第32話「驚愕する継承者、炎の皇との邂逅は三撃で終わる」
◇
炎央院の奥の間、そこは当主と直系の血族及び、当主が許した者だけが入る事を許される聖域などと呼ばれる場所。そこで一人の人間が倒れている。
その人物は炎央院の家では誰も逆らえず全盛期は世代最強と呼ばれ、今なお武門においては他の追随を許さないと言われる当主、炎央院刃砕その人だった。
「そんな……こんな事って……」
「これほどまで力が……違う?」
私たちが当主と仰ぎ、常に最強だと思っていた人間が地に伏して、それを見下ろしている人物が私たちの当主に向かって驚きと落胆を混ぜたような声を出した。
「凄いな……まさかこれほどとはな……炎央院刃砕、正直驚いたぞ?」
「ぐっ、あ、有り得ん……わ、しが負けるなど……」
目の前で起きた事に私の理解は追いつかなかった。私と流美は勇牙をあっさり倒した黎牙兄さんの後に付いて当主で私にとっては伯父の刃砕様が待つ奥の間に入った。
黎牙兄さんはそこに躊躇せず土足で堂々と入った。そこまではハッキリと覚えている。だけどそこから先はまるで現実感が無かった。
「何が起きたか分からないか? これが聖霊使いの術士と術師の、上位と下位の決定的な差だ。仕方ないから軽く講義してやろう」
黎牙兄さんはそう言うと数分前の戦闘の事を私たち二人に説明するように話し始めた。話はこの部屋に入った時まで戻ると前置きをして私たちに話し始めた。
◇
奥の間に一人あぐらをかいて座っている和装の男を俺は見た。少し白髪が混じり始めたようで壮年と呼ぶに相応しいが気配は落ち着いた中に圧倒的な闘気を込めていて、その様子は普通の術師なら押し潰されてしまいそうな圧力があった。
「はっ、相変わらずカビ臭い部屋だな……」
「八年振りの帰郷の第一声がそれとは……失望したぞ黎牙」
「馴れ馴れしいですね……炎央院家の当主、私の名はレイ=ユウクレイドルだと聞いてないのですか?」
ここに来るまで心の準備は出来ていたが、それでも俺は緊張はしていた。あの時、この部屋で、追放を言い渡されカードとパスポートだけを渡され何も言えなかったあの頃の恐怖が少しづつ蘇って来た。
しかし同時に思い出す。今は一人だが俺の心は常に彼女と供に有るのだという事を……そう考えると自然と心が落ち着いて来た。
「して何用だ? 炎乃海から聞いて無いのか? 勇牙が来なかったのなら確定か……やはりお前こそが嫡子に相応しかった……素晴らしい成長だな黎牙よ?」
「ふっ……言いたいのはそれだけか? それと俺は炎央院の家の事など興味は無い、向こうで伸びてる勇牙を一から鍛え直すんだな」
「それは異な事を……ならば、どうして来た? 私に帰参の礼をしに来たのだろう? 実の弟を倒し自分の力を示す。そのやり方は私好みだ。褒めてやるぞ我が息子よ」
炎乃海に許嫁と言われた時よりも怒りが俺の中を駆け抜けた。俺を、俺の事を息子と呼んで良い人はもうこの世に二人しかいない。俺の最愛の妻の両親だけだ。だから自然と聖霊力が漏れて来た。
「今の戯言、特別に流して差し上げましょう……それよりも要求が有るのだが?」
「黎牙よ目上の者への口の聞き方すら忘れたか、やはり異国など行けば礼節を忘れてしまうか……情けないな若い内からこれでは……炎央院を背負って立つ者としては些か不安が残るな」
もう既に怒りが臨界点を越えそうだが抑えるんだ、レイ=ユウクレイドル。俺は光の継承者で今は恩と借りを返すためにここに居る。目の前の血縁上の親の言う事など流せと必死に自分を抑える。
「炎央院衛刃殿の即時解放と私の帰参を無かった事にしてもらいたく本日は来た。それ以上でもそれ以下でも無い」
「何か幻聴が聞こえたな? 謀反人を解放しろ? 炎央院に帰参しない? たわけ者がっ!! 貴様っ、誰にものを言っているっ!!」
「声だけデカくても響かんぞ当主!! じゃあ言わせてもらうぞ脳筋。衛刃叔父さんを早く解放しろ、俺はこの家に帰りたく無いんだよ!! 向こうで大事な人たちが待ってる!! だからあの女と許嫁にも戻らない!! そう言ってんだよ!!」
目の前の男に言ったのになぜか後ろの二人から呻き声とも取れない息を飲む声が聞こえた。対して目の前の当主はため息を一つ付くとニヤリと笑った。否、嗤っている。次の瞬間に炎の飛礫が俺に迫るがPLDSが自動判定しグリムガードが起動、それを消し飛ばす。
「ほう、面妖な術を使う、その機械か……」
「ふっ、この家に来て初めて面白いと思ったぞ当主・刃砕? 不意打ちとは恥ずかしく無いのか?」
「常在戦場の視座を持てぬ愚か者が言いそうなセリフを言うな、黎牙よ……まさか開始の合図が無ければ戦えぬのか?」
悔しいがその点は全く同意だ。先ほど勇牙に言った言葉をそのまま返されたようで腹が立ったが、その考え方は戦場で長い間を戦って来た人間の感覚だ。この家では唯一話が合いそうなのがより一層腹が立つ、つまり……。
「お前に似ている部分が有るなど……許せないんだよ!! 炎央院刃砕っ!!」
そう言うと俺は上位聖具『淡慧の太刀』を抜いた。それを見ると刃砕は何も言わずに立ち上がり即座に部屋の障子を突き破って庭に出た。広い場所で戦闘態勢を整える。そのために俺の一瞬の隙を突いて離脱していた。
「ああっ!! 伯父様!! 先週に障子の張替えしたばかりなんですよっ!! それに壁にもヒビが入って……また業者か土聖師呼ばなきゃ……」
「炎乃華様!! それよりも二人を追いますよ!!」
刃砕に続いて庭に飛び出た俺の後ろから炎乃華の悲鳴が聞こえたが今のは俺のせいじゃないから問題は無いはずだ。そして庭に着地した瞬間を狙って炎が俺を襲う。着地のタイミングを待っていたのか、セコイ手を使う。
「はっ!! 賢しい手だな!! 当主と呼ばれるだけはあるなぁ!!」
「戦略と呼べ!! バカ息子がっ!!」
「貴様が、貴様だけは俺を息子と呼ぶのは許されない!!」
そう言って態勢を立て直すと俺は奴と対峙する。さて、勇牙ほど簡単では無いが今の俺なら余裕で圧倒出来る。
「どうやら口だけでは無いようだな……迅人より上の聖霊力か……嘘では無い、か……ちと不利か」
実力差を理解していない。否、理解はしているがどこまで実力差が有るかを分かってはいないと言う感じか。
「たわけが!! 行くぞ、炎央院最強の姿、無能だった貴様に見せるのはこれが初だったな……今のお前には資格が有る……見せてやろう!!」
そう言うと炎乃華と同様に青い炎を鎧のように身に纏い、さらにいつの間にか両腕に手甲をはめていた。見るからに特別製で神器では無いが上級の聖具だろう。さらに奴は両腕を掲げて叫ぶ。
「来い、炎鎧亀!! 舞え……炎瑞王!!」
そして出て来たのは8mクラスの巨大な亀と、それより少しだけ小さい炎の鳥だった。スカイとは違って猛禽類ではないようだ。聖霊力から両方ともが聖霊王の位であると推定できる。しかし、それでも俺には及ばない。
「どうした? 貴様の聖霊は動かんのか? 先ほどの力の奔流、聖霊帝とやらを見せて見ろ、黎牙よ」
「見せてやっても構わんが……聖霊王程度ではな……ま、良いかヴェイン、遊んでやれ。スカイとレオールは様子見でいいぞ」
「余裕だな……その増上慢、父である私が叩き直してやろう!! 行くぞ!!」
奴は奥伝を最初から展開して一切の容赦無く炎の拳をもって俺に襲い掛かる。俺はそれを軽く避ける。勇牙や炎乃華よりは速い、だがそれだけだ。自転車がどんなに頑張ってもジェット機に速さでは勝てないそんな感覚だ。
「どうした? 一発くらいは当ててみたらどうだ?」
「くっ、避ける以外は出来ないと言っているようなものだぞ!! 黎牙!!」
「ではご期待にお応えしよう!!」
俺は奴の蹴りを避けつつバックステップで距離を取った瞬間にレイウイングで高速で移動し奴の背後に回り込む。
「くっ!! 後ろかっ!!」
「ほう、反応は出来るか……やるじゃないか、遅いけどなっ!!」
俺は聖具に聖霊力を込めて刀で斬りつけて当主を吹き飛ばす。ちなみに勇牙なら今の一撃で動けなくなっているが奴は吹き飛ばされただけで何とか態勢を立て直していた。炎障壁をギリギリで展開して更に後方へ下がって何とか威力を減衰したようだ。
「ぐっ、なっ……何と、言う……凄まじい威力。よもやここまでとは」
「まだ序の口だぜ当主さま? どうした? 終わりなら白旗でも上げてみるか?」
「たわけがぁ!! 炎央院に負けは許されない!! 行くぞ、奥伝の秘奥を見せてやろう!! 黎牙!!」
炎央の拳の奥伝の秘奥つまりは秘奥義か……炎乃華は使う前に終わらせたから秘奥義を見るのはこれが初……どれだけか見せてくれよ。
「焔の拳……最終秘奥を見るがいい……炎王の頂きをその身に刻め!!」
「聖霊力が上がってるじゃないか……凄い凄い」(第一段階の光位術士クラスは有るな……見習いくらいなら圧倒出来る、さすがは当主か)
「砕け、全てを、炎の断罪を受けよ『炎滅紅覇の一拳』……これが炎央院の数百年に渡る秘奥だ!! 黎牙あああああ!!!」
そして奴の全ての炎が右腕に全て集まり青い炎が真紅の炎に切り替わる。紅にまで行くのか……ま、黒炎に至っていない時点で闇刻術に及ばないからな……そんな事を思いながら俺は迫る奴の炎の紅い拳に対して無造作に聖具を叩きつけた。
◇
「くっ、ううっ……炎乃華、様……ご無事ですか!? 凄い力の奔流が……」
「うっ、いえ……確かに力は強かったわ……片方だけが」
炎乃華様が茫然として紅白の閃光の爆発が起きた先を見つめていた。私にはただ二つの大きい力がぶつかった事しか分からなかったが炎乃華様は何か別なものが見えているようだった。これが本家の血筋と門下の違いと思っていたら目の前の閃光が晴れて行く。
「バカな……炎央院の秘奥義が……聖具に受け止められた……だと? うぐっ、があああああ!!」
茫然とした声を出した瞬間に刃砕様の右手から鮮血が噴き出した。そしてその瞬間に黎牙様の手に持った上級聖具の刀身が砕け散った。
そして聖具の柄だけを持ったままで、その場に泰然と立って流血した当主、つまり自身の父親を見下ろしている。
「さすがは当主、凄い聖霊力だ……英国でも警邏くらいなら出来るが……この力を持続できなくてはダメだな。瞬間的に光位術士に追いつける程度か……」
「うっ、ぐ……黎牙、貴様、まったく力を入れずに秘奥義を破ったな!! このような屈辱……認めん、許されないっ!!」
私は再度驚いて炎乃華様を見ると頷いていた。それはつまり黎牙様が炎央院家の最強の秘奥義を聖具一つの損失で受け止めたと言う事だ。
恐らくは刃砕様は本気で潰しに行ったはずなのに気付けば自分が大怪我を負ってしまった。これは武のみを追い求めて常に戦って来た刃砕様には屈辱以外の何物でも無い。
「そうか? なら……片鱗だけなら見せてやるよ……幸い炎乃華で実験は終わってるからな……奥伝ならば弱い光位術なら相殺は出来る」
「えっ? 黎牙兄さん!? 実験って……そんな事いつの間にっ!?」
「お前にフォトンシャワーを浴びせた時に最初はわずかに拒否反応が出てな、その後に俺が回復術って言ったら術を受け入れてたから、たぶん大丈夫だろう」
話を聞いていると空港での戦いの時に炎乃華様にそんな事をしていたようだ。昔なら身内には絶対にそんな事はしなかったのに、少なくともこんな危険な事はしなかったと思う。
「ま、そう言うわけだ……だから安心して奥の間に戻れ!! 炎央院刃砕!! レイキャノン!!」
黎牙様の手に集まった光の奔流が爆発するように弾け、次の瞬間には刃砕様を飲み込んで吹き飛ばした。そして飛ばされた先はちょうど奥の間で我らの当主は動く事が出来ず倒れ伏していた。
◇
「これが戦闘の流れだ。ちなみに外の聖霊は全く抵抗しなかったぞ? あいつらは実力差が分かっていたのだろうが……それ以上に」
「聖霊帝に平伏して……る?」
見ると亀と鳥の二柱はヴェインと呼ばれた聖霊帝に平伏し、一切抵抗していなかった。と、それを見ながら改めて数分間の戦闘であった事を説明されて少しづつ思い出していくと確かにそうだ。だからこそ黎牙兄さんの言った言葉が気になった。
「あの、黎牙兄さん? 私には終始圧倒していたと思ったんですけど……何に驚いたんですか?」
「ああ、それか? だって下位術師なのに、この炎央院の当主は俺の攻撃に三発も耐えて、今なお意識を保っているから驚いたんだ」
「え? そ、それはだって――――「お前も勇牙も同等の攻撃を受けた時は一撃だったんだが? それに光位術を受けて意識を保ってるなら優秀だな? 当主?」
そう言って黎牙兄さんは近くに落ちていた槍の聖具を拾うとそれで伯父さん、刃砕様をツンツンしていた。
「ぐっ……黎牙、お前は……どこで、ここまでの力を……なぜ、無能だった、お前が? わしが……敗北、した?」
「んな事教えるわけねえだろ、企業秘密だ……それより許可を出せ、衛刃叔父さんを解放する許可を出せ」
◇
俺は落ちてた槍で突っつていると今更ながら倒れている当主を見る。服もそうだが、それ以上に全身がズタズタでボロボロだった。息遣いも荒いし、いくら丈夫でも限界に近そうだ。
「さすがに話し合いにはならんか……フォトンシャワー」
「あ、それって私にかけたやつですよね!?」
「少し黙ってろ、これで動けるか? 当主?」
そう言うと鈍い動きで動き出す刃砕を見るが、さすがに攻撃はしてこなかった。ヨロヨロになりながらも立ち上がるのは最後の意地か俺を睨みつける。
背は同じくらいになったとは言え昔に比べて、この血縁上の父親は少し小さく見えて、なぜか少しだけ複雑な気分になった。
「ぐっ、もう一度だ。もう一度戦わせろ!! 黎牙!!」
「もう戦う気は無い、それより早く衛刃叔父さんを解放してもらおうか?」
「勝負に勝てば解放するなど誰が言ったか!! バカ息子がっ!!」
なんだと?と思って頭を整理すると確かにそんな事はコイツは一言も言ってない……言質を取って無かった。完全に俺のミスだがそれは認められない。
「うっわ、往生際悪いな、ここは大人しく認めておけよ脳筋!!」
「貴っ様ぁ!! それが親に対する態度か!!」
「追放した張本人が今さら親面とかすんじゃねえぞ!! 早く俺は英国に帰りたいんだよっ!! さっさと叔父さん解放しろ!!」
その後は数分ほど不毛な言い合い、罵詈雑言のぶつけ合いになり話は平行線となってしまった。もっとスマートに話し合いをするはずだったのに完全にペースを乱された。本当にこの家は厄介この上ない。
「めんどくせえ……もう牢屋ぶっこわすか……それが早いな」
「ああっ!! 黎牙兄さん、お願いします!! 落ち着いて下さい、伯父様も、父もだいぶ反省したと思いますし、ちょうど良いのでは? 少し話を聞くだけでも?」
「いや、反省って衛刃叔父さんは――――「黎牙兄さんは黙ってて!! 伯父様、いえ刃砕様……ここは、ご当主としての器の大きさを見せるべきかと思います。ね? 流美もそう思うよね!?」
「はっ、正にその通りかと……刃砕様、黎牙様との器の違いを見せて頂きたく思います。ここは広い心で我ら臣下を、どうかお導き頂きたく存じます」
狙いはすぐに分かったが気に食わねえ……気に食わないが作戦としては悪く無い。むしろこの脳筋相手ならこれが一番だ。あと流美のやつサラッと俺を引き合いに出してディスったのは意趣返しか?
「うむ、確かに奴も反省しただろうしな。改めて話を聞くのは良いかもしれんな……開錠の許可を出そう」
「ありがとうございます!! 流美、急ぎましょう!!」
「はっ!! 参りましょう、お二人とも!!」
なんか上手い事流されて結局俺はその場を後にする事になった。話の分かる叔父さんの方を牢屋から出すのは賛成だ。牢屋に向かう際にまだ意識を失っている勇牙に軽くフォトンシャワーをかけると俺達は衛刃叔父さんが閉じ込められている封印牢へと急いだ。
◇
「さて、封印牢の解除か……さっさと解除しろ、時間かかるなら物理で開けんぞ?」
「ううっ……お願いだから止めて下さいぃ~!! 流美、早く開けて~」
「少々お待ちを……刃砕様からの許可が下りているので後はこれだけで……よし、開きました!!」
そうして俺達は先に進む。ここは内部は意外と広く一番奥の牢の可能性が高い。道中での話題は先ほど当主や勇牙にかけた光位術のフォトンシャワーに関してだった。
術師の術、一般的に知られている下位の聖霊使いには回復術と言う概念は存在しないために未知のものとして映っていたのだろう。
「フォトンシャワー。傷を治す光位術だ。心配は無い。先ほども言ったが副作用や諸々はお前の体で試しているから人体に影響は無いのは確定だ」
「ううっ……実験台にされた……私の体とか大丈夫かなぁ……」
「いざとなったら、うちの会社で精密検査受けさせてやる」(日本の術師のバイタルデータは少ないから良いサンプルになる、しかも奥伝持ちなら丈夫だしな)
なんて俺の考えを読んだように流美がこちらをジトっと見て来る。本当に察しが良過ぎる元従者は性質が悪い。世間で言えばコイツは幼馴染のようなものだから。
「はぁ……黎牙様。炎乃華様をあまり不安にさせないで下さい。繊細な方なので」
「へいへい。分かったよ……そろそろか?」
「はい、この先の左の奥ですね……」
今度こそ該当の牢を見つけると俺は錆び付いた扉をギギィと音をさせながら開いた。少し饐えた臭いがして相変わらず環境は良くないようだ。
「お父様!! ご無事ですかっ!?」
「流美、水くらいは用意してんだろ? 早く炎乃華に渡してやれ」
「はいっ!! 炎乃華様これを!!」
そして流美から水のペットボトルを受け取ると衛刃叔父さんに水を飲ませている。伯父さんの恰好は襦袢のような白い死に装束のような恰好をしていて相当弱っていた。
そもそもが片足の無い身体障がい者にこの仕打ちとは相変わらずの脳筋のアホだ。そして炎乃海ならそれが分かっていたはず。
「うっ、炎乃華か……よく、兄上が許可を――――「その心配はご無用です衛刃殿……救出が遅れ申し訳ありませんでした。当主は私が黙らせましたので」
「なっ!? 君は……まさか……黎牙、なのか?」
「はっ、ご無沙汰しておりました。炎央院黎牙改めレイ=ユウクレイドル。地獄より舞い戻って参りました」
「あぁ、本当に、立派に……なった、な……」
そう言ってニヤリと笑うと少しやつれた様子の叔父はフッと笑うとその場で意識を失った。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。




