第52話「追憶と不穏の兆し」
※光の継承者の投稿について
平日二回にします。よろしくお願いします。
◇
家に戻ると炎乃海姉さんがまた料理を作っていたが俺は食べて来たのでそれを断り自室に戻る。ちなみに流美に言われてからは炎央院家内でも索敵を今まで以上にしていたら部屋の中で勝手に炎乃華が待っている気配が有ったので、先に衛刃叔父さんの部屋に行き明日から職務に戻る話をしに行く事にした。
「と、まあ、そう言う訳で色々と三日間の休暇も終わりましたので明日からまた叔父さん達の手伝いに戻ります」
「そうか、エレノア殿からも聞いたが改めて休暇はちゃんと過ごせたか?」
「まあ二日くらいは潰れましたけど今日は良い一日でした。それと俺の部屋に勝手に入るのは止めるように炎乃華に言っておいて頂けると助かります、さっきも勝手に入ってたんで、嫁入り前の、それも次期当主の許嫁があれでは……」
確かに以前のような関係に戻るのは難しい関係だが、それでも俺は関係の改善は望んでいる。だからキチンと妹のような扱いでは有るが次期当主の許嫁の自覚も持たせなくてはいけないと考えている。
「そうか……ふむ。何か最近は娘たちが良からぬ事を考えていると噂も聞こえて来てな……注意しておこう。何より勇牙に悪い、それに君の二の舞は避けねばな?」
「え? はぁ……それと最近は勇牙をあまり家中で見ないのですが……」
どうにも最近は特に影が薄い勇牙、あいつは俺の弟であると同時に次期当主で嫡子だ。炎乃華の影に隠れているがあいつもそろそろ自覚を持たせないと俺が帰った後に差し障る。せめて勇牙の地盤を盤石にして帰りたい。後で面倒は御免だからだ。
「確か君の言い付けを守ってクリス君と鍛錬をしていると聞いたが?」
「え? ああ、そうかキチンと伝えて無かったな……付き合うのはあの日だけで良かったのですが……」
またクリス君か……よく考えたら衛刃叔父さんと令一氏も旧知の間柄でライバルと聞いたし、あの二人も日頃から仲良くさせて有事の際は協力できるようにはすべきだろう。少なくともイマイチ内部関係が分からない岩壁の家の事情を知れるチャンスでは有るのだ。
「ああ、そうだ。清一を探しているのですが、居場所はご存知でしょうか?」
「彼なら先ほどまで兄上と手合わせをしていたから道場だと思うが?」
それを聞いて簡単な雑談をした後に道場に向かう。記憶が戻った以上は清一と話さなくてはいけない。ひなちゃんが怒っていた理由も分かってしまったからだ。まさか結婚相手が彼女の親友だと言わないで、さらに半分忘れていた状態で結婚なんてしていたら友達思いの彼女が怒るのも無理は無い。結婚の知らせくらいは先にしておいて欲しいと思ったに違いなかっただろう。
「色々とひなちゃんには礼を失してしまったからな……」
「いや、それは……氷奈美のために逆に言わない方が……」
「なんでだ?」
俺はすぐに道場にいた清一と他一名を見つけると、他一名がいきなり勝負と言って襲って来たのでレイアローを三発撃って道場の隅に吹き飛ばして処理して清一と向き直って話をしていた。五分ほど立ち話していたらまたクソ親父が復活しそうだから俺達はすぐにその場を逃げ出した。
「ぐっ、まだだ……まだっ……」
「また頑丈になってる……あのクソ親父、本当にどうなってんだよ……ま、生きてるなら大丈夫だろ、行くぞ? 清一!!」
「えっ、う~ん……では刃砕様、失礼致します!!」
未だに俺の部屋で待ち伏せしている炎乃華への対策のために今日は清一の部屋に行く。二人で話したい事も有ったがまずは結界をヴェインに張ってもらうと俺はPLDS通信で即座に英国に繋いだ。向こうの時刻は大体正午過ぎだ。
◇
『はぁ~い、こちら英国本部よ? レイ、それにもう一人はどなた?』
「初めまして!! レイ師匠の弟子の水森清一です!!」
通信に出たのは本社付けなのにサラ義母さんだった。普通は本社付きのオペレーターが出て呼び出してもらうのに、それに互いのPLDSなら直通になるはずだ。
「サラ義母さん? なぜオペレーターを? 何か不測の事態が?」
『ええ、ここ数日の間に本社と私達の研究施設が襲撃されてね。幸い術士もアフター世代ばかりだし、何より四卿はそちらだから問題は無いわ。ただ頻繁に攻撃を受けていて、だから人手不足で私もオペレーターをしているのよ』
なるほどと事態を把握すると俺はすぐに氷奈美か清花を出して欲しいと頼んだPLDSは光位術士専用の通信端末だから光位術士じゃないと使えない。だから本社の共用端末にアクセスしたのだ。ここに呼び出してもらえば確実だ。
『ええっと、分かったわ。じゃあ今から送る端末番号に連絡を、その持ち主と一緒に居るから。じゃあ通信を切るわね? 近い内に会いましょう?』
急いでいたようで通信はすぐに切られた。英国も中々に厳しい状況のようだ。だからこそ朱家にまで援軍を頼んだのだと今更ながら理解した。
そして贈られて来た端末番号に即座にアクセスすると通信に出たのは予想外な人物だった。
「こちらレイ=ユウクレイドル。通信よろしいか?」
『レイさん!! やっと来たぁ!! 姉さま~!! 通信来たよ!!』
「ちょっ!? なんで清花さんが!?」
色々と頭が混乱している。まずは向こうに渡った清花さんがなぜか出て来た事、そしてこれは光位術士の聖霊力と連動して作用する端末だと言う事、そして彼女の着ている服が俺たちの隊服と同じだと言う事だ。これではまるで……。
『ふふん、私、水森清花は今はL&R社の特別研修社員で、光位術士なんです!!』
「はっ!? ちょっと……清花さん、まさか!?」
『はいっ!! 覚醒した力は水聖術ではなくて光位術だったんです!!』
「そうか、ははっ、おめでとう!! 本当に……良かったね!!」
自分の事のように嬉しくなる。だって彼女は俺と同じ、状況次第では俺よりも悪い扱いを受けていたかもしれなかったからで、その彼女が俺と同じ光位術士になれた事は素直に嬉しくて軽く感動していた。
「おい!! 清花!! お前、つまり師匠と同じ力を!?」
「そう言う事、まだレイブレードしか使えないし、使っちゃダメってフロー先生にも言われてるんだけどね? あっ、来た来た、じゃあレイさん、それと兄さん覚悟しておいて下さいね~?」
それだけ言うと端末から少し離れた清花さんと入れ替わりでニコニコとしながら目が絶対に笑っていない、ひなちゃんが現れた。
『お久しぶりですね。レイさん、兄さま?』
「「はい……」」
『私が言いたい事分かりますか?』
「ああ、だが言わせて欲しい、アイリスの、いや愛花の記憶はつい先ほどまで封印されていたんだ。これは――――『知っています!! それはサラさんから伺いましたので、光の巫女の光聖神の力の余波と聞いていますから』
え? じゃあ他に何が有るんだ? 思わず清一と顔を見合わせるが当然分からないと言う顔をしている。
『強いて言うなら八つ当たりです!! 独り相撲してた私がバカみたいなので!! 清花!! 例のものを!!』
『は~い』
そう言ってボトルを取り出していた。それをグラスに注いでいた。琥珀色のキレイなスコッチウイスキーだ。そしてそれを一気にあおった。
『今日は、リモート飲み会ですっ!!』
「「えぇ~」」
面倒な事になってしまった。だが部屋には戻れないし、食堂で大量に余っていた炎乃海姉さんの料理の一部を回収し、ついでに酒も厨房で都合してもらって戻ると既に氷麗姫は出来上がっていた。
『お待ちしてましたぁ~!! 待つのはぁ、女の甲斐性!! で・す・が、あまりにもアイちゃんがかわいそうれす!! それに私もかわいそうなのれすっ!!』
『二人とも諦めて下さいね~。私も諦めてるんで、あと私もこっちではお酒飲んでOKなので飲んじゃいますね!!』
「お、おい、清花!! まだ未成年――――『こっちでは大丈夫なんです!! あと二年待つつもりでしたが……ふふっ!! 苦ぁい……』
ま、そんなもんだろう、ちなみに清花さんが飲んでいるのはビールだ。ひなちゃんがスコッチの瓶を手放さないので仕方なくビールを飲んでいるらしい。そして水森家とプラスアルファの四人でのリモート飲み会が始まった。
その飲み会はいきなりグダを撒く氷のプリンセスに俺たちは終始圧倒されっぱなしだったと言っておこう。ちなみにこの日は久しぶりに良い酒の席になったので俺は清一の部屋で一緒に雑魚寝してしまった。
◇
「貴様はたるんでいる!! ホノカ!! 今日は最後まで私がマンツーマンでしごいてやる!! 幸いにも継承者様も休暇が終わったから手は足りているからな、まさか継承者様の部屋に勝手に入りそこで眠りこけるとは!!」
「違うんです~!! やましい事は何もしてないんです~!! ただ少~し待ってる内に寝ちゃって……黎牙兄さん助けて~!!」
朝からエレノアさんに引きずられて行く炎乃華を尻目に食堂に入る。今朝は珍しく寝坊している炎乃海姉さんや流美などが気になったが、仕方ないので学校に行く真炎と一緒に朝ごはんを用意しようとしていたら、いつの間にか俺の分まで用意されていた。
「君は……感謝する」
「いえ、失礼致します……」
前に流美が居ない時に俺の朝食を用意してくれた少女だ。顔は知らないから俺の追放後に入った子なのだろう。少しビクビクしながら給仕をしていたから何となくは俺の素性は知っているのだろう。
「面白い人だね?」
「俺は巫女じゃないからそこら辺分からないんだけど?」
「べっつにぃ~!! じゃ、行って来ま~す!!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
朝食を終え真炎を玄関まで送るとやはり気配がして振り向くと先ほどの子だ。少し気になったが今日は他にもやる事が有るので俺は早々に部屋に引き上げる。調律の指導に結界修復の具体案と、やることは山積みだった。
◇
午後は簡単に昼食を食べ終え流美たちの指導を軽くした後は炎乃海姉さんと結界の修復の話をするのだが、なんか距離が近い。
「あの、炎乃海姉さん? 距離が近いんですが?」
「そうかしら? これくらい普通の距離じゃない?」
そう言うものなのか? なぜか隣にピッタリくっ付いてるし、追放前よりも距離が近く、無駄に香水もキツイ。
まだ初夏なのに無駄に薄着だし、そもそもこの人って家の中では着物だったのだが……そんな事を考えていると別な気配が近付いて来た。
「たっだいま~!! レイおじさ~ん!!」
「くっ、もう帰って来るなんて、こんなに早かったかしら?」
「おかえり、あのさ……自分の娘が帰って来て第一声がそれかよ……」
「う~ん、でも今さら母様にはそう言うの期待してないし~」
なんだこの冷めた親子関係、さすがに引くぞ……ここは仕方ない。炎乃海姉さんも変な感じだし親子関係の修復に協力した方が良いだろう。
そう考えると俺は素早く流美に聖霊間通信でお茶の用意をさせて四人でお茶をしながら休憩を取る事になった。
◇
そんな感じで一日が終わると俺は部屋の結界を、あえて張らずに待機していた。ちなみにヴェイン、スカイ、レオールさらにアルゴスも全員を呼び出して来るであろう人間を待ち構える。
「さて、何が出るか……」
俺が寝た振りをしていると部屋の障子戸が静かに開かれる。一応はこの部屋には俺が作ったものでは無い炎央院家の結界が張られていて、見回りの者も巡回している。
そもそも、この家で本家の人間や客人に無礼を働くのがどう言う事なのか家中の者は全員が理解しているだろう。
「こうしなきゃ、私は!!」
「どうなるんだ?」
俺の寝ていない布団に短刀を突き刺していたのは俺の給仕をしていた少女だった。
「えっ!? なんでっ!?」
「炎聖師ですら無いとは……結界が解かれているのにも気付けて無い……君は一体何者かな? 二度、俺とは会ったよな?」
「そんな……だって食事に……」
「光位術には浄化の力が有る……一服盛るくらいは受けると思って行動くらいするさ、これでも逆恨みされてる自覚は有るからな?」
一回目は気付かなかったが真炎と俺の食事に明らかに違いが有ったから二回目は気付いていた。しかしそれは無駄な事だ。
光位術士のそれも光の継承者たる俺に毒や呪いの類は効かない。光聖神の守護が有るからだ。
「別に、恨みは無いけど……私がしなきゃ家が取り潰されるから……」
「取り潰されるね……本家の客人に手を出したらどうなるか分かってるのか?」
そこで改めて月明りに照らされた少女を見ると肩にかかるくらいの黒髪と口元にホクロが有るのに気付いた。
だがそれだけで目の前の少女に恨まれる要素など欠片も無い、そもそも会った覚えすら無いから目の前の少女は暗殺者と言った所だろう。だが俺に術師ですら無い人間を差し向けるとはどう言う事なんだろうか。
「そんな体裁、もう主流派には残されてないんですよ……」
「主流派? ああ、あの女とクソ親父の派閥か……」
そう言えば派閥争いとか有った。ちなみに今の炎央院の家では衛刃叔父さんの派閥が一番幅を利かせている。前提として炎乃海姉さんが何か悪さをしていなければの話なのだが……。
「話す気は有るのか? えっと、名前は?」
「はい。志炎美那斗と言います」
「じゃあ美那斗ちゃんに一つ忠告だ。暗殺対象に自己紹介はしないようにな?」
ハッとした顔をした後に顔を背けるのを見ると意外と天然だ。どっかで見た事有る感じだが今は置いておこう、それより気になる単語が出た。
「それにしても志炎家……大助さんの家の者か……」
「はい、私は、あなたがほぼ再起不能にしてくれた志炎大助の姪です」
日本に戻った俺を襲って来た炎央院の十選師その三位の志炎大助。有る事が起こるまでは俺にも割と優しく接してくれていた術師だ。だから再会時はつい昔のくせで敬称を付けていた。
「手加減はしたのだが……」
「心が折れて術の行使もままならない……今は廃人状態ですよ? おまけに我が家の家宝まであなたに壊され我が家は十選師から除名、今や七選師ですからね」
七と言う事は三つも家が除外されたのだろう、どうして潰れたかは何となく予想がついてしまったので先を促す。
「衛刃様のご命令で積極的に加担した火津路、火乃井、志炎の三家は除名、降格処分です。それで私の家は一矢報いるために、《《炎央院黎牙》》を亡き者に――――」
その名を聞いた瞬間に久しぶりにイラっとした。どうしてだろうか?
それは身内以外から呼ばれたからだろう。この時点で俺はどこかで炎乃華たちを許してしまっているのだと心の中で忸怩たる思いも燻って目の前の少女を軽く恫喝していた。
「はぁ、次に俺をその名で呼んだら五体満足でこの部屋から出られると思うなよ……あっ!? 悪い、ガキに何を言ってるのやら。忘れてくれ」
目の前の少女、美那斗がプルプル震えだして泣きそうになっている。よく考えたら炎聖師でも無いのにこんな事をさせられている少女に当たるのは間違っていると思って彼女を見ると様子がおかしかった。
「はぁ、はぁ……せめて最後は役に立てればと思ったけど、それも無理なら……こうするしか!!」
パリンと彼女の持った短刀が折れた瞬間、いきなり目の前の少女の聖霊力が膨れ上がった。否、暴発していた。
「これは……『災厄』なるほどな……無能より性質が悪いな。爆弾代わりかよ!! ヴェイン!!」
災厄は無能より悪いのが正に目の前の少女の典型だ。暴走し聖霊力が暴発する。そして辺り一帯に災厄を撒き散らし最後は自爆する。
恐らくは先ほどの短刀が封印用の武具だったのだろう。しかし、この程度の爆発では俺に傷一つ付かない。つまり無駄死になる。
「これも俺の行動の結果なら……え? この子……いや、まさかな……ヴェイン!! オーバーロードさせる!! レイフィールドで圧をかけまくれ!!」
聖霊達に指示を出し俺自身もグリム・チェインで彼女の両手両足を縛った。そして徐々に力を奪い最後は力を完全に吸収させた。ヴェインの結界で一切バレずに処理は終わった。
「ま、これで良いか。少し力を使ったが問題は無い……だがコイツをどうするか……取り合えずは明日の朝一で考えるか……」
俺は聖霊達に指示を出すと眠る事にした。どうせ数時間で起きるから問題は無い。もう一度グリムチェインを美那斗にかけると俺は眠った。
◇
これは夢だとはっきり分かる光景だ。目の前の少女は未来の妻のアイリスこと愛花だとハッキリ分かるし、残りの二人は幼い頃の清一と氷奈美の二人だ。
大体この四人で集まると最初は俺と清一の稽古から始まり、途中から公園のベンチでの俺が講義をするのが通例だった。
毎回その時間は清一は眠りそうになっていて、愛花とひなちゃんが俺の話を聞いてくれていた。
「つまり、これからの術師には高度な指揮系統と戦術判断が――――」
「これからは、《《たくてぃかる》》な発想が、ひつよーなんですね黎牙さん?」
この当時からひなちゃんは賢かった。俺より年下なのに話に付いて来ていて俺は家であまり話せなかった夢を話せて嬉しかった。
「その通り!! ひなちゃん!!」
「でも、それって、えんお~いん君がよわっちぃから、そう言ってるだけだよね?」
ちなみに今の辛辣な一言を放ったのは俺の未来の妻である。自分で持って来たポッキーを、ひなちゃんと齧りながら俺を見て言う。
当時は遠慮を一切知らず再会時のお淑やかさや、気遣いさなどは皆無で本当に子供だった。
「うっ……そ、それは」
「アイちゃん……本当のことを言い過ぎです!! あっ……」
「別に、えんお~いん君はそのままで良いのに。私が全部助けてあげるのに」
その二人の言葉にショックを受けた。俺はこの少し前に怪我を治してもらった事から彼女が只者では無いのが分かっていたから尚更、反論が出来なかった。
ちなみに、ひなちゃんはこの時はまだ術は使えていなかったが、この次の年には契約を終え俺だけが術を使え無い状態になる。
「やっぱり、強くなるしか……」
「そんなの気にしなくても良いのにね~強さが大事だなんて思わないもん」
当時の焦っていた俺にこの一言は効いた。だから思わず彼女が気にしている事を、コンプレックスを揶揄してしまった。
「ま、白髪なりかけの子に言われたくないけどな~! お婆ちゃんになるの早いかもね~?」
「うっ、こ、これは……だって、病気だって……」
この時アイリスこと愛花の髪は銀髪混じりになり始めていた。実は光の巫女の力の発現する準備段階の現象の一つなのだが当時の俺はそんな事は知らず、大人が白髪を気にしていたのを思い出し目の前の少女をやり込めた気になっていた。
「そんなの聞いた事無いけど? ろ~かが早いだけだろ?」
「ちっ、違うもん、私、おばあちゃんじゃないもん!!」
「どうかな~? ひなちゃんの方が、お淑やかで女の子らしいし、綺麗な髪の毛してるもんね~?」
そう言ってさらに煽る。本当に子どもだった。図星を指されて言い返すなんて今なら絶対にしないが当時の俺も子供で抑えが効かなかった。
「えんお~いん君のバカああああああああああああ!!!」
「あっ、アイちゃん……黎牙さん、アイちゃん気にしてるのに……酷いです」
「別に、本当のこと言っただけだし……さ」
だけど当時の俺は彼女の聖霊力の抑えきれない余剰分が髪を銀色に変えていたなんて知らなくて、心が不安定になっていたなんて知る由も無かった。
ただムカムカして言い返す事しか考えられなかった。そのタイミングで幸か不幸か俺の意識は目覚めようとしていた。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
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