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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第二章「彷徨う継承者」編
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第51話「本当の出会い」


Side ――氷奈美


 英国に来て驚いた事はたくさん有りました。日本を立ち妹の清花と二人で見知らぬ土地、言語も不自由な場所での生活に若干の不安を覚えていました。


 しかし黎牙さん、いえ、レイさんに任された大事な使命を果たすため、何より私のライバルとなる方の顔でも見ないとやってられないと思い私は英国行きを決めました。


 しかしこの時に既に負けていたなんて私は思ってすらいなかった。どこかで小さい頃の想いや絆が、ポッと出の女になんて負けないと自信を持っていた。


「英国は、やはり数段は進んだ術が生み出されているのですね?」


「そうだよ!! 凄いよ!! 姉さま!! この聖霊学の応用の薬も……さっき渡した『草薙の霊根』も専用の水だけじゃなくて疑似的に水聖師の波長を合わせる器具まで!! 凄過ぎる!!」


「はいはい、落ち着いて清花? 興奮し過ぎよ。まずは今の素材について簡単に話して貰いたいの、レイの義理の両親、つまりアイリスの両親にね?」


 ターナーさん、本人からはフローと呼んでくれと言われたメガネ美人に声をかけられハッとする。隣の妹は目の前の方に色んな意味でゾッコンだった。


 それにしても向こうの義理の両親ですか……本人が昏睡状態らしいので仕方ないと言えば仕方ない。出来れば本人をお見舞い名目で顔でも見てみたいと言うのが本音だった。


「姉さま?」


「分かってるわ。今は……」


 そのまま案内されて私達は待合室に先に居た男女二人と会見した。


「初めまして水森家のお二人ですね。私はサラ=ユウクレイドル。レイとアイリスの母です。今回は娘のためご足労頂き感謝致します」


「日本語!? それに、あっ、失礼致しました。お初にお目にかかります。水森氷奈美です」


「妹の清花です。どうぞよろしくお願い致しますわ」


 そして一人座っていた人間、サラさんに紹介されたヴィクター氏が鷹揚に頷いた後に立ち上がり英語で挨拶した後に気付いたようで聖霊間通信に切り替えて挨拶をされた。


「ヴィクターだ。よろしく頼む、お嬢さん方? 早速で悪いんだが草薙の霊根の特徴を知りたい。すまないが質問に答えてくれ」


 その後は同席したフローさんと五人で意見交換と簡単な雑談をしてその日は終わった。そして、そんな中で私は約二週間ほど『調律』と言う処置を受けていた。一方の清花は別な処置『矯正』を受けていた。





「おかしいわ『矯正』の手順は間違ってない……なのに水聖霊が近寄って来ないなんて……」


「やっぱり私じゃ……聖霊使いになれないんでしょうか……フロー先生?」


「いえ、聖霊力は溢れてるからあとはトリガーとなる聖霊との契約が必要なだけなのよ……おかしいわ」


 どうやら隣の清花は苦戦しているようだ。一方の私もコーチに付いてくれた二人の水聖師、男性はリロイ=フォーサイスさん、女性はアウローラ=シャーウッドさん。


 リロイさんは私と同い年でアウローラさんは二つ年上、つまりレイさんと同い年だ。最初は二人のレベルが圧倒的に高く挫折しかかったけど徐々に追いつき始めた。


「凄いわヒナ!! これは近い内にリロも抜かれそうね?」


「アウラ、まだ俺の方がヒナよりも……でも凄い成長速度だ……」


「お二人の指導の賜物ですわ。特に最近はリロさんは夜遅くまで指導してくれて感謝致します」


 軽く汗をかきながら実戦形式から力の込め方、根底から日本の術の発動の効率の悪さを学ばされた。かなり無駄が多く相当に簡略化も出来る事がわずか数日で思い知らされた。


「あっ、いや……そうかな?」


「そうです。少しでもレイさんのお役に立てるように頑張らなくては!!」


「継承者さま……ですか」


 継承者、つまりレイさんの話題を出した瞬間にリロさんは複雑な顔をしていた。おかしい、この国ではレイさんは英雄な筈ですし、気になって聞いてみるとアウラさんが代わりに答えてくれた。


「リロさん?」


「あ~、リロは、継承者様とは色々あってね……ここまで話したらあれなんだけど、リロのお姉さんってレイさんの部下だったのよ」


「えっ!? そうだったのですか!? ぜひ一度お目にかかりたいです!!」


「……っ、無理なんだ、ミラ姉さんは……任務で、命を落としたんだ……」


 後になって知ったがレイさんの部下、その内の一人がリロさんのお姉さんのミラさんで継承者付き光の巫女救出チームで、期待のエリート術士の一人と言われていたそうだ。しかし、その当時の部下はミラさんを含め闇刻術士との戦いでレイさんを除き全滅した。


「すいません。私……」


「ヒナは悪く無い……継承者様だって、あそこまで変わって……最初は恨んだけど、継承者様の……レイ様の怒りは俺なんかを遥かに超えていて、怖かった」


 そこで私は日本での指導をしてくれた優しいレイさんと闇刻術士を相手にした時の差を思い出していた。


 苛烈なまでの戦闘能力とガムシャラな戦闘、あそこでジョッシュさんとフローさん達が来てくれなければ私もレイさんも無事には済まなかった。


「やはり、継承者様は、今でも……俺、謝りたかったんですレイ様に、葬儀の時に、姉さんを返せって……術士としての義務も継承者としての重みも知らずに、でも、あの人は俺や家族一人一人に頭を下げて何言われても言い返さないで……俺っ……」


「リロさん……」


「ま、リロはお子様だったからね? ミラ姉さんも、その恋人のジェイクさんも二人とも継承者様のために戦えたんだから……」


 そんな事を話していた時だった。隣で悲鳴と一緒に爆発的な聖霊力が解放されていた。その中心に居たのは清花で手からは光の刃が現出していた。


「うっそ~!! これってレイさんと同じ!?」


「ええ、そうよ……あなたは水聖師では無かった……私達と同じ光位術士だったのね……さすがね? ジョッシュ?」


「だって、この流れ二回目だしな。レイと同じだ。炎聖師の修行して効果出ないから大人しく光位術士の課題を受けさせたら一発って、その後すぐに俺やフローを抜いて親父に勝っちまったからなアイツ」


「姉さま~!! 私!! 光位術士だったみたいです~!!」


 ブンブンとレイブレードを振りながら満面の笑みで術を解放している。良かった、家ではずっと窮屈な思いをしていたから東京に逃がした時も浮かない顔だったのを覚えている。良かったと心からそう思えた瞬間に今度は私にも変化が有った。


「うわっ!? ヒナ!!」


「ヒナ、これは……聖霊? 何なの!?」


 そこに現れたのは優美な髪の長い全身が青い水のような透き通った少女だった。否、少女の形を取った聖霊だった。


 しかし同時に思ったのは目の前の少女の聖霊の存在は有り得ないはずだ。なぜならそれは少女、つまり人型を取っていた。


「これって……凄い……聖霊力が……人型の聖霊?」


「それって水聖霊の聖霊帝!? レイの報告だと聖霊帝に守護されているのは……巫女しか有り得ない。じゃあ氷奈美が『水の巫女』だったの!?」


「フローさん……私……」


 その水の少女と対峙して私は焦っていた。全てを見透かされているような深い青の色に圧倒されていた。だけどそこに別な声が入る。


「心配しないで……それは契約聖霊とは違う守護聖霊よ。あまり違いは無いようだけどね?」


「サラさん……」


「大丈夫よ……自然と同調できるわ……」


 そう言ってサラさんに言われた通り落ち着いて同調すると、その水の聖霊帝は私の中に入った。今までとは違って格段に強い聖霊力と聖霊術が身に付いている。これならレイさんの役に立てるそう言った時にサラさんにも言われた。


「ええ、四封の巫女の一人は極めて重要な立ち位置よ。確かに、レイの役には立てるわね……でも、そう……ね。ちょうど良いわアイリスに会ってみる?」


「はいっ!! お願いします!!」


 私は意気揚々と新しい力を手にライバルである少女の病室に案内された。清花も光位術士になったので付いて来る事になった。


 どこかで私を心配していたのだろう。そして通された部屋で私は頭が真っ白になった。だってそこに寝ていたのは……。


「アイ……ちゃん? 愛花さん!? なんで?」


「そう、やはりあなたも日本でアイリスと会っていたのね? そして、その名は光の巫女が成長するまで、力が安定して自衛が出来る年齢までこの子を闇刻術士から隠すための名前だったの……」


 話を聞いている内に私は泣いていた。完全に私の敗北だと気付いたからだ。かつて親友と、そして恋のライバルと互いに言いながら急に居なくなった少女、それこそが愛花だった。そして私たちは互いに誓い合ったのだから……。


「そう、なんですね……私は、最初から……約束、しましたね……レイさんが困った時は必ず助けるって……私はすぐに動けなかった、いいえ、そんなの言い訳。その間にあなたはレイさんと……私の出る幕なんて最初から無かった……」


「あのっ、姉さま……この人は?」


「ふふっ、私の親友で……恋敵……だった子よ……清花、負けちゃった私……」


 そして私はサラさんから更なる真実を聞く事になった。これが私と清花に起きた英国での出来事だった。そして後で絶対にレイさんと兄さまには文句の一つでも言ってやろうと思っていた。





 俺は驚愕していた。写真を見た瞬間に今まで、もやのかかっていた過去の記憶が、幼い頃の愛花の、アイリスの顔がはっきり蘇って来たからだ。


「何で? どうして今になって記憶が……」


「あの子の、光の巫女の力で自分の想いと一緒にあなたの記憶の一部を封じさせられたのよ。光聖神の試練のためにね?」


 俺の疑問に答えたのはアイリスの祖母のユーリさんだった。アイリスとの記憶が有った場合、再会した時に継承者の判断が鈍ると光聖神が判断したと言う事だった。


「ですが、そこまでするのですか?」


「過去の文献では初代の継承者は記憶喪失にまでさせられたらしいわ。我らの神は色々とやり過ぎなのよ」


 納得はいかないが今はそれより大事な事が有る。それに色々と思い出して来た。まずは出会いだ。俺が11歳、その春休み、そこで俺たち二人は出会ったんだ。


「そうだ。最初はいきなり声をかけられてビックリしたんだ……」


「そうだったの? ま、あの子は病弱を理由に学校にも通わせて無かったから、私達が二人とも薬局に行ってた間に外には出てたようだけど」


「ええ、週に二回、二年間ですね……いきなり『騎士様なの?』って声をかけられたんです……そう、それが俺と彼女の本当の出会いだったんだ……」


 記憶が完全に戻った今なら分かる。髪と瞳の色が違うだけで間違いなくアイリスだ。


 今思えば英国でサラ義母さんに度々目移りしてたのは愛花に重ねていたからだ。目の前に本物が居たのに目移りしてればアイリスの機嫌も悪くなるわけだ。


「そう言えばサラ義母さんを三秒以上見つめるの禁止とか言われたな……」


 その後も二人とはアイリスと英国での思い出を話していた。英国へ行った後は、情報封鎖の観点から手紙のやり取りが多く年に数度の訪問もアイリスは来れなかったらしい。


「そう、コーヒーに手料理……女の子をしているようで安心したわ……それに、そう……あのレシピちゃんと伝わったようね」


「ああ、お前のアレか……フィッシュアンドチップスの照り焼きソース味」


 二人の話ではアイリスの得意料理の一つだと思ってたフィッシュアンドチップスに日本風の照り焼きソースをかけたものの考案者はこの人達だったそうだ。


 今思えば俺が日本に来てファストフードで最初に選んだのもそれが原因だった。


「それで初めて会った日に俺は――――」




――――12年前(当時、黎牙11歳)


 当時の俺は目の前の女の子を泣かせてしまった事で相当動揺していた。悔しくて一人で泣いたりした事は何度もあったが自分で相手を、しかも女の子を泣かせた事なんて無かった。


「ひっく……お姫様?」


「そっ、そうさ、お姫様、プリンセス!! そう言う女性は泣いてもすぐに平静を保つものさ!!」


「へ~せ~? しょうわ?」


 完全に口から出まかせなのだが当時の俺は目の前の少女を泣き止ませようと必死だった。さっきまでニコニコしていた少女をとにかく元気づけたい、そう思っていた。


「え~っと、平静ってのは……落ち着いた感じで、そう!! 落ち着いた大人な女性の事だよ!!」


「わたし、大人なお姫様?」


 それから週に二回、俺の唯一の心を許せる時間が始まった。当時の家中では流美と幼かった炎乃華と勇牙以外からは、ほぼ見捨てられていた俺にとって公園で愛花と、いやアイリスとの密会は救いで癒し、俺を支えていた最後の命綱に等しかった。それから俺はほぼ毎日公園に通っていた。彼女がいつ来るか分からなかったから。


「98,99,100!! よしっ、今日の鍛錬は――――」


「えんお~いんく~ん!!」


「っ!? き、君か……どうした?」


 この当時の俺は実家の高級布団よりも公園の木のベンチの方が落ち着いていたし一門や親戚と話している時よりも心が安らいでいた。


 この時から並行して始まっていた炎乃華への剣術指導もストレスの原因だったかもしれない。こうやって唯々諾々と俺は家中の雑事をやらされていた。


 そして学校ではせめていい成績を取ろうと頑張っていたおかげで成績は良く常に優等生だった。そうする事で必死に家で無能だと言う事実から目を逸らしたかった。でも疲れていた、苦しかったそんな日々の繰り返しだった。


「なにか悲しいこと有った?」


「え? いや、別に……」


「じゃあ、何でそんなに泣きそうな顔してるの?」


 まだ九歳の少女に心まで見透かされているようで恥ずかしかったし、泣くなんて男らしくないから俺は平気な顔をして言う。


「男はこんな事で泣くなんて軟弱なんだ……って父上が言ってた」


「ふ~ん、私は痛かったり辛かったりしたらすぐ泣いちゃうけどな~」


「それは君が女の子だからだ。私は、いや俺は男……だから」


 ついつい家での嫡子の口調が出そうになるけど、この子の前では私なんて形式ばった一人称は使いたく無かった。普段は母に、あの女に使うなと言われていた俺と言う言葉に自然と言い換えていた。


「かんけ~無いよ? 痛いなら泣けばいいのに。パパもママも泣くのは我慢しちゃダメって言ってた。我慢する方がビョーキもそーきはっけんが出来ないって言ってた」


「俺のは病気じゃ――――「病気だよ。ガンバリ過ぎ病と、ガマンし過ぎ病でしょ? あとは、カッコ付け病かな~?」


「なっ!?」


 途端に顔が真っ赤になって俺は木刀で素振りを再開したら彼女は木の枝を拾って来て横で俺のマネをし出した。


 俺の心の奥や本音それら全てを言い当てられて恥ずかしいと同時に少しだけ心が満たされて行って、どうして良いか分からなくなったからだ。それからも会う度に俺は自然と彼女に家の事を話したりしていた。


「そっか……厳しいお家なんだね……」


「いや、これも護国のため、力無き人々のためだよ。だから俺は強くならなきゃ、今はこんなんだけど今年こそは試練を突破して……」


「うん。頑張れ!! 応援してるよ……でも、えんお~いん君はガンバリ過ぎ病だからな~? 心配だよ」


 この当時から、こんな小さな時から俺は彼女に心配をかけていた。でも当時の俺は弱味を見せたく無くて、唯一の心許せる女の子にカッコ付けたかった。


 でも成果には何一つ繋がらなくて最終的に大怪我をして三週間療養する事になってしまった。そして次に会ったのは一か月後で再会と同時に彼女は大泣きしていた。


「良かったよぉ……嫌われてなくて……よかったぁ……」


「だ、だから泣かないでくれ、ちょっと胸と腕の骨にヒビが入って、両足が捻挫して、全身打撲で人前に出られなかっただけだから」


「じゅうしょ~だよぉ……そんなの絶対におかしいよ!!」


 それは確かに、今ならおかしいのは分かるんだけど当時の俺は色んな意味で考える事をしていなかったし、脳が拒絶もしていた。何よりこれくらいなら軽傷だと思うくらいには感覚が麻痺していた。


「いや、肩が脱臼しなかったし、今回は頭蓋骨が――――「こんどから!! 怪我したら必ずここ来て!! ぜったいに!!」


「い、いや……なんで?」


「私が治すから!! 今はちょっとしか出来ないけど!!」


 そう言って俺の病み上がりの体にフォトンシャワーの当時は弱い効果のものをかけていた。そうか、こう言うのをバラさないために記憶が改竄されていたのかと納得した。


 そんな事を目の前のアイリスの祖父母に話していた。その後は積もる話もたくさんし、夕食までご馳走になり最後に向こうでのアイリスとの写真を手渡すと俺は高野家を後にした。


「今度は、アイリスと二人で来ます。それまで、どうかご健勝で……」


「はいはい。まだ私達はそんな年じゃないわよ?」


「そうだぞ? レイ君。次会う時は二人でもそうだが、ひ孫の話も聞かせてくれると嬉しいがな?」


「あなた? そう言うのは最近の若者には重荷らしいわよ?」


 そんな話をして今度こそ俺は炎央院の家に戻った。今日ハッキリと思い出した。昔から俺はアイリスと一緒に居て、そして彼女に支えられていたんだ。


 追放前も追放後も俺は彼女にベッタリだったんだと……今更ながら思い出せて良かったと、そう思ったんだ……。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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