第25話「堕ちた炎の華は満開に乱れ咲く」
◇
――――三日前、炎央院邸――――
「炎乃海姉さん……今さら私と勇牙に何の用?」
「あら、実の姉妹なのに警戒しないで、私はあなたと話に来たのよ。もちろん勇牙も居て構わない。今から話すのは、これからの事よ?」
「これから? 次は私を封印牢にでも送るの?」
「そんな事しないわ……大丈夫。ただ少し困った事が有るから相談に来たのよ」
そう言って小首を傾げながら口元に笑みを浮かべる作り笑いに恐怖感と嫌悪が同時に混じる。私の姉はこの顔でいつも計略を巡らせている。そして二言目には自分を利するための毒を吐く。
「お父様が中々と意地を張ってね、食事も喉を通らないらしいの。このままでは最悪の場合……ね? もちろん私もそんな事は望んでいないわ」
「姉さんまさか、お父さまの食事を!!」
「喉が通らないと食べて頂けないのは本当よ。だからお出ししなくても良いんじゃない。それとも誰か信用に足る人間からなら食べて頂けるかしら?」
なんてことは無い世間話でもするように特大の毒を吐いた。目の前の実の姉は自分達の父親の生殺与奪権をちらつかせて来た。
「なら私がっ!! 私が封印牢に食事を運びますっ!!」
そして私は完全に頭に血が上ってしまった。昔、大好きな人に言われた事を忘れて感情の赴くままに……冷静さを失っていた。
「それは残念だけど許可出来ないわ。あなたは衛刃派なのだから封印牢に近付けば謀反の疑い有りと見なされてしまう。あぁ……なんて、なんて可哀想な炎乃華、私の可愛い妹なのかしら?」
扇子で口元隠しながら安い三文芝居のようなセリフを吐く目の前の姉を睨みつけるが、すぐに諦める。もう私は何も考えたくなかった。
「…………何を、すれば良いのですか?」
「仲直りしましょう炎乃華、あなたは強い。だから私の派閥に入りなさい。私の読みではあと数日で黎くんを迎えに行けるはず……だから一緒に行きましょう。そうすればお父様とも会えるのよ?」
「そうしよう炎乃華……対立する理由が無いよ。だって兄さんが帰ってくれば嫡子は文句無しで交代だ。そうすれば争いは終わる」
「そう……ね……うん。姉さん。従うね……私……もう、どうでもいいや」
そして私はすぐに、お父様に会って叱られた。でも構わない。私は結局あの人のマネをしようとして、ただ罪滅ぼしをしたくて今日までやって来ただけ。でも生きてたなら……もう、どうでもいい。
――――現在(羽田空港)――――
「それにしてもチャーター機でも来るかと思えば自家用機とは驚いたわ。羽振りがいいのね黎くん」
「おかげさまで……そろそろ目的を話したらどうですか」
「まだ、ダ~メ。本当は別プランを用意していたのに思いの外あなたが抵抗してくれないから台無しよ」
二人の会話を聞きながら今日の黎牙兄さんを家に連れ戻すためのプランが三つ有ったのを思い出す。一つは滑走路自体の封鎖、もう一つは機体のエンジントラブルによる時間稼ぎ。そして最後のプランが……そこまで考えていると黎牙兄さんが呟いた。
「来たか」
「あら早い。もう少し手こずるかと思ったのだけれど」
二人の呟きに滑走路の方を見ると飛び立つ飛行機が見える。そして飛び立った瞬間に何かが光った気がした。
「あれ? 今、何か光ったような」
「ああ正解だ。まさか本気で機体の爆破まで考えていたとは、恐ろしい」
黎牙兄さんが私の呟きに答えてくれたのが嬉しくて顔を向けるけど、その顔は飛んで行く機体を追っているだけだった。そして今の発言は非情に不穏な言葉が含まれていた。
「え? 爆破?」
「やはりお前は聞かされて無いか……機体に炎央院の秘術『炎核』を時限式で掛けているなんて……えげつない。だが防いだ……俺の仲間が!!」
「凄い、凄いわ黎くん!! あれに気付いたのね!! 本当に無能が治っている……しかも最強になって戻って来てくれるなんて素直に嬉しいわ」
興奮した様子の姉さんだけど対する黎牙兄さんの目はどこまでも冷たくて、そして口を開いて出た言葉はハッキリ拒絶の色を含んでいた。
「堂々と術をかけていた事を指摘されてその反応か? 炎央院炎乃海……そして認めた以上、約束は反故になる事くらいは理解しているな?」
静かな怒りの表情を浮かべ黎牙兄さんは立ち上がった。私に推し量る事が出来ないくらいの力が溢れていて聖霊力だけじゃ太刀打ち出来ない。神器の力を使えば可能性は有りそうだと考えた後にすぐに無理だと思い直す。
(だってこの神器の全ての能力を黎牙兄さんは把握しているから)
神器を手に入れたばかりの私は火影丸に振り回されていた。それを見かねた黎牙兄さんが私のために過去の文献や伝承を全て調べて隠された能力まで使えるようにしてくれたのだから。
「あら私の策が一つだけだとでも? 前に教えたはずよ黎くん、罠の後には罠が有ると教えたでしょ?」
「っ!? 過去など不要で今と未来こそが大事なので忘れていました。その言葉、今ここで改めて真摯に受け止めましょう」
「黎牙……兄さん……」
「だが我が盟友や友人たちを舐めないで貰おう……炎央院炎乃海!!」
そう言った瞬間に飛び立った飛行機が輝いた。白い光に包まれて、それこそ光の速さで空に消えて行った。単純にキレイだと思っていたら横の姉の声に初めて動揺が混じっているのに気付いた。
「なっ!? 今の……今のは、なに……かしら?」
「それは戦いの後で話によってはお答えしよう」
そう言うと目の前の従兄は白い戦闘衣の腰に差した鞘から黒い刃を抜いた。黒い日本刀、見た事も無い聖具。それはどこか強さと華麗さと、そして恐ろしさを持って輝いていた。
◇
――――ユウクレイドル家自家用機内――――
時間は機の飛び立つ少し前フローやジョッシュに守られ水森姉妹の搭乗が終わった所まで戻る。乗り込もうとしたタラップにですら罠が設置されていたのに焦りながら次々とトラップを解除して進むと最後の罠があった。
パイロットが居なくなっていたのだ。焦った一行だったが意外な人物の助けによりその問題も先ほど解決していた。
「それにしても驚いたわ……まさかパイロットを拉致するなんて……そしてあなたが助けてくれたのもね……助かりました。お礼を言うべきかしら」
「いいえ、私に出来る罪滅ぼしはこれくらいですので……」
「でも君が乗り込んで来た時は驚いたよ。それにコクピットの術の仕掛けもパイロットも君が保護していたのか? えっと、確か名前は……」
「今はそれは良いでしょう。それよりも黎牙様の叔父上の衛刃様からの書状がございます。これを、お受け取り下さい。そして早く日本をお立ち下さい」
その女性は懐から封書を取り出しフローへと渡す。それだけ確認するとすぐに彼女は機を降りようとしたが、それを呼び止めたのは氷奈美だった。
「ありがとうございます……そして黎牙さんにお会いしたらお伝え下さい。氷麗姫は目的の物を死んでも守り通すと、では伝言を頼みますね里中流美さん?」
「っ!? 失礼致します。水森の姫様……」
そう言うと彼女、里中流美は自らの聖霊の炎狐を使い周囲のトラップなどを確認しながら機を降りて行った。
「そうだ!! ルミちゃんか……日本人の名前は覚えるの苦手なんだよな」
「やはり海外の方には少し覚え辛いのでしょうか?」
「そうですね。最初は二人の名前の発音も難しかったですし……さて少しでも早く行きましょう。そろそろレイの我慢も限界でしょうから」
そう言ってテキパキと指示を出していくフローに熱い視線を向ける妹を見ながら氷奈美は考えていた。それは先ほど機を降りて行った黎牙の元傍仕えの女性の事だ。
二度ほど黎牙が自分達と遊んでいた時にコッソリ後をつけていて周囲を警戒していたのを覚えていた。途中で兄の清一が見つけて黎牙が複雑そうな顔をして私達に紹介したのを思い出す。
『俺の家での唯一の味方の里中流美だ。何しに来た流美?』
『お傍に仕えるのが私の務めですので……最近は黎牙様が邸にもあまりいらっしゃらないので……』
『分かった。コイツらは俺の弟子と遊び仲間その1とその2だ』
そう言って兄の頭を竹刀でぺチンと叩いた後に自分と黒髪の女の子を紹介していた。それをクスリと笑いながら後で兄と自分が水森家の人間だったと聞いて後日に菓子折りを持って来たりと、かなり気を使ってもらった相手だ。
「皆様当機はすぐに出発しますので座席に待機してお待ち下さい」
機長の声で我に返り全員が最終確認をした上で今度こそ英国へ向かう。それぞれの思いを乗せて飛び立つ前の機内で氷奈美は黎牙の心配と同時に安堵を得ていた。
(黎牙さん、いえレイさん。炎央院の家にもあなたを思う方はまだ居たようです。どうかご無事で……そして私も務めを果たします)
「ええ、スカイは周囲にコーティングの手伝いをした後は主人の元へ戻って。後はこれをレイに今のレイなら使えるはずよ」
細長い包みをレイの光位聖霊王のスカイに渡すとフローも席に着いて少ししたら機体はすぐに離陸した。そして飛び立って少し経った時に光り出すと次の瞬間には雲を抜け青空が見えていた。
「っ!? これは……!? えっ? もう空に出ている?」
一瞬耳鳴りがして周囲を見るとジョッシュが光位術で水森の姉妹を保護していた。彼女たちはこの後、無事に英国に辿り着く事になる。そして一方のレイは……大絶賛ブチギレ中だった。
◇
「さあ、炎央院の犬供……あの無能の嫡子が、お前らが常にいたぶっていた対象の無能が目の前に居るぞ。昔のように稽古をしようじゃないか!?」
「黎くん、今あなたが暴れたらそれこそ水森家の――――「水森家、何の話だ炎央院炎乃海。俺は炎央院黎牙ならこれは我が家の問題だ!! 今さら他家を巻き込む必要は無い!!」
さあ我慢の時間はもう終わりだ。八年間の恨み熨斗つけて返してやる。だから、あと少しだけ耐えてくれ……俺の最後の牙よ。
俺の暁の牙は連戦の損傷をある程度は修繕したが、あくまで応急処置だ。おそらく姉妹、それも炎乃華以外は取るに足らない相手だ。だからそこまで耐えてくれれば後は何とかなる。
「ふっ、やっと名乗ってくれたわね……そっ、そうね。なら早く帰りましょうか……私たちの家に」
「おやおや、どうしました炎乃海姉さん。心なしか声が震えていませんか? まるで弱い弱い臆病者のようだ。おっと失礼、無能の俺が余計な一言を、ただ連れているお供の雑魚が貧弱な聖霊力しか無いので少し驚きましてね」
ここまで挑発されて我慢できるかな? 少し顔が厳しくなっている。相変わらず顔の造形が良い分、怒りの表情もより凄みを増している。もっとも俺はより怖い怖い美人を知っている。
そう思って彼女の顔を思い出す。彼女の母が作ってくれた自家製のプリンを勝手に俺が食べた時の怒った顔に比べたら……そう、アイリスの怒りの顔に比べたら霞んで見える。
「ぐっ、もう我慢ならん!! しょせんは少し強くなっただけの無能だ一気にかかれ!!」
「おうっ!! 家に戻るまでは勘当状態だと聞いている!! 昔みたいにいたぶってやるぜ!!」
予想通り十選師や他の好戦的な術師が先に暴発した。戦端を開いたのはそちらだと言わんばかりに炎乃海を見ると奴はついにイラついた顔を隠しもせずに、こちらを睨みつけた。
「くっ、あなた達止まりなさいっ!! まだ交渉はっ……これだから脳筋の無能は、ほんと味方が無能だと困る。仕方ない炎乃華、準備なさい。今の黎くんは昔とは桁違いよ全力で行かなきゃ負ける」
「はい。では姉さんは援護を?」
「ええ、フォワードはあなた。後ろは私が……では参の型で合わせましょう」
「分かりました……では火影丸……解禁します!!」
後ろで炎乃華が恐らく神器を解放した。爆発的に聖霊力が膨れ上がるのを感じたが、まずは目の前の有象無象を片付けようとPLDSを起動させる。周囲の索敵を出来ないので今はこれに頼るしかない。
「今さら帰って来た無能が――――「雑魚が、光で浄化されないだけ感謝しろ」
「なっ、火加田さん!? 何で――――「寝言は寝て言え炎央院の犬風情が……簡単な話だ。お前らが弱いんだよ……」
まずは向かって来た二人を峰打ちだけで地面に叩きつける。そして倒れた一人の肩を掴んで集団に投げ飛ばす。まだ三十人以上も居るからサクサク倒していかないと時間の無駄だ。最後の二人を待たせるのも面倒だ。
「まずは雑魚が二匹、次は誰だ? 遠慮するなよ……ああ、お前は覚えてるぞ? 稽古では世話になったなぁ!!」
「ひっ!! お待ち下さっ――――「女でも容赦は要らないよなぁ!?」
光位術など使わなくても聖霊力を纏った暁の牙だけで容易く吹き飛ぶ炎聖師の女を見て峰打ちは止めて蹴りだけで吹き飛ばす。優しいだろ? 聖具を使わないのだからな。
「かはっ!! やめ――――「やめてくれと言った人間に今までお前らがやって来た報いは受ける時だと思わない……かっ!!」
今度は回し蹴りを顔面に入れて飛び上がる事すら許さず足を掴んで空港の床に叩きつける。だがそこで背後から来た別な術師の槍が迫るが振り返ることもせず暁の牙で容易く防いだ。
「なっ!! 完全な不意打ちなはず……」
「バレバレだ少しは戦術を組め。それで? 不意打ちまでして簡単に防がれた今の気分はどうだ炎央院の雑魚がっ!!」
「があああああ……かはっ……うっ」
振り向き様に暁の牙で斬り上げ逃がさないように腹に蹴りを入れて空港の案内カウンターに吹き飛ばすと周囲を見る。まだまだ居るからタップリとストレス発散をさせてもらおう。
その後も炎聖師の悲鳴を聞きながら最初だけは高揚感が勝っていたが十人を超えたあたりからは一方的な暴虐になっていて虚しくなっていた。
「ひっ!? こんなぁ……俺たちは炎央院の精鋭で――」
「なら頑張れよ精鋭さん?」
元嫡子としてかつての臣下に一言添えて彼ら彼女らを一切の容赦無く次々と倒し全員を立ち上がれないほどに叩きのめす。もちろん殺しはしない手加減しても余裕だと誇示するためだ。それが終わると俺は残った二人に目を向けた。
◇
「想定していたとはいえ本当に全て倒されるとはね……ここまで強くなったのね。もう認めるしか無いわね。無能の嫡子など、どこにも居ないと言う事に」
「準備は終わったのか? こっちは準備運動が終わったが?」
「ええ、では――――「姉さん、やっぱりお願いあるんだけど」
黎牙兄さんが門下を一人残らず全員を気絶させている。最初は凄い残酷な罵声を浴びせていたけど途中からは一言だけ言うと後は黙々と倒していく様子は逆に不気味だった。
そして一仕事終えたと言った感じにこちらを見て黒い刀を鞘に納めた。その光景を見て私は咄嗟に姉さんとの会話を聖霊での交信に切り替えた。
『何かしら? 我儘は言わないで欲しいんだけど?』
『一騎打ちさせてもらえない?』
『無謀よ。あなたでも今の黎くん相手にどのくらい持つか……でも私とあなたなら』
『神器の力にはまだ隠された力が有ります。それであの人と本気で戦いたいんです。そうすれば疲弊するはず……そこを姉さんにお願いします』
少し思案した後に姉さんは了承した。ちなみに神器の力なんて嘘っぱちだ。私は最後にせめて今の自分の全力で目の前にいる剣の師匠に挑みたいと思った。
お父様は隔離され、その時から流美は消えた。勇牙も真炎と一緒に家で留守番と言う名の監視付き。もう私のやる事なんて目の前の人に挑む事しか出来ない。
一度も出来なかった本気の勝負をする事しか出来なかった。そしてその先に万が一の可能性が有るのならそれに賭けるしかないと思って私は火影丸を構えた。
「では、お相手願います……炎央院黎牙殿、炎央院第三席の炎央院炎乃華がお相手致します」
「ほう一騎打ちか……だが俺の名は……ふぅ、ったく…………炎央院黎牙っ!! その勝負承った来い炎乃華!!」
「はいっ!!」
私は最高の答えが返って来たのが嬉しくて何も考えずに最初から全力で目の前の相手に斬りかかった。ただ一つの勝機だけを目指して。
◇
なぜか笑顔で斬りかかって来る従妹を軽く一閃し吹き飛ばし距離を取りながら俺は今日一で困惑していた。炎乃華よ……正直怖いぞ。俺は聖霊力でここまで差が有るから平常心でいられるが笑顔で神器を振り回していたら大概の人間はドン引きだ。
(誰か注意しなかったのか? 炎乃華の教育係は何をしていたんだ。そもそもコイツは……)
今更ながら俺の追放後に炎央院がどんな教育をしたのかが不安になった。勇牙もまさか……と、実の弟の事も気になりはじめた。
「いきますっ!! 焔の太刀……壱ノ型『炎撫』!!」
火影丸からオレンジ色の炎があふれ出し一気に間合いを詰めてくるが俺はそれを暁の牙の一閃で軽く吹き飛ばす。昔よりも技もキレも上がっている。
当主が格闘技と長物をメインに使っていたから、自然と戦闘スタイルが同じだった俺が面倒を見ていたからこいつの戦い方はよく憶えているのだが八年前の追放時とは格段に違っていた。
「ならばっ!! 焔の太刀、弐ノ型『炎陣』!!」
今度は神器に赤に近い炎を纏わせるとそれを竜巻のように自らの上空に展開し、こちらに叩きつける。それは知っている。ついぞ俺が一度も使う事が出来ずに想像だけで何度も何度も頭の中で使った気でいた奥伝の技だ。
「だが術すら使う必要も無いな……はっ!!」
「なっ!? 嘘……」
この程度では光位術を使うまでも無い、単純に聖霊力を纏わせた剣術で戦うだけで問題無い。俺がやったのは単純で炎を斬っただけ。それ以上でもそれ以下でも無い。炎とは言っても発生原因は聖霊力だからより強い力でなら断ち切れるのは原理として至極当然だ。
「終わりか?」
「それならばっ!! 炎気放出!! ふっ、炎皇流『炎牙双極斬』!!」
炎皇流、昔、炎央院の先祖は『炎皇印』と呼ばれ、名乗っていた時代があったと言われている。これは英国に行って知ったのだが光聖神の隠れる前の炎央院は地方の豪族だったらしく『炎皇』を名乗り、その印として『炎皇印』と名乗っていたらしい。
しかし二百年前に同じ音の今の字に改名されたそうだが流派の名前はそのまま残り炎皇流として今も残った。実は実家の人間はこの事実は誰も知らない。
(なぜ俺が知ってるかって言うとアイリスと自分の起源探し、な~んて事をやっててユウクレイドル家の蔵書を漁っていたら、その中にこの事実が載っていて驚いた)
そんな事を考えながら目の前の炎乃華が足や背中から炎を爆発させ勢いを付けて高速で迫る。そしてさらに速く上下からの二つ剣技を繰り出す。これはほぼ同時に上段斬りと下からの突きに炎を纏わせ相手を斬り、そして突く技だ。
普通の人間が使った場合は二つの動きがズレてしまうが炎聖術の補助でスピードの問題が解消され。ほぼ同時に斬撃と突きが相手を襲ったように錯覚させる高速の剣技だ。
「ほぅ……」(苦手だった突きも俺の心臓に向けて打ち込めるようになったんだな)
「やっぱり、これも当たらない……本当に聖霊力さえ使えたら強かったんだ黎牙兄さん……」
そう言った瞬間に今度は火影丸に白い炎を纏わせた。炎のレベルを上げて来たようで今までの炎とは違う炎で斬りかかる炎乃華は今度は技も何も無い純粋な斬撃でそれを中段に構えて突撃して来た。勢いあまって俺はついに鍔迫り合いの状態に持ち込まれる。
「くっ……」(腐っても神器か聖具じゃ厳しいな……)
「やっと、ここまで……届いたっ!!」
どう動くか俺が予想したパターンは全部で三つだったが俺の読みは全て外れた。それだけ予想外の行動だった。
炎乃華が選んだ行動は自ら火影丸を捨てて俺の右腕を掴むと言う行動だった。しかも神器が俺に弾き飛ばされたような演技付きだ。
「なっ!? おまえ!?」
『聞こえてますかっ!? 黎牙兄さん!! もう使えますよね聖霊の交信!! 聞こえてますよね!? 答えて下さいっ!! お願いします!! お願いしますっ!!』
実は聖霊での交信には単純に許可を出した者同士での交信以外にも別な方法が有る。簡単に言うと物理接触だ。
コイツは今、俺の腕を掴んでいるのでそれが可能だ。もっともコイツが勝手に叫んでるだけだし無視すれば良いだけの話だ。
「何が目的か知らないがっ!!」
『お願いします!! 助けて下さい!! お父様を、炎央院衛刃を助けて下さい!! お願いします!! 何でもします!! お願い……助けて!! 黎牙兄さん!!』
衛刃叔父さんを助けろ?何を言ってるんだコイツは……だが目の前の炎乃華は真剣な目で泣きそうになって縋るような目で見て来る。昔、剣を教えていた時と同じように…………だから?
「ふぅ……下らない。終わらせるぞ炎乃華」
今さら炎央院の家がどうなろうと俺には関係無い。ため息を付いて俺は掴まれてない左腕で光位術を展開する。そのまま俺の腕に白い輝きが集まり出す。これで決める……せいぜい派手に叫べよ。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
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