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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第二章「彷徨う継承者」編
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第49話「深まる勘違いと困惑の継承者」



 あれから数日、調律によって当主や各一族のレベルは格段に上昇していた。一方で中国の術士たちによる防衛行動で北海道と一部東北地方での闇刻聖霊の暴走は収まっていた。


また北の地で独自に戦っていた風聖師たちも保護され各聖霊病棟に運ばれてた。しかし、不気味なほどに闇刻術士はその姿を追跡が出来ずにいた。


俊熙ジュンシー凜風リンファまずは制圧及び調査ご苦労様、それで報告書以外に何かあったか?」


「レイの懸念通りだな。あいつら日本での隠れ家が多過ぎる。支援者が居るとしか思えないな」


「特定の背後関係が見えればまだ良いんだけど、確か日本では国はこちら側に付いているのですよね?」


 そうなのだ、この国では四大家の力は絶対的だ。羽田での事や現在の北海道での事件の隠蔽など国が全力でやっているために一般人には知られてはいない。


逆に言えば国が奴らを保護し匿っている事は無い。つまりは国では無い企業体などの民間団体が背後に居ると考えられる。


「その辺りはこの国の権力を使いたい放題だからな。叔父上、衛刃殿や水森家の当主の二人に念入りに調べてもらっている」


「いいか? 継承者、やはり四卿の行方が気になるんだ。私の一小隊を動かして構わないか?」


 そこでエレノアさんの直属の部下の副長及び部下の三名を別動隊として動かしたいと提案された。戦力の分散化は避けたいがこうも手掛かりが無いと捜索の手は増やすに越した事は無い。


「ああ、こちらは私と三名で足りるからな」


「だがそうなると我らはどうなる? 北の地には部下を十名ほど残してきたがそれでも余りあるぞ?」


「それなのですが、今度は関西に行ってもらいたい、あそこにはダークソイルが出現したので――――」


 その後、家での鍛錬を引き続き俺やエレノアさんと部下三名で行い、朱家の兄妹と部下達には今度は関西で四卿の捜索をしてもらう事になった。ちなみに中国地方や九州では水森の家の令一氏が動いてくれていた。


「では、後は――――「良いか? 継承者よ。君は日本に戻ってから休んでいるのか?」


「え? 今はそんな事言ってる場合では無いかと」


「だが君、ホノカとルミに聞いたが、この家に来てからほとんど休んで無いらしいな? だから休め、君が切り札なのは今回も変わらないのだからな?」


 俊熙ジュンシー凜風リンファにも日本に来て一ヵ月以上経つのに休まず仕事をしていたと話してすぐに休めと言われ、俺は無理やり三日間の休みを命じられてしまった。





 ちなみに鍛錬は続いており衛刃叔父さんや炎乃海姉さん達は朝から鍛錬なのだが、それは休みになった俺に代わりエレノアさんの部下が面倒を見てくれる事になった。


「つまり暇だ……三日も休みか……俺は昔は休みは何をしていた?」


 自分に問いかけるとやはり思い出すのはアイリスとの日々だ。ちなみに炎央院の家での休みの日は炎乃海姉さんとのデート言う名の会食くらいで思い出すだけで苦痛となって忘れて封印していた。


「あとは炎乃華と鍛錬か、流美と雑談? いや愚痴か? ま、本音を話した事など数えるくらいか……」


「そう、だったのですか?」


「っ!? 流美、お前いつの間に……どうしてだ!?」


「ふふっ、実は昨日エレノア様の知り合いの方より英国の炎聖師の方の使われる『フレイム・ダミー』と言う炎聖術をネット経由で教えて頂きました」


「フレイム・ダミー? 確かチャフやフレアに似た術で囮を出すものだったか?」


「はい。ですので付近に炎聖師のダミーの気配を大量に配置して私の気配を紛れ込ませたのです。継承者様は気配探知が意外と苦手だと教えて頂きまして」


 エレノアさんも余計な事を、探知や索敵は実は苦手だ。その分野はアイリスが俺の分まで担っていた。常に戦いの場では彼女と二人で戦っていて頼り切りだった。


「あ、あの……不快……でしたか?」


「ふぅ、少し驚いただけだ。いつまでもビクビクすんな……って言っても俺のせいか……」


「それは違います!! 私が、私達が悪いのですから、黎牙様を追い込んで今さら……それでもと思ってしまう私達が……」


 一応は俺が赦したと表面的に取り繕っているが、根本的に解決してないと思われているのだろう。実際にそれは正解だが一々それを指摘しても先には進めない。それにこれからの付き合いを考えると、過去では無くこれからを見るべきだとは思う。


「それを戒めている内は良いんじゃないか? ま、意外とお前も天然なとこがあったからな? 小学校の時に間違えて俺のクラスに入って来た時は驚いた」


 昔から俺の傍付きと護衛を任されていた流美なのだが学年は二つ下なので当然、教室は別だ。しかし何か有ると俺のクラスに来て給食ですら毒見と言って食べようとして同じクラスだった祐介が死ぬほど恥をかいていた。今にして思えばあいつの当たりが強くなったのは、この出来事の前後な気がして来た。


「そう、ですね昔は兄さん達は二人とも優しかったです……祐司兄さんは黎牙様の事を本当に立派にしようと、私も同じでした。祐介兄さんは気に入らなかったようでした……それと」


「それと?」


「私が奴隷みたいで可哀想だって言われた事が有ったんです……今頃は離島なんでしょうけど……あの、黎牙様、祐介兄さんの症状って『調律』で何とか出来る事は無いのでしょうか?」


「出来る……とは思う、この戦いが、少なくとも日本での戦いが落ち着いてからだな。正直あそこまでする気は無かった。言い訳かも知れないが……」


「良いんです……あの人は最後は野心に心を……だけど島に行った今なら少しは自分を見つめ直してくれたのかもって……」


 相槌を打って頷いたが、それは無い。里中祐介と言う人物は良い捉え方をすれば自信に溢れていてムードメーカーのような人間だった。


 しかし実態は粗暴で女好き、さらに権力を手に入れようと傍若無人な振る舞いをしていた。小さい時は俺と遊んだり鍛錬もしていたがその時からその兆候は見えていたように思える。


「ま、つまりは俺が弱かったから皆が調子に乗ったんだ。典型的なダメな二代目を見限って下克上する戦国大名の部下みたいな感じか?」


「それは……そう、ですね。私も黎牙様のこと軽んじていた時期が有りました……」


「知ってた。ま、仕方ない。こんな俺をキチンと見てくれた人間なんて……」


 そう言って二人の少女を思い出す。一人はもちろんアイリスで俺の力が発揮されて無い頃から俺を見てくれていた。でもそれは光の巫女としての神託が有ったからで、そう考えると少し複雑だ。


 もう一人はアイちゃん、つまりは愛花だ。等身大の俺を見てくれて、勉強を見たり一緒に鍛錬の真似事をしてくれた。あの二人だけだ。


「あの方……ですか? あのアイリスと言う方ですか!?」


「えっ!? あ、そうか、お前は英国で一度会っていたか……」


 そうだった英国に俺の死亡を確認しに来た時にアイリスと会っていたな、写真を持って行ったから他の者も顔は知っているのか。


「やはり、そうなのですね……そして今はもう……」


「え? ああ、そう……だな」


 そう、彼女は今はもうすぐ目覚めるはずだ。それにしても流美は何でそんな悲しそうな顔をしているのだろうか? 一度会っただけなのにな、まるでアイリスと一生会えないみたいな態度だ。


「なんて気丈なお姿……私、今度こそ、ずっとお支え致します」


「お、おう……感謝する。ところでお前は『調律』は良いのか?」


「そうでした……では失礼致します!!」


 本気で忘れていたようで慌てて道場に向かって行った。しかし急に話し相手も居なくなり、いよいよ暇になった……仕方ないから少し寝るか? でも小腹も空いたし厨房に……流美以外が俺に飯を出すとも思えんが一応行くか……。





「もう嫌だよ~母様~!!」


「待ちなさい真炎、大丈夫、今回は上手く出来たから!!」


 午後に入って流美は私と入れ替えで鍛錬を受けている。なので私は数日前から始めた日課をするために娘と一緒に厨房に立った。流美には絶対に一人で厨房に立つなと言われたので真炎を連れて来たのだ。


「母様ぁ……それ、へりくつだよ~! そんなんだからレイおじさんにも嫌われるんだよ~」


「そう思うなら協力しなさい? 大丈夫よ今回はアレンジとかしてないから、早く口を開けなさい」


「ううっ……あっ!? 助けて~!! レイおじさ~ん!!」


 娘が逃げ出した先に居たのは彼だった。私が八年前に見捨てて先日まではせめて利用出来る所まで利用してやろうと考えていた元許嫁で一応は幼馴染だ。


「ん? どうした真炎?」


「レイおじさ~ん。母様止めて~!!」


「あっ、黎くん……」


「何してるんですか炎乃海姉さん? さすがに真炎が怯えてるのは洒落にならないからな?」


「違うわよ……少し、ね……」


 よりにもよって一番見つかってはマズい相手に見つかった。練習中に見つかるとは、彼は今日は見ないからおかしいとは思っていた。でもこんな時間に彼は何をしているのだろうか?


「それよりも黎くん、あなた『調律』の指導はどうしたの?」


「ああ、実はエレノアさんに日本に来て一日も休んで無いなら休めって言われて、急に休みになったんだ。それで腹減ったから何か食おうと……」


 そう言って私の持つ皿に目を向けられる。流美に教えてもらったレシピで練習した簡単な煮物だが自分で作った時よりは上手くいったと自負していた。しかし彼はそれだけ言うと真炎の手を取り回れ右した。


「ちょっと待ちなさい二人とも!! 特に黎くん、あなた今、お腹が空いたと言ったわね?」


「記憶に無いな、ところで真炎せっかくだから一緒に外食――――「お腹、空いてるわよね? 二人とも?」


「いや、だってあんた、料理なんて作った事なんて無かっただろ!! いきなりどうしたんだよ!!」


「そ、それはっ!? 心境の変化よ!! 良いから二人とも食べなさい!!」


 少し強引だがこれで行けるはずだ。そして予想通り折れた。昔から強引に行けば最後は折れるのが良くも悪くも私の知っている黎牙だった。変わってないのを見てどこかで安心していた自分がいた。





 俺は少し腹が減ったから食堂で缶詰めくらい有ったらそれを持って部屋で食おうと思っただけだった。部屋の奥の戸棚に酒が入っているから一人晩酌なんてやってみようと思ったのが運の尽きだった。


「どうして、こんな事に……」


「え? 何か言ったかしら?」


 真炎は宿題が有ると言って鳳凰に飛び乗ると全力で逃げ出した。あの反応から見て間違い無い。目の前の元許嫁は間違い無くメシマズなパターンだ。


「ま、空腹は最高のスパイスとも言うからな……」


「そこまで言わなくても私だって分かってるわよ。まだ流美にも出すのは早いって言われてたしね?」


「ふ~ん、流美に料理を……あれ? 意外と……食えるな」


 いざ皿の中身を見るとそれほど酷くは無いから一口食べると普通だった。よく考えれば漫画の世界じゃないのだから普通に作れば普通の物が出て来るものだ。


「そう、かしら? あら、本当に食べれるわね!?」


「味見はしてくれ頼むから……あっ、ありがとう?」


 いつの間にかご飯もよそわれていて、この家ではあんまり食べれない普通の日本の家庭料理が出て来た。この家では八割が和食で懐石料理的なものか、大規模な戦闘任務の時には、おにぎりと漬物と言う戦闘に特化した二択のみだった。


「ちゃんと食べれる……ああ、レーションや泥まみれのパンよりはマシさ」


「へ~? まるで、そんな物を食べた事が有るみたいね?」


「うん、あるさ……英国に着くまでの一年はそんな感じだったよ」


「えっ、あっ……そっ、そうだった、のね……」


「敗北者の味って奴だよ。あの当時は生き残るのに必死だったから……」


 だけどそれが有ったからアイリスの手料理の美味しさにも舌鼓を打てたし、逆境に耐えられる強い精神も手に入れられた。そう言う意味ではこの家や俺の追放に加担した目の前の人間にも感謝するべきか?


「いえ、その……今さらだけど、その……」


「どうした? 炎乃海姉さん?」


「ええ、そのっ、あなたが英国に着いてからの報告書はダミー情報とは言え聞いたわ。でも、その英国に着くまでの一年間、追放後……あなたには」


「聞いても楽しい話じゃないし、思い出したくもない……飯もマズくなるよ? せっかく料理が成功したんだから良いじゃないか?」


 その後は話を別の話題にした。主に結界の構築とその理論についてだ。やはり、この人の知識や理論は素晴らしいと実感した。そして同時にこの家の頭脳として炎乃海姉さんに居て貰わないと困ると改めて実感した。


 だって俺はこの戦いが終わればアイリスの居る英国に戻るから、その後は炎乃海姉さんとの話に集中した。心なしか上の空で顔を赤くしていたように見えたが気のせいだと思う。





 鍛錬が終わると私は担当の術士の方からアドバイスを貰うと明日の課題を言われた。そんな中で聞いた黎牙様の話は衝撃的だった。


 私はアイリスさんについて質問したのだ。しかし帰って来た返答は一切の他言無用で話せないと言われた。


「どう言う事なのでしょうか? 黎牙様に一体何が……」


「黎牙兄さんがどうしたの? 流美?」


 うっかりして独り言を話していた。最近は黎牙様のお陰で家中での対立は無くなり派閥などは無くなった。


 少なくとも一族やそれに近い一門はこうして昔のように気軽に話せるようになった。だから油断も増えていた。


「い、いえ……その……」


「ねえ、流美、ここ一ヵ月は色々あったし、もう従者じゃないのは分かるけど私にも話せない?」


「いえ、ですが……そう、ですね……一人で悩んでいても仕方ないですし、お話を聞いて頂けますか?」


 この人は良くも悪くも真っすぐだった。でも逆に言えば悩みにも真摯に向かい合ってくれるはずだ。そこで私は内密の話なのでと言って炎乃華様を私の私室に誘った。


「そして、なぜ炎乃海様が私の部屋にいるのでしょうか?」


「色々と話したい事が出来たのよ……悪いかしら? 炎乃華? あなたも居たのね……ちょうど良いか」


 私の部屋にはなぜか一升瓶を持って一人で晩酌している炎乃海様が居た。既に軽く酔いが回っているようだ。


「これは……長い夜になりそうですね……」


 従者の嗜みとしてこのような状況には慣れていなくてはいけない。なので炎乃華様を私の部屋に置いて行くと即座につまみになりそうな物を即席で二、三品作り、炎乃華様用のオレンジジュースも用意する。あの方だけは未だに未成年だ。しかし私の予想は甘かった。部屋に戻ると既に出来上がっていた姉妹が居た。


「だぁから~、黎牙兄さんは、ぬぁ~んで、あんらにぃ、厳しいのよ!! 前みたいに優しくしてくりぇれば良いじゃないのぉ!!」


「仕方ないわよ……ひっく、そりゃそうよね、全面的に私が悪いんだし……むしろ優しさが痛いわ……ど~せ私なんて……なんで私は……」


 まさかの炎乃華様は絡み酒で炎乃海様は泣き上戸だったとは……新発見ですね。てっきり逆だと思っていました。さり気無く晩酌用のつまみを置きながら二人の話を聞く体勢に入る。


「私、やっぱりぃ~黎牙兄さんに、家に戻ってもらってぇ~!! 黎牙兄さんのお嫁さんになるぅ~!!」


「いえいえ、勇牙様はどうなるのですか!?」


「勇牙とは婚約破棄する~!! 追放すりゅ~!! アハハハハハ~!!」


 今度は急に笑い上戸になっている元主を見てげんなりする。まかり間違っても自分の姉と同じ事をするなと言いたいが酔っ払いに何を言っても無駄だ。仕方ないのでオレンジジュースを注ぐとそれを飲んでハイになっている。雰囲気酔いだろうか?


「らいたいねぇ、勇牙はここぞってぇ時にぃ、頼りない!! 姉さんがぁ、暴れてた時も頷くだけでっ、私一人で、頑張ったのよっ!! しょれぉ~!! うっ……」


 さすがにドン引きしていたら糸が切れた人形のようにバタンと倒れた。割と酔っていながらも判断は正常な炎乃海様に手伝ってもらって寝かせた。


「あぁ……悪いわね流美。ちょっと、お酒に逃げたくなったわ……はぁ」


「まだ、抜けてらっしゃらないようですが?」


「振りよ、振り、そうでもしなきゃね、炎乃華が羨ましいわ、一口でここまで酔えるのはね……」


 私の布団でいびきをかいている炎乃華様を見ながら複雑そうな顔をしている。正直、私の部屋を占領した事にため息を付きたいくらいなのだが、それは言えない。


「それで、なぜ私の部屋に?」


「ええ、さっきまで黎くんと話していたの……料理の練習してたら入って来てね……真炎に味見をさせようとしたら逃げられて」


 真炎様……黎牙様に面倒な親を任せて逃走したのですか……やはり強かですね。そして取り残された黎牙様が捕まったのですか……。


「ですが良かったのでは? 目的を果たせたのですし……」


「まあ、ね……笑いたければ笑えばいいでしょ?」


「いえ、私も人の事は言えませんから……」


「飲む?」


 一礼して頂きますとだけ言って一気に呷る。少し辛口だけどカァーッと体が熱くなる。そして私も思いの丈をぶちまけていた。


「大体ですね!! 黎牙様の暗殺まで目論んでたのに!! 私に暗殺まで命じていたのにぃ!! 今さら好きになったってなんれすかっ!! 炎乃海様ぁ!!」


 そうなのだ、あの日、一人で料理の練習していたのを見つけたら理由を答えないので交換条件に料理を教える事にした。


 そして聞いた答えは至極単純で二度も命を救われた黎牙様に今度は本気で恋に落ちてしまい取り合えずネットで調べて料理を覚えようとしたと言い出したのだ。


「し、仕方ないじゃない、男なんて利用して私の地位に使うだけって……この間までは……そう思ってたのよ……」


「そ~れすよねっ!! 兄ですら真炎様が出来たらポイでしたからね~!! あんなクズでもぉ、一応は兄だったんれす!!」


「そ、それは……反省はしてるわよ……悪かったわ」


 この人も楓果様の被害者では有った、男は利用する者と思わされて育ち、そして子供を一人作った後に本当の恋を知ったと言うとんでもない恋愛遍歴なのだ。思えば兄も子作りのための道具としか見ていなかった。


「以前も伺いましたが……本気、なんでしょうか?」


「だって、仕方ないじゃないの、恋愛なんて生まれて初めてみたいなものだし……」


 子供一人産んでここまで恋愛に初心なのも珍しいが、ならば話さなければならない。アイリスさんと言う心の支えが無い黎牙様を万が一でも救える可能性が有るのなら、従者として今度こそ役に立つべきだと思った。


「では炎乃海様に、お話する事が有ります。黎牙様の英国での恋人の事です」


「隠してたの? あなたの報告書では無かったものよね?」


 いいえ、ショックで報告を忘れていただけですが隠していた事にしましょう。そんな事を考えながら以前の写真のコピーを取り出す。オリジナルは衛刃様が所持してるので私のはコピーだ。肌身離さず持っていた。


「こちらです……」


「これって、この二人、確か空港にいた連中? なら全員が?」


「はい、光位術士の方だと思われます……そして、この隣の方が黎牙様の恋人です。直接お会いして確認も致しました」


「なるほど、美人ね……どこかで見た気もするけど……厄介ね」


「はい、ですが違う意味で厄介かと……この方は恐らく亡くなられています」


「えっ!? 本当なの流美?」


 そこで私は自分の推論を炎乃海様に話していた。恥ずかしい話、いつまでも自分の胸に秘めておく事は出来なかった。誰かに話して楽になりたかったし情報を共有したかったのだ。そして私の話が一通り終わった時だった。


「その話、本当なの?」


「炎乃華様……起きて、らしたのですか?」


 炎乃華様が目をパチリと開けて私達二人を見ていた。その目は酔いなど完全に醒めて真剣な目を向けていた。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] その恋人が死亡扱いじゃなくて昏睡扱いで、 蘇生のめども立ってるとは気付きもしないで…… 姉妹&従者の炎王院トリオ、 余計な事を言ってレイの虎の尾を踏む事になりそうな気が……
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