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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第一章「目覚める継承者」編
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第2話「絶望の中の光」

後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。


 黒いローブの男たちは唯一見える口元だけをニヤリと歪ませると右手を掲げてこちらに向ける。どう言う事だ?『神器』や『聖具』が見えない。

 聖霊術を行使するためには神器と呼ばれる一点物の装備品、俺が炎乃華から借りた宝剣の神器『火影丸』のような物、もしくは神器の模造品の聖具と呼ばれる量産型の装備が聖霊使いの基本装備となっている。


「聖霊使いじゃないのか?」


「戯言をっ!! 闇よ……全てを飲み込め!!」


 二人組の一人が掲げた手から何か黒い塊を飛ばして来た。俺は咄嗟に反応してそれを全て避けていた。合計四発の黒い塊だった。俺は日頃から一門の聖霊使いから攻撃用の術で追い回されて的にされていたので攻撃を避けるのが上手い。

 そして聖霊を見るだけで気配を感じ取り、周りの環境の変化などに敏感になり敵対象の攻撃を予期出来るようになっていた。


「なんと……さすがは継承者……この程度の術では力すら出さないとは……」


「力も何も、俺は『無能』で家を追い出されて放浪してる身だ!! お前らの雇い主から聞いて無いのか!?」


 話がイマイチ合わない気がするが、さっきの黒い術は恐らく土系の術だ。土の塊にしては黒過ぎるけど他に思いつかない。聖具や神器は見えないけどローブの下に隠してると見た。ならば俺のやる事は一つだ。


(奴らの隙を突いて逃げ切る……それしかない……)


 そして奴らからの数度に渡る謎の攻撃を全て避け切った時だった。ガラスの割れるようなパリンと言う音がしたかと思うと黒一面の世界に一筋の光が差した。そこだけはまるで切り抜かれたように明るくなり光の道のようになっていた。


「くっ!! もう援軍!! 逃がさんっ!! 継承者が単独行動をしている今こそ最大の好機!!」


(援軍……何の冗談だ。俺に今更、援軍や仲間なんて誰もいない……誰も助けてくれない。この一年で俺はそれを嫌というほど思い知ったんだから)


 そう言って俺は心の中で今差し込んで来た光をも疑った。この一年、いや無能と笑われて家に居場所が無くなってからは徐々に俺は人を拒んでいた。だから最後は流美にすら裏切られたと知ったあの日から誰も信用してなかった。


 これまでの旅も今朝の老夫婦のような人は稀だった。旅の途中に何度も荷物を奪われたり、盗まれた。歩いているだけで持ち物や金品は盗難されそうになったし、貧しい国では服すらも盗まれそうになった。


(急いで下さい!! 早く結界の綻びからの脱出をっ!!)


「えっ?」(今の声……どこかで……たまに聞こえてた幻聴?)


 この声は俺が追手に追い詰められたり、旅先で危機に陥った時に聞こえていた幻聴の声に似ていた。優しくてどこか懐かしい声。そして何より俺が家を追い出された時に寒空の元ひとりで家を追放されたあの日に聞こえたあの声だ。


「よく分からないが、行くしか!!」


 そして俺は最後に心に残っていた何かを信じてその光の道に進む事に決めた。途中から敵の術師の攻撃を避け切れなくなって左足と右腕が負傷したが怯まずに走り続ける。行き先が読まれているから被弾は覚悟の上だった。


(光の聖霊よ……かの方をお守り下さい!! こちらです黎牙さま!!)


 俺は最後に背中に攻撃を受けて満身創痍になりながら、なんとか光の穴を通り抜ける事が出来た。すると一瞬で辺りが明るくなって、周りを見回すとそこは先ほどまで居た寺院の裏手の草原だった。


「な、なんだ? これ? まさか結界術なの……か? あぐっ……ぐっ!?」


 体が安心で脱力した瞬間、全身に痛みが走った。見ると左足は血塗れで繋がっているのが不思議なくらいボロボロでジーンズはズタズタだった。

 上着の白のボタンダウンも右腕が真っ赤で、服全体が新鮮な血を吸って鉄臭い。何より背中が寒い。たぶん最後の一発をもらったせいで背中も衣服が破れ血だらけなのだろう……。


「あ、あぁ……よくぞご無事で……黎牙さま……良かったぁ……」


「き、君は……誰……だ?」


 意識が無くなる直前に見えたのは陽の光に輝くシルバーブロンドに青い瞳を持つ少女の泣き出しそうな微笑みだった。やっぱり外国人って美人が多いんだなぁ……なんて呑気のんきなことを思って俺は意識を失った。



 ◇



 俺が意識を取り戻すとそこは一面真っ白な空間で、ベッドの上に寝かされていたようだ。動くのは左腕と顔くらいだった。


「病院……? 運ばれた……のか?」


 擦れた声で俺が呟くと見つめていた天井がピカッと白く光った。そして白く輝く蝶のような何かが羽ばたいていた。


「せい……れ、い? でもこんな、火聖霊でもここまで光るのは……いない……?」


 まだ意識がハッキリしないけどこの白く光る蝶は安心出来た。今までの旅路で何度かこの光る蝶を見たような気がしたからだ。また意識が遠のく、ガチャとドアの開く音を遠くに聞きながら俺はまた意識を手放した。


「今は、まだゆっくりお休み下さい……黎牙、さま……」


 またあの声を聞いた気がした。ここではゆっくり眠れそうだ。そして夢見も悪く無かった。まだ聖霊使いや家の事なんて考えずに遊んでいたあの頃の記憶が薄っすらと蘇る。

 まだ皆が優しくて、楽しかった記憶。夢の中には勇牙や炎乃華や炎乃海姉さんが出て来て遊んでいたけど最後に出て来て泣いていた黒髪の女の子は一体誰だろう? あの子は……いったい……?





「うっ……俺は、生き延びてやる……ぜっ、たいに……はっ!?」


 次に目を覚ます直前、今度は嫌な夢を見ていた気がする。そして誰かに手を握られた感触で俺は目を開けた。目を開けると先ほどの真っ白な部屋なのだが、今、俺の視界いっぱいに広がるのは俺が寺院で気を失った時に見た銀髪で瞳が深く青い色をした美少女だった。シルバーブロンドと言うやつだろうか? ただの白髪とは違い艶やかできれいに輝いていた。


「き、れい……だ……」


「えっ? 黎牙……さま?」


 思わず目の前の美少女を見て言ってしまった。彼女のブルーの瞳は炎央院の家の者が俺に向けた蔑みの目や旅の途中で見た人々の淀んだ瞳の色では無く真摯に真っ直ぐ俺を見てくれる人の目だった。だから単純に綺麗だと言っていた。


「あ……いや、し、失礼……けほっ」


「あっ!! 気が付かなくて申し訳ありません。どうぞ、まだ起きてすぐですので、ゆっくりと飲んで下さいね?」


 喉が渇いて擦れた老人のような声が出た。ノドが渇いてしゃがれた声が出てしまっていた。すると目の前の少女がハッと気付いて立ち上がるとドア付近に置いてあった水差しとコップを持って来てそれに水を注いで俺に渡してくれた。


「ごくっ……んぐ……けほっ、ゴホッ、ゴホッ!!」


「あぁ……慌ててお飲みにならないで下さい。落ち着いて下さい。大丈夫。ここは安全ですから」


 もう一度、今度はゆっくり水を飲もうするがむせて上手く飲めない、少女はそんな俺の背中をさすってくれていた。この子はいったい? 今この部屋に人の気配は俺とこの少女しか居ない。

 だが罠かも知れない。しかし俺には目の前のこの子が人を騙すような人間には見えなかった。いや思いたく無かったのかもしれない。


「ここは? それに君は?」


「あっ、ふぅ……私はアイリス。アイリス=ユウクレイドル。光位術士の始祖、その宗家たるユウクレイドル家の光の巫女……そして、黎牙様。あなたのパートナーです」


 よく見ると、白いスーツいや、儀礼服のような服を着ているこの少女は自分を巫女だと言った。そしてそれ以外のワードも全て聞き覚えの無い単語だった。彼女は少しだけ悲しそうな目をして俺を見るとぎこちなく微笑んでいた。


「アイ……リス? 光位術士? 光の巫女? 何を……言ってるんだ?」


 混乱した俺を落ち着かせるためか背中をさすっていた手が再び俺の右手を握った。彼女は両手で少し強めにギュッと俺の手を握り、目はしっかりとこちらを真正面から見つめていた。心なしか頬は赤く上気しているようにも見える。


「まずは体を休めて下さい。ご静養が終わりましたら全てお話致します。ただ、どうか私を信じて下さい……私は何があっても、必ずあなたを……っ!?」


「アイリス……さん? その、どうして君が泣いてるんだ? 何か俺がしてしまったか?」


「だって……あなたの心は今も泣き出したくて悲鳴をあげているのに、なのにっ……あなたが泣けないからですっ!!」


 核心を突かれたように言われた。あの日、家から追放され一族から捨てられたと本当の意味で自覚して嗤いながら泣いた日に決めた俺の誓い、いや自分自身への呪いのようなものを彼女は知っている?


「あ、いや……その、悪い。よく状況は分からないけど、こんな綺麗な女の子を泣かすのは、その、違う気がするから……出来れば泣き止んでくれると……助かる」


「きれい……? 先ほども言ってくれましたね? 私は綺麗に()()()()()()?」


「え? ああ、少なくとも俺には凄いきれいで美人に見える。あくまで俺の個人的な考えで、いや、だけど君が綺麗なのは俺の中の確固たる事実で……つまり俺が言いたいのは……えっと」


 どうも口下手でこう言うのはダメだ。こう言う時にすんなり女の子を褒めたり喜ばせたりする言葉のチョイスなんて俺には無理だ。そもそも俺はそこまで器用な性格じゃない。日本人ってのはそう言うのが苦手な人種なんだと言い訳していた。


「~~~~っ!! し、失礼しますっ!! 後程また来ますっ!!」


 顔を真っ赤にさせてアイリスさんは出て行ってしまった。あんなに顔を赤くして震えていた、怒らせてしまったのだろうか? 俺の命を助けてくれた恩人だから怒らせたくは無い。

 見た所、年齢は俺と同じか少し上くらいか? 綺麗なシルバーブロンドに青い瞳なんてこの英国でも、あの容姿は珍しいんじゃないだろうか?


(それにしても光の巫女? 光位術士? 聞いた事の無い単語ばかりだった……)


 その日は結局アイリスさんは戻って来なかった。代わりにやって来たのは医師を名乗る人物とその医師に付いていた看護士が一人だった。


 こちらの質問には一切答えられないと言われ、その上で俺の体の状態を確認された。左足はズタズタで骨が見えていた状態だったものがカサブタ程度の怪我に、右腕も骨折を覚悟していたが無傷、さらに背中は日焼けした程度のヒリヒリしたくらいで済んでいると言うから驚いた。


「さすがは継承者……アイリス様の治癒があったとは言え、ここまでとは……」


「先生。それ以上は」


 二人はそのやり取りを最後に診察を終えると俺に一礼し、そのまますぐに退出した。そして退出の際に二人は十字を切るような仕草で横にだけ腕を動かし、そのまま腕を左胸の上に置いて静かに目礼をした。


「十字を切るなら縦の後に横だよな確か……。国や地方での風土的な違いなのかな?」


 これも異文化交流なのかと思って俺は何も無い白い部屋で静かに目を閉じた。翌日はすぐに目を覚ました。ぐっすりと寝たのは何日振りだったのだろうか?恐らく家を出てから、いや家に居る時もほとんど眠れた時は無かった。むしろ外に出て学校の昼休みの方が眠れていた。


 そんな事を考えていたら少し腹が減って来た。そしてタイミングよくノックの音が聞こえたので思わず「どうぞ」と言うとドアが開いてアイリスさんがワゴンカートを押しながら入って来た。よく料理などを乗せて運んで来るあれだ。


「お待たせしました。朝食のお時間ですよ。二日も眠っていたんですからお腹、空いたんじゃないですか?」


「二日? そんなに寝てたのか……俺は……」


「はい。正確には一日と十九時間ほどですよ。こちら朝食です。その……上手く出来ているか少し不安なのですが……」


 そう言ってカートから用意され出されたのは……。


「お粥……それに付け合わせの梅干しまで……ここは英国ですよね?」


「はい、やはり生まれ故郷の食べ物が良いかと思いまして……ダメ……だったでしょうか?」


「いや、とんでもない。嬉しいよ。日本食なんて久しぶりだ、それにその口振りだと君が作ってくれたの?」


 一口食べると普通のお粥だった。小さい頃食べた記憶が有るが本当に小さい時だったので朧気にしか覚えてない。後はそもそも風邪は引かなかったからな。看病なんて流美にされたくらいか。

 怪我でボロボロになった時に、あれも嫌々やっていたんだろうな……そりゃ発信機くらい付けられるか。


「はい。頑張ったんですけど……黎牙様? どうですか? お口に合いませんでしたか?」


「いや。そんな事無いよ。とても美味しいよ。懐かしい味だ。ただ少し実家の事を思い出しただけさ、気にしないで欲しい」


「はい。あの、黎牙様? おかわり有りますから遠慮なさらないで下さいね?」


「うん。それと、そのアイリスさん? 俺に一々、「様」なんて敬称付けなくて良いからさ……俺はそんな大した人間じゃない」


 会ってすぐに彼女は俺を様付けで呼んでいた。まるで従者のように、昔から、嫡子()だの次期当主()だの呼ばれ慣れていたけど今の俺には屈辱と嫌悪感しか湧かない。


「そう、ですか……もしかして嫌、でしたか?」


「どうにもね。実家では散々呼ばれてたからさ。俺としては気軽に呼び捨てでも構わないよ?」


 これは実家を出て世界を放浪している内に知ったが名前なんて覚えてもらえずに『ジャップ』だの『チビ』だの呼ばれたりしていた。日本名は発音がしにくいらしい。たまに呼ばれても炎央院なんて呼ばれずに『レイ』と呼ばれる事の方が多かった。逆にこれは発音がしやすかったからだろう。


「ですが、いえ、で、では……黎牙……、あ、あの、日本では年上の方の事は敬って敬称を付けると祖母から聞いていたのですが……呼び捨てにしてしまって良いのでしょうか?」


 日本の文化をある程度は知っているようだ。でもここはイギリスで日本のように堅苦しい敬称なんて本来は不要なはずだ。だからアイリスさんに俺が合わせるべきだ。少なくとも俺はそう思った。


「そう言う事も有るけど日本の言葉には『郷に入っては郷に従え』という言葉も有るからね。俺はお邪魔している身だしイギリスの文化に従うさ」


「はい。で、では……私の事もアイリスとお呼びください。ぜひ!!」


「あ、ああ……じゃあ、アイリス。美味しいお粥をありがとう。この恩は一生忘れないよ」


 そう言ってお粥をその後にもう一杯食べ終え「ごちそうさま」と言って食器をアイリスに渡した。それをカートに載せると彼女は外の人間にそれを渡すと、俺のベッドの横に椅子を持って来て隣に座った。


 改めて彼女を見ると白銀の髪に青い瞳、そして白い透き通るような肌、中欧系と言うよりも北欧系の顔立ちの美少女だ。そして服は昨日の白い儀礼服のようなものでは無く、白いワンピースに薄い赤色のカーディガンを羽織っている。


「それでは黎牙さ……じゃなくて黎牙。私のお話を聞いて頂けますか?」


「ああ、もちろん。よろしく頼むよアイリス」


 そしてアイリスはゆっくりと話を始めた……。俺の知らない歴史と真実を。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。


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