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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第二章「彷徨う継承者」編
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第54話「過去、八年前のそれぞれの裏側」

「こんな時間にアイスとか良いの? かえちゃん?」


「食べたくなった時に食べるものは美味しいから良いのよ!!」


 そう言ってビニール袋に入っていたカップアイスとスプーンを俺の方に突きつけた。どうやら俺も共犯になれと言う事らしい。俺は苦笑してそれを受け取るとストロベリー味だった。


 アイリスが好きな味で、イギリスのアイスは彼女には少し大きくて、残したのを食べて欲しいと言われてよく食べさせられていた懐かしい味だ。


「それで? こんな時間にどうしたの?」


「ええ、色々考えてたのよ実家の事とか聖霊使いの事とか……あと貴方の事もね?」


「俺の事? 今さら何か考える事あったか?」


「ええ、八年前にあなたが追放された時の事を色々と思い出していたのよ。ちなみに私が知ったのは貴方が追放されて一週間後だった」


 そうして彼女、涼風楓は語り出した。八年前の三月、季節外れの雪が都内に降り注いだ日に彼女は北の地にいた。


 当然ながら当時の北海道も三月はまだ雪が降っていて彼女は暖房の効いた部屋で微睡まどろんでいたそうだ。


「あの日も水聖術と炎聖術の対策と術式解体をしててね、自室の机の上で寝てたのを世話役に起こされたのよ」


「かえちゃんらしいね。そう言うとこは炎乃海姉さんと似ているな」


「ちょっと、やめてよ。毒婦……じゃなかったけど、あの人と同族扱いはやめて」


 相変わらず従姉の扱いが残念だがしょうがない。今は乗り越えたから過去だから良いのだが、これからは炎の巫女を産んだ人間としては付き合っていかなくてはいけないから複雑だ。


「一応は俺の従姉なんだけどなぁ……」


「それと元許嫁でしょ?」


「それこそ止めてくれ。元と言うだけで今はただの親戚だ。それに衛刃叔父さんには正式にこの間、婚約破棄の依頼をしておいたからな?」


「えっ!? そうなの? それって……炎乃海さんは知ってるの?」


 なぜか驚いている楓に俺は少し違和感を覚えたが、今のところで話せる範囲までの事を簡単に話す事にした。


「ああ、今はこんな状況だから落ち着いたら伝えるって言ってたな、ま、近い内に発表されるだろうし、この間も和解出来たから穏便に済むさ」


「そうとは思えないけど……ま、いいか。それと炎乃海さんの件もだけど、八年前の追放の処分もあれで良かったの? アニキが正式な涼風家の当主となったら改めて四大総会で決するなんて……」


「そうは言うけど早馬さんの立場は俺も理解出来たからな。それに、あの女と君の父上にはしてやられたって感じがしてな」


 今思い出しても複雑になるのが俺を産んだ女なのだが、それを上手く動かして立ち回り炎央院家を混乱させた目の前の少女の親の手腕に俺は感心していた。被害者が俺じゃ無ければ賞賛すらしていただろう見事な手際だった。


「うん。まあ……ね。言い訳みたいになる話とか聞きたい?」


「君がそう言うって事は俺の予想は外れた? 答えを教えてくれるか?」


「ええ、八年前の騒動を主導したのはレイ君のお母様の楓果さんと、私達の母なのよ……二人は親友で、しかも楓果さんは昔は父さんの愛人だった……」


 いきなり重い話だけど、四大家では珍しい話でも無い。まず家の親父にしても実は愛人が一人いた。幸いにもその人とは子は成しておらず、息子は直系の俺と勇牙だけしかいない。


 この制度を分かりやすく説明すると戦国武将の側室のような扱いが四大家の愛人の立ち位置と考えて欲しい。


 だが現代ではそぐわない制度なので俺は昔から反対していた。そして賛成派だったのが親父や祐介など過去の主流派だった。


「うわぁ……なんか悪いね。嫌な話させて」


「良いのよ。誰かに話してスッキリしたくなったの、続けるわね……それで刃砕様、あなたのお父様が武者修行で父さんや母さんそして楓果さんを簡単に倒して涼風の家で一月ほど逗留して、また次の場所に修行へと繰り返していたらしいのよ」


「へ~、親父が……そう言えば若い頃は武者修行の旅をしていたと言ってたな。なるほど、そこで親父の力に惹かれて嫁いで来たって話か!! あの女らしい」


 あの女の力への執着心を考えたら当然の帰結で、その後、あの脳筋がコロッと騙されたのだろうと思っていると楓の顔はさらに険しくなっていた。


「その……半分正解……でね。これはアニキ、早馬兄さんから聞いた話で、伝聞なんだけどさ……それから複数回、刃砕様は涼風の家にも来たらしいの、そしてある日、炎央院の当主になった。それまで全て断っていたらしいわ……」


「へぇ、親父も年貢の納め時って時が来たのか、ざまぁ見ろ!! 当時の様子を俺も見てみたかったぜ。叔父さんに聞いた話じゃ今の方が待遇的に良いらしいからな。当主は体が動かせなくて息が詰まって嫌だったらしいから」


「あの、たぶんレイ君は見てないけど体感はしてたと思うの……楓果さんのお腹の中で……」


 ピシッと空気が固まったような気配がした。彼女、かえちゃんも険しい顔のまま何と言っていいか分からない表情をして話を続けていく。


「刃砕様が当主になったのは、涼風の人間を強引に孕ませた責任を取ってって事らしいのよ……その時、お腹に居たのはレイ君しか有り得ないから……ね?」


「そ、それは……」


「ま、つまり……そのぉ、ねやの事は分からないけど対外的には寝取って孕ませた結果、出来ちゃったのがレイ君……なのよ……」


 今明かされる衝撃的過ぎる事実、俺自身が不倫の証拠だった。そう言えば先代の今は亡き祖父母や今も半ば引退している長老衆は俺に無駄に優しかった。


 それに反してクソ親父と同世代や少し上の術師連中は俺を積極的にイジメていたのはそう言う事も有ったのかもしれない。


 俺は不義の子と言う扱いで同時に嫡子だったわけだ。そりゃイジメられるし力が無いと分かれば扱いもより酷くなるはずだ。


「なるほどな……それであの女は俺が金の卵だと思ってたら実際は、みにくいアヒルの子だったと、だから勇牙にあそこまで過剰に愛情注いでたり俺を排斥しようと涼風家まで巻き込んだのか……」


「そうみたいなの、だからレイ君に個人的に謝りたいと思ってね……我が家の涼風の一門がご迷惑をおかけしました」


 そう言って椅子から降りて土下座しそうなのを慌てて止めて何とか簡単な謝罪だけで済ませて欲しいと言って座らせた。俺にちゃんと謝った人間なんて久しぶりに見た気がした。


「いや、それ言うなら俺とクソ親父がご迷惑を……あと謝ったとは言え琴音ちゃんには悪い事したね。帰国してすぐで余裕が無くてな、つい倒しちまった」


「良いのよ。あの子は自信家で向こう見ずな性格だったからね。ちょうど良い薬よ」


 そうして話している内に今度は術の話や俺の近況など聞かれていた。一方で偶然にも八年前を回想していたのは俺達以外にも居た。それは遠く英国での事だった。





 八年前と三年前どちらも衝撃的だったのを今でも思い出す。八年前、お慕いしていて最近、見事に失恋した相手が追放されたのを知った時だ。与えられたベッドの中で横に寝ている妹を見ながら私、水森氷奈美は八年前を思い出していた。


「黎牙さんが、どうしてですか!? お父様!!」


「仕方なかろう、あの刃砕が決めたのだ……」


「な、なら、家の子になってもらえば!! そうです、そうすれば!!」


 当時なら絶対に不可能な事で私は普段は滅多に出さないくらいの大きさの声を出していたと後から父にも兄にも言われていた。そして、この時にこの場に清花はおらず乳母に寝かされていた。


「無理を言うな、氷奈美、師匠……いや黎牙さんが望むとは思えない」


「お兄様こそ!! 黎牙さんが日本にもう居ないんですよ!! 黎牙さん……それにあの子との約束が……え? あの子って……?」


「ええい!! これは仕方ない事なのだ!! 極めて高度な四大家の長の判断だ。氷奈美、お前如きが口を挟む問題ではないっ!!」


 その時はなぜか冷静だった兄と聞く耳を一切持たない父を前に私は何も出来ずに、言い返そうとしたら違和感が先に走り、結局動く事が出来なかった。


「記憶を封じるなんて……アイちゃん、あなたはどれだけ黎牙さん、いえ、レイさんを信じていたのですか? 私にはたぶん……」


「うみゃ……私がぁ、いちば~ん」


 横で無邪気に妹が夢を見ている。羨ましい私も出来るなら幸せな夢を見たかった。見ていたかった……。少し泣きながら私もまた眠り夢を見る。その夢の中で私は想定外の人物と再会を果たす事になる。





「おかしい、姉さんの考えた卑怯な作戦ならそろそろ黎牙兄さんと私は仲直り出来ているはずなのに……」


 私、炎央院炎乃華は現在、親友の涼風琴音と近くに居た元世話役の里中流美を捕まえて作戦会議をしていた。


「う~ん、最近見てて思ったんだけど、そもそも黎牙さん、いやレイさんは怒ってると言うよりも厳しくしてるだけな気がするのよね」


「違うよ、きっと許してくれて無いんだよ……どう思う流美?」


「何とも言えません……黎牙様は非常に温厚な方でした。しかし今のあの方は全然違います。まるで真逆で……あの方は変わられたのです」


 昔の黎牙兄さんはとにかく優しかった。私や勇牙に戦闘術の基礎を叩きこんでくれた時、私が十歳になって火影丸を手に入れた時なんて自分のことのように喜んでくれていた。


「でも、神器を私が手に入れてから関係が……」


「嵐野家の人だったなんてね、炎乃華の伯母さん。楓姉ぇ達も知ってたみたいだけど……って、それよりも勇牙くんの事はいいの炎乃華?」


「そうです炎乃華様、これではやってる事が炎乃海様と同じです」


 そう言われて私は少し考えた。確かに対外的にも家中でも私達は許嫁の関係だが私は勇牙を男として見た事を実は一度も無い。幼馴染の一つ下の弟みたいな感じだ。


「う~ん、でも……私って勇牙を弟のように思ってたけど……」


「この間のは酔って出た発言かと思いましたが、さすがにそれは……」


 だけど私は勇牙を許嫁としては大事にしてきたけど、それはあくまで黎牙兄さんに大事にしろと言われていたからという面が強かった。


 大事な幼馴染だし今まで一緒に頑張って来たけど色々考えると異性としては考えた事は無かったと気付いた。


「あの、さ……炎乃華さすがにそれはマズいわよ……仮にレイさんが何かの偶然で奇跡的にも炎央院家に戻ってくれても今度は勇牙くんが孤立するでしょ? その炎乃海さんの計画ってのはさ」


「大丈夫だよ、黎牙兄さんはそんな事はしないもん!!」


「いや、そうじゃなくて……う~ん、炎乃華さ。あなたって思った以上に子供だったのね……」


 なぜか呆れられたが私は今度こそ間違わないように自分の気持ちを正直に伝えようと思っている。その先に間違いなく良い事が待っていると信じて確信していた。だって八年前に私は後悔したから。


「あの後に八年前、部屋で別れた後に黎牙兄さんはすぐに荷物をまとめて家を追い出されたけど、楓果伯母様や炎乃海姉さんから事前に翌朝に家を出るって聞いてたから、そこで演技だって言おうと思ってた。手紙だって用意してたし……でも、そのまま行っちゃった」


「はい、全てはあの二人の計略通りでした。より正確には楓果様と見て見ぬ振りをした炎乃海様と言う立ち位置でしたが……」


 しかし文句を言いに行っても件の風聖術の奥伝『風の囁き』で簡単に操られた私は黎牙兄さんを追放した事に違和感を持たなくなっていた。しかし違和感に無意識に抵抗し、それが爆発したのが空港での戦いだった。


「それでもその後に何回か楓果さんと会って術はかけられてたんでしょ? 油断し過ぎでしょ?」


「でも私達の姉妹の母親代わりの人だったし……色々と指導はしてもらっていた人だったから、そう言えば楓果伯母様が封印牢から雑居牢に移されたらしいね流美……大丈夫なのかな?」


 また操られたり変な刷り込みでもされたら怖い。現にあの日だって黎牙兄さんと真炎が気付いて無ければあの断罪式の最中に私が黎牙兄さんに襲い掛かると言うものをかけられていた。そして私達姉妹とさらには、お父様を陥れようとしていたのが楓果伯母さんだった。


「恐らくは問題無いかと……黎牙様の会社が開発された術師を縛る装置を付けられて隔離されているそうですので……」


「そっか!! さすが黎牙兄さん!! 琴音、やっぱり黎牙兄さんは凄いんだよ!! 私も頑張って真似したけど全然ダメだった。それをこんな鮮やかに家を建て直してくれようと頑張ってくれて……カッコいいよね~!!」


「う~ん、これって恋は盲目って奴なのかしら流美さん?」


「琴音様、恐らくは炎乃華様は初恋と憧れとをごっちゃにしています。もっと早くに学んで頂きたかったのですが、これも炎央院の家の教育のせいです。側役として恥ずかしいばかりです」


 なんか二人で色々言ってるけど、私はもう間違わない。八年前とは違って素直に生きて今度こそ皆で平和なお家再興を目指すのだと息巻いていた。


「ふ、不安です……どうすれば良いのでしょうか……黎牙様……」



◇ ――――英国サイド



「うん……ここは?」


『ここは分かりやすく言えば夢の中かな? 久しぶりヒ~ナちゃん?」


「えっ、あなたは……アイ、ちゃん?」


 ここは夢の中、私は夢を介して何とかヒナちゃんの意識と通信を繋ぐことが出来た。聖霊力の残りも少なく、ここ最近は大量に消費してしまったので限界に近い。だから近くに来てくれた親友で、光の巫女の直系の水の巫女に急いで大事な事を伝えたかった。


「でも、アイちゃん、貴方はもうすぐ復活するんでしょ?」


『う~ん、一応はパパもママも頑張ってくれてるけど期限があと二ヵ月なんだよね……ヒナちゃんが持ってきてくれた『草薙の霊根』あれが意外と難しいのよ』


「そっか、私も実家に自生してるくらいしか知らないし、妹にも協力はしてもらってるけど……」


『このまま私の聖霊力が尽きたら今度こそおしまいだって言われてるから、だからヒナちゃんが来てくれて助かったんだ』


 最近のレイは色々と落ち着いているようだけど私のお節介も聖霊力不足でそろそろ限界だ。だから残った時間で出来ることを考えていた。


「私に出来るのなら喜んで、取り合えず今日の事はレイさんにお伝えしますね?」


『それは、しなくて大丈夫。でもその代わりなんだけどね……もし、私が消えてしまった場合にレイを支えて欲しいの……』


「それは……何を弱気な事を!! あなた、レイさんと……黎牙さんとやっと結ばれて!! それを今さら何を!!」


『言ったよね? レイが困ったら二人で支えよう、助けようって……もし私がダメになったら後を任せられるのはヒナちゃんしか……いない』


 こんな事を頼めるのは私の眠ったベッドの前で私の大好きなレイを思って泣いてくれた彼女だけだ。実家の人達は思った以上に酷かったので論外だ。


 一応は英国まで来てくれた流美さんは色々と私も事情を察してはいるから許せるのだが……それでも頼りない。やはり最後は親友しか任せられない。


「それほどまでに困難を極めているのですか?」


『う~ん、ママ……母さんが上手い事、隠してるから分からないけど私がこのタイミングで目覚めてないのが難航してる証拠かな?』


 だからレイが一人にならないように、私を失ったレイが自暴自棄にならないように、これ以上悲しまないように誰かが代わりを務めなくてはダメだと思い、私は自分の代わりを探していた。


「なるほど、よ~く分かりました。お断り致します!!」


『うん、ありが……って、ええええええ!! ヒナちゃん? レイの事好きでしょ? 昔からずっと……だから』


「ええ、ですから好きな方の幸せをお祈りするのが私の生き方です!! そ・れ・に私の代わりを永遠にしろだなんて、暫く寝ている内にアイちゃんは随分と高慢になられましたのね? そんな事を言うなら八年前に諦めていれば良かったのです!!」


 でも他に方法は無いし、今近くにいて通信が出来る内にレイの事をお願いするしかないと私はそう考えて何とか連絡を取れたのにと思っていたら返って来たのはヒナちゃんの怒声だった。


「笑わせないで下さい。親友から想い人を、大事な人を寝取るほど落ちぶれてはいませんわ!! それに、そんな弱気でどうするのです!! あなたは私に勝ってレイさんと結ばれた。なら戻って来る事を第一に考えなさい!!」


『でも……私、本当にどうなるか……』


「どうにかなってから言いなさい!! 情けない、貴女とレイさんの八年間はそんなに軽いものでしたか? 羨ましい、さぞ上手くやったんでしょうね!! あなたは昔から器用でしたものね!?」


 そう言って私に向かって怒鳴る彼女の目には涙が浮かんでいて、同時に怒ってくれているのがハッキリ分かった。


 私のために本気で怒っている。そして励ましてくれていた。そこまで言われて私が思い出すのはレイの追放された後の英国に辿り着くまでの日々だった。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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