第30話「封じた力と呪縛、無能と呼ばれた男は帰還する」
◇
俺が神の一振りを抜いたら一瞬で決着は付いた。そもそも同じ光位術士でも俺は他の光位術士の聖霊使いとは格が違う。
同格は第二段階の守護者と呼ばれる位階の人間たちで、その人達ですらアイリスと俺が揃えば負けない。
それだけの力の差が有る。俺は倒れた部下をそのままにして周りの闇刻術士を全てその場で倒し浄化した。
「あぁ……やはり勝てない……か」
「分かっていただろ……お前じゃ勝てない事くらいっ……」
「それでも、逢いたかったんだ……貴方と巫女が、守れなかった家族とっ!!」
そう、それは四年前のロンドン橋の戦い。俺が被害を多く出してしまった戦いで表向きはテロ事件として扱われ、そして俺の、炎央院黎牙を死んだことにした戦いだ。あの戦いに巻き込まれた被害者がブラントの家族だった。
「そ、それは……」
「あの時の、あの戦いで……貴方達ならロンドンの多くの市民を……俺の家族だって……守れたはず……なのにっ!!」
「お、俺は……俺は……」
俺が言葉を失っている隙にフラフラになりながらもブラントは立ち上がると自分の子供と言った二人の方に歩いて行く。だが次の瞬間に彼の胸からは二本の黒い牙が生えていた。
「がはっ……な、何を……ビリー、ナン……シ……」
「だって、あんたが使えないから……」
「せっかく継承者を消すチャンスだったのに……子供の振りまでしてあげたのに……使えないね」
そう言ってケタケタ笑う二人はまるで出来の悪い人形のようで余りにも不気味な笑顔を浮かべブラントを串刺しにしていた。
「何を……お前たちは――――「私たちは実験体だけど、人間に近い聖霊なんだよ? バカだなぁ……でも感謝もしてるよ? 他の失敗作の処分もやってもらったしね」
「完成したのは私たちだけ……人間のように喋り、動ける聖霊の完成形、それが私たち……ありがと、パパ~!!」
そう言うと用済みと言わんばかりにブラントに闇刻術の魔弾を撃ち込み吹き飛ばした。俺は咄嗟にブラントを支えていた。
「ブラント!!」
「ごほっ……はは、やはり間違った事はするもんじゃない……か、レイ……隊長は、間違えないで下さいよ……俺みたいに……」
「当たり前だ!! それと今すぐに回復する!! たっぷり説教してやるよオッサン!! だからっ……絶対に!!」
死なせないと言おうとした時には既に事切れていた……。俺は眼前の自らを聖霊と名乗った化け物を睨みつける。
「怖いなぁ、レイにーちゃん……ここまで上手く行ったのはレイにーちゃんのおかげなんだよ?」
「そうそう、だって私たちをここまで連れて来てくれたのはさぁ……あんたなんだから」
「お、俺が……あの時に俺が……」
そうだ。大人しく施設に預けるか、もしくはジェイク達の懸念を……俺の、俺のミスだ……俺が甘かった。敵の施設に居た人間が子供だから助けた?自分と似た境遇だから同情した?
なんて、なんて愚かだったんだ。罠だとなぜ真っ先に考えなかったんだ……敵は闇刻術士だ……アイリスを奪ったのも奴らだ。そして失ったのは俺の甘さだったのにそれを忘れて俺は……ヒーローにでもなるつもりだったのか?
「じゃあ、死んでね? 継承者?」
「え? あっ!?」
奴らが黒い牙のような物を両手から生やして俺に襲い掛かる。呆けていた俺は反応が遅れていて串刺しにされそうになる、その瞬間だった。俺に覆いかぶさるように前に出て刺された人間がいた。
「ク、クロエ……お前っ!?」
「アハハ……ま、まだ、生きてますよ……たいちょっ……ゲホッ、うっ……」
「ちっ!? 邪魔が入った……引くぞ、ナンシー」
そう言って二人、いや二柱が外に逃げ出す。だがそれよりも俺は目の前の覆いかぶさるように庇って倒れたクロエを抱き留める。腹部と胸部には二本の黒い牙が串刺しにされていて血が止まらない。
「あ、クロエ……」
「いいタイミング……よかっ……たぁ」
「はっ!? い、今フォトンシャワーで!!」
俺は最大でフォトンシャワーをかけるがなぜか効いていない。かつて救えなかったアイリスの顔がチラ付くが構わず俺はフォトンシャワーを使い続ける。
「無理ですよ……これ、この黒い牙……光位術、効かないんです……それでジェイクもミラもやられ……ゲホッ、ちゃって……すい、ません」
「い、今は喋るな……えと……とにかく止血を……あ、あとは」
「最強の、継承者……様、でも……そんな、顔、するん……ですね」
クロエが血を吐きながら苦笑しているように見える。俺は彼女を抱きしめるようにしてフォトンシャワーを掛けていたが今度は止血をする。でも全然血は止まらない。
「何を言ってる、今すぐ――――「いいなぁ……アイ、リス様……このポジ……ション独り占めかぁ……」
「何を言ってんだ!! 今は――――「大事な、こと……ですよ? 好きになった人の腕の、中なんて……私、初めて……」
「え? クロエ……何言って……」
好きって……こんな時に何を言ってるんだ……後でいくらでも聞いてやるし、からかってやる。だから……でも、どうしてだよ……視界がぼやけてよく見えないじゃないか……クソ、どうなってるんだよ。
「やっぱり……気付いてないかぁ……私の、初恋……ダメだった、かぁ……」
「くっ、うっ……いや、クロエ、おっ、お前……」
「レイたい、ちょ……私のために泣いちゃダメ……ですよ。それと絶っ対に、アイリス様を、助けて……あげ、て……」
そう言うと腕の中のクロエの反応が希薄になっていく、そして今度は体が刺された牙を中心にして黒い闇に蝕まれて行く。光の浄化と対をなす闇の吸収による汚染だ。浄化は光に、汚染は闇に消えるようになる。
「たいちょ、わたし……闇に……飲まれたく、ないよ。さい……ご、お願い」
「くっ、ううっ……あ、ああ……分かった………レイ、ブレード……」
だから俺は彼女にレイブレードを当てて浄化した。その最後の笑顔はどこまでも優しくて、だから俺は絶対に泣かないようにした。
最後まで彼女を浄化し終わると俺は残りの仲間から黒い牙を抜いて部下全員を浄化した。
「くっ、うっ……俺は、俺が……」
「レイ!! 無事かっ!?」
全部が終わった時にジョッシュとベラが入って来た。二十人以上の術士相手に三人で戦いボロボロだったが誰一人欠けずに合流が出来た。最後に警戒するようにフローが入室して来る。
「こ、これは……」
「レイ、状況は?」
「うっ……くっ……全滅だ。俺以外、特務部隊は全滅だ……状況はすぐに説明する……ただ、今だけは……」
この日、特務部隊は俺を残して全員が戦死と言う扱いを受けた。俺は全員の戦死の報告後に、遺族への挨拶を終えた。その後から俺は闇刻術士に対しての一切の甘さを捨てた。
◇
「人の命を弄ぶ、虫けら共……貴様らは、貴様らだけは……皆殺しにしてやるっ!!」
数日後、俺は単独行動を取っていた。そして奴らの気配を追って単身で敵の研究施設を襲撃していた。手始めに三十名弱の闇刻術士を浄化し情報を全て引き出す。
「アハハハハハ!! 虫けらがっ!! お前らはこの世から排除されなければいけないんだ!!」
そして気付けば件のブラントを操っていたナンシーと名乗っていた聖霊も首から上が無くなっていた。
聖霊とは言えど人間の体に同化しているのでこのように攻撃が効いたようだ。なぜ俺がそれを知っているかと言うと生き残った片方を今、尋問して聞き出したからだ。
「や、やめろぉ!! ボクは聖霊だ!! 闇刻聖霊だがそれでも人間より――――」
「うるさい……妹のようにミンチになりたく無ければ情報を話せ」
俺は既にこの目の前の少年の姿をした聖霊モドキの両足をレイブレードで切り取って動けなくしていた。それだけで奴は苦悶の表情を浮かべていた。実に興奮して気持ちが良かった。
「分かった。分かったから、『秦代流銀』は香港支部に移すって奴らが言ってた」
「本当か? 嘘だったら……」
「ほ、本当だ……だっ、だから――――「じゃあ浄化してやる……感謝しろ」
「い、嫌だ、嫌だああああああ!! やめろおおおお!!」
そして俺は奴の体を完全に滅ぼした。完全に浄化して光の元に滅するために俺は神の一振りで残った聖霊の核を粉微塵に砕いた。その後は闇刻術士の生き残りを探してロンドン中の奴らの拠点を全て潰して行った。
「やめてくれ……子供は、子供に罪は……」
「はぁ? お前ら虫けらと関りのある時点でそれは罪なんだよ……浄化してやるだけ感謝しろ……罪人よ……」
「パパ……怖いよぉ……」
「かわいそうに……生きている事が罪。今すぐ解放してやる……レイブレード……」
研究施設では子供や、術士では無い研究員やその家族などが居たが俺は全て平等に、そして平穏な浄化を与えた。全ての命を俺が浄化して奪った。
たった数ヵ月で何人斬ったか分からないと思い始め、気付けば敵からは『閃光の悪魔』と言われるようになって数ヶ月が経った日の事だった。
「切れ味が悪くなった……神の一振りが……なんで?」
『それは数多の人の子の命を、そして聖霊を斬り続けた結果です……その神器は間もなく完全に斬れなくなり消滅する』
「光聖神……な、なんで!? 敵を滅ぼしているだけなのに!?」
『レイ、あなたの嘆きと慟哭しかと受けました。ですが、神の一振りはもはや限界を迎えています。あなた自身の禍々しい聖霊力に耐えられなくなっています』
「そ、んな……じゃあどうすれば……」
『まだ間に合います。その力を封じなさい……来るべき時までに私の祭壇の安置所に捧げなさい……私が汚れを浄化します』
「分かり、ました。では……祭壇に捧げます」
その後、俺がその事をアレックス老と義理の両親たちに話すと三人は一番最初に安置されていた祭壇へと神の一振りを設置し研究を始めた。そして俺はアレックス老と話し合った結果、俺が戒めのために神器を封じたと言う事にしたと内外に喧伝する事になった。
言われるまで気付かなかったが俺のやり方は内部の術士や術師達にですら恐れられていた。その事に俺は全く気付いてなかった。つまり封印は周りへのパフォーマンスで実際は神器をメンテナンスと浄化をしている状態だった。
「光聖神に言われるまで……俺は、どこまで愚かなんだ……こんな男が、大虐殺を喜んでする人間がアイリスに会うなんて、出来ない……」
「レイ、それは……あの子は!! アイリスは絶対にあなたをそんな目で見ない!!」
「そうだ。アイリスがそんな事――――「言わないで優しく包んでくれる……だから俺は、自分を甘やかす……だから、アイリスを救うために!! 俺は戻れないんです!!」
俺は義理の両親にそれだけを告げるとその日を最後にアイリスの病室を訪れないようにした。彼女を救うその日までは彼女の元には行けない。
その半年後に俺は香港で二つ目の素材を入手する事に成功する。敵にも味方にもあまりにも多くの犠牲を払って。結局は我慢出来ずに日本行きの前に病室に寄ってしまったのは本当に甘かったとしか言いようがない。
――――英国とある墓地――――
俺は任務から帰ると必ずここに寄るようになっていた。報告を終えアイリスへの花束をサラ義母さんに渡すと俺はここにも花束を持って来た。
「よ、来たぞ……二つ目の素材は確保した……悪いなブラント、家族のとこにお前の聖具くらいと思ったんだが規則でダメだそうだ情けない隊長ですまない。ミラ、弟さんは水聖師だそうだ……この間、挨拶されたよ……絶対に俺が今度こそ、守るからな? ジェイク、お前のご両親は引退された。今は郊外でパン屋をしてる……けっこう美味しかったから、これ置いて行くな……お姉さんはSA1で、今も現役だ」
そこまで一気に言うと俺はブラントの壊れた聖具とジェイクの両親の焼いたクロワッサンを置いた。実はアイリスにも渡して来た。
「クロエ、お前さ……遺書にも好きとか……書くんじゃ、ねえよ……俺宛てとか……別に用意してさ……それと手続きはこの間全部終わったからな? お前の出身の孤児院にお前の財産は全額寄付しといた。これで遺書の手続きは全部終わったぞ。それと、悪い。お前の告白受けられない。死んでから何言ってんだとか思うけど、ケジメだ。俺には、アイリスがいるから……すまないな……これが精一杯だ」
俺は懐から生前に彼女が俺に何度か欲しいと言って見せて来たファッション誌のモデルが付けていたイヤリングを置いた。今にして思えば彼女は俺に猛アピールしていた。鈍感だったんだな俺は……いや、アイリスしか見えて無かった。
「アイリス以外の女の子に贈り物なんて初めてなんだ……同じ物だって聞いたんだが、違ったらごめん……じゃあ行くな……次で最後だ。その時は必ず、アイリスを連れて二人で皆に会いに来るから……それまで、しばしの別れだ」
それだけ言うと俺は墓地を出るとそこにはワリーとベラが車を泊めて待機していた。あれからPLDSの共有は一度も切っていないので居場所がすぐに分かったのだろうがどうしたのだろうか。
「レイ、緊急だ。すぐに来てくれ」
「見つかりました!! 最後の素材が……こ、これでお嬢様は……やっと」
「なっ!? 最後の素材、草薙の霊根がっ!?」
そして俺はこの後に二人からの報告で急いで本社に戻りアレックス老と謁見し日本へと赴いた。アイリスを救うという最優先の目的のために今度こそ迷わないように俺は自分を戒めたはず……だった。
◇
「――――牙さま? 黎牙様?」
「うっ、俺は、今度こそ……ん? 何をしている? 流美?」
「申し訳ありません。その、うなされている様子でしたので……その」
流美はこう言う時は本当に察しが良い、むしろ良過ぎる。もしかしたら俺が何か寝言を言っていたら推測されるくらいまでは有る。それが俺に十年以上付き従っていた優秀な元従者だ。
「問題無い……お前も寝ろ。なぁに、心配するなよ? 今さらお前らを襲うなんて趣味の悪い事はしない」
「で、ですが……」
「お前達とは共闘はする。だがそれだけだ……明日は早いし寝ろ、少し夜風に当たってくる……レオールここの守りは任せた。いざと言う時は二人を守れ」
それだけ言うと俺は部屋を出る。俺は神の一振りの包みを持って一人になれる場所を探した結果、最終的にホテルの屋上に行く。夜も遅いし何より風が強いから誰も居ないので都合が良かった。
この神器を開けるのなら誰も居ない所でと考えていた。しかしこう言うタイミングでやはりと言うべきかヴェインがまた勝手に出て来ていた。
「お前は……ま、リハビリに付き合ってくれ……日本に来て俺の力の本質が少しは戻ったらしいからな……行けるのか? 今の俺に……」
『ッ!?』
コクコクと首を縦に振ってジェスチャーしている。相変わらず口は動いてるけど何を言ってるか分からない。そう言えばあの実験体の聖霊は人間に近づけて作られたとか言ってたな。ヴェインとも喋れる日がいつか来るかもしれない。そう考えると少しだけ気が楽になり俺は神の一振りを抜いた。
「光の継承者が問う……汝、我が神器『神の一振り』……再び我が手に戻れ!!」
神の一振りは白銀の両刃の剣だ。その剣先が一瞬輝くと俺の聖霊力が満ちて行く神々しいまでの神の力……今までの俺は聖具に二割から多くて三割の力を込めて戦っていた。
それ以上を込めたら壊れてしまうから、しかしこの神の一振りは六割ほどを込める事が出来る。これを暁の牙の代わりに装備する。つまり本当の意味で俺は光の継承者に戻ると言う事だ。
「さすがに今の力の波動は気付かれたか……」
『ッ!!』
頷くと自然発生したと言わんばかりに闇刻聖霊が出現した。だから俺は久々に神から与えられた力を振るう。
「ふぅ……憎みもする。恨みもする……だが、それだけではいけないんだ……行くぞ!! まずは前哨戦だ!!」
そして出現した闇刻聖霊を全て浄化し殲滅する。やはり暁の牙と違って規格外の強さだ。ゆえに明日の突撃には使えない。
「強過ぎるんだ……暁の牙のように手加減してどこまで使えるか……ま、炎乃華へのいやがらせも兼ねて明日は火影丸を使うか……」
そう言うとヴェインが肩をすくめるようにしていて、まるでヤレヤレみたいなポーズをしている。俺はそれを見て少し笑うと部屋に戻った。戻った俺に流美と俺の力の奔流の一部に驚いた炎乃華が起きて来たが全無視して俺は寝た振りをした。
◇
翌日の朝八時過ぎ、ホテルでモーニングコーヒーを飲んでいると和食以外は珍しかった炎乃華が興奮していた。外国での生活の長い俺より田舎者みたいな動きをするなと俺は呆れて流美を睨む。
するとすぐに流美が対応して落ち着かせていた。どうやら、戦闘以外では本当にお姫様状態で育てられたようだ。
そう言えば、ひなちゃんも割とそう言うとこがあったから英国では大丈夫だろうか少し不安だ……清花さんは一人暮らしをしていたから大丈夫そうだと、思いながら俺たち三人はホテルを出て流美の運転する車で炎央院の本家へと向かった。
「あの、黎牙兄さん? 具体的にどうするんですか?」
「そうだな……ま、そろそろ話しても問題無いか……正面から全員倒すのも問題は無いが、衛刃叔父さんを人質にされる可能性が有る」
そう、懸念事項が有るとすればそれだ。俺は家の中では叔父さんと一番繋がりが深く次が勇牙だ。そして炎乃海があそこまで自信満々にしているのもそれが有るからだろう。
「そもそも考えてみろ、お前や勇牙の方が聖霊力は上なのに、お前は今あの女の操り人形に成り下がった。つまり知略で負けた」
「はい……でっ、でも、私だってここ数年は上手く渡り合って!!」
「その結果がこの様だ。お前、どうせ調子乗って、あの女を追い込んだんじゃないのか? そもそもが炎乃華と勇牙に対してあの人はコンプレックスの塊だった」
あの人は俺が十歳になるまではそれこそ溺愛していた。今では想像もつかないだろうが俺を小さい頃から離さなかったほどだ。
しかし自分の才能が限界を迎え、炎乃華の強さが目立つようになり、極めつけは俺が無能で勇牙が歴代でも類を見ない程の才能をみせるようになり徐々に関係が悪化し中学生になる頃にはただのサンドバッグに成り下がっていた。
つまり俺が捨てられた原因はある意味この有能な従妹と弟でも有ると言っても過言では無い。さすがに暴論では有るが、あの女ならそれ位は言ってのけるだろう。
「え? 姉さんが?」
「そのストレスの捌け口にされて虐待に近い鍛錬で、いたぶられたのが俺だぞ?」
「お二方……着きました。気配が凄いです……それで黎牙様……作戦は?」
不安そうに車を泊めた流美と、こっちを期待の目で見て来る炎乃華を見て少し嘆息しながら俺は炎乃華に向かって手を出す。
「ああ、この程度だったのか……ま、やる事は簡単だ……正面突破だ!! 炎乃華!! 結界を破るから火影丸を!!」
「はっ、はい!! えと、ご武運を!!」
「祈られても嬉しくはない!! さて、まずは一撃!! ただいまの挨拶と行こうじゃないかっ!!」
俺は腰の神の一振りをそのままに炎乃華から渡された火影丸を抜いた。八年前には一度も抜けなかったそれを抜いた瞬間に少しだけ感傷的になりながら俺は聖霊力を込めて正面に構えていた炎央院の家の者が合計で十人弱、それらを全て斬り倒す。
そして無造作に火影丸を振るうと昔は通る事が億劫だった巨大な木製の正門の扉ごと結界を切り裂いた。これが俺なりの「ただいま」の挨拶だ。こうして俺は八年振りに炎央院の家に帰還した。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。




