第31話「八年振りの再会、継承者のスパルタ指導」
◇
それは一瞬だった。黎牙様が炎乃華様から借りた火影丸を一振りしただけで正門前の術師が全て吹き飛ばされた。
さらに今度はもう一振りするだけで、勇牙様が構築した結界の中で最も強い聖霊力の込められた箇所を正門の扉ごと吹き飛ばして、黎牙様はフッと息を付くとニヤリと笑った。
「はい、終了っと……思ったよりは硬かった。ほれ、炎乃華、もう返してやる」
「あっ……はい……って黎牙兄さん!! なんて事を……正門の修理費がぁ……結界は勇牙にやらせるにしても、どうしよう……」
茫然としていた炎乃華様が今度は頭を抱えている……決算の書面と政府との折衝でも頭が痛いのに更に予算が削られると日々悩んでいるのが現在のこの方だ。
お仕えするようになって既に六年、この方は変わった。今でも刀は振るうがそれ以上にペンを振るって毎日、書類と格闘する日々だった。口癖は「黎牙兄さんならこんな時」と、言って勇牙様の表情を曇らせる事が増えている。
「挨拶代わりだ。大人しく諦めろ……俺は今、気分が少し良いから、この程度で済ましてやる」
そう言うと倒れている術師から聖具、それも日本刀型のものを数本拾うと構えるのは私の仕えていた元主。叶うならもう一度仕えたいが恐らくは難しい。炎乃華様が変わられたと同時にこの方も全てが変わった。
かつては私たち従者を含めた全ての人間に平等で優しかった方で、無能の烙印を押されて立場が危うくなりながらも最後まで諦めずに戦った人。しかし私はそんな主を支える事も助ける事も出来なかった。
「黎牙様、このまま封印牢まで行かれるのでしょうか?」
「いいや、もっと単純な方法でケリを付ける」
そう言ってニヤリと酷薄な笑みを浮かべている。かつては少し困ったような控え目な笑い方で私はその優しい笑顔が大好きだった。でも今の黎牙様は自信に満ち溢れてはいるが私たちを見る目は余りにも冷たい。
しかし同時に思うのは、こうなってしまったのは間違いなく私達のせいで、この方を裏切ってしまった結果が今の黎牙様なのだと思い知らされた。
「その方法とは……なんでしょうか?」
「分からないのか? お前なら理解していると思ったのだがな?」
「もったいぶらずに教えて下さい!! 黎牙兄さん!! なんか昔と違って変に気取ってますよね!? そう言うのダサいですよ!!」
なんて命知らずな事を……炎乃華様は久しぶりに会えた従兄に甘えたいのでしょうが、その方は私たちが追放して見捨てたような状態なのですから細心の注意を払って接するように昨晩も申し上げたのに、完全に忘れている。
「ダ、ダサい……べっ別に、お前の価値観など気にはしていない……ま、仕方ないな……ふぅ、さて、この手の組織を黙らせるのは頭を潰すのが一番だ」
「なるほど、ですが……つまり、それは……」
これは地味に傷ついてますね。意外と繊細なのは変わってないようです。昔はそう言う感情ですら表に出さないで耐えていたのに今はハッキリと表に出すようになったんですね……これも英国での成長なのでしょうか?
「ああ、脳筋バカ、俺を追い出した表向きの主犯、当主、炎央院刃砕を倒して叔父さんの解放を認めさせる。それだけだ」
考えうる中で最悪の答えが返って来た。私としては勇牙様などの親戚関係者とのすり合わせ後に当主への謁見、そして可能なら炎央院の家へ協力者として家中に戻って頂き、食客として私たちの味方になってもらおうと考えていた。その条件をもって当主に衛刃様の解放を願うまでが狙いだった。
その後はどんな手を使ってでも家に縛り付ける気でいた。どんなに恨まれても今更だから嫌われても構わない、ただ時間をかけてゆっくりと説得する気でいた。しかし目の前の元主は私の策など見抜いていると言わんばかりに私を再度見るとフッと苦笑を浮かべた。
◇
「黎牙兄さん!! 伯父様、じゃなくて当主を……確かに黎牙兄さんは強いです……でもいくらなんでも当主クラス、それも四大家の武門最強の刃砕様を倒すなんて」
「炎乃華、おまえ、今の言葉は本気か?」
目の前の従妹が本気でそう思っているなら少し認識を改めなくてはいけない。コイツは戦闘や聖霊使いとしてはセンスは有ると思っていたからだ。つまり俺と奴との歴然とした実力差を分かっていないと言う事は無いはずだ。
「い、いえ……でも……一応は一門最強を差し置いて……」
「良かったよ。どうやら聖霊力の差くらいは分かっているようだな……」
「だって、当主ですよ。それに黎牙兄さんにとっては父親じゃ――――「寝言は寝て言え、昨日ベッドを占領したくらいじゃ足りなかったか?」
ヒッと息を飲んで炎乃華がビクッとする。そう言えば小さい頃は少し叱ったりしたらこんな感じだったな。あの頃よりも大きくなったが案外変わらない。
当主の悪口を言えないだけで、俺と奴との実力差は理解しているようだな。一度でも俺と戦えば理解は出来るのは当然かと安心する。
「つまり、刃砕様を倒す……と?」
「ああ、それとも何か腹案でもあったのか? 流美?」
「い、いえ……それは」
おそらくは穏便な方法でしかも俺を取り込む策でも有ったのだろう。油断も隙も無い。だけど、それはある意味で流美の覚悟なのだと理解した。
俺を逃がす気は無いという事か……つまり、それは救出した場合は叔父さんも流美の側に回る可能性が有ると言う事だ。やっぱり助けるの止めた方がいい気がして来た。
「はぁ、とにかく行くぞ。しかし面倒だ……スカイ!! レオール!! 後ろの二人以外は全て敵だ。邪魔をするなら無力化していい!!」
レオールは俺の後ろにそしてスカイは俺の少し前方を飛んで簡単に陣形を組む。炎乃華と流美にも戦ってもらいたいと考えたがそれは出来ない。
そもそも流美は戦闘には向いてないし、炎乃華はあくまで人質だ。戦わせると後々に有効利用出来ない。
「最初から分かっていたさ一人の戦いになるくらいなっ!!」
俺は気合を入れ直して奪った量産型聖具を二刀流にして構えた。一応三本拾っておいたから神の一振りの隣にもう一つを無理やり差している。
「し、侵入者だとっ!! 炎央院に正面からっ――――「叫ぶ前に事態を把握すべきだったなっ!!」
「ぐっ……なに、どこか……ら?」
まずは迎撃に出て来た二人を不意打ちで気絶させるとスカイからの情報がPLDS経由で俺にダイレクトに入る。次は庭先に、そこから内部に侵入出来る。分かってるよ……これでもは十五年は過ごした家だから。
俺はそのまま玉砂利の敷き詰められた庭先から土足で屋敷内に入った。今さらながら通路自体も広く天井が高い、やはり邸内でも戦闘をする事が前提の作りだったんだと気付かされた。
「邸内に侵入された!? どうなってる!?」
「わらわら出て来るな……まあ良いさ!! 行くぞ!!」
俺は聖具で斬りかかると炎聖師を峰打ちで斬り捨てる。そのまま三人を連続で斬ると聖具が一つ折れ、そして両手の聖具を使い切ると腰の残り一本を使う。たぶん三回も振るったら折れるだろう。
「さて、次々行くぞ!! 炎乃華!! 当主はいつもの場所かっ!?」
「はいっ!! 恐らくは奥の間ですっ!!」
「レオール!! 索敵は厳に!! 状況は? スカイは天井ギリギリを飛べ!! このまま一気に雪崩れ込むっ!!」
そして倒れている術師から刀や小太刀を奪い取ると気絶させる。それを数回繰り返してはいたが武器が不足して来た。
するといいタイミングで見覚えの有る扉が有った。それは炎央院の宝物庫だ。俺は一切の躊躇無くその扉を吹き飛ばして中を見る事にした。
「ちょっ!! 黎牙兄さん!! 本当にやめてっ!! そこの扉は特別製で専門の業者じゃないと!!」
「ああ、そう言えばそうだったな、幻崔堂だったか? 術師専門の? ま、俺は高校行ってねえから入学金とか浮いたろ? それで頼むわ」
「そんなのとっくの昔に姉さんがブランド品買い漁って三日で消えてますよ!!」
マジか……あの女、本気で許せねえ。追い出しただけじゃなくて俺の私物とかも全部売り払われてそうだな。
それはさておき上位聖具があったから少しは長く使えそうだからもらっておこう。あとは他の聖具も三つほど奪うとそれを二刀流にして二本は腰に下げて再び進軍を開始する。
「あぁ……黎牙様がすっかり野盗のように……旅の果てに逞しくなられたのですね」
「ちょっと流美!! 現実逃避しないでよ……あ、あの黎牙兄さんその……あとで経費について相談が……」
「あ? 経費だと? じゃあ衛刃叔父さんを救うと言う報酬で相殺してくれよ、まさか出来ないとか言わないよな? 次期奥方殿?」
「うっ……で、でも、はい……。その代わり邸にはもう少し、その優しくですね」
やっべぇ、凄い面白いなこれ……生意気だった従妹を躾けるのには最高だな……っと、いけないな少し童心に返っていた。
よく考えたらここで炎央院に余計な貸しを作ったら後の交渉などにも差し障る。俺は早くイギリスに帰らなきゃいけないんだ。
◇
俺はそのままの勢いで炎央院の本広間、つまり奥の間に繋がる謁見の間まで突入した。俺は後で知ったが炎乃海が大演説のプレゼンをした場所もここだったらしい。
俺にとっては一族や一門の人間などに散々と罵声を浴びせられ、それが終わると奥の間で当主の刃砕から追放を言い渡されたトラウマの有る場所でもあった。だが今はそんな事は気にしないで聖霊力を込めた蹴りで扉を吹き飛ばした。
「失礼!! 当主、炎央院刃砕殿に謁見させて頂く!! 拒否は許されない!!」
「ちょっ!! 黎牙兄さ~ん!! 落ち着いて下さいぃ……扉は……あ、勇牙」
部屋に突撃して宣言すると謁見の間には数十人の術師とその中心には、戦闘態勢に入っている青年がいた。面影が微かにあるが間違いない。
それに後ろの炎乃華が呼んでいた……弟の勇牙だ。大きくなった、背は俺より少しだけ低いくらいか?確か今は高校三年生だったはずだ。
「炎乃華……それに流美ってことは……黎牙、兄さん?」
「違うな……炎央院の次期嫡子殿、俺は、いや私はレイ=ユウクレイドル……ただの英国の光位術士だ」
「そ、そんな……僕はこの日を、待ってたのに……」
本当に悲しそうにするのは恐らくはお前と衛刃叔父さんだけだろうな……だけどな、それじゃお前はダメなんだ勇牙……。ダメな兄貴だったが最後に道を指し示してやるからな?
「待っていた? 笑わせるっ!? 俺はこれから依頼により当主と謁見させてもらう。今ならまだ見逃してやるが……さて、どうする?」
「くっ、当主を、父さんを狙う……兄さん……本当に炎乃華や流美を無理やり手籠めにして言う事を聞かせ、炎央院の家を乗っ取る気だったなんて……僕も許嫁や従者を傷つけられたままじゃ負けられない!!」
なんかやる気になってるぞ俺の弟、炎乃華や流美を手籠めって……待て、炎乃華は純粋培養の箱入り娘なのにお前は意味が分かっているのか?何か色々と不安になって来たぞ俺の実家の人間模様。
「え? 何を言ってるの? 勇牙?」
「炎乃華待ってて!! 黎牙兄さん!! いや、レイ=ユウクレイドル!! 僕は炎央院を継ぐ者としてあなたと戦います!!」
相変わらず主人公オーラ全開のようだな、動機も全部真っ当だし本当にキチンと育ったようだな。しかし状況判断が冷静ではない……。
ま、許嫁と愛人候補が寝取られたと思えばこんなもんか、ちゃんと男になってるようで関心だ。じゃあ、軽くへし折りますか。
「ならば来い……勇牙!!」
「はいっ!! 行くぞ、来てくれ!! 衛威流!!」
そう言うと勇牙は自らに炎を纏わせると同時に炎を撒き散らす、そしてその場に炎の竜が召喚された。これが、炎の聖霊王の最上位か……炎竜型、かつて聖霊帝以外では最強と言われ過去の契約者は歴代最強の三代目当主ただ一人と言われている伝説級の聖霊らしい。勇牙がこの聖霊と契約した事で俺は地位を追われ勇牙が嫡子となった原因と言っても過言ではない。
「勇牙さま!! 我らも続きます!!」
「ダメだ!! 今の黎牙兄さんは強い……皆も映像を見たなら分かるだろう? 僕じゃないとダメだ!!」
「ふっ、百も承知です、しかし我らもっ――――「雑魚は引っ込んでろ、茶番を見る気は無い」
何かまたグダグダ始まりそうだったから勇牙の横で喋っている術師をレオールに指示して吹き飛ばさせた。悪いがこの場で勇牙以外は興味も無いが恨みは有る。さっさと退場しろ。それを見た後に俺も奪った上位聖具を鞘から抜いた。
「なっ、不意打ちなんて……そんな卑怯な――――「卑怯? これは戦術だ……そもそも「よ~いどん」で始まる戦場など存在しない、お稽古じゃないんだぞ?」
「黎牙兄さん!! いくら何でも酷過ぎ!! そりゃ勇牙だって怒るよ!!」
後ろで俺に手籠めにされたらしい従妹様がお怒りだが今は無視だ。昔の癖で流美に視線で何とかしろと見ると、ため息を付いた後に炎乃華を抑えに回った。
「ったく、アスリートじゃねえんだから常在戦場の気を持て。そんなんだから闇刻聖霊にも後手後手なんだろうがお前ら?」
そう、あの虫けら共を相手にすればこれくらいが基本なのだ。そして俺が喋っている間にもスカイとレオールは仕事をしていて勇牙以外の術師を倒し、圧倒した。
「そんな、十選師と聖霊が……聖霊単体に負けるなんて……兄さん……その白い聖霊たちは、いったい?」
「俺の相棒達だ……紹介しよう、光位聖霊獣のレオ―ル!! 光位聖霊王のスカイだ、二柱とも七年前からの付き合いだ……って分かったよ!! 出て来い!!」
そう、一応聖霊力的に強過ぎて出してはいけないのだが、たぶん無視したら勝手に出て来るから俺は最も心強い相棒の名を呼んだ。
「光位聖霊帝……ヴェイン!!」
いつもみたいにスッと出て来るのではなく周囲に光の聖霊力を撒き散らし、輝くダイヤモンドダストの中を歩くように出て来る。
なんか光の聖霊の蝶を増やした時のアイリスに似ている登場の仕方だと思って聖霊帝の方を見るとわずかに口元が笑っていた。コイツたぶん今ドヤ顔してる。俺には分かるんだ。
「せっ、聖霊、帝……だって、た、確かに凄い聖霊力だし見た目も伝承の通りの人型……で、でも、そんな……本当に?」
「ホテルで見た時も思いましたが……これが聖霊帝……なんですね」
「う、うん。聖霊帝……お茶くみしてたから違うとか思ってたよ……凄い」
コイツ、まさか主の俺より目立ってる?ヴェインがさらに得意そうに腰に手を当ててポーズまで取っているのを見て俺は少し複雑な気分だったが、すぐに顔をあげて改めて上位聖具の刀を構えた。
「くっ、だけど僕は……って兄さんその手の聖具は『淡慧の太刀』……なんで火影丸の予備のための刀がこんなところに……」
「ああ、宝物庫にあったから拝借して来たぞ?」
「なっ!? まさか泥棒にまで身を窶していたなんて……」
泥棒とは心外なキチンと後ろの二人に許可を取って奪い取って来たのに。それにあんなとこで埃を被っていてはこの刀も可哀そうだろうと思うしな。
「泥棒じゃない正当な対価だ、な? 炎乃華?」
「ううっ……そうです。私のポケットマネーで何とかしますぅ」
そう言って半泣きの炎乃華の肩をバシバシ叩いて「よろしく頼む」とだけ言うと俺は勇牙に視線で答えた。
「あの黎牙兄さんが、泥棒なんて……やはり僕が正すしかないのか!?」
「出来るのか? お前に」
「やってみせまっ――――「そらっ!! まずは軽く一発な?」
勇牙が構えたので聖霊力を乗せた斬撃を放つとそれだけで壁に叩きつけられる勇牙を見て俺は心の中でため息をついた。
前はもう少し早く見えてたのにこのレベルで反応出来ないとは、それに噂の聖霊王も反応していない。完全に期待外れだ。
「がっ……ごっ、んな、ことがぁ……速過ぎる……」
「ちょ、黎牙兄さんやり過ぎですよ!!」
「いや、これでもお前にぶつけたのよりは弱めに撃ってんだぞ? この上位聖具、俺の『暁の牙』より脆いから聖霊力がお前と戦った時より込められないんだ」
そうなのだ期待外れとはこの事で勇牙は第二席、つまりは当主以外だと第一席は衛刃叔父さんなので実質は最高戦力なはずだ。
しかし、それが炎乃華より弱いのだ。八年前はどうやっても勝てないと理解させられ見えていた弟だっただけに色んな意味で拍子抜けしてしまった。
「え? で、でも勇牙は私とほぼ同等で聖霊力だけなら上ですよ?」
「そりゃ、お前の戦闘センスと火影丸のおかげだろ、神器のお陰でお前自身にブーストかかってるから神器装備状態のお前は勇牙より上だぞ?」
やはり自分で気付いて無かったようだ。勇牙がバランス型なら炎乃華は一点特化型と言えるタイプで戦闘センスだけなら炎乃華はかなりの高さだ。その才能を伸ばして鍛えていた俺が言うんだからそこは間違いない。
「ま、実戦の差だろうな。炎乃華、お前の方が討伐してる数は多いだろ? 勇牙は次期嫡子だから力はあっても実戦にあまり出されて無い……だからこうなるっ!!」
呆けて突っ立っている勇牙に俺はレイウイングを発動させ距離を一瞬で詰めると今度は聖霊力を込めた蹴りで天井まで蹴り上げる。そして力無く落下するとたまらず自らの聖霊に助けを求めた。
「がっ……そ、んな……見えない……え、いる……僕を助け――――「ああ、お前の聖霊王ならそこだぞ?」
炎の聖霊王の衛位流は見る影もなくボコボコにされ拘束されていた。鱗はスカイにズタズタにされ、腹部はレオールに噛み砕かれ聖霊力が血のように漏れていて形を保てておらず、最後にヴェインが光の檻のような物で炎の竜を封じ込めていた。
「うわぁ……えげつな……タマも抵抗してたら、あの檻に入れられてたのかな?」
「恐らくは……私たちが目を離した一瞬でここまで……何より恐ろしいのはあの聖霊帝です。聖霊王を消滅させずに瀕死のようにして拘束してます。あれじゃ還る事すら出来ずに生き地獄です」
聖霊は消えると一定期間を置けば回復して再び出て来るから面倒だ。しかしその心配は我が社の開発した『セイクリッド・バスター』と言う聖霊に装備してもらう霊子兵装で解決した。それがヴェインが今使っている光の檻の正体だ。
「ふむ、我が社の実験兵装も中々だ。これはワリーに良い報告が出来そうだ。スカイ!! 今の戦闘の様子はPLDSに送ってくれ聖霊王クラスも生け捕りに出来るデータは貴重だ。英国の本社に送る!!」
「なんか黎牙兄さんがお仕事の話してるみたいなんだけど……流美?」
「恐らく英国ではかなり進んだ聖霊術が有るのでしょう……今にして思えばあの会社自体が黎牙様の所属する組織だったんですね……迂闊でした」
後ろの二人が何か話しているが、それを無視してスカイを見ると了解したと言わんばかりに一鳴きした。同時にPLDSが起動してデータを転送し始める。これで問題無い。さて、これで終わりだな。
「さて勇牙……」
「に、兄さ……ん?」
「男なんだから……しっかり、耐えろよ?」
俺は勇牙に腹に一発、拳を叩きこんで気絶させるとその場に寝かせた。別に恨んでる訳じゃ無いのだが仕方ない。コイツに事情を話したら協力するとか言い出しかねないから気絶させておくのが一番だ。
「さて、じゃあ行くぞ……当主様をぶん殴りにな……」
俺は奥の間に繋がる廊下を歩いて行く、後ろには二人の少女。それを確認するとその先に有る因縁だけを目指して歩く。俺がこの家で父と呼んでいた人間と話した最後の場所へ向かって歩き始めた。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
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