第二章最終話「最強で最愛の二人」
※第二章最終話です
◇
目の前で最愛の人が泣き笑いの不思議な顔をしている。そうか天国は本当に有ったのか……。いや、違うな、これは死の直前に見ると言うアレだな。
「走馬灯か……本当に有るのか」
「もうっ!! こんな綺麗な奥さんが海を越えて迎えに来たのに第一声がそれなの~?」
そう言ってギュッと抱きしめられる。その感覚は妙にリアルで何より彼女の体温と柔らかさ、そして匂いが俺を包んでくれた。まだ現実感は無いけど泣いてる彼女に言う事が有ったのを、ぼんやり思い出し見つめると自然と口が動いていた。
「自分で綺麗だなんて言わないでくれ。それを言うのは俺の特権なんだからさ」
「うん、知ってる……全部、思い出したんだよね?」
「ああ、本当に……きれいになったね、アイちゃん」
俺はアイリスに支えられたまま静かに着地するとアイリスが何かビンを取り出し飲むと、それを口に含んで唇を重ねて俺の口の中に流し込んで来た。ついでにキスもしっかりと味わいたかったけどアイリスはすぐに口を離してしまった。
「ふぅ……どう? お嫁さんのキスで完全復活!! 凄いでしょ?」
「はぁ、どう言う原理か気になるが、素直に嬉しいよアイリス、でも足りないよ」
俺はそう言うと少し強引に唇を奪う。今度は味わうように深く長く唇を重ねようとしていたら真っ赤な顔をしたアイリスが強引にキスを中断させる。
「ふぁっ!? も、もうっ!! そう言うのは後にして!! そ、それよりもどう? 霊薬の効果は? 聖霊力はこれで満タンでしょ?」
「ああ、これが……完成したのか。じゃあ本当に……目覚めて……良かった」
「良くない!! 私が生き返ってもレイが消えたら意味無いんだよっ!!」
あぁ……これは、やっぱりお怒りだ。抱き締めるか頭を撫でるか、それともキスか……色々考えるが目の前の涙目の彼女の泣き顔をどうにかする前に俺達は再び上空の闇の巫女と、ズタボロになった闇刻神を見上げた。
◇
時刻は少し前、地上で死闘を繰り広げていた私はエレノアさん、清一さんの補助をしながら戦っていた。
「まさか……あれは!?」
「エレノアさん!? 黎牙兄さんが!!」
そして黎牙兄さんが聖霊達と全身全霊で巨大な闇の化身に突撃し、凄まじい一撃を与えた時も私は言いつけ通り皆を守っていた。黎牙兄さんが飛び立った後に、奴の体から溢れる闇の余波で生まれる闇刻聖霊と戦っていたのだ。
「やめろ継承者!! レイ!! 君の存在が消えてしまう!!」
黎牙兄さんが再度、全身を輝かせながら突撃しようとするのをエレノアさんが大声で止めようと叫んでいた。
「ど、どう言う事ですか!?」
「兄さんが消える!?」
私と勇牙の疑問にエレノアさんが苦悶の表情を浮かべながら話し出す。
「あれは光の継承者がかつて使った最後の奥の手、『神降ろし』だ。私は当時、別区画で戦っていたのだがあれは強力過ぎて使用すれば存在が消滅する……かつてそれで……光の巫女は……」
そしてエレノアさんが言い終わると同時に黎牙兄さんが二撃目を解き放つ瞬間に言ったセリフに衝撃を覚えた。
『ここで終わらせる!! これが……俺の最後の輝きだ!!』
最後……そんな、兄さんが消えちゃうなんて、まだ何も、やっと仲直りも全部これからだったのに、そんなの悲し過ぎる。それに告白も……。
「待って!! 黎牙にっ――――」
しかし次の瞬間、私が叫ぶ前に一条の光が私達の頭上を駆け抜け墜落して消えかかっていた黎牙兄さんに追いついた。それは白銀の光の軌跡を残して黎牙兄さんの落下を止めるように手を掴んでいた。
「な、なんなの!? 人? 誰!?」
「なっ……まさか……彼女なのか? 奇跡が起きたというのか?」
エレノアさんが呟いた瞬間に光が一層強くなって追いつくと二人は地上に降りながら空中で何か話していて、そして降りた瞬間、女の人が黎牙兄さんに抱き着いた。
「キっ、キスしてるうううううううう!!」
「そりゃするだろ、あいつら夫婦だし」
そう言って上空から声が聞こえ周囲に降り立つ影が四つ。みんな白い隊服にそれぞれの聖具が大太刀や槍と弓など明らかに特別製の装備と出で立ちで何より聖霊力が桁違いだった。
「エレノア隊長!! ご無事ですか!? SA3所属臨時編成五名、遅ればせながら現場に到着致しました」
「ウォルターか……SA3、そうか君達が来てくれるとはな……助かった」
そう言ってエレノアさんはレイブレードを解除して声をかけて来た背の高い人と何か英語で喋りながら向かい合うと苦笑混じりで答えているように見えた。
「エレノア教官、よくご無事で……」
「ベラか……久しぶりだな。SA1の面目は私一人で何とか保たせ……たぞ」
さらに混乱していると見覚えのある二人が近寄って来る。先ほど私に声かけてきた金髪の男とメガネの女の人で羽田でレイと一緒に居た人達だ。
「お? ああ、お前か、今は味方だ心配すんな!! じゃあワリー!! 雑魚狩りをしてさっさと二人んとこに行こうぜ!!」
「そうだな、ではエレノア隊長、すぐに片付けますので今の内に少しでも回復を」
「ああ、助かる……くっ!?」
そう言うと四人は同時に動き出すと私達の周囲の闇刻聖霊と妖魔は瞬く間に消されて行く。強いとは思っていたけど別格過ぎる。エレノアさんも強かったし先ほどまでは圧倒的だったけど。目の前の四人も圧倒的過ぎた。
「凄い……」
「当たり前だ。私がベテランなら四人は次世代のホープ、まだ辛うじて私が上だが数年後には間違いなく、あの四人が光位術士のトップになるだろう。さすがは『光の守護騎士』、さすがはSA3、光の継承者と巫女の直属部隊だ」
それだけ言うとエレノアさんは意識を失い気絶してしまった。その倒れそうな所を清一さんが支えていた。
「エレノアさんも休ませなきゃ。あの四人の強さは圧倒的だし……それにしても、あれが師匠の奥さんになった愛花ちゃんか……にしても、美人になったな~!!」
「って清一さん? 黎牙兄さんの奥さんって……それって……ど、どう言う、こと……なんです……か?」
恐る恐る聞くが嫌な予感しかしない。それでも何かの間違いかも知れないから勇気をもって清一さんの言葉を待った。
「ああ、師匠が追放された先で死にかけた時に助けてもらった美女、それが、あの銀髪の光の巫女さんだよ。その後、二人は英国で……ってどうした?」
「待って、黎牙兄さんって……結婚してたの!?」
「そうだったのか……兄さんにお祝いを言わなきゃ!!」
「うるっさい……勇牙は黙ってて!!」
火影丸を地面に突き刺して勇牙を黙らせると頭の中がぐちゃぐちゃになる。目の前では二人が地上に降り立ち、そこでまたキスをしていた。何も考えられず脳が考える事を拒絶していた。
◇
「じゃあもうひと踏ん張りか!! 聖霊力も回復したし、行けるな!!」
「レイ、もう無茶はダメだよ?」
「分かってる。大事な妻を置いて逝くわけには行かないからな?」
そう言って彼女を見つめると我慢出来ずに泣いてる彼女の頭を撫でながら俺は頷くと、アイリスの方から抱き着いてくるので俺も優しく抱きしめる。
「うん。レイ二回も神降ろしを使ったんだよね? だから敵もあそこまで崩壊寸前なんだし……」
見ると闇刻神の紛い者はズタボロで胸部が抉れ、一体化していた四卿の三人が露出していて、絶叫と怨嗟の叫び声を上げ、付近を浮遊する闇の巫女もこちらを驚愕の表情で見降ろしていた。
「じゃあ俺達はこのデカブツの相手だな?」
「そう言う事、久しぶりに二人で一緒に……行きましょう!!」
そうして二人で飛び上がると、動揺した闇の巫女が氷の弾丸を連射する。しかし俺とアイリスのグリムガードはそれを容易く弾き、奴の前にまで到着した。
「これは、どう言う事なのかしら!? 光の巫女ぉ!!」
「あららダークブルー、随分と凄い恰好しちゃって……あんたこそどうしたのよ? イメチェン?」
激昂している奴を見ると本当に闇刻術士側にアイリスの情報は漏れていなかったようだ。あの戦いに参加していた術士の多くはアイリスの生存は知っていたはずだ。それなのに裏切者は過去に一度しか出ていない。
(ブラント……奴らにアイリスの情報は漏らさなかったんだな……)
唯一の裏切者ってのが死んだ俺の部下のブラントなのが情けないのだが、あいつも最後の最後で秘密は洩らさなかったらしい。
「なんで、お前が生きている!! どうしてっ!?」
「ま、色々あってね!! 二年前、私は死なずに意識不明で寝てたのよ!! そして昨日、目覚めたの!!」
「昨日!! 大丈夫なのか!?」
じゃあ本当に一日の強行軍でここまで来てくれたのか。本当にいつも君は俺を……なら、ここは情けない姿を見せられない。
「うん、あなたの為に権力総動員して飛んで来たの!!」(主にお爺様とパパが聖霊力を最大まで使ってね……今頃は倒れてそう……)
「くっ、だとしても!! あなた達!!」
『継承者と巫女!! 同時に消す好機!!』
そうしてロード三人を贄にした紛い物の神が動き出す。しかし、その体は俺の二度の最大出力のレイブレードを受けてボロボロだ。それに生贄の三人も闇刻神の体と分離しかかり体も露出していて、明らかに弱点だと言わんばかりの状況だった。
「大きいだけで、もう死に体だよ!! レイ、一気に決めましょう!!」
「ああ、レイブレード最大!! そして、奥伝解放!!」
俺は白の剣と黒の刀を改めて構え、そしてレイブレードを纏わせた神の輝刃を振り下ろす。それだけでボロボロの奴は半身が消滅しかかっていた。
「レイ……あなたに私の力を捧げます……受け取って!!」
アイリスの声に更に俺の聖霊力が増幅されたレイブレードの強大な刃の前にダークウィンドーとダークソイルの二人に迫る。そして巨大化したレイブレードの射線上ならぬ剣線上に居た二人は断末魔の叫びを上げ浄化された。
「くっ!! ハリー! 義風ぇ!!」
「後はお前だけだ!! ダークフレイ!! 今、全ての因縁に蹴りを付ける」
俺はそう言うと神の輝刃を鞘にしまい、暁の牙を構え直すと最後はこれで決める。運命との再会とそして過去との訣別の二つの意味を持って俺は刀を振るう。
「まだだ、まだ負けるわけには……継承者ぁ!!」
「いいや、これで今度こそ終わりだ!! レイキャノン!!」
俺はレイキャノンを放ち、満身創痍の奴の神の体を吹き飛ばし、さらに俺が生み出した光位術レイブラスターを撃ち放ち、奴と紛い物の神とを分離させた。
「継承者!! 何を狙っているが知らないが!! 今度こそ!!」
「なにも……ただ一閃を入れるだけだ!! 焔の太刀……」
「今さら炎聖術!! そんなものっ!!」
ダークフレイも神の肉体から分離した際に土塊の体が既に半壊していた。しかし、そんなボロボロな状態でも未だ聖霊力も神器のハンマーも健在。だから俺は彼女に、アイリスに捧げる技を繰り出す。
「ああ……これで決める!! 秘奥義『白綾目へ捧ぐ軌跡』……全ての歩みは、ここまでの軌跡は今日、彼女と再会するためにっ!!」
白銀の炎が暁の牙から燃え上がり、すれ違いざまに一閃、斬りつける。そして奴のハンマーを弾き俺の刀が斬り付けた体が白銀の炎で燃え上がった。
「はっ!? 炎なら格が上の俺の黒炎以上の力を出さないと効かなっ……そんなバカな白炎じゃ……俺を……なっ……なぜ、なぜっ!? 俺が……燃えているっ!?」
奴の体が炎上する。確かに言った通り普通の炎じゃ奴の強固な守りは抜けられない。普通の炎聖術ならそうだ……でも今、俺には最愛の巫女から授けられた力が有る。それが全ての計算を狂わせた。俺の巫女は勝利の女神でも有るのだ。
「ただの炎じゃない。確かに少し前までは、ただの白銀の炎だった……だが、この炎はアイリスの……光の巫女の加護の付いた『聖炎』!! 光り輝く聖なる炎に昇華された俺とアイリスの想いの炎!! お前の黒炎くらいで消せると思うな!!」
「くっ、バカな……炎で俺が負ける、バカな、バカなああああああ!!」
そして奴は聖なる炎で燃やし尽くされる。最後まで闇の黒き炎で俺を苦しめた宿敵は俺とアイリス二人の炎と光の力で完全に浄化され尽くした。その炎は空に昇って天へと消えて行く。俺は納刀しながらその光景を見つめた。
◇
「くっ……ルーン。まだ無理だったのね……仕方ない次の――――「機会なんて与えない!! 今日ここで終わりよ!! グリム・チェイン!!」
「ちっ!! 光の巫女っ!!」
やっぱり逃げる気だった。前の戦いもこの女は真っ先に逃げたと聞いていたから見張ってて正解。だからグリムチェインで奴の右腕を拘束する。これで逃がさない。
「こっちも決着を付けましょう!! 狙いなんて付けない!! 最初から最大出力で!! 貫け!! スパークル・バスター!!」
スパークル・バスター、初代の巫女様の必殺の術で威力が強過ぎて封印された光位術、レイキャノンの数十倍の威力の極太な光のレーザーを解き放つ術、それは闇刻術士を浄化するのが充分な威力で、目の前の闇の巫女をも完全に飲み込んだ。
「ぐっ、バカな!! こんな威力、ああっ、闇が……闇が消える!! 光に飲まれて、認めない、認めない!! 光の巫女おおおおお!!」
ブルーは最後に闇の障壁を最大展開して防ごうと必死だったけど、あの威力なら防ぐ事など不可能で最後は闇の障壁が崩れ大爆発が起き、それに巻き込まれた闇の巫女は跡形も無く消えていた。
「ふふん!! どんなもんよ!!」
「お見事、アイリス!! さすが、俺の嫁さんは強いね?」
「うん。でも私が強くなったのは……あなたのためだから、ね?」
そう言うと空中だけど我慢出来ずに、またレイに抱き着いていた。やっと私を抱きしめてくれる腕の中に戻れたと思うと私は二度と離れたくない。そして私達が再び唇を重ねようとした時に下から邪魔な声が聞こえた。
「二人とも~~!! 良いですか~? アイちゃ~ん? それにレイさ~ん!!」
いいタイミングで下から呼んで来たのは、後から来てくれる親友の水森氷奈美……ヒナちゃんだった。おのれ……いい雰囲気になったこの瞬間に、仕方ないので歯噛みしながら二人で地上に降り立つ。
「それで、私とレイの夫婦の時間に何かご用? 水森……ヒナちゃん!!」
「はぁ、まったく、あなたが言ったんですよ? 他の巫女を集めろって、なのに到着したら既に決着が付いていたんじゃないですか……」
そうだった。ここに来るまでの間に色々と作戦も考えていて四封の巫女の全員を集結させて、この闇を浄化しようとも考えていた。
「レイが予想以上に闇刻神を追い詰めてたから二人でサクッと倒しちゃって、ぽっと出の闇の巫女も倒しちゃったの!!」
「どう言う事なんだ? アイリス? それと久しぶりだね二人とも?」
「はい、レイさん。見事に務めを果たしましたわ」
「ああ、ご苦労様、ひなちゃん? 本当にありがとう」
むっ、二人で見つめ合ってなんか凄い良い雰囲気な気がします。これは浮気認定しても良いのでは? そう思った瞬間、私は無意識にレイの腕に抱き着いていた。
◇
アイリスが落ち着かない様子で俺の腕から離れない。どうしたのだろうか? そう思って見たら目線をプイっと逸らされた。
「アイリス? どうしたんだ?」
「べっつにぃ~!!」
「ふふっ、これは後にした方が良さそうですね?」
そう言うと、ひなちゃん達は簡単に連絡事項を伝えとさっさと離れて行ってしまった。そして周りでは闇が晴れたので救助作業などが始まった。そんな中で俺達は自然と二人で見つめ合う。
「あっ、黎牙にっ――――「お嬢ちゃんはこっちな~?」
「はい、少々失礼します!! ふんっ――――「ぐぇ!!」
何か後ろで気配がしたが気のせいだろう、いや気のせいじゃないが、一応はジョッシュとベラの声も聞こえたし、たぶん大丈夫だろう。
「やっと、二人きり……だね?」
「ああ、久しぶり……で、良いのかな? アイリス」
そう言うとアイリスは泣き出しそうな顔をして俺を見つめると、再会したあの日を思い起こさせる女神のような優し気な表情を俺に向けて言った。
「ずっと、あなたをお待ちしていました。継承者様……でも、二年も待たせるから私から迎えに来ちゃった……本当に、遅いよ…………遅過ぎるよ、レイのバカぁ~」
だけど、それは最初だけで、すぐに女神の仮面は剥がれ泣き崩れ小さい頃に出会った俺が守ると決めた、ただの女の子で俺の最愛の人だった。二度と離さないように腕の中で、しっかりと抱き締める。
「ごめんな? すっかり待たせた……これからは、ずっと一緒だから」
「うん。絶対だよ?」
そうして俺達は見つめ合うと今日、どちらからともなく三度目のキスを交わした。深く、少しだけ長く数度キスを交わしていると顔が真っ赤になっていて、満足したようでアイリスはそっと唇を離した。
「んっ、ふぅ……久しぶりだからって、激しいよレイ」
「ごめん我慢出来なかった」
「ふふっ、私も……二年振りだから興奮しちゃった♪」
そう言うと「息継ぎしたかっただけ」と言われ、またキスをせがまれる。もちろん断る理由なんて何も無かった俺は素直に応じる。そして互いに愛を囁き合いながら立ちっぱなしで気付くと三十分は経過していた。
「ごほん。さすがに良いかしら?」
「ふぅ、レイ、私もう……ってフロー?」
「これ以上は公序良俗に反するわ。それとも日本には公然わいせつ罪とか無いのかしらね?」
「お嬢様、屋外でこれ以上は破廉恥かと……」
見るとSA3の面々が呆れていて、俺とアイリスは夢中で気付いていなかった。幸いにも四人が周囲を囲むように守っていたようで、それで俺達はイチャイチャ出来たようだ。
その後は真炎に頼まれて流美や炎乃海姉さん達みたいな重症者の怪我を治療したり、アイリスの新しい光位術で全ての聖霊使いを回復させたりしている間に陽も傾き始めた。そんな中で俺とアイリスは一息付いているとワリーから呼び出された。
「さて、通信も回復して二人にCEO、アレキサンダー当主より辞令が出た。二人のPLDSに辞令は届いているが口頭で俺も伝えるように言われている。レイ=ユウクレイドル、君のSA0の権限は本日を持って解消しSA3に転属、部下二名も同様とする。そしてアイリス=ユウクレイドルは復職しSA3に再配置との事だ。そして、二人には復帰早々に特別任務が言い渡された……」
「特別任務……俺とアイリスならどんな任務でも!!」
「ええ、レイと私の二人でなら!?」
そう言ってお互いに手を握り合うと笑みを浮かべる。そう、今までとは違って俺の隣には彼女が戻ったのだから何も恐れる事は無い。だがワリーから下された辞令は予想外の任務だった。
「レイ及びアイリスの二名はこれから一週間、強制的に休暇を取るようにとCEOから通達だ!! アイリスは復活したとは言え経過を見る必要が有り、レイ、お前はこの二年間に休暇を三日しか取ってないからだ!!」
「ちょっとレイ!! そんなに無理をしてたの!? そもそもご飯はちゃんと食べてた? すぐにパン一枚で済まそうとしてたんじゃないの!? 私がヴェインの体で紅茶淹れてた時から怪しいと思ってたんだけど!!」
「ちょっ、ワリー!! アイリスにはバラすなって……あっ……」
まずいと俺は思わずワリーを睨んで文句を言うが、それが余計にマズかった。自白しているようなものだったと気付いた時にはもう遅い状態に追い込まれた。
「もうっ、よ~く分かりました!! お爺様からのご厚意有難く受け取らせて頂きます!! そしてレイは私がキッチリ見張って、お休みさせます!!」
さっきまで優しく握られていた手が、ガッチリと拘束され逃がさないような感じになって優しい笑みはプリプリとお怒りの様子で、お姫様は完全にお冠だった。
「お嬢様、手配が終わりましたので、本日の宿はこちらで……予算はSA3の方で落としておきました」
「ベラっ!? 何を勝手に、ロイヤルスイートだとっ!? 俺が経理を黙らせるのがどれだけ――――「ワリー? お嬢様とレイのためです。頑張って下さいね?」
相変わらずワリーもベラにすっかりコントロールされていて頭を抱えている。少し前まではその光景を見るだけで俺はアイリスを思い出していたのだが今は横の嫁が手を放してくれないのが逆に怖い。
「ふふっ、さ~て皆のご厚意だから行きましょ? あ・な・た?」
「済まないワリー、あとはフローも」
PLDSに送られて来たホテルの情報を見て頷くアイリスを見ながら俺はワリーと、おそらくは事務処理を手伝う事になるであろうフローに悪い気がして声をかける。横の旦那で俺の親友のジョッシュは脳天気に羨ましがっていてイライラしてそうだからフォローを入れるのはいつも俺の仕事だった。
「良いのよレイ。その分ジョッシュとベラには現場で働いてもらうから。肉体労働組にはお似合いの掃討任務よ。喜びなさい?」
「フロー、マジかよ今日くらいはレイのおススメの店で飲みとか……いや、冗談だアイリス。もっ、もちろん今日は夫婦水入らずだよなぁ……ははは」
そして俺達は四人に改めて礼を言うと飛び立つ。一瞬、何か聞こえた気がしたが気にせずにアイリスをしっかり抱き締め一気に飛んだ。目的地は予約されたホテル……では無く、先に寄りたい場所が有るのでそこに向かった。
◇
「さて、着いたよ」
「ここって……懐かしい」
着いたのは俺達が出会った公園で、日本での思い出の場所と言えばここしか無い。だから俺は目立たないように、そっと降り立つ。赤い夕日はまだ陽は出ているのだから慎重に動くに越した事はないのだ。
「全部、思い出したんだ。だから改めて言いたくて、アイリス、ありがとう。昔、ここで励ましてくれて、一緒にいてくれて、そして待ってるって言ってくれて、ありがとう。英国に辿り着いた俺を優しく迎えてくれて、ボロボロになった俺を癒してくれて、ありがとう……」
「うん……私、初めて出会ったあの日に泣き出した私を必死に慰めてくれた優しいアナタに恋したんだ。色々有ったよね? 全部思い出せるよ……全部、大事な思い出で……今日まで一人で必死に……」
そう、彼女は今日まで一人でずっと憶えていた。俺が封印され忘れていた思い出を誰にも話せずに必死に今日まで俺を信じて、どれだけ孤独な戦いだっただろうか、それに比べたら俺の旅なんて大した事じゃない。
「大丈夫だ。もうこれからは一人で背負わせないから……今日からは二人でずっと一緒だ」
「うん……それで、さ。レイ……私は、その……貴方に相応しい女の子になれたかな? その、もちろん光の巫女として貴方に相応しいって意味で、だから……」
そう聞かれて俺は震える彼女に借りていたローブを外し肩にかける。少し汗臭いのは勘弁してくれと言ったら、これが良いと言って羽織ってくれた。だから俺は彼女を見て言わなければいけない事を、英国で再会した時の彼女の問いに改めて答えなきゃいけないと思っていた。
「ああ、もちろんだよ。愛花、いやアイリス……何度でも言うよ。凄く、凄く綺麗になったね。ごめんな、こんな時に気の利いたセリフでも言えたら良いんだけど相変わらずダメだな。思った事しか口に出来ない……」
「そんな事無い!! 憶えて無くても言ってくれて嬉しかったのに……でも、ここで言って貰えるともっと嬉しい!! レイ……大好きだよ!!」
そう言うとアイリスはまた俺の胸に飛び込んで来る。もう突進する勢いだけど嫁のタックルの一つや二つ笑顔で抱き締められなきゃ継承者なんてやってられない。
だから俺は彼女の温もりを感じて優しく抱きしめた。夕日の光で少し逆光になった彼女の涙は輝いていて、俺はそれをそっと指で拭う。
「君と出会えて、そしてまた、ここで再会出来て本当に良かった……」
「私もレイが居ないと、ダメだよ……だからこれからもず~っと一緒だよ!!」
家族に見捨てられ、何度も絶望に叩き落とされ、その度に泣きたくなる位にボロボロになって全てを失ったかと思った。それでも必死に前に進んで、その先で待っていてくれた彼女と出会った。
俺を最後まで導いてくれたのも彼女なら待ってくれていたのも彼女だ。そして俺達は今日、再び光の中で導かれて出逢うことが出来たんだ。
第二章「彷徨う継承者」編 完
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。




