第45話「動き始める情勢、追いかけて来る過去」
◇
四大総会の開催を翌日に控えた朝に吉報と凶報が同時に寄せられた。まずは吉報の方だが涼風家の嫡子で当主代行の早馬が都内で保護され、この南邸に無事到着したと言う事だ。そして凶報の方は……。
「すまない『嵐迅結界』の要が壊された……もう、結界はほとんど機能していない」
ボロボロに傷ついて最後にそれだけ言うと早馬は限界だったようで気を失ってしまった。プロテクターも衣服もズタズタで専用の槍の聖具は砕ける寸前だった。
「これで無事な結界は半分、西日本だけ……か」
「そうだな……ところで彼の事は二人には?」
「流美に呼びに行かせましたよ」
叔父さんの問いかけに俺は手配済みだと言う。流美に任せたのだから問題無い。そして楓たち二人が来ると死んだように眠っている早馬を見て泣き出した。
「兄が、家族が無事なら、普通は……こう、か……」
俺は目の前の光景が嫌になって叔父さんに任せその場を後にした。本当に俺の心は弱い。過去に救いは無く未来へ進みたいのに過去はいつも俺を縛って追い詰めて来る。
実家の事、闇刻術士の事、そしてアイリスの事……そう言えば過去でも縛られてない時間は有った。思い出すのは清一と氷奈美ら四人と遊んでいた時の事だ。
◇
もう十年以上も前の、黒髪の少女と出会った公園で清一を倒して、ひなちゃんを連れて来て四人で初めて会った時の事だ。
「ししょ~!! こいつが妹の氷奈美です!!」
「氷奈美です。にーさんの、お師匠さま」
「よろしく。俺は黎牙だ。よろしく……そしてこっちは……そ~いえば、お前、名前なんだ?」
この時は会ってから十回以上経っていた、この少女の名前を初めて聞いた時だった。そうだ、いきなり記憶がフッと蘇りポンと彼女の名前が出て来た。
「わたし、わたしは……アイ……えっと……愛花だよ。えんお~いん君」
「アイ……カ?」
「愛の花って書くんだって……まだ漢字むずかしいから書けない」
そうだ、愛の花でアイカだった……。何で忘れてたんだろうか、微かに覚えていた記憶の残滓が蘇って初めて俺は彼女の名前を思い出せていた。
「アイカさん。よろしくお願いします」
「うん!! ひなちゃん!!」
そうだ。確かこの子、アイカが氷奈美ちゃんの事を「ひなちゃん」と呼んだから俺も便乗して呼ぶようになったんだ。
「まあ、では私はアイちゃんとお呼びしますね?」
そうして俺達、四人は出会ったんだ。今や一人は次期当主で嫡子の道を進み、もう一人も術師として完璧な大和撫子として成長し協力してくれている。
(俺だけが……でも今思えばアイカだけが一般人だったんだ……)
その後も何回か四人で遊んだり二人が地元に帰った後は二人で遊ぶ事も有った。そうだ、あれだけ会っていたのに何で俺は、そうだ。彼女は病弱で何か有ったはず……そう、何だったか目に見える症状が出て――――。
「ししょおおおおおお!!」
「うおっ!? なんだよ清一……でけえ声で呼ぶな」
思い出そうとしたベストなタイミングで清一が廊下の向こう側から叫びながら走って来た。
「聞きましたよ!! クリスの指南してやるんですよね!? あいつ体が弱くて華奢だから心配してたんすよ!!」
「やはりか、身長も低いし筋力も男にしては少ない。あれなら嫡子から外されるよな。術はどうなんだ? 聖霊力は低く無かったけど」
「コントロールは苦手そうでしたね……俺も一緒に稽古良いですか?」
やっぱりこうなるか……ま、コイツなら良いだろ。俺は快諾するとクリス君を呼んで男三人で特訓しようと南邸の庭に出た。
◇
そして一通りの訓練を終えたタイミングで俺は思ったのが……クリス、おまえ体力が無さ過ぎるぞ。
「はぁ、はぁ……ゴメン、なさい」
「気にするな……だけどこりゃ一朝一夕で何とかなる感じでは無いな……」
「ああ、しっかしクリス、さすがに病弱とは言え鍛え方が足りんな」
たった三十分の鍛錬でこの様である。軽く1500メートルを走り込みながら術を上空に向かって放つだけだ。勝手に出て来たヴェインが回復術のレイエナジーをかけて心配する程で、しかしヴェインの動作は、なぜか俺と清一を非難しているような感じだった。
「ヴェイン、言いたい事は分かるけど術師の将来の嫡子はこれくらいでは……」
そんな事を言い合っていたら新たに庭には二人の気配が現れた。炎乃華と勇牙で何か用が有りそうにこちらに歩いて来ていた。
「どうした二人揃って?」
「あの、黎牙兄さん。琴音のお兄さんの、早馬さんの意識が戻ったから来て欲しいって、今は楓さんが見てくれてるから」
「分かった。じゃあ――――「俺も同席良いですかね? 早馬さんとは前回の総会以来だからさ!!」
「ああ、じゃあ炎乃華、案内を……えっとクリス君はどうする?」
「はぁ、わっ、ボクはまだ体力が……」
「ああ、そうだな、体力がまるで鍛えてない女の子並みだからな? 勇牙、同じ次期嫡子同士だ。彼を見てやってくれないか? 後でまた来るから」
「分かったよ兄さん!! ここは任せてよ!!」
うむ、頼りになる弟だ。それに勇牙は炎乃華の尻に敷かれている事が多いから他家の人間ともっと交流すべきだ。可能なら琴音なんかとも話をさせるべきだと思っている。次代を担う術師なのだからな。
そう考えて炎乃華の先導で南邸の涼風家の留まる部屋に向かった。しかし俺の安易なこの判断が炎央院家の未来を変えてしまうなんて、この時は思っていなかった。
◇
「おっ? マジだ……お前、生きてたのかよ」
「第一声がそれかよ……あんたこそ生きてたんだな?」
「ああ、部下全員犠牲にして生き残って、やったぜ……」
そう言って涼風家の嫡子、涼風早馬は布団から上体を起こした。まだ不完全なようだが両サイドを妹達に支えられて罰が悪そうにしている。
男のくせにと言ったら今は差別になるだろうがポニーテールのように長髪を後ろでまとめているのが特徴で昔と変わっていない。
「妹ハーレムとか兄冥利に尽きるな。それで早馬さん地獄から生還して情報は?」
「ああ、まずは……お前にメッセージだ。レイ=ユウクレイドルは今のお前で良いんだよな? あの黒紫の刀の男が『黒き風はギリシャでの借りを返す』だそうだ」
「あの野郎、クレタ島での……分かった。これで最悪の事態だと言うのは分かったよ。四卿が全員揃った……しかも日本に」
京都でロックウェル親子が倒された相手がダークソイルな時点で二人は確定、一応は楓の報告でダークウィンドーの可能性は有ったが、このメッセージで確定した。日本には四卿が全員揃ってしまった。
「あのぉ、黎牙兄さん? 良いですか?」
「なんだ? 炎乃華?」
「四卿って言うくらいですから四人居るんじゃ? 三人で全員なんですか?」
「ああ、四卿の一人は……ひと、り……は……」
――『行くぞ!! ダークフレイ!! これが、俺達の最後の一閃!!』――
――――『ええ、これが私の命の輝き!! 受け取ってレイ!!』――――
隣で彼女と一緒に極大のレイブレードでダークフレイを滅した時に彼女は言ったんだ……『私の命の輝き』と……既に、あの時に彼女は……覚悟を決めていた。
――――『生き……て、愛して……る』――――
腕の中でどんどん彼女の光が失われて行くあの感覚……アイリスの犠牲で英国は救われた……そう、倒したんだ、アイリスの命と引き換えに……余剰のエネルギーを貯め込んでいたから今は助かっているだけで……そもそも霊薬が本当に効くかも分からない。完成したのか? あれから一ヵ月だ。まだ猶予が有るとは言え……本当に……彼女はまた笑ってくれるのか?
「黎牙兄さん?」
「あぁ、悪い。炎の四卿……ダークフレイは英国で俺達が倒した……」
「えっ!? 凄い!! さすが黎牙兄さん!!」
凄くなんか無い……俺は、俺は大事な人を犠牲にしてここに居る。一時でも自分の復讐で忘れていた。何が光の継承者だ、大事な人を……妻一人守れないで神の代行者だなんて俺はやはり無能なままで何も変わって無いんだ。
「奴と同格を倒したのかよ……本当に無能じゃなくなったんだな?」
「ああ……悪い、少し、用事を思い出した。席を外す」
そう言って俺はフラリと廊下に出た。周りから不審がられたがとても気分じゃなかった。あの瞬間を思い出す度に俺は自分が許せなくなると同時に情けなくなる。変わった気でいた。日本に戻って変われていると思ったのに、俺は……。
「あら? 黎くん? どうしたのかしら? 顔色が――――「悪い、今……相手をしているほど……余裕無い」
「レイおじさん……?」
炎乃海姉さんと真炎と廊下ですれ違うがそれどころじゃない。フラフラして庭先に出る。何人かの術師に声をかけられたがテキトーに返事をして俺は心落ち着ける場所に行こうとする。そうなると自然と俺は、あの場所に向かっていた。
「はぁ、はぁ……アイ……リス、俺は……」
「え? 黎牙様?」
「ん? あぁ……流美、か……悪い。気付かなかった」
俺は西邸と本邸の間の松の木の裏に背を預けようとしたら先客が居た。気配をまた感じなかった。どうなってるんだ? 昨日のクリス君の時もそうだが俺の聖霊力が落ちたのか?
「いえ、私も……黎牙様!! お顔の色が優れないようにお見受けします。何があったのですか!?」
「なんでも、無い……」
「その顔は何かあった時の顔です!! お休み下さい。どうか……」
「今さら、俺はお前に――――「私をどんなに信用しなくてもっ!! どうか、ご自愛を……お願い、します……黎牙……様」
ああ、そう言えば……俺はこの顔に弱かったんだ……黙って頷くと俺は座り込んで気を失うように眠っていた。そう言えば昨日から寝て無かった。
◇
「レイ? どうしたの?」
「えっ? アイリス……?」
「遅いから迎えに来たんだよ!? 今日は初めてのドライビングデートでしょ?」
そうだった、今日は免許を取って半年、やっと人を乗せても大丈夫だとワリーとジョッシュに判断されての初デートだったんだ。
「社の車しか借りれないのが情けないけどね?」
「そんな事よりも、初めての助手席は私だって……言ってたのにぃ……」
それで不貞腐れているのか……さっきから不機嫌だと思った。十七歳になると同時に俺は免許の講習を受け十八歳になって何とか取得できた。任務で講習を受けられずに取るのが大幅に遅れてしまっていてやっと取れたんだ。
「いや、ヴィクター支社長が安全運転が出来るまではダメだって言ってたから……」
ちなみに初めての助手席はヴィクター支社長で、ダメ出しをされまくった。その後になぜか任務も二人で出る事になり運転を代わられたり、サラさんのおつかい、後は酒を飲みに行きたいからと運転手もさせられた。
「パパ、レイに意地悪ばっかりして……本当に、それにレイの助手席は私専用なんだから……」
「そうだな。これからはアイリス専用かな?」
そう言って俺はソファーから立ち上がると二人で社の地下駐車場に向かう。無難な黒のセダンタイプなのだが妙に新しい気がする。
そもそも任務でこんな車を使っただろうか? それにこのエンブレムって……などと考えていたら車の傍に二人の男女が立っていた。アイリスの両親だ。
「来たか。レイ。くれぐれも、くれぐれもアイリスと健全な付き合いをするんだ!! そのために社の車も特別に貸すんだからな!?」
「分かってます支社長。今日はきちんとアイリスをエスコートしてみせますよ」
「うむ、まぁ、お前も運転は安定して来たし、悪い奴では無いのは分かった……だからと言って――――「はいはい、あなた静かにして下さいね? ここ響きますから」
いつものようにヴィクター支社長に小言を言われながらサラさんに止められる二人を見ていると気になってアイリスの方を見る。すると真っ赤になって二人の夫婦漫才を止めに行ってしまった。
「はいはいメンゴ、メンゴ~。アイリス。あまりハメは外しちゃダメよ?」
「分かってるよ……」
「では、後は若いお二人で、ふふっ」
そう言うとヴィクター支社長はサラさんのグリム・チェインで縛られて引きずられて行く。
「そうそうアイリス!! 帰りが日を跨ぐようなら連絡は夕ご飯までにするのよ~」
「お、お母さんっ!?」
「その心配には及びません、キチンと門限までにはお送ります!!」
そう言うとヴィクター支社長は当然だと言ったがアイリスは少し不機嫌になってしまった。女性の扱いは難しいと実感した。過去に一度も女性の扱いは上手く無いからなと自嘲気味に笑ってしまう。
「レイは昔から不器用だったからね? 女の子に」
「昔って、二年前はそんなに昔か? 女性に不器用なのは事実だけどさ」
「あっ!? そう、だね……メンゴ、メンゴ~」
それにアイリス……それって日本でもかなり昔に流行った死語だった気がするんだけどな。前に聞いたらアイリスの祖父母が若い時に流行った言葉らしい。
すっかり忘れているがアイリスはクオーターで六年前までは日本に居たそうで、その時に教えてもらったようだ。
「じゃあ少し郊外にでも行こう、マイフェアレディ?」
「ええ。喜んで……ふふっ」
今日も綺麗な銀髪とブルーの瞳が輝いていて嫌な事を全部忘れられそうだった。実は前回の出撃で俺はミスをして味方に被害を出していた。いつかは通る道とは言え実戦でのミスは初めてで情けないが震えてショックを受けていた。
「レイ? 今日は楽しもう!! パパが今日のお昼は行きつけのレストランを予約してるって言うから行こう!!」
「え? レストラン? ドレスコードは大丈夫なのか?」
「う~ん、そこまで格式高いところじゃないから大丈夫だと思うよ? それにそう言うとこはまだ早いって言われてるからね?」
そう言うものなのか、デートなんて会食で退屈なものと言うのが英国に来るまでの俺の印象だった。たまに家で見る事が出来たテレビやネットで一般的なデートも見た事は有ったが絵空事だと思っていた。
「えっと、そこが駐車場だって」
「そうか、じゃあ……少し曲がったけど、まあ、良いか」
駐車場は少しはみ出したが大丈夫だろう、その内上手くなるはずだ。そしてアイリスに案内されたのはオープンテラスも併設された割と若者向けのセンスの良いレストランだった。
「ここはパスタが美味しいイタリア料理のお店らしいんだ~♪」
「そうなんだ……」(つまりはイタリアンか……食べた事は無いが、マナーとかは大丈夫なんだろうか?)
俺はそんな事を気にしていたがアイリスは所作は丁寧だったが、そこまで形式ばった食事では無く終始和やかに、会話を楽しみながら穏やかな時間を過ごせた。
こんな食事はたぶん初めてで俺は好きな子と一緒に居るだけでここまで安心出来ると初めて知った。
「ふふっ、レイそんなに美味しかったの? パンナコッタ」
「ああ、日本では和食くらいでね。イタリアンは新鮮だったんだ」
「そっか、じゃあ今度もイタリアンかな?」
「ああ、でも俺は……アイリスと二人だったから、食事があんなに楽しかったなんて……いつ以来だろ?」
そう言った俺の腕にアイリスが抱き着いて来て、次に行こうと言ってくれただけで俺の心の靄が晴れて行く。そのまま車で次の目的地へ、当ても無く車を走らせカーナビは切ってアイリスにナビを任せていた。車外を見るとアイリスは光の蝶に案内してもらっているようで自然とその場に案内されていた。
「はい。到着~!! いこっ!!」
「ああ……公園? やはり広いな……こっちの公園は」
車を降りるとそこは有名な展望台と同じ名前の自然公園で園内に人はまばらだった時間も日の入りが始まったそんな時間帯だった。園内を二人で静かに歩く。すれ違う人間なんてほとんど居ない。
「あそこのベンチでいい?」
頷いて二人でベンチに座る。ピッタリくっ付くわけでも無く、かと言ってスペースを一人分開けるのでもなく自然と手を重ねる場所だけが確保されていた。
「あっ、アイリス……そのっ……」
「なぁ~に? レイ?」
「いっ、いや……お、俺は……」
雰囲気は完璧だ。今日で三回目のデート、一回目は大失敗だったけど楽しかった。二回目は近場での無難なデートで……。そして今日、俺はアイリスに告白する。十五年間、女にはトラウマしか無かった。
でも英国に渡り二年、俺は任務や一緒に生活する中で自覚した。彼女を愛していると、だからワリーやジョッシュに相談したりフローやベラに好みを聞いたりして今日、告白しろと全員に言われた。
「どうしたの?」
「あっ、ああ……そのっ」
実はプレゼントも用意した。自分でプレゼントを選んで贈るのは生まれて初めてだ。実は炎乃海姉さんや炎乃華へのプレゼントは流美に適当に選んで贈るように指示していたので良く知らない。こんな事なら少しは流美に聞いておけば良かったと思ってしまう。
「レイ。大丈夫だよ……私、いつまでも待ってるから。もう、ずっと待ってるから」
思わず時計を見て確認するが、まだベンチに座って五分も経っていない。そこまで待たせてしまったのかと少し焦る。よし、ここはトイレ休憩で……落ち着こう。
「あ、ああ……ゴメン。少しトイレ――――「レイ!! 私、レイが大好き!!」
「っ~~~~!? ア、アイリス!? お、俺は……」
そして距離が零になる。俺の胸元にアイリスが顔を埋めた後に見て来て視線が合う。彼女の温もりを感じているが俺の心臓は早鐘を打っていて爆発寸前だ。変な声が出ていた。
「レイは? 私の事……どう、思ってる?」
「ふぅ……お、俺は、俺も、アイリス、君を愛してる……付き合ってくだ、さい」
何とも情けないが俺はよりにもよって告白しようとして逆にアイリスの方から告白されてしまった。そして自覚した。これも夢だと……ああ、そうだった俺の情けない告白、これで彼女と俺は恋人同士になったんだ。
「だから言ったでしょ? ――――時から――――前から、ずっと待ってたって……嬉しい……返事はもちろんイエスだよ……レイっ……」
その後に俺は生まれて初めてキスをした。俺が救われたと感じた日がアイリスと出逢った日なのだとしたなら俺が報われたと心から感じたのは間違いなくこの日だ。俺はこの日を生涯で絶対に忘れない。
◇
「アイ……リス。どうして――――俺だけ……置いて……はっ!?」
目を覚ますと夕暮れ時、大木の下で眠っていた。見上げると従者の顔があった。膝枕をされているらしい。
「あのっ……おはよう、ございます。黎牙、様」
「あぁ……ん……悪い。面倒をかけた」
起き上がると少しフラつく俺を支えるように出て来たのはヴェインだった。そして俺に近づこうとした流美を軽く押し留めるようにしている。
「は、はぁ? そのヴェイン……様?」
『っ!?』
そして俺を立たせるとヴェインは、なぜか流美にグッとサムズアップした後に、人差し指を上げてチッチッチッとしている。まるで、『ここまでだよ』と言わんばかりだ。相変わらず口元しか見えないが少し笑っているように見える。
「ヴェイン……お前、何がしたいんだ? まあ良い。ミーティングを抜けて来たんだった。流美、付いて来い。明日は午後から総会だ。確認事項が有る」
「は、はいっ!! お供しますっ!!」(今度はどこまでも……)
少しだけアイリスとの思い出を胸に睡眠も取れた俺は頭を切り替え今はこの国を、日本を救うべく動き出す。まさかこの国を俺が守る日が来るなんてな……八年前の俺に言っても絶対に信用しないだろうな。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。




