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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
断章「継承者の知らない黒アイリス」編
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閑話その1「残酷な宣告、炎央院炎乃華の場合」(前編)


 私が目を覚ますと担架の上で空は茜色だった。確か私は戦闘中に……そう考えて思い出したのは黎牙兄さんが銀髪の美女とキスをしている光景だった。思わずウッと吐き気が出て来た。そしてさらに思い出す。私は何とか戦場が落ち着いて黎牙兄さんに近付こうとした時だった。


「あっ、黎牙にっ――――」


「お嬢ちゃんはこっちな~?」


「はい、少々失礼します!! ふんっ――――」


 私が黎牙兄さん近付こうとした時に私は誰かに腕を引っ張られ振り返った瞬間に槍を持った人、黎牙兄さんの直属と言われていた女の人に鳩尾に槍の石突を打ち込まれて気絶させられたんだ。場所はさっきと同じ戦場だけど明らかに落ち着いていた。


「お? 起きたか?」


「えっと……あ、あなたは!? 黎牙兄さんと一緒にいた金髪男!!」


「ひっでぇ覚え方だな……おい、フロー起きたぞ? この子も一応はレイの親戚なんだろ?」


「ええ、光の継承者を迫害した人間の一人ね……ま、良いわ。起きたのならすぐに立ちなさい。ここは今から封印するのよ」


 封印とはどう言う事なのだろうか? 不思議な顔をしていると眼鏡の人は呆れたようにため息を付いて続けた。


「ふぅ、まだ場が澱んでいるのよ……広範囲で浄化出来る人間がさっさと休暇に入ったから今からここを封印するのよ。早く出るから付いて来て」


「えっ、は、はい……あ、あの。皆は?」


「重傷者は優先的に搬送したわ、後は残敵掃討をして今は撤退を開始した所よ」


「あっ、黎牙兄さん!? 黎牙兄さんはどこに!?」


「え、それは――――「レイなら今頃お嬢様とハネムーンの真っ最中でしょうね」


 そこに居たのは私を気絶させた栗色の髪と緑色のツリ目気味の美女だった。なんだか他の人より少し若くて私と年齢が近く見えた。それよりも聞き捨てならない事を言ったのを私は聞き逃す所だった。


「ハ、ハネムーン!? ど、どう言う事なんですか!? そもそも、黎牙兄さんが結婚とか……それって……そんな」


「はぁ……何を言っているか分かりませんが、光の継承者、レイ=ユウクレイドルはユウクレイドル家の次期当主にして光の巫女にあらせられるアイリス=ユウクレイドルお嬢様の夫です」


「ほ、ほんとに……で、でも……け、結婚なんて一言も……」


 そんな事は私にも、それにお父様やそれこそ勇牙にすら言って無かった。姉さんは論外だけど私は、弟子と呼んでくれた私になら真っ先に言ってくれるはずじゃ?


「当然だ。アイリスとレイは光位術士の中でも最重要人物。二年前の戦いでアイリスが昏睡状態になってからは敵にはそれを悟らせるわけにはいかなかったからな」


 後ろから歩いて来たのはエレノアさんと話していた背の高い人だ。聖霊間通信で聞こえたその声は少し冷たさを感じた。


「で、でも……なら私には……教えて、ても……」


「失礼、よろしいでしょうか? フロー先生、お二人もエレノア様がお呼びですので、この子の相手は私がしときますね?」


「ああ、良かった清花。やはり説明は日本人同士が良いかしらね、頼むわ」


 それだけ言うと三人は行ってしまい残ったのは空港で会ったと言うか見た子、水森清花だった。





「えっと、お久しぶりと言うか初めましてと言うか炎滅紅姫さんこと炎央院炎乃華さんですよね?」


「はい。えっと、あなたは水森家の人……ですよね?」


「はい。水森清花……一応は水森家の娘なんですけど、現在はL&R社のSA3特別研修生です」


 そう言われて良く見たら彼女の恰好が黎牙兄さんと同じ白い服で空港で別れた時とは全然違っているのに気付いた。


「そ、それって……」


「えっと、分かりやすく言うと今の私はレイさんと同じ部署の後輩です。英国に渡って実は光位術士になれたんで!!」


「えっ……そ、それって黎牙兄さんと同じ」


「はい、レイさんと同じで実は私『無能』だったんですけど、向こうで色々有って光位術士になれたんですよ~」


 そうして話を聞くとそれは私が知らない事だらけだった。そして何よりショックだったのは彼女が何気無く言った一言だった。


「もう解禁になったから言うんですけど、レイさんの奥さんのアイリスさんの特効薬で今後うちの会社でも出す事になる霊薬なんですけど、それのために来日したレイさんと会ったのが初めてお会いした時なんですけど……って、どうしました?」


「その、あなたは……黎牙兄さんが結婚したのを……」


「はい? ええ、そのぉ、炎央院の家の人から私を守ってくれて逃亡中の新幹線の中とかで簡単には……えっと、ご存知無かったのですか?」


「は、はい……その家中では誰も……」


 そこで沈黙してしまった私達ふたり、辺りの術師たちの声だけが響いた。そこで目の前の清花さんは何かを考えた後に気付いたような顔をした。


「そ、それは極秘事項だったからですよ!! アイリスさんってレイさんを守るために光聖神様に命を捧げたらしいんです!! そして闇刻術士サイドはアイリスさんが勝手に死んでしまったって思ったんでそれを利用したんです!!」


「黎牙兄さんを……守るために、命を……捧げた?」


「はい、これもベラ先輩やフロー先生、さっきの人達なんですけど、その人達から聞いた話で、二年前にも今回みたいな事件が英国で有って、その時も神降ろしを行ったそうです。そしてアイリスさんはレイさんの命が消える瞬間に自分の全てを捧げてレイさんを救ったそうです」


「でも生きてたじゃない!! 全てを捧げたなんて嘘なんじゃなっ――――がっ」


 そう言った瞬間に私は吹き飛ばされていた。軽く数メートル吹き飛ばされて何とか起き上がるとそこには清花さんがベラ先輩と呼んでいた女性が光の翼を生やして私を見下ろしていた。その瞳はどこまでも冷たかった。





「何も知らないで、お嬢様を嘘つき呼ばわりとは、これならレイが話さないのも納得ですね。封印作業が終わりましたので帰ります。あなたの実家に向かうそうです」


「げほっ……待って、下さい。どう言う意味なんですか。私はただ知りたいだけで」


 蹴り飛ばされ地に叩きつけられた私は茫然としていた。消耗していても全く見えなかった。その動きは黎牙兄さんの動きより速く見えた。


「どこまでも愚かですね。では話してあげましょう。アイリスお嬢様は、あの日、二年前に聖霊力と自らの生命力をたった一人の愛する人間、つまりレイに使いました。しかし光聖神の力によって昨日まで特別に延命されていたのです」


 それはアイリスさんの持つ神器や神との繋がり深い巫女だったからと言われていると説明された。


「それはアイリスさんが特別だったからじゃ?」


「もちろんお嬢様が特別で素晴らしい方なのは事実なのですが、それ以上に神に捧げる聖霊力が並外れていました。レイのために神器に余剰の聖霊力を蓄えていたのですが神はその分を褒美として期限付きの延命をしたのです」


 そして期限は三年、実際は諸事情によりさらに短くなって日本へ戻る直前はさらに期限が短くなったと聞かされた。


「そんな状況で……だから苛立ってたんだ……昔と比べて何かイライラしてたから気になっていたんだけど……」


「レイは……お嬢様を助けるために今日までまともに睡眠すら取らず戦っていたんですよ!! 誰にでも分け隔てなく優しかった性格は徐々に冷酷に、そして残忍になって行った。サラ様やヴィクター支社長も……皆が変わっていく彼を……私達は必死に止めようとしたけど誰一人止められなかった!!」


「そう、なんだ……でも黎牙兄さんは優しい……から戻れたんですか?」


 そう言った瞬間に私は鼻で笑われた。


「はっ、その優しかったレイにあなた方がした行為……随分と愉快なものだったそうですね? どの面下げてそのような事言えるのか失笑を禁じ得ませんね?」


「そ、それは――――「言わなくて結構。あなた方が、そのような人間だったからレイに信用されず、お嬢様について話されなかったと私は考えてますよ?」


 それを言われて私は再び愕然とした。確かに信用されてない自覚は少なからず有った。だけど心のどこかで許されたと思っていた。いや、思いたかった。


「ちょっとベラせんぱ~い!! いきなり何てことを!! 彼女は今は協力体制に有る炎央院のそれもお嬢様なんですよ~!! 間違えて怪我させたらどうするんですか~!? ま~たウォルター部長の負担増えますよ~!!」


「はあ、清花に言われてはおしまいね、ですが私は、お嬢様のために!!」


「も~、そんな事言うなら今度から報告書とか資料整理とか付き合いませんよ~?」


「んぐっ、ま、まあ……そこの恥知らずも現状が少し理解出来たようですし、私の溜飲も下がりました。後は任せます」


 呆れ顔の清花さんに手を貸してもらって起こされるとベラさんも顔色を少しだけ変えてソッポを向いてどこかに行ってしまった。


「だから最初から私がフロー先生に任せてもらって……って聞いてない、もう、ベラ先輩は……っと、炎乃華さん大丈夫ですか?」


「ええ……ありがとう清花さん……あの……」


 清花さんは困ったような顔をしてベラさんを見ていて、よく見ると戻った先でメガネの人の弓矢で叩かれていた。


「お気になさらずに、英国ではレイさんは英雄ですから。それにやっぱり日本の術師体系の考え方は理解され辛いんですよ~」


「そうなんだ……」


「ま、私も同じ無能だったから分かるような気はするんですけどね、それに私も日本人ですから炎乃華さんの特に炎央院の考え方も否定は出来ないんですよ~」


「で、でも……私は――――「だから、良いんじゃないですか? これ以上関わり合いにならなくても」


 目の前の困った笑みを浮かべた清花さんが言った言葉の意味が理解出来なかった。





「え?」


「力を手に入れて『聖霊使い』になったから分かるんですけど。英国の皆さんは誇り高い方が多いです。その中で一人で偉業をなして幼少期から試練を耐え抜いたレイさんを皆が尊敬してます。でも炎乃華さんにそれ出来ます?」


「だって、私だって!! ずっと黎牙兄さんを……」


「う~ん、でもそれって本気なんですか? 少なくとも英国の皆さんは自国を救った異国からの英雄を蔑ろにはしませんし……」


 本当に困ったように言う清花さん相手に私はムキになっていた。それには私にだって言い分が有る。


「だって!! それは黎牙兄さんが英国で覚醒したからで!! もし日本でキチンと覚醒してれば私だって!!」


「つまり、力だけなんですね? 知ってますか? レイさんが光位術に完全に目覚めるのに英国で約半年かかったそうです。その間必死に努力したそうですよ?」


「えっ……だって術師の覚醒は16歳までで、それ以降は無能だって、それに契約後の覚醒には数日しか……」


 術師の覚醒は聖霊と契約した時に基本的に成立する。その後に二、三日で安定するのが基本でそれ以降は見捨てられてしまう。それが日本の術師の掟だ。今までそれは例外が無く、そもそも契約すら出来なかった黎牙兄さんは判定すらされなかった。


「ま、それは英国で聞いたんですけど、本題はそこから、その半年間ずっと修行に付き合い片時も離れずレイさんを励まし続けた二つ下の女の子が居たそうですよ?」


「えっ…それって……まさか」


「はい。アイリスさんです。ちなみにフロー先生に聞いたんですけど半年の修行の内で実際は二週間で聖霊力の解放には成功して光位術は使えたそうです。ただそこから半年間は力も制御出来ず翻弄されて、さっきの金髪の人、ジョッシュさんとかワリー部長にボコボコにされてたそうです」


「待って、それって災厄認定されても!?」


 つまり力を制御出来ずに暴走していた。日本なら祐介のように出荷だ。黎牙兄さんも15歳で覚醒出来ず無能の扱いで、そんな嫡子が居ると言う醜聞を恐れて海外に放り出された。英国では皆がそれでも黎牙兄さんを信じていたと言う事なの?


「それでもアイリスさんは絶対に見捨てなかった。そして今回は直前までレイさんを英国で信じて待ってました。ま、レイさんが頑張り過ぎたのを察知して日本まで迎えに行く行動力は正直驚きましたけど。だけど、いえ、だからこそ言います。あの人のように最後までレイさんを信じる想いの強さ、あなたに有りますか?」


「それは……」


 有るという資格は私には無かった。だって私は最後まで面倒を見てくれていた黎牙兄さんよりも楓果伯母様や姉さんを信用して最後は追放に加担した。それが黎牙兄さんのためになると信じて。でもそれは完全な言い訳だ。


「だから、もう最低限の関りで良いじゃないですか。何も親戚が全て仲良しこよしでいろなんて言う掟も無いですし、レイさんも普通の知り合いとしてなら……」


「それでも……私は昔のように……」


「う~ん、これ以上は言っても無駄っぽいですね……ま、仕方ないか。とにかく一度戻りましょう。レイさんやアイリスさんは居ないけど今日は勝利の祝勝会有るんですからね?」


 私は清花さんに連れられて家に戻る事になった。帰りの車内や本邸でも何度かベラさんに絡まれたが、それを止めたのはエレノアさんだった。


「いい加減にしろイザベラ!! この戦いに参加した同士をいたぶるような趣味を持つのは元指導役として情けなく思うぞ!! 何より、その行動が光の巫女を侮辱すると心せよ!!」


「ですがっ!! くっ、了解……しました……」


「正直、私はベラがそこまで間違ってるとは思えませんが……今日はそう言う席ですし、控えましょうベラも、品格が落ちるのは納得よ」


 そうして庇ってくれたエレノアさんは困ったような顔をしてイザベラさんとそしてフローレンスさんを見ていた。


「ホノカ。ベラは直情的でアイリスのためなら何でもするような所が有る。気にするな……SA3はレイとアイリス直属で有ると同時に戦友であり家族のような存在でな。だから団結力が強くああなってしまう。許してやって欲しい」


「い、いえ。でも家族……そう、ですか……」


「君達がレイに……継承者様にした行いは断片的に聞いている。そして結末はレイ自身から、全て自分が片は付けたと聞いた。なら私達が介入すべきでは無い」


「はい……」


「ただ一つ、レイのためを思うなら君達は関わるな。もう住む世界が違うのだと思うんだ……さて、暗い話しは終わりだ!! 祝勝会に行こう」


 そうして私は祝勝会の会場に着いた。そこには多くの術士と術師さらには聖霊も居て解決したと喜んでいた。日本国内でも大きな事件として扱われたが聖霊術、特に風聖術などで噂を書き換え、かき消すと言う荒業をしたそうだ。

 政府筋にはお父様や各家、特に今回は裏方で動いてくれた水森家の令一氏が上層部にも完全に武力に近い圧力をかけて黙らせる事に成功した。


「水森家の当主が相当頑張ったみたいで……衛刃様も今回は凄かったらしいわね?」


「うん……でも琴音、あなたは……」


「仕方ないよ。むしろ戦えなかった私は自分が情けないよ。しかも良い所は分家に持ってかれるなんてね……」


 実は今回の事後処理で一番活躍したのは政府への根回し等よりも楓果伯母様の使っていた奥伝、『風の囁き(ささやき)』で、大型PLDSなどで威力を増幅し日本中で混乱は起きたが全ては天災だったと軽い洗脳に近い誤認識を植え込んだのだ。効果は上々で成功していると言う。今も光位術士が監視に付き、伯母様と生き残りの嵐野家の人達を使い術を行使しているらしい。


「ま、もちろん一部で洗脳出来なかったり色々と齟齬は生じてるけど基本的に術師の存在も今回の事件も隠せているらしいから」


「はぁ……私はどうすれば……」


「レイさんのこと? ま、あの人はしょうがないんじゃないの? 最後は弟子って言ってくれたんでしょ?」


「うん……だから、これからだと、やり直せると……思ったのに……結婚してたなんて……聞いてないよ」


 その後も琴音に色々愚痴っていたりして、逆に琴音の家族についても聞いてあげた。でもプラス思考で考えれば私の家族はまだ死んでは居ない。それを考えたら私はまだ幸せな方だ。


「そうだよね。私も黎牙兄さんもまだ生きているし、やり直しは効くよね!!」


「はぁ……頭がお花畑とは聞いていましたがこれ程なんて……」


「え? あなたは……水森家の……」


「ええ、炎滅紅姫の炎乃華さん。お久しぶりです」


「氷麗姫……水森、氷奈美……さん?」


 でも私の後悔はこんなものでは終わらなかった。まだ始まりだった。そして私はこの後に知る事になる、全てあの人の思惑通りで私の心は完膚なきまでにへし折られている事に、かつて私が黎牙兄さんにしてしまったように心に深い傷を負わされる事になるなんて思わなかった。

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