウクレイドルが居た。そして足元に抱き着いている真炎もいつもとは違う巫女服を着ていた。
「よ、ようこそ、お待ちしていた皆様、本日はお越し下さり……感謝する」
「感謝してやる~!! よく来た皆の衆~!!」
こうして緊張しているレイと逆に堂々としている真炎の宣誓で本日のパーティー、『光の巫女怒りの大集会ボコすこともあるよ?』は始まった。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
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