第4話「成長と変化、そして動き始める世界」
一日、三話更新予定です。よろしくお願いします。
◇
「はっ!! 輝け戦刃!! レイ・ブレードッ!!」
「参り、ました……さすがは継承者殿……もう私では相手になりませんな」
あれから一年の月日が経った。あの日アイリスと一緒に光位聖霊達と邂逅を果たした俺はその場で契約を結び正式に光の継承者としての第一歩を踏み出した。
目の前の男性は俺の光位術士としての師匠にあたるローガン=L=スワンプラド師だ。そして俺は一年越しに師匠であるこの人をハンデ付きの模擬戦の実戦形式の試合で倒すことができた。
「そこまで……。継承者殿、ご自身のお力を少しはご理解なされましたかな?」
「はい、アレックス老師。やはり少し自身に迷いが有りまして、これも実戦経験の無さから来る不安……まだまだ修行不足です」
「ふむ、継承者殿は心配性ですな。では……ふっ、どうやら時間ですな。孫娘が帰って来たようです。申し訳ないがアレのお相手を頼めるかな?」
そう言うと先ほどまで厳しい顔つきをしていたアレクサンダー=ユウクレイドル老師こと現ユウクレイドル家当主は破顔して笑顔になり演習場の入り口を見ていた。
「黎牙さ~~ん!! アイリス、ただ今帰りました~!!」
俺のパートナーのアイリスの祖父、それが俺の聖霊学及びその他の専門知識の師でも有る目の前の人の本来の顔だ。かつての聖霊の歴史の真実を伝え、守り続けた人達の末裔だ。
この人の他に三大家と呼ばれる光の家系が生き残らなければ今頃、世界は闇刻聖霊使い達の支配する星になっていたと俺は同僚に聞かされた。
「おかえり、アイリス今日の学校はどうだった?」
「はい、本日は……」
そう言って俺の手を握るとアイリスはすぐに彼女の部屋に俺を連れて行ってしまう。演習場の他の人間から軽い嫉妬とローガン師たちから苦笑されながら俺たちはその場を後にした。
◇
この一年の間、ユウクレイドル家でお世話になりながら分かった事はアイリスは意外とお転婆で俺以外の人間には割とワガママで天真爛漫な裏の顔が有ったことだ。
しかし俺の前では借りて来た猫のような態度で距離を置かれている。フランクな態度を他人には取るのに俺には常に丁寧語で接している。しょせんは強制的に選ばれたパートナー同士と言う間柄だけなのだから仕方ないのだろうが……少し悲しかった。
「今、聖霊たちに聞きましたっ!! 黎牙さんもうローガンを倒したんですね!! 光壁のローガンの守りを崩すなんてもう立派な光位術士ですっ!!」
「いや、まだまださ。なんせ俺には実戦経験が無い。それで一族の皆も不安に思っているだろうからな……」
「それは……ですが、大規模な戦いが最近無いのはそもそも黎牙さんが、継承者が現れて闇刻聖霊たちが警戒して隠れたからですっ!! 今の平和な状況は黎牙さんのおかげと言っても過言では有りませんっ!!」
それでも本当にアイリスいい子だ。俺が少しでもバカにされたりすると自分の事のように怒ってくれる。それに感謝を述べると彼女は決まって『光の巫女として、それに黎牙さんのパートナーとして当然です』と言ってくれた。
だから俺のやるべきことは彼女と親密になる前に、まず彼女に負担をかけないで頼もしくならなければいけない。それを心に決め俺は次の課題としていた。
◇
俺はアイリスの部屋を出て廊下を歩いて目的地に到着するとポケットからIDカードを取り出し端末に読み込ませ、さらにパスコードを打ち込み最後に手の平を置いた。
すると目の前の何も無い壁に切れ目が入りエレベーターが出現した。それに乗り込むと最後に階を指定するボタンに聖霊力を込める。するとエレベーターは動き出した。
(一年経って慣れたとは言え相変わらずここのセキュリティは凄い……機械と聖霊の相互の防護か……炎央院の家は結界で屋敷を丸ごと覆うって言う力技だったけど、ここは一般社会に溶け込んでいてバレないように隠蔽をしながら重要拠点を守っているんだから驚きだ)
そして俺はエレベーターから出ると広いエントランスと受付の有るフロアに出た。今の俺はユウクレイドル家やその縁者の光位術士達が経営している製薬会社L&R Group plc(ルーカス&ライリーグループ公開株式会社)で簡単な事務作業をしながら地下の演習場で光の継承者の修行を受けている身分となっている。
(まさか17歳で社会人になるとは……フリーターやその日暮らしよりかは全然マシだけどな……)
自分のオフィスの有る13階には直行しないで光の当たる場所に行って軽く伸びをする。光位術士になってから日光浴すると体調が良くなる事が増えたのだが、これもアイリスに教えてもらった。実際のところ二人でこっそりサボって日向ぼっこしたりする言い訳だ。
「堂々とサボりかしら? レイ?」
「げっ、フロー!?」
「まったく、演習が終わったらこちらの作業を手伝って下さいと通達しましたよね? ジョッシュもどこか行ってしまって……とにかく行きますよ?」
このガッチガチのエリートOLっぽいスーツが決まっているメガネの女性はフローレンス=ターナー。俺の上司で光位術士としても先輩に当たる人だ。俺は一切の言い訳をさせてもらえずにオフィスに連行された。
この会社での俺の業務は主に薬品関連の事務だ。と、言ってもそこは中学英語までしか出来ない俺なので書類管理とか無理だろとか思っていたらこれが意外と何とかなる。その理由は……。
「スカイ、レオール、ヴェイン。いつも助かるよ……情けない主人で済まないな」
鷲の光位聖霊王のスカイ、そして犬の聖霊獣のレオール、人型の聖霊帝のヴェイン。三者ともあの時に病室に馳せ参じてくれた者たちで、あの後すぐに契約した聖霊だ。俺はその三者が翻訳してくれた内容をPCで打ち込んでいるだけだった。
「しかし聖霊に翻訳してもらうなんて……あなた喋りは大丈夫なのに書類作成が出来ないと聞いた時は焦ったわ……しかし凄いわね王と帝か、一年ですっかり見慣れた私も怖いけど……」
「皆良い奴らさ。ほんと俺なんかに勿体無い奴らだよ……さぁ~て、じゃあ頑張ってお仕事しますか!!」
「そうだぞ、ガンガン働け若人っ!!」
いつの間にか居たのはジョシュア=K=スワンプラド。彼も光位術士で名前で分かるように俺の師匠のローガン師の息子だ。年齢は俺より二つ上で光位術士としてはもっと先輩だ。
「ジョッシュ!! あなた今までどこにっ!!」
「いやぁ、親父が負けるとこ見たくな。にしても一年で親父に勝つとかバケモンかよ継承者様はよぉ~? ほんと才能が有る奴は違うね。去年まで俺が圧勝だったのに……まさか半年で負けるとは」
「俺はまだまださ。だって俺には二人のような実戦経験が無い……名ばかりの光位術士さ……これじゃ継承者の名が泣くよ」
光位術士の同期は俺には誰も居ない。皆が先輩だ。アイリスですら小さい頃から日本で修練していたらしい。そして俺は心の中で一年で皆に追いついたとは思えなかった。それに何より俺は心のどこかで未だに自身が実家で『無能』だと言われ続けた事を引きずっていた。
「日本人は遠慮の文化とか姫様が言ってたけどマジなんだな? そう言えばお前の近くに居る時だけ姫様って妙にかしこまるよな?」
「日本語は英語と違って少し堅苦しい面も有るからな。アイリスは俺を立てようとしてくれているんだろう。しっかりした子だ。あの様子なら俺が使命を果たした後ここを去っても光位術士の、そしてユウクレイドル家は安泰だろう……え? どうした二人とも?」
俺が真剣に語っていると二人がジトーっと見ていた。その瞳の色はどちらもアイスブルーで、ジョッシュはブロンドの髪を掻き上げて、フローはブルネットの毛先を弄って同時にため息をついた。
「あなたは将来はアイリスと結婚するのではなくて? そもそも光の継承者なのだから英国に留まるのが基本なのだけど?」
「ああ、それにお前が実戦出てないとか言ってる奴らってSA1の連中とか『術師』のベテラン共だろ? あいつらにとっては姫様は可愛い娘や妹みたいなもんだしな……そこら辺も嫉妬の原因かね? 俺も親父の息子だからって昔はよ~く絡まれたりしたんだぜ?」
まさか、二人がそんなことを思っていたなんて、俺はこの程度の嫉妬や嫌がらせなら普通だと思っていた。それに俺はこの一年間は今まで日本で過ごした人生より遥かに充実してたし、キチンと術士として訓練出来る事が何より嬉しかった。だからこれ以上を求めるのは罰が当たると思っていた。
「俺が? いやいや俺にアイリスは勿体無いよ。そりゃ、あんな可愛い子がお嫁さんに来てくれ……いや、この場合は俺が婿に入るのか? いずれにしても俺には不釣り合いだ。それにアイリス自身の気持ちを考えてあげないと」
「その気持ちを考えたら、どう見てもお前しか居ないんだよなぁ……ほんと日本人てシャイなのか鈍いのか分かんねぇ時が有るなフロー?」
「そうね。早く付き合っちゃえば良いのに……と、それよりワリーも居ないのよね。何かあったのかしら? 二人とも何か聞いてる?」
ここに所属するのは俺とフローにジョッシュそして最後の一人がウォルター=キャンベル、愛称はワリー。寡黙な人で俺より四つ年上でフローとも同い年だ。俺が配属されてすぐの頃は俺とジョッシュを鍛えていたのがワリーだった。するとタイミング良くドアが開いた。
「俺の話題か? 済まない。上に呼ばれていた」
ダークブラウンの瞳と同じ髪色をした掘りの深い青年。21歳とは思えない落ち着きぶりだ。この四人が通称『SA3』(Special Affairs The 3rd section)の光位術士だ。
「誰にだよワリー? 親父か? それとも当主様か?」
「直接的には第一《SA1》の連中だ。ジョッシュ。いつもの通りの警邏の応援だ。時間は22時から、俺とジョッシュ、フローとレイのコンビで行く」
それだけなのかと俺は少し拍子抜けだった。そして当然ながら俺を含めた残りの二人も疑問に思ったようで代表してジョッシュが質問していた。
「つまりいつも通りか? そんなんで呼び出しを受けたのか?」
「違う。担当区域の変更だ。俺たちの区域は本社付近からシティ・オブ・ロンドンの全周警戒に変更となった」
「「「なっ!?」」」
つまりロンドンの中心部、まだグレーターロンドンと言われないだけマシかも知れないが人手が足りない訳じゃないだろうに広域区画を任されたのだ。具体的にはロンドンの中心街の防衛を俺たち四人でやれと言われた。
SA1の人数は本社に今待機している人数は三〇人で今日は非番を入れなければ二五人。その人数で回していたのをたった四人でやるとか無茶振りってレベルじゃない。
「つまり嫌がらせ?」
「だろうな……」
俺の問いにジョッシュが答える。フローもワリーも沈黙で答えていた。どこでもお家騒動や嫌がらせは有ると言う事か……また実家を思い出す。追放されて二年も経つのに俺もいい加減割り切らなければならないのに女々しいものだ。
でも今は目の前の仕事を片付けるべきだと気合を入れ、目の前の業務の確認をしていく。俺の姿を見ると残りの三人も渋々と自分の業務に戻り、警邏の時間まで黙々と作業を開始した。
◇
そして時間になり俺たちは警邏に出た。幸い本社ビルも警邏区域なので徒歩で移動できるのは大きい。俺たちの白の隊服は目立つので寒く無いのに常に上着を一枚は羽織っている。そして大聖堂付近を歩いていた時だった。
「来るぞっ!?」
「行きましょうレイ!! 聖具の使用許可は下りているわ!!」
俺とフローは気配を感じて大聖堂敷地内に入った次の瞬間、黒の奔流が、敵の聖霊術が俺たちを襲った。俺が初めて受けたものよりも数段は強力な術だった。
だから俺とフローは同時に腕に付けた端末『PLDS』(Photon Link Discharge System)を展開しそれぞれ術式を放っていた。
「光よ……我らを守りたまえ、グリム・ガード」
「輝け戦刃っ!! レイ・ブレード!!」
フローが結界術を展開し闇刻術を防ぎ俺は光の刃で切り裂いた。これは一〇年前から実戦導入されたというユウクレイドル家の研究の成果でイギリスの光位術士はこれと聖具をセットにして運用している。
ちなみに俺たちの聖具はこれだけだ。SA3は殊更に聖霊力が高い逸材だけを揃えたエリート部隊で、このPLDSだけで術を展開、行使が出来る。それに既に俺は別の手を打っている。
「くっ……いつもの雑魚とは違うっ!! 何なのだ!?」
「敵は二人だ!! 同時にかかれっ!!」
敵はこちらを見失っているがこちらは光位聖霊王のスカイが上空で待機している。だから視点情報が俺とフローに端末越し送られて丸見えだ。俺たちは頷き合うとすぐに二手に別れた。
(初の実戦、それも遭遇戦だが焦るなよ……俺)
上空でスカイの威嚇の鳴き声が響く。俺は直感で振り向き様にレイ・ブレードで一閃する。俺の目の前で闇刻の聖霊術が一瞬で消し飛んでいた。そのまま敵の術者の位置を特定しレイ・ブレードを一気に伸ばした。
この光位術士の基本の術、光の戦刃『レイ・ブレード』は理論上どこまでも伸びると言われている。ただ聖霊力に大きく依存し通常は六〇センチから八〇センチの間で大体ロングソードくらいの大きさにしかならない。
「そこだっ!! 貫けぇ!!」
「うあああああああっ!!」
しかし俺は違う、この一年の鍛錬で最大四〇メートルまで伸びる事が判明している。しかもアレックス老師の見立てでは俺はまだ発展途上でさらに大きく伸びる可能性があると言われた。そしてそれが一〇メートルほど伸びて敵の闇刻術士を貫いた。
「くっ!! マズイ!! 撤退っ!! てった――――「させるとでも? 光の下に召されなさい……レイ・ランス」
後ろから既に二人を倒したフローが光の槍を生み出し貫く「レイ・ランス』で最後の一人を串刺しにした。血は出ていないが光の粒子となって敵の闇刻術士は分解されて行った。これが浄化と言われる俺たち光位術士の戦い方だ。
「レイ、上出来よ。まずはスコア1ね?」
「ふぅ。初陣にしては、頑張ったろ?」
と、俺が言った瞬間にPLDSに光子通信が入る。術士間のみで使える通信の拡張も、この端末は行える高性能端末で他にも様々な用途が有るが今は割愛する。緊急の通信だからだ。
『こちらウォルター!! フロー! レイ!! 今どこだっ!? 聞いていたら急いで本社へ!! 本社が襲撃されているっ!! こちらは闇刻術士八人と交戦中。時間がかかるっ!!』
そう言うと一方的に通信が切られてしまった。なので俺とフローは頷くと急いで次の術式を展開していた。
「「レイ・ウイング!!」」
俺たちの背中に同時に白く輝く光の翼、まるで天使を思わせるような翼が展開する。そして俺たちは空を駆けて本社へと向かった。
「レイ先に行って!! あなたの最大速度の方が速い!! 敵の狙いはおそらくアイリスよっ!!」
「分かったっ!! アイリスっ!! 待っててくれ!!」
最大戦速で俺は本社ビルへと向かった。アイリスの無事を願いながら……。
◇
時は少し遡り、黎牙たちが闇刻術士と遭遇する数分前、本社ビル前の結界に覆われたこの地区は戦場となっていた。
「くっ……強い。しかしまさか俺たちがここまで……だがっ!!」
彼はSA1のボス、部下からは隊長と呼ばれているオリファー=エバンズ、役職は部長だ。そして実戦経験も豊富で冷静沈着な指揮をする有能な光位術士だ。そんな彼が今回、強引に配置を変更したのには理由があった。
SA1の全戦力をもってロンドン市内に潜伏している闇刻術士を一網打尽する。それが狙いだった。そのためにSA3やSA2の部隊にわざと巡回警邏をさせ本部の防備を手薄に見せかけたのだ。
「まさかこれ程とは……」
「隊長っ!!」
SA1は各セクションで、もっとも実戦経験が豊富であり全員が六年以上の戦闘任務経験者のみで構成されている。だがその精鋭は今や一〇人にまで減っていた。途中までは作戦は成功し一方的に闇刻術士を倒していた。
だが、目の前の化け物が現れた瞬間に陣形は乱れ。本社付きのサポート部隊は壊滅、自分の直接指揮していた本隊も三〇人中、立っているのは自分を含めて一〇人まで減っていた。
「全員下がれっ!! ベラっ!! 通信が出来ないから伝令へ走れっ!! ローガン師へ……敵は、ロード、ロード・ダークソイル!! 急げっ!!」
「はっ……隊長!! ご無事でっ!!」
隊の中で最年少のイザベラを伝令の指示を出すと残りの九人に素早く指示を出し自分も聖具にレイ・ランスを展開する。
彼の装備は聖具の中でも個人用にチューニングされた一点物の上級聖具『英国の護り』と言うハルバードだった。そして彼ら九人が構えたと同時に目の前の黒衣のローブの男は声を発した。
「…………終わったか?」
「突撃ぃ!!」
二人の前衛の光位術士がレイ・ブレードを展開し突撃、しかしそれは闇の障壁に阻まれる。更にその奥から岩石の砲弾が撃ち込まれ一人が守りを崩され吹き飛ばされた。だが光位術士たちの攻勢は止まらない。
今度は別方角から二人の光位術士が狙撃用術レイ・アローを纏わせ自身が出せる最大級の光の矢を放つ。微かに闇の障壁が破れたかに見えた次の瞬間、今度は中から土の壁が出現した。
「くっ……なんで……複合術のくせにっ!! うおおおお!!」
「待てっ!! コリー!! 焦るなっ!!」
しかしオリファーの指示を無視して突撃した槍使いは次の瞬間、闇の波動に弾き飛ばされ岩で作られた槍で串刺しにされ絶命していた。
「バ、カな……土聖術程度がなぜ」
「くっ、四人の『四卿』は、ロードは別格と習っただろうっ!! 忘れたかっ!!」
「ですが……我ら光位術士が下級術に敗れるなど……」
そう言っている間にもレイ・アローで援護していた二人が瀕死の重傷を負い、光位術士サイドの残りは三人となっていた。
「終わりか?」
「ぐっ……突撃するっ!! 二人も続けっ!!」
ロードはその場を一歩も動かずに今の戦闘だけで四人を戦闘不能にし二人を絶命させた。更に二〇人近い光位術士が奴一人に敗れた。
今戦いながらも奴の守りを越えたのは自分一人、部下の一人は致命傷だろう。そしてロードに肉薄した瞬間寒気がした。目の前のロードはニヤリと初めて感情らしい感情を表して酷薄な笑みを浮かべた。
「くっ!! なっ……ぐあっ……ちぃ!!」
「ほぉ……やるな」
オリファーはハルバードを全力で振り回し闇の奔流を浄化しながら自らの聖霊力のみでグリム・ガードを展開し岩石の槍を防いだ。しかし次の瞬間には地面が割れ、地下から湧き出るような闇の槍がオリファーを襲った。
それをも何とか片腕を犠牲にして凌いだが既に彼の制服はズタズタで左腕は血塗れだった。残った右腕で辛うじてハルバードを支えに立つのがやっとの状態だ。
「お終いだ……闇に消えろ……光の者よ」
「ぐっ……ここ、までか……」
しかし闇が彼を覆う事は無かった。その闇の奔流は吹き飛ばされ、新たに出現した輝く防壁に全て浄化されていた。そして一陣の風と白い輝きと共に、膨大な聖霊力がその場を支配した。
シルバーブロンドをなびかせ、青い双眸に怒りを滲ませ眼前の敵を睨み付けながら、その少女は戦場に舞い降りた。
「そこまでです!! これ以上私の仲間を……大事な人々を傷つけさせません!!」
「この輝き……やっとお出ましか……『光の巫女』よっ!!」
「アイリスお嬢さま、くっ……申し訳、ございません……」
闇のロードに匹敵する光の側の守護者、その最強の一角の光の巫女が遂に四〇〇年の時を越えて相見える事となる。今日この戦いから光と闇の世界を巻き込んだ新たな戦いの始まりとなった。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。