第5話「神の一振り、覚醒の継承者」
戦いはオリファーが安全圏まで下がった瞬間に両者同時の聖霊力の激突から始まった。そしてその力比べは一瞬だけ拮抗した後、あっさりと闇を吹き飛ばすアイリスの圧倒的な光の前にロード・ダークソイルの闇と岩の槍が消し飛ばされ決着した。
「ぐっ……やはり今までの雑魚とは桁が違う」
「そちらは思ったほどでは有りませんね? 仕掛けます!! レイ・アロー!!」
アイリスもまた新世代の光術士として端末『PLDS』のみで戦うスタイルを取っていた。レイ・アローを発射と同時に彼女は自らの聖霊を呼び出していた。
彼女の手に止まるのは白い蝶、光位聖霊魂、聖霊の中でも最弱の部類に入る者だ。その蝶が最初は一羽から二羽ひらひらと飛んでいたが、それが四羽、十六羽と瞬く間に増殖する。
「全ての光に癒しを……フォトン・シャワー!!」
蝶たちが辺りを覆いつくすまで増えた瞬間それが弾け、光の雨のようになって倒れていた光術士や負傷していた支援部隊の術師たちに降り注いだ。
「うっ……傷が治っていく」
「あれ? 動ける……の?」
「お嬢様の術は我らの術とは桁が違う……」
倒れていた光術士と各術師たちが次々に回復して行く。怪我や欠損、瀕死の者などが五体満足に回復するその様はまるで神の御業、奇跡を見ているようですらある光景だ。
「くっ、これが光の巫女の……だが、まだ完全では無い……それに年も若い」
「我らも、お嬢様の援護をっ!!」
「ならんっ!! 我らが入れる戦闘ではないSA1全員傾注!! 結界の維持と撤退の用意を――」
オリファーがそう指揮を取った瞬間、今度はダークソイルの周りに闇が出現する。敵側にも闇刻術士の増援が到着したのだ。
「くっ、この聖霊力……先ほどの奴らと違うな……全員!! 先ほどの戦闘と一緒と思うな!!」
「了解っ!!」
新たに出現した闇刻術士の部隊とオリファー率いるSA1が戦闘を開始された。その頃、本社、地下施設では……。
◇
「アイリスが出たのか……しかし継承者殿、レイくん不在を狙われたと見るべきか……ローガン? お前の策とは言え危険過ぎたのでは? もしもの時は私が上で迎撃を……」
「当主、ならばまずは私が出ます。アイリス様が可愛いのは分かります。ですが当主のお役目、お忘れなきように……」
そう言って二人はモニターを見つめていた。本社ビルに設置されたカメラで地上の戦いは確認していたのだ。
先ほどから当主の間に若き隊員イザベラが来た事は聞いているがそこにはアイリスしか居なかった。だから彼女は真っ先に仲間を助けるために出陣した。
「しかし、オリファーが苦戦するのなら、せめてバーミンガムに居るあの二人を呼び寄せる必要があったのでは無いのか? あの二人も久しぶりにアイリスに会いたがっていたからな……」
「こう言っては失礼に当たりますがアイツはアイリス様を溺愛しておりますゆえに、いくらレイ君、いえ継承者殿とは言え問答無用で襲い掛かる可能性が……」
「だがストッパーも一緒に来るなら問題は無いと思うがのだが」
そう話している二人が余裕なのはアイリスが終始ロードを圧倒していて更には味方の援護も行っていたからだ。いかに闇刻術士の最高位のロードの『四卿』と言えど継承者と巫女とは格が違う。もし対抗するならば、あちらの巫女と継承者の対の存在を用意しなくてはいけないからだ。
「ですが、やはりアイリスお嬢様はともかくレイ君にはアレを渡しても問題無かったのでは? 彼の成長は著しい、模擬戦では完全に不覚を取りました。私に勝てる光位術士は老師、そしてあなたの息子であるヴィクターしか知りません」
「ふむ、だが私の一族の口伝で、この神器は自然と継承者の下へと向かうと伝えられている。そして我ら一族は、あくまでこの二つの神器を守るのが役目だ。渡すのが役目では無いのだよ。四百年前に当時の継承者と巫女の二人が闇の勢力を封印した際に使ったと言われるこの神器をな」
二人が見つめるそこには一振りの両刃の剣と銀のペンダントがガラス張りのスペースに安置されていた。これを守る事こそが一族の務めであるとアレックスは先々代から言われ守り続けていた。そして彼は今、一族の使命を受け継いでしまった自分の可愛い孫娘の無事を光聖神に願うのだった。
◇
地上の戦況は徐々に優位に傾いていた。アイリスの圧倒的なまでの光位術の前にロード・ダークソイルは完全に押されていた。
「やはり手ごわい……ならば次はこれで行こう……来い黒影の牙よ!!」
「これは、闇刻聖霊っ!?」
黒い獅子、いやサーベルタイガーが二体現れるといきなりアイリスの周辺の蝶たちを蹂躙した。蝶たちは声なき声をあげるように闇に溶け込まれるように散って行った。
「なっ!? みんなっ!! 逃げて!!」
(やはり、あくまでも回復と結界だけか。巫女は継承者の補佐と供給役。それは光側でも変わらないようだな。聖霊術も出力は膨大、ゆえにコントロールも甘い……今までの様子から実戦は初か経験しても一度程度……ならば)
「くっ、よくも……光に飲まれて浄化されなさいっ……レイ・キャノン!!」
瞬間、レイ・アロー以上の膨大な光の奔流がダークソイルに叩きこまれる。だがこれをダークソイルは闇と岩の二重防壁を展開しさらに驚くべき行動に出た。
「お前達でよい、来いっ!! 盾になれ」
「なっ? ロード何をっ!? うあああああ!!」
近くにいた部下二人に自らの聖霊、黒影の牙と名付けた者達に命じさせ、自分の盾にして術にぶつけ相殺していた。
「何という事を……仲間を、部下を犠牲に……」
「驚く事ではあるまい? 我らの戦い方は何千年も前から何も変わっていない……そしてこれからも!! さて反撃と行こうか!!」
ダークソイルの怒涛の闇と土の二重の術の応酬が始まった。対するアイリスは冷静に攻撃を対応しようとするも怒りが先行し攻撃の精度が明らかに落ちていた。それでも両者は互角と言っていい勝負をしていた。
「許すわけには行きません!! やはり、あなた方はっ!?」
「強くとも未熟のようだな……黒影よ!!」
「その手は効きません!! レイ・トリプル・アロー!!」
三本の光の矢がホーミング式のミサイルのように正確に壁を避けダークソイルと二体の闇刻聖霊を貫いた。
「なっ!? ぐっ……冷静さを欠いていてこれほどの……精度だと」
「さあ、光の裁きを……浄化をその身に受けなさい!! そして利用した部下たちに懺悔なさい!!」
二体の自分の聖霊を消滅させられさらに自分のそれなりのダメージを負う、さすがのダークソイルも撤退の二文字が頭に浮かんでいた。しかし目の前の光の巫女はそれを許しそうには無く万事休すかと思われた戦場に黒い炎が吹き荒れた。
「はっ、だらしねえなぁ? オッサン? ショータイムだ!! 炎よ踊れ、黒炎よ激しく燃え上がれええええええ!!」
突如アイリスの周りを黒い炎が囲みその隙をついてダークソイルは安全圏へ逃げ出した。そしてダークソイルと同じ黒いローブに身を包んだ者がローブを脱ぎ去りアイリスとの間に立ちはだかった。
「五百年ぶりだから名乗らせてもらうぜっ!! 俺はロード・ダークフレイ……炎の『四卿』だ。初めましてだなぁ……現代の巫女ぉ!!」
「四卿がもう一人……ですが一人増えたところで……」
そうしてアイリスは冷静に考えていた。確かに彼女は動揺もするし今回が初実戦だ。だがそれでも聖霊力の高さでそれを補っていた。
「おうおう、来いよお嬢ちゃん。確かにお前の強さ中々だ。だけどそこの偉そうにしてたソイツは今代のダークソイルだぜ? 意味分かるよなぁ?」
「なっ!?」
「じゃあ、行くぜええええ!! 最近の若造の力見せろやああああああ!!」
そう言って黒い炎が周囲にまき散らされた。こうなってアイリスも各光術士への援護が出来なくなり目の前の敵に集中するしかない。
(まさか古のロードなんて、私一人じゃ……黎牙)
光と闇の戦いの決着後から出現した今から二〇〇年前からの聖霊使いをアフター世代、それより前の約五〇〇年前の世代をビフォー世代と光術士サイドは呼称していた。そしてその戦力比はおよそ4対1と最近の研究で明らかになっていた。
「それにしても封印がもうそこまで弱っていたなんて……」
「まぁ、まだ俺だけなんだけどなぁ!! 楽しませな、お嬢ちゃん!!」
そう、光の巫女の力は四卿の四人を上回る……しかしそれは今代相手ならばの話だ。封印されていた者たちの戦闘力はそれを凌駕する。つまり目の前の相手はアイリスとほぼ同等だ。
「そらそら!! 遊んでやるぜえええええ!!」
「くっ!! グリム・ガード――――きゃああああああああ!!」
今まで破られなかった防御術は一撃で黒い炎で吹き飛ばされ、さらにその余波でアイリスの周りの蝶たちは燃え尽きた。
「ほらほら!! そんな偽物使わず神器を出せ!! それなら俺もこの神器『闇の戦鎚』で叩き潰してやるぜえええ!!」
「ぐっ、レイ・ブレード……私はここで負けるわけには行かないのです!!」
アイリスは術を再度展開しPLDSから光の剣を出力する。そして構えるとダークフレイに突っ込んだ。
「アハハ!! 今代の巫女様は接近戦は苦手かなぁ~? パパとママに教わらなかったのかよっ!! そらあああああ!!」
だがその剣術はあまりにも拙く素手のダークフレイに簡単に遊ばれ、さらに拳だけでPLDSを破壊され、蹴りで鳩尾を蹴り飛ばされ後方にふき飛ばされてしまった。
「げほっ……や、はり実戦は……違うん、ですね……」(恐い、ですが私はここを守らなくてはならない……簡単に折れるわけには)
「根性有るなぁ……お嬢ちゃん!! でも、まだまだ楽しませてくれよ!! なんせ五百年ぶりなんだからよっ!!」
そこからは一方的な攻撃が始まる。防戦一方のアイリス、それもそのはずでPLDSを破壊され己の聖霊力のみで戦っているからだ。徐々に傷も増え、たまらず援護に駆けつけた光術士たちも全員が絶命していた。今ので六人目だ。全員がアイリスの友であり、家族のように大事な存在だった。
「お嬢さ、ま……申し訳……ありっ――ごふっ」
「お逃げを!! オリファー部長のとこまっ――ぐふっ……」
「おうおう泣かせる泣かせる~!! ま、期待外れって事でここで消えろ。未だ目覚めていない光の巫女様!!」
叫び声を上げながら二人の光位術士を殺すとダークフレイの周りでは最大量の聖霊力の黒い炎が巻き上がった。その聖霊力はアイリスの現在の聖霊力の三倍は越えていた。
「くっ、みんな……申し訳あり……ません。私は、せめてこの男だけでもっ!!」
そうしてアイリスは最後の聖霊力を振り絞りレイ・キャノンを発射する。しかし彼女の光の光弾は容易く炎に飲み込まれた。目前に迫る黒炎を睨みつけながら後悔の念が頭を過ぎった。申しわけなさと自分が初めて恋した少年への淡い思いだけだった。
「黎牙さん……私も皆のように、レイって普通にお呼びしたかった――」
「じゃあ今度からは、それでよろしく、アイリス?」
だから次の瞬間、眼前の黒き炎が横合いからの光の剣の一撃で消し飛ばされ更に自分を背後から抱き上げる腕の感触に驚いた。そして震えるアイリスは彼の腕の中から見上げていた。光の翼を広げ自分を優しく抱きかかえて悠然と構える黎牙を、その姿を見て心の底から安堵していた。
◇
俺はアイリスを抱きかかえたまま安全圏まで後退し着地すると素早くフォトン・シャワーをかけて彼女を回復させる。そして彼女を降ろそうとしたが少しの間、手を放してくれなかった。震えている。だから彼女の頭を撫でて落ち着かせる。
「よく頑張ったね? えらいよアイリスは……でも今はゴメンな? 後でいくらでも抱っこしてあげるから、な?」
「絶対……だからね? 約束して……レイ」
「ああ、もちろん。じゃあ降ろすよ?」
そう言って彼女を下すと俺は眼前の敵を睨みつける。そして両腕からレイ・ブレードを展開する。
「やあやあ強い光位術士くん? 俺はダークフレ――――」
一瞬で光の翼で間合いを詰めてレイ・ブレードを一閃。それだけでダークフレイの右腕を吹き飛ばし、俺はそのままアイリスの横に舞い戻り驚いている彼女の頭を優しく撫でた。
「――――イ……あっ? ぐあああああああああああ!!!」
「それで? 俺の大事なパートナーに手を出したお前は何者だ?」
「ぐううう、てめえっ!! そうか、てめえが!! 今代の光の継承者かあああああああ!!!」
残った左腕で黒い炎を纏わせながら距離を取るようだが遅い、俺のレイブレードは普通の術士のそれとは違う。だから簡単に、そう簡単に伸ばした。伸びた光の刃が一直線にどこまでも伸びて男を追撃する。
「はっ? なんだそれ、有りかよ……ぐおおおおおっ!!」
「ダークフレイ!! うおおおお!!」
今度は同じローブを身に纏った男が闇刻術と土聖術の複合術で壁を作りアイリスを傷つけた奴を庇った。なるほどコイツもロードと呼ばれる術士か。
壁は貫通したが黒い大きなハンマーと、後から現れたもう一人は術を展開して俺のレイブレードを防いだようだ。しかし完全に防げたのでは無く光の刃は奴のわき腹を掠っていたようで顔色はだいぶ悪いように見える。
「これが、光の継承者の力なのか……一年でこれほど成長したというのか」
「一年だぁ? 本当かソイル? じゃあここで潰さねえとなぁ……こりゃ潜在能力は先代より上だぞ、このガキ……神器使ってやるぜ!!」
眼前のダークフレイが神器を構えると黒炎がハンマーを中心に吹き荒れる。まるで黒い竜巻のようだがそれは風では無く黒い炎、闇の炎の竜巻だ。
「レイ!! あのロードは前時代の敵です。しかも神器持ちで今の私達では防ぐのも難しいと、思う」
「分かった。でもここで逃げたら後ろの人々や本社が危険だ。だから二人で止めよう。力を貸してくれるか? アイリス?」
「はいっ!! もちろんですっ!! レイ!!」
俺は持てる最大の力でレイブレードを右腕に展開し光の聖霊力を集中させ今出せる最大の強度と大きさの光の刃を出現させた。その全長は約10メートルだ。
「凄い凄い!! だが、術だけで、俺の神器と闇刻術を止められるかねえっ!! お前らの力を見せてみろガキ共っ!! おおおおお!! 戦鎚よ闇に燃え上がり、その力を見せろ!! 『黒炎の処断者』!!」
「アイリスっ!!」
「はいっ……レイに、私の全ての聖霊力を……そして全ての想いを」
俺たちは手を繋ぐ、これが一番効率が良いからだ。想いは重なりレイブレードに流れ込み、そしてそれをぶつける。
一進一退の闇の塊と光の刃のぶつかり合い。そして均衡が崩れたのは俺たち光の側だった。ピシッと音がして俺の左腕のPLDSはショートして吹き飛んだ。
「レイっ!! 聖具がっ!?」
「くっ、大丈夫……アイリス。俺を信じて……くれっ!!」
「はいっ……もちろん、何があっても、あなたを信じ、ます!!」
冷静に考えても押し負けている。だけど諦めない俺とアイリスの折れない心と思いが一つになったその時、俺たち二人の脳内で荘厳な声が響いた。
(二人の心、そして想い、伝わった。今こそ光の祝福を……今、そなた達は本当の意味で目覚めた。神器をここに、光の継承者と光の巫女に力をっ!!)
そして次の瞬間に本社の地下で安置されていた神器が消え、周囲の者を騒然とさせた。しかし、その中でアレックス老だけは目を細め、見えなくなったノイズの走るカメラのライブ映像を見つめていた。
「こ・れ・でぇ!! しまいだああああ!!!」
(呼ぶのだ……神器の名を、そなた達の半身となる物の名を!!)
なおも闇の脅威が迫る中、その声に合わせ頭の中に浮かぶそれの名を二人はそれぞれ叫んだ。
「来いっ!! 『神の一振り』今、我が手に!!」
「我が元に来て下さい。『神の一雫』!!」
そして黎牙の手に白銀に輝く一振りの両刃の剣が、アイリスの首元に白銀のネックレスがそれぞれ飛来し装着された瞬間、二人の聖霊力が爆発的に膨れ上がる。まるで今まで何かの枷がされていたかのように二人の光の勢いが一気に相手の闇の炎を上回った。
「それは、あの時のっ!! 俺らを封印したっ!! くっ、神器よ……ダメか……」
「ダークフレイここは俺が!!」
そう言うと光の奔流が直撃する寸前にダークソイルが闇の壁を展開しダークフレイを光の外に押し出していた。
「オッサン……いや、ガキが何をっ!!」
「我ら闇の悲願はやはり力有るあなた方が支配すべきだ、どうか闇の包む全ての者のための理想郷を!! うおおおおおお!!」
「ぐっ、分かった。後は、任せる。この右腕の借り、そして今日の犠牲忘れんぞ!! 光の継承者よ!! 覚えておけっ!!」
そう言うとダークフレイは闇に包まれるように消え、次の瞬間に光に包まれダークソイルは消滅した。光が晴れるとダークソイルの姿は無く、そこには数名の闇刻術士だけが残されていた。
その生き残り達が脱兎の如く闇の中へ逃げ込む中で俺たちの近くで逃げ遅れた闇刻術士が恐怖でこちらを見ていた。だが、この戦いは既に決着が着いたから意味は無いと思いアイリスを止めた。
「ヒッ……」
「アイリス良いかな?」
「ふぅ、レイ……あなたは敵にまで、もう行きなさい。これ以上の追撃は致しません」
そう言うと闇刻術士は恐怖に顔を引きつらせながら闇の中へ逃げ込んで行った。そして辺りは静寂に包まれた。そして俺たちはほとんど同時に座り込んだ。
「疲れた~!!」
「私も~!!」
俺の肩にアイリスが頭を預けるようにして来たのでそれを支えた。そして彼女は遠くを見ていた本社付近で戦ってた仲間達だ。その奥には仲間の遺体もたくさんあった。彼女の儀礼服も俺の服も焦げていたり血に汚れたりしていてボロボロだった。
「助けられませんでした……私一人じゃ……無理、でした」
「ああ、俺だけでも難しかったと思う」
「でも、みんなを、仲間を、助けたかったっ!!」
彼女が俺の胸に飛び込んで来るのを止めるなんて出来なかった。だから思いっきり抱きしめた。やはり彼女は泣き虫だ。だから俺が支えなきゃいけない。パートナーとしても、そして男としても、彼女を守らなきゃいけない。
「強くなろうアイリス。俺たち二人で……」
「はいっ!! レイ……私達二人で、今度こそ」
初実戦、後に語られる俺たち二人の実戦デビューは華々しい勝利とされ、敵のロード及び多数の潜伏していた闇刻術士を掃討すると言う最高の出来であったと語られ、持て囃される事になる。そして神器を受け継いだ正式な継承者と巫女であると皆に認められたと言われた。
しかし俺とアイリスの心はそんな喜び以上に失った仲間達への弔いの気持ちで溢れていた。
「よいせっと!」
「きゃっ、レイ?」
だから俺は立ち上がるとアイリスをお姫様抱っこする。そして生き残りの部隊の皆の元へ戻る事にした。合流したジョッシュやフローがこちらに向かって走って来ている。
その後ろではワリーとSA1の隊長のオリファーさんがなにやら話しながらこちらを見ていた。だけど今はアイリスと一緒に戻ろう、皆の元へ。こうして俺たちの苦い実戦デビューは幕を閉じた。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
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