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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第二章「彷徨う継承者」編
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第33話「因縁と再会、いつの間にか増えていた親戚」


 あの後は色々と大変だった。ひとまず衛刃叔父さんは衰弱していたので叔父さんの自室に運び俺がフォトンシャワーをかけた上で絶対安静となった。


 聖霊病棟からの医師も駆け付けて驚いていたが教える義理は無い。だがこれで今度こそ完了だと思って俺は炎央院の家を後にすべく踵を返そうとした。


「お待ち下さい黎牙様、まだお帰りには少々早いお時間ですよ? ちょうど昼餉の時間ですので……いかがですか?」


「流美……これ以上、俺に何を望む? そろそろ俺を解放しろ」


「良いのですか? 残念ながら未だ依頼は完了していませんよ? 何よりも衛刃様とお話をして頂きたいと思います」


 俺も正直に言うと叔父さんと話したいし、最後まで俺の可能性を信じ水森や涼風の家にまで根回ししてくれた事に改めてお礼を言いたい。


 そのお陰で『草薙の霊根』は手に入ったようなものだ。しかし、いつまでもそれを理由に関り合いになっている訳には行かない。


「依頼は完了した。衛刃殿は二、三日の間には回復されるだろう……」


「その間に、炎乃海様に何かを仕掛けられた場合は?」


「そこまで俺が面倒を見る必要がどこに? 自分達で解決しろ」


 その懸念は有る。むしろ俺が空港での戦いから間を置かずに炎央院を強襲したのはそれが原因だ。あの女は俺と同じで力が無いなら知力で戦うタイプ、時間を与える事自体がマズい。それと衛刃叔父さんが牢に入れられている期間も気になっていた。


「ふぅ、仕方有りません……黎牙様、今回の件は確かに当家の問題。しかし衛刃様が刃砕様に直接的に排斥された理由は他家へ通じての謀反の疑いでした」


「ほう、さすがは衛刃殿だ。未来の無い統治よりも周りとの協調を選ばれた。正しく当主に相応し――――「ある方を逃がすために作られた水森家と涼風家の両当主との個人的な好誼こうぎを突かれ、あの方は失脚されました」


「何が……言いたい? 早く、言え……よ」


「私は衛刃様にお仕えしてから、黎牙様が水森の家に行くはずだった事を聞きました。両家と衛刃様の個人的な好誼とはその事でございます」


 やはりそうなのか……叔父さんが衛刃殿が脳筋野郎《当主》に政争で負けるなど有り得ない。よほどの弱点を突かれない限りは、それはあの女(炎乃海)にしても同じだ。


 だって衛刃叔父さんは俺と炎乃海の二人を炎央院の将来のために教育していた。認めたくは無いが同門の弟子で許嫁の関係が昔の俺達だった。


「何が言いたいんだ!! 俺が、俺の事で叔父さん……っ!? 衛刃……殿がっ、失脚したとでも言いたいのかっ!!」


「私には何とも……ですが、聡明な黎牙様、いいえ今はレイ=ユウクレイドル様なら分かるのでは?」


 そう言って流美は不安そうで、それでいて俺に挑むような目で見てくる。当時は背丈は少しだけ俺の方が大きかったが今は二十センチ以上離れていて見上げる。その顔はまるで許しを願うそれで、俺を真っすぐに見ていた。


「ああ、お前は本当に優秀な従者だよ。クソったれが……」


「黎牙様……どうか……」


「ああっ!! クソっ………………衛刃殿が快癒されたら俺は今度こそ日本を立つ、護衛にスカイを置いて行く!! それで良いな!?」


 そう言うと俺はその場を足早に去る。これ以上は俺はこの場に居たくない。そう考えて俺はこの家で一番落ち着ける場所に向かった。さすが俺の状態を把握しているようで流美は付いて来なかった。





 炎央院の邸は本邸以外にも今、俺が出て来た衛刃叔父さんの住んでいる西邸と旧南邸と呼ばれている今は空き家と離の座敷牢、つまりは封印牢が有る。


 そして西邸と本邸の間には長い渡り廊下があってその途中に池や大きな松の木が存在しており、その木の裏が俺が一人でよく泣いていた場所だ。


「ここは変わらない……か」


 俺は大木に手を当てると感慨深く撫でていた。前と変わらず大きくて安心した。家中は色々と変わってしまったようだが、ここは変わらず安心出来たのは救いだった。


「ふっ、何をしているのやら……俺は、ん?」


「あっ……」


 ガサっと音がして木の裏から誰かが出て来る。先客が居たのに全く気付かなかったのは俺が油断していたからだろうか、そう思って警戒するが出て来たのは見覚えの有る小さな女の子だった。


「え? 君は……どこかで?」


「あっ、レイおじさん!!」


 おじさん……だと? そうだ、先週、日本に来てすぐの時に会った迷子の子だ。なんでここに居るんだ?そう言えばこの子、前に店で見た時は全然気付かなかったが誰かに似ている? 誰だ……喉まで出かかってるのに分からない。


「あぁ、久しぶりだね? 小さなレディ……たしかマホちゃん。だったかな?」


「うん、真炎だよ!! えっとぉ……黎牙父さま!!」


「はっ? え? ん?」


 もうこの家で驚かないと思っていたのだが今日一番で驚いた。どんどん更新されて行くビックリレコードに俺の頭はパンク寸前だ。


「え、え~っと、君のお父さんに似ているのかな? いや、待て俺は黎牙では無くてレイだよ? マホちゃん?」


「え? だって母様が、新しい父様だって言ってたよ?」


 おかしい、俺の子が居るとしたらそれはアイリスとの間だけだ。そう言う行為をした事が有るのが妻だけなので俺に隠し子など居ないはず……はずと言うよりも確定だ。


 じゃあ目の前の子はただの頭のオカシイ子なのだろうか?と、考え込む前に今度は聞き慣れた、ある意味で一番聞きたくない声が聞こえた。


「真炎っ!! どこ!? まだ邸内は賊が……えっ!? 黎……くん? あら? これはどう言う事かしら?」


「っ!? どうもこうも無い……その様子では話は行ってないのか?」


 今日はスーツ姿では無く和装、そう言えば炎乃海は家では和服を好んで着ていた。赤と言うよりはオレンジ、薄い橙色の着物だった。帯が少し乱雑なのを見ると慌てている様子にも見て取れた。


「なるほど……これはマズいわね。賊ってそう言う事……迂闊だったわ……もう来たのね……本当に有能で困るわ……」


「え? 母様どうしたの? 父さま居たよ?」


「なるほどな……そう言う事かよ、炎央院炎乃海。お前の娘か……」


 大体は理解した、いや理解できてしまっていた。この女の考え方と合理性は全て強さに直結する。そのために目の前の自分の娘にも俺を父親と呼べなどと教え込んだのだろう。


「ええ、私の最高の、そして自慢の娘よ、真炎、もう隠す必要は無いわ。未来のあなたのお父様よ? ご挨拶なさい」


「炎央院真炎です。黎牙父さま!!」


「お前、自分が娘に何を言わせているのか分かっているのか!?」


 つまりこの子は目の前の女と祐介の子だ。そう言えば父親は女遊びが酷く母親は虐待紛いのような指導をしていたと聞いた。なるほど聞けば聞くほど符合する。


 あの夜の出会いも演出されていたのかと勘繰りたくなるが、あの時はまだ俺の正体がバレていなかったから偶然なはずだ。


「ええ、もちろんよ? それとね、この子は既に精霊と契約しているのよ? 素晴らしいと思わない?」


「なっ!? それって……勇牙の最年少記録を越えたのか!?」


「その通りよ。そして黎くん、あなたと言う男が私の夫に収まれば全て丸く収まるわ。昔のように、あなたの理想通りの炎央院の家が作れるのよ?」


 ああ、そう言えば昔に俺はそんな事を言っていたな。まだ俺が嫡子として正当に扱われていた時は、皆が一緒に居られたあの頃の俺は当主の実力主義に違和感を感じていて当時はこの女と一緒に炎央院の家の考え方を変えるなんて言っていた。


「それは過去だ……炎央院炎乃海、衛刃殿が戻ればパワーバランスは戻る。もう諦めろ。その子を、真炎ちゃんを大事にしてやれ」


「お父様が戻る? 当主が許すとでも? そもそも伯父様も勇牙も頭が残念過ぎるのよ。あなたと違ってね? 炎乃華と流美が戻らないのはあなたのせいと言えばコロッと騙された辺り逆に心配になったわ」


「ああ、あれはお前が勇牙に吹き込んだのか……だが心配しなくても今、二人は仲良く今は伸びてるぞ? 少なくとも戦闘は出来ない」


 そう言った瞬間の炎乃海の表情の僅かな変化を見逃さなかった。そもそも偶然この場に来た時点で油断していたのは明白だ。それでも顔色を変えないのは長年の教育と鍛錬の賜物だ。


「ブラフ……では無いのよね?」


「聞き返す時点で認めているようなものだぞ? 炎央院炎乃海」


 そう言うと表情が完全に崩れた目の前の俺の従姉は苦虫を嚙み潰したような顔をして舌打ちした。少し気になって視線を横にずらすと真炎がニコリと笑っていて少しだけ癒された。昔の優しかった頃の目の前の女に似ていて複雑な気分になった。


「ちっ、本当に敵に回すと厄介ね……だからこそ今のあなたが余計に欲しくなったわ黎くん……交渉の余地は有るかしら?」


「寝言は寝て言え、さっきも流美の奴から面倒事を引き受けさせられたばかりで、もうたくさんだ……早く英国へ帰らせてくれ、お家騒動に俺も巻き込むな」


「母様? 新しい父様とケンカ? 前の父様みたいに?」


 なるほど祐介が見捨てられた原因も見えて来たな、余裕そうに見えていて浮気されててプライドでも傷つけられたのか、そうして内心ほくそ笑んでいたら目の前の女は余裕が無いのか自分の娘を一方的に叱り始めた。


「真炎、今は黙っていなさい、余計な事を喋らない!! いつも言ってるでしょ!!」


「……っ!? はい……ごめん、なさい」


「子供に当たるな!! 女のヒステリーは見苦しいだけだ!! よしよし大丈夫だよマホちゃんは何も悪くないからな? マホちゃんの母様は年中イライラして色々と残念なだけだからね? マホちゃんは悪くないからな~?」


 すぐにしゃがんで目線を合わせて頭を撫でて落ち着かせる。よく慰問に訪れた際の孤児院ではこうすると喜んでくれた。昔、日本に居た頃にも年下の病弱な少女にも同じ事していた経験が今になって生きて来た。


「黎牙、父様? ほんとぉ?」


「う~ん、父様じゃないけどな……困ったな――――「あら? 意外と子育ては得意なのかしら? 黎くん? 真炎の事が気に入った?」


「この子、一人で夜の街に出てたんだ……どっかの親が構ってくれずにな……そう言えば、姉がいると言ってたけど、その子はどうした?」


 そう、姉がいつも母親を諫めていたと聞いたのを思い出す。この女を諫めるとは相当な手練れだ。俺ですらコイツには手こずっているのに炎央院の家中にそんな人間が居るのかは疑問だった。


「え? 真炎は一人っ子よ? 私はその子しか生んだ覚えは無いわ」


「いや、でも前会った時に姉さまって――――「炎乃華姉さまのこと?」


「いや、炎乃華は姉じゃなくて叔母さんだろ? あ~、親戚の人をお姉ちゃんと言わせていた系かぁ……今度から炎乃華叔母さんと呼んであげるんだぞ?」


「あの子そう言えば中学生で叔母さんって呼ばれて落ち込んでたわね……なるほど、それは黎牙お父様の言う通りよ真炎。今度から炎乃華叔母さんって呼ぶのよ?」


「サラッと既成事実にするな……とにかく話は終わりだ。俺は行く……あの、マホちゃん? 離してくれるかな?」


 さっさと離れたいのに俺の親戚の子で目の前の女の娘の真炎ちゃんが俺の隊服の袖を放してくれない。見るとフルフルと首を横に振っている。


「ごめんね、マホちゃん、俺はこの後は用事が――――「もう、行っちゃうの?」


「用事…………には、少し時間が有るから……だい、じょうぶ、だよ」


 見たく無いけどこの子の保護者を見ると勝ち誇った顔をしていて腹が立つ。子供に罪は無い、そうさ、どんなに気に食わない奴でも、この子は悪い子じゃないんだ。俺はそのまま先ほどまで居た西邸に引き返すことになった。





「うん、算数も国語もしっかり出来ているね。偉いぞ~」


「ほんとぉ!? マホ偉い?」


「うんうん。えらいえらい」


 そう言って頭を撫でながら真炎の勉強を一時間ほど見ていたが意外なほど炎乃海が妨害せずにお茶まで入れてこちらを静かに見守っている始末だ。


 狙いは少しでも時間を引き延ばし俺を釘付けにしたいのは分かっている……やはりこの女相手に隙を見せられないが真炎にあんな顔をされて俺は見捨てるほど非情にはなり切れなかった。


「よし、今日はここまでだな」


「え~!! まだお勉強できるよ~?」


「お勉強もやり過ぎはいけないんだ。やり過ぎると今度は一緒にしてあげないぞ?」


「え~!! じゃあ我慢する!! まだ居てね!!」


 そう言うと勉強道具を持ってどこかに行ってしまった。待て、この女と二人きりは正直に嫌過ぎる。行かないでくれ真炎ちゃんとか思っていたら奴が口を開いた。


「それで? いかがかしら? うちの娘は、父親になりたくなったかしら?」


「あんたと違って純真でいい子だ。しかし、それは出来ない。いい加減にしろ、俺はもうたくさんなんだよ!!」


「本当に交渉の余地は無いのかしら?」


「くどいっ!! 俺は、この家にも、興味は無いし、あんたがどっかの門下の男と寝ていたと聞かされた時に散々苦しんだ……もう放っておいてくれ」


「じゃあ、今はその女を好き放題に出来るならどうかしら? 私が憎いんでしょ? なら好きにさせてあげるわ、その代わりあなたは私に力をくれればいい」


「戯言を、俺には英国に待っている大事な人が居るんだ。今さら誰にでも股を開く女に興味など微塵もないんだよ。好きに出来る? なら今すぐ光位術の錆にしてやるよ、祐介のようになっ!!」


 そう言って俺はレイブレードを展開していた。バカにするなよ炎央院炎乃海、今まで俺が貴様に手を出さなかったのは、微かに残っていたこの家への郷愁と衛刃殿の娘であるから、そして何より真炎ちゃんの前で親を傷つけるなど出来なかったからだ。


「もう我慢の限界だ……お前も消してやる」


「っ!? でも、あなたに出来るの? その子の前で?」


「……黎牙父さま?」


「っ……真炎ちゃん……ふぅ、どうしたのかな?」


 俺は咄嗟にレイブレードを解除していた。冷静にならなければいけない。ここでこの女を斬ったところで神の一振りに澱みが溜まり前と同じになる。何よりこの女をここで消したところで意味が無い。そうだ、それだけだ。


「黎牙父さまを炎乃華叔母様たちが探してたよ? お昼だって~?」


「お昼……いや、俺は――――「分かったわ真炎、父様を連れて行きましょうか?」


「貴様、どう言うつもりだっ!?」


「黎くん、あなたは確かに強くなったけど外国でなにかを無くしたのかしら? 冷静さ、聡明さと、そして判断力その全てが15歳のあなたの方が有ったわ? 何を焦っているのかしらね?」


 流美と言いこの女も、とことんまで嫌になる敵でも味方でも俺の過去を知る女はこんな奴ばかりだ。アイリス……早く君に逢いたいよ。いや、違うな君に逢うために俺は戦っているんだから……なら俺のやることは……。


「……くっ……昼ってのは食堂か?」


「恐らくね……さてと、私の分の用意は有るのかしらね?」


「知るか、真炎ちゃんが呼びに来たんだから有るんだろうよ」


 冗談めかして言う炎乃海は苦笑しながらこちらに同意を求めるように言ってくる。軽口に付き合う気は無いから適当に答えると奴は勝手に話しかけて来る。


「そうね、あの子達は甘いからね……私なら絶対に用意しないわ」


「その前に料理など出来るのか?」


「あら? 忘れたのかしら? 食事の支度なんて私たちは自分でしないわよ? ああ、そう言えばあなたは特別だったわね、流美と二人で冷や飯食らいだったわね」


「抜かせ性悪女が……」


 そうして食堂に俺達が三人で入って来た瞬間に中の人間は漏れなく固まった。とは言っても居たのは炎乃華と勇牙そして流美と使用人数名と護衛の炎聖師だけで当主や関係者と、当然ながら救出されて数時間の衛刃叔父さんも居なかった。つまり俺にとっては完全にアウェーだ。


「はぁ……また貧乏くじか……」


 どうせこの後は分かってる……俺の籠絡だろう?その一点でコイツらは協力すると踏んでいる。特に腹芸の出来る流美と炎乃海なんかは厄介だ。


「黎牙父さま~!! ここ、ここ座って!!」


「父さま!? ちょっ、真炎!? 何を言ってんのよ!?」


「はいはい、マホちゃんの隣な? よしよし……はぁ」


 俺はなぜか用意されてた席に座らされると横に真炎が座って更にその横に何食わぬ顔をして普通に座る炎乃海と顔を真っ赤にして俺を睨みつける炎乃華、それを抑えに回る勇牙も俺とジトっと見て来る。そして一番怖いのが壁際に立ってこちらを死んだ魚のような目で見て来る流美だった。


「炎乃華、わざわざ昼食の用意ありがとう。いいタイミングね? 当初の計画通りじゃない?」


「計画通りって、姉さん何言ってんのよ!! もう、お父様は助け出したんだから!! これからはこっちの番よ!!」


 こっちの番と言いながら俺の方を向くな、まさかコイツに味方認定されてないか俺。いい加減にしろよと思って流美を見ると首を横に振った。どうやら一日で、もう和解した気でいるらしい。ある意味で炎乃海より性質が悪い存在だ。


「ええ、だけど炎乃華? あなたも黎くんを説得出来てないのではなくて?」


「え? そんな事無いよね!? 黎牙兄さん!! 私たちもう和解――――」


「してると思ってるのか? 調子に乗るなよ炎乃華、俺が協力したのはあくまでも衛刃殿の事があっただけだ」


 そもそも炎乃海には追放前から見捨てられていたような状況で家中からは無能扱いされていたので最初から好感度などあってない。しかし、その中で勇牙と炎乃華と流美は別だった。


 本当に大事に思っていたのに、そんな中での炎乃華の発言で、別れ際くらいは昔のようにと思っていてのあの態度には正直堪えた。だから俺の中では炎乃華の方が許せない気持ちは有る。


「発言をよろしいで――――「従者が喋る事は無い。黙っていろ流美、これ以上戯言をほざくなら俺は席を辞するだけだ」


「しつれい……致しました」


 この女を喋らせるとまずい。俺をよく知る人間で同時に心も読める数少ない人間だ、昔は心地良かったそれも今はただ不愉快なだけだ。


「兄さん、何もそこまで……今はもう少し――――「勇牙、お前には最後まで感謝していた。無能な兄を必死に立てようと、だがお前の言でも俺は……」


「常に劣等感を感じていた……分かるわ、その気持ち……。だから私と手を組むべきよ? 黎くん、私は情など下らない物であなたを評価しない、正しく実力だけ、今度はあなたを愛してあげる」


「ちょ!! 姉さんいい加減にしてよ!! 黎牙兄さん……私、あれから反省したんだよ、だから家を頑張って盛り立てようとして、だから会えたら謝りたいって」


 どいつもコイツも‥…いい加減にしろよ。俺は、俺がどんな気持ちで十五年間育ったこの家を追い出されてアイリスと出逢うまでの一年間、文字通り泥水を啜ってでも生き延びて、もう死ぬ事も覚悟した。


 密航してビクビクして、奴隷のような扱いで外国で働き報酬はパン一つなんてのもザラじゃなかった。とにかく大変だったんだ、苦しかったんだ。それをコイツらは……だが俺の限界が迎えるよりも食堂の入り口から怒声が響き渡った。






「このバカ娘どもがあああああああああっ!!!」



「「っ!?」」



 そこには、まだ顔色は良くないが車いすを押されて大声を張り上げる叔父さんがいた。そう言えば俺や勇牙もよく怒られていたが、娘二人はその比じゃなかった。


 そして案の定、俺以上に炎乃華と炎乃海はビクンとしていた。『獄炎の賢王』と呼ばれた陰の実力者の炎央院衛刃、その圧力は今もしっかり残っていたようだ。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


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