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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第二章「彷徨う継承者」編
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第39話「因縁の再会と忘れ難い過去、継承者は受け入れる」

明日から投稿時間を変更致します。



「はぁ、檜の風呂なんて何年振りか……いや八年振りか……」


 英国に渡って七年、バスタブに湯を張るなんて滅多にしなかったし基本はシャワーだった俺は最初こそは違和感を感じていた。しかし根っこは日本人だったからなのか湯船に浸かると自然に落ち着いて極楽だった。


「さて、上がるとするか……」


 誰に言うでも無く一言呟き俺は風呂から上がると外の薪をくべていた聖霊の気配が消えるのを感じた。ここは炎の聖霊の大家、その総本家の炎央院の家だ。


この手の役割は聖霊に任せている。そんな事を考えて俺は寝巻用の浴衣に着替え三日前の交渉を思い出していた。あれからこの家に逗留して既に三日が経っていた。





「仕方あるまいな、兄上は後で説得するとしよう……黎牙、いやレイ=ユウクレイドルとして我が家の関係者として中立の立場で協力を願うしかあるまい」


「では、以降は日本での私の任務が終わるまでは、ご協力しましょう」


 俺が手を出すと叔父さんは一瞬迷った後に手を出したので握手をする。商談をする時はこれが基本だろうと思っていたが周りはそうでも無かったらしい。


そして南邸の改修はまだ終わらないので西邸にと言われたが、広間の壁が吹き飛んだだけなので俺はそれを辞して南邸に逗留する事にした。奥の間や個室は無事なので掃除が終わったそこに荷物などを運び入れて一息付いた。


「ふぅ、それで? 何でお前はまだ出て行かないんだ?」


「本日よりレイ様のお世話役になりました里中流美と申します。どうか、よろしくお願い致します……黎牙様」


 さっきから後ろに付いて来ているとは思ったが普通に一緒に入室して来た俺の元世話役はにこやかに笑うと正座で俺の前に座った。


「勇牙や炎乃華はどうする? それに俺に世話役など不要だ」


「これは衛刃様からのご指示です。お客人に世話役を付けないのは当家の名折れ……それに、もし私が外れた場合は芳江さんや他の方が代わりにと志願されているようですよ?」


 つまりはあの女(母親)からの横槍が入りやすくなると、そのための流美か……牽制と俺が他の世話役を不要と言う理由は元世話役で俺との関係を勘違いされている流美が一番だと言う判断か。


「なるほど……派閥同士のイニシアチブの取り合い……その対象が俺と言うのも皮肉だと思わないか?」


「それだけの力をお持ちになられたと誇られてもいいのでは? でも今の黎牙様はお嫌なのですよね?」


「ああ、出来れば二度と戻りたくは無かった。だけど仕事だからな……大事な大事な仕事だったから……俺は一人でも、必ず」


 そうアイリスを救うそのために来たのに、その仕事はもう終わったも同然だ。なのにも関わらず俺はここに居る。やはり過去の因縁に蹴りを着けろとそう言う事なのかもしれない。


「今度は決っして、お側を離れません!! どうか、お世話を――――「ふぅ、分かった。衛刃殿の心遣いを無碍に出来ないしな……ま、よろしく頼む」


「はいっ!! お任せ下さい!!」


 流美は毅然とした表情で俺を見てしっかり頷いた。最終的に流美の助力もあったから英国に渡れた要素も有るので、もう一度信じても良い気はしていた。それに俺だって鬼じゃない、ここまで献身的にされれば少しは心が動く。


「話を蒸し返すようだが勇牙や特に炎乃華は本当に大丈夫なのか? いきなりお前が外れたりしたら、やはりお前が付いていないと……」


「私も当初はそう考えていましたが、衛刃様がお二人を過保護に育て過ぎたと判断されたようで……」


「確かに炎乃華に限っては、やはり俺の……母親だった女と炎乃海姉さんの事があったからと?」


「あとは黎牙様の事もです」


「お、俺もなのか?」


 まさかの俺のせいだと? 俺は追放された上にこの家には十五歳までしか居なかった。その俺が何の影響をと思っていたが次の流美の言葉で理解した。


「はい。炎乃華様の口癖は『黎牙兄さんならこんな時はこうする』そう言って最近までは家中を支えておられました。実際それで成功していたので」


 確かにアイツに教育を施したのは俺だが最後の方は俺の事をバカにしていたから驚いた。だが流美の話では俺への負い目や炎央院楓果の言葉で、あのようになっていたらしいと言われ納得もした。


「つまりは過去の俺の言に縛られていたのか……それは少し申し訳ない事をしたな」


 つまり炎乃華が盲目的になっていたのは俺が過保護に教育していた事も関わっていたとも取れるのか、そりゃ十九で六つの女の子に性知識で負けてるとか、剣術と金勘定ばかりやっていたのが原因と言われても仕方ないし、確かに昔の俺は炎乃華に甘かった。今の真炎ほどでは無いにしてもだ。


 そう言えばアイリスにも対しては最初は妹のように思っていたし、何なら氷奈美それに一緒に居た黒髪の女の子も……俺は年下の女の子には甘かった気がして来た。


「い、いえ。それは、お慕いした方の言葉だったからかと……」


「ああ、確かに勇牙もだったが小さい頃は炎乃華も、俺を兄として良く慕ってくれていたからな。そうか、なるほどな……」


「えっ!? あ、あのそう言う意味では――――「それより流美、さっそく頼みが有るんだが良いか?」


 流美の方の緊張もだいぶ解けて来たようだし本番はここから。さて、楽しい無駄話はここでお終いだ。ここからはビジネスの話に入りたい。


「え~っと……はいっ!! 何なりとお申し付けくださいっ!!」


 その後は流美と簡単な打ち合わせをすると決行は来週だと言う事なので、それまで家中でゆっくり過ごして欲しいと言われた。なので俺は今日まで三日間はゆったりと過ごしていた。





 風呂上り、流美の用意した夕餉を三人で食べ終わった後に簡易的な報告を受けていた。主流派、正確に言えば炎央院楓果派が俺への接触を計っているらしく家中はざわ付いているらしい。


 ちなみに炎乃海姉さんは二重スパイとして向こうの情報をもたらしているようだ。その間、真炎は俺のとこに預けられていた。衛刃叔父さんが俺以外に信用して預けられないと言ったのでこうなったらしい。


「ごちそ~さまでした!!」


「ご馳走様でした」(やはり、落ち着く味だ……悔しいくらいにな)


「はい、お粗末様でした。食後にりんごの用意が有りますので、そちらも」


 そう言って流美は一度下がると綺麗に切られたリンゴと真炎用のウサギりんごを用意してくれた。それを二人でシャリシャリ食べていると、いつの間にか腰を下ろしてこちらを見ていた。


「どうした? 報告でも有るのか?」


「いっ、いえ……ただ、黎牙様がお戻りになられた事が、現実になって……ただ嬉しくて……」


 今さらそんな事と思うがつい数日前までは死んでいた人間が戻って来たらこうもなるか、本当に勝手な連中だと嘆息しつつも、いい加減に区切りは付けるべきだとは思う。それに気になる事も出て来た。ついさっきから外に何か居る。


「まったく……もう気にする必要は無い。手打ちはしたのだからな。所詮しょせんは過去だ。それで? 南邸に聖霊が一柱来ているがお前のか?」


「いえ、炎狐は呼び出していませんが……まさか主流派ですか!?」


「たぶん違うよ~!! ワンちゃん、犬みたいだよ?」


「犬? 真炎、そいつは主流派のか?」


 真炎は少し性格に疑問の余地が有るが可愛い、では無くて正直者だ。つまりは外には犬型の聖霊が来ているのだろう、もしくは見た目が近い者だろう。何か引っかかる物を感じたが真炎の次の発言で俺の意識はそちらへと向いた。


「う~ん、分かんない。でもぉ……こわがってるみたい」


「聖霊が怯えている? そうか、じゃあ見に行くか」


 俺は襖を開けて庭に目を走らせると姿を消しているようだが何か居るのは確実だ。俺は軽く聖霊力を走らせる。そしてそれを見つけると素早くスカイを呼び出す。


「捕まえてここに連れて来てくれ」


「あ、レイおじさん。弱ってるみたいだから優しくした方がいいよ~」


「分かった。スカイ、丁重に連れて来い」


 そして連れて来られたのは炎の獣、犬型の炎の聖霊だった。俺には全く見覚えが……いや、微かに既視感がある気がしないでもない。


「炎聖霊だよな……流美、何か知ってるか?」


「いいえ……私は存じません。でもこの子は未契約の聖霊……ですね?」


 真炎にも一応は尋ねるが返答は知らないとの事でコイツが何をしたいのか全く理解出来なかった。一応はヴェインやレオールも呼び出したのだけどコイツらも同様に分からない様子だった。


「……えっ? かぐり? 出るの? いいよ~」


『継承者様、うちの系譜の聖霊の気配がしたんで、馳せ参じました』


「お前の系譜? まあ炎聖霊は全部そうなるか」


『はい。よろしければ翻訳しましょうか?』


「ああ、ヴェインじゃ難しいからな。よろしく頼む」


 ヴェインがジタバタしているが今は静かにしてろと言うと少しだけ大人しくなったが、少しへそを曲げてそうだ。レオールは同じ犬型なのか親近感が湧いているようでチラチラ見ている。


『お任せ下さい。貴様、話せ……なるほど、継承者様、八年前にこの聖霊と会ってませんか?』


「八年前? 俺がこの家に居た時か? ん? そう言えば、お前どこかで……」


 その瞬間に俺の脳裏には追放される原因の出来事『炎の祠』での試練を思い出していた。そこで俺は試練のために契約するはずだった聖霊獣がいたのを思い出す。そう、目の前のコイツだ。


「お前……あの時の聖霊獣か!?」


『そうだと言ってますね。あの時に酷い目に遭わされたから、先に投降の意思を示すためにここで様子を見ていたとの事です』


「何言ってる? 俺はコイツのせいで家を追い出されたようなもんだぞ?」


 そうだ。俺は結局は契約が出来なくて追い出された。それどころか目の前の聖霊に気絶させられて追放になったのだ。俺の人生で一番惨めな日だったから思い出していた。そうだ光が弾けて、俺は……。


『それなのですが、コイツの話を聞くに継承者様にも非はあるかと』


「いやいや、俺はコイツに襲われて意識不明になったんだ!!」


『それが、契約を求めた時に光位聖霊に追い払われ、挙句の果てには吹き飛ばされたと言っておりますが?』


 そこで俺は当時の状況を思い出そうと必死に記憶を絞り出す。大雑把には覚えていたが細かい所は覚えて無かった。


「え? あ、そう言えばあの時に光って俺は洞窟で気を失ってたけど、あれって、お前が原因じゃなかったのかよっ!?」


『違いますねぇ。あなたから漏れ出た聖霊力が魅力的だったので契約を結ぼうとしたら既に守護に付いていた光位聖霊に邪魔されたそうですよ?』


「そう、なのか?」


 思わずヴェインを見ると頭をかくような仕草をしている。何か照れているような仕草をしているようだがイマイチ伝わらない。


『ヴェイン様がおっしゃるには「ごめ~ん、やり過ぎちゃった♪ メンゴ」だそうでございます。恐らくは光聖神様の指示もあったのかと』


「そうか……それとヴェイン、お前それが素なのか……ノリは良い方だと思ったのだが、じゃあお前も八年前の被害者なんだな?」


 そう言って手を出すと炎の聖霊獣は震えながら、その手に甘噛みして来た。


『継承者様、そこな我が系譜に連なる者が、あなた様と改めて契約を結びたいと申しておりますが?』


「いや、無理だろ、だって俺は英国でも光位聖霊としか契約結べなかったし」


『それはヴェイン様を始め他の光位聖霊様が認めてなかった故でございます。なので今は継承者様が願えば炎聖霊とも契約が可能でございます……ってお止め下さい!! ヴェイン様っ!! 痛い!! 痛いです!! 本当の事言っただけ、痛い!!』


 なぜかヴェインとスカイがペシペシと火久李を叩いていた。上位聖霊からの攻撃だから完全にイジメでパワハラだが少しの間は見過ごそう。そしてこのリアクションで俺は契約出来る事を確信した。


「どうやら本当らしいな……お前も被害者だったか……どうする? 俺と来るか?」


 そう言った瞬間に炎の犬の聖霊獣は聖霊力を振るわせて俺と同調した。これで契約は完了だ。今さら俺が炎聖霊のしかも位階では低い聖霊獣と契約する意味は皆無だ。でも俺は契約したかった。理由は簡単だ。


「俺が、炎聖術も使えるんだよな……これで」


 そう言った瞬間に、俺の拳に炎が燃え上がった。光では無く炎が燃え上がった。俺が望んでも八年前は手に入れられなかった炎の力だ。


「なるほど、出力も光位術の下位互換だが弱い敵には手加減が出来るな。それに、俺の本来の剣技はこっちの方が合うのか……炎皇流を修めてたからな」


「あぁ……黎牙様が、ついに炎聖師に……この日を私はどれだけ……」


 追放時は流美にですら諦められていたからな、俺よりも喜んでそうだ。出来の悪い主がここまで成長すれば従者としては嬉しいのだろう。しかし、そんな歓喜の声に無邪気な一言が突き刺さる。


「でも、流美さんもレイおじさん、ついほーしたんだよね?」


「あぅ……その、通りにござい……ます。真炎様」


 真炎ちゃん? ここは取り合えず感動しておく所なんだけどなぁ……ま、まあ感情表現や思った事をストレートに表現するのは悪い事じゃない。


 ちなみに俺はその日に知識として知っていた奥伝を全て習得した。明日にでも炎乃華に三〇分弱で覚えたと言って軽くイジメてやろうと思うと、なぜか今日は良く眠れそうな気がした。





 夢を見ていた……最近は過去の夢ばかり見ている。明るい夢を見たいと言う願望なのかも知れない。だって過去には彼女が居て、未来には彼女は……。


「レイ? どうしたんですか?」


「何でも無いよ……ただアイリスと初デートだから緊張しているんだよ」


 これは今から七年前、新世代の風のロードを倒した後の出来事だ。あの当時ヴィクター義父さんとアイリスは喧嘩をしていて、それを落ち着かせるためにデートをしようと俺が言ったのがきっかけだった。


「緊張なんてしなくても……ただ二人で一緒に過ごしたいだけなのに」


「そう……だね。しかし恥ずかしながら俺はデートなんて殆ど、いや本当の意味でデートはした事が無いんだ。エスコートなんて出来るかどうか」


 当時の俺は光の継承者になって覚醒してまだ数週間、実力も自信も何もかもが無かった。デートなんて炎乃海姉さんとの会食程度で、それもデートなんて呼べないものなのは今さら思い出すまでも無い。


「そんなの気にしなくて良いんだよ? 私、レイと二人でやりたい事がたくさんあったんだから!! だから今日は私に付いて来て!!」


 そう言って俺の手を取って本社から連れ出してくれた。一応は今日の為に給料は下ろして来ているが世間知らずの子供二人のデートは色々と失敗が多かった。


 マーケットに行けば二人で不良品を掴まされる。出店では、ぼったくり料金に騙されそうな所を偶然通りかかったジョッシュとフローに助けられて何とか事なきを得た。


「すまない二人とも」


「ごめんねレイ。私もカムデン・マーケットは初めてで……」


「いや、俺が頼りないから……」


 そんな感じで二人でションボリしているとジョッシュが適正料金で買って来た出店のパエリアを奢ってくれて四人で食べたりして昼食を満喫できた。二人でこの後はどうするかを相談していたらフローが俺達に提案が有ると言って割り込んで来た。


「二人とも背伸びしないで定番を行ってみたら? そうねリージェンツ運河を優雅に遊覧船ってのはいかが?」


「ま、無難か……そ~いえば動物園とか途中にあったな。案外お子ちゃま二人には良いかもな?」


 そう言われて、お子ちゃまとか言うなと今の俺なら言うだろうが当時の俺とアイリスは違った。


「動物園か……行った事無いな……」


「あっ、私も……です」


「そう言えばお前らは、お嬢とお坊ちゃんだったなぁ!! じゃあ乗り場まで送ってやるから付いて来い!!」


 そして俺達を遊覧船に乗せると二人は役目は終わったとばかりにスマホを片手に手を振っていた。どこに連絡をしているのだろうかと当時は思っていた。


 だが後になって聞いたらアイリスの両親つまりヴィクター義父さんとサラ義母さんへの報告だったそうだ。ちなみにこの後にロンドン動物園では偶然にもデートをしていたワリーとベラと会う事になる。


「レイ!! 見てっ!! 私、ペンギン初めて見ました!!」


「俺も初めて見る!! 図鑑とかでは見た事有るんだけど本物は始めてだ」


 そう言って俺たちはペンギンが目の前の大型の水槽で泳ぐのを見た。チャプチャプ浮きながら毛繕いする光景は可愛さに溢れていて、お土産にぬいぐるみをアイリスが買った程だった。


「お嬢様!! あちらのエリアにはライオンが!! 是非とも覧ください……って何をするのですか!! ワリー!!」


 俺たち以上にはしゃぐベラを抑えるのは最年長のワリーで、デートのはずなのに常に周囲を警戒しつつ二人でデートをしていたのに俺たちばかりに気を使っていた。


「状況判断をしてくれ、ベラ……頼む」


「あっ……すいません。私も久しぶりなのでつい……」


 日本ならイルカショーとかが有りそうだが英国の動物園は教育機関としての側面が強いらしくそう言うのは無いらしい。そして施設自体が最古のもので歴史的にも価値が高いらしいとパンフで読んでいた。


「さっき見たペンギンもライオンの親子も可愛かったなぁ……」


「ああ、俺もフラミンゴとかは初めて見た……って二人は? あれ?」


 いつの間にかワリーとベラとはぐれていたが、これも計画通り。俺たち二人はこの日はなぜかPLDSも聖霊通信も切っていろと言われて知らなかったが俺達の初デートは総勢三〇名の光位術士がそれぞれ聖霊を動員して見守っていたらしい。


(今思えば俺達の初デートは、はじめてのおつかい状態だったのか)





「レイ、今日はすっごく楽しかった……よ?」


「あはは……ごめんな。年上だし男の俺がリードしないといけなかったのに」


 動物園は楽しかったし、その後のクルージングも二人でゆったりとした時間を過ごせた。帰りにも見覚えの有る人が絡んで来たが何かをする前に「覚えてやがれ」とか言われて退散されてしまった。


「そんな事無いよ!! 明らかに暴漢の振りしたSA1の人達追い払ったのはカッコ良かったよ!!」


「あはは……ありがと。俺、今日はアイリスと一緒に居られて楽しかった……次は俺、頑張るから!!」


 俺の決意とは裏腹にアイリスは首を横に振ると俺の方を向いた。少し風が出て来てその銀色に輝くブロンドが流れ、思わず目を奪われる。


「頑張らなくても良いよ。レイのカッコ良い所、優しい所、私はちゃんと知ってるから……覚えてるから」


「ありがとう。君が、アイリスがそう言ってくれるから、俺は戦えるんだ……俺は……だから次も――――」


 そこで俺の夢はまた別な場面へと移る。そこはやはり過去で俺が更に小さい時代だった。清一やひなちゃん、そして黒髪の少女……彼女だけは相変わらず顔は思い出せないがそれが一瞬で過ぎ去り、次の瞬間にその黒髪の少女が闇のロード、ダークブルーの邪悪な笑みに変わっていた。


「うわっ!? っく……なんなんだよ……性質の悪い夢だ。全く、久しぶりに良い夢だったのにな……ま、三時間くらいで目が覚めるんだし仕方ない……か」


 久しぶりのアイリスとの夢だったのに黒髪繋がりだけで闇のロードが夢にまで出て来るとか本当に勘弁して欲しいものだ。


 まだ朝陽も登らず暗い室内で俺は気分転換に庭で夜風に当たろうと布団から出ようとすると、なぜか横には真炎が寝ていた。


「おいおい……流美のとこじゃ無かったのかよ……」


 軽く頭を抱えて俺はそのまま布団をかけ直すと部屋を静かに出た。少しだけ肌寒く空には雲にかかった月が薄っすら見えていた。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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