第17話「過去との遭遇、そして継承者は表舞台へ」
◇
「何なの……この力は、それに四つの属性のどれでも無いなんて……複合属性じゃないって言うの」
「恐ろしい力だね……炎乃華、これも例の術師が関係してるのかな?」
「分からない。少しは自分の頭で考えなさい。あの人ならそう言うはずよ」
「あ、あぁ……そう、だね」
現在、炎央院邸の勇牙の私室、つまり元は黎牙の部屋なのだが先ほどまで炎乃華の姉の炎乃海と舌戦を繰り広げていた。今の炎央院の家では日常茶飯事で勇牙が止める事も一度や二度では無い。
「炎乃華様、勇牙様、件のホテルでの戦闘を確認して参りました。ですが……その」
「流美どうしたの? 報告をお願い」
「はい。その……数百人規模での戦闘の可能性が有るのですが……術師の死体が一つも無いのです。まるで何も無かったかのような状況です」
「あの聖霊力の爆発で一人も死者が居ない? 戦闘では無かったの?」
日本国内の術師同士の戦闘では基本的に死者は出ないのだが例外が有る。それが外国の術師との戦闘だ。日本国内では四大家の小競り合いで最終的にはそれぞれの家での貸し借り、もしくは金銭などで決着が着く。
「まさか海外の術師同士の争い?」
外国人の術師に対しても基本は変わらないが相手が度を越した者だった時、例えば国内術師の殺害、または力を研究するために誘拐などがあった場合、あらゆる手段で対象を排除しても良いと国からお墨付きをもらっている。
「あのサラリーマンは日本人風だけど空港に居た。でも岩壁家の関係者じゃない……なら可能性は中国のはぐれ術師……もしかしたら脱走術師とのハーフかも知れない」
「では日本の術師への復讐ですか?」
「分からない。米国のそれこそ岩壁家に攻撃したのなら岩壁家に恨みが有るのかも……ただそうなると水森家に味方してたのが気になる」
「やっぱり勇牙もそこが気になるか……流美、私たちには仲間が少ない、情報と知識だけが今の武器だから……」
術士と言う上の位が居る事など露ほども思っていない三人の推理は完全な的外れなのだが、この状況なら仕方ない。彼らは下位術師である自覚が無いのだから。
◇
同時刻、同じく炎央院邸の西館別邸では本邸につめて居る衛刃に代わって炎乃海と彼女の一派が集結していた。そしてその横には今は内縁の夫の扱いになっている里中祐介もいた。
「先ほど皆も感じたあの力の奔流と爆発力……都内のホテルらしいわ。あまりにも圧倒的なあの力、とにかく、その術師を私の目の前に連れて来なさいっ!!」
「「「「かしこまりました!! 炎乃海様!!」」」」
「俺も出るぞ炎乃海。久しぶりに力比べが出来る相手が出て来たのなら本気を出せそうだ!!」
そう言う祐介に対して炎乃海は了承の返事をして自分の配下の四人を預けた。それに彼の手勢も入れると十人は下らないだろう。
祐介も含め彼らは炎央院の門下もしくは分家筋の中ではいずれも五指の指に入る精鋭だ。あくまで術師の中でと言う前提では有るのだが。祐介たちが出て行くと一人になった彼女はため息を付くと嘲笑うように呟いた。
「バカな男……あの力の前では精々あなたは試金石が関の山よ……でも私の役に立ってね? 仮にも夫なのだから」
そう言って扇子をパタンと折りたたむと彼女は笑みを深くして歩き出した。彼女が唯一この家で愛して信頼している娘の部屋へと向かった。
「失礼、真炎。入るわよ?」
「はい母様……どうかしたのですか?」
「ふふっ、とぼけなくても良いわ真炎。先程の力あなたはどう感じたの? 母様に教えて」
炎乃海は六歳と言う年齢で既にかなりの聖霊力を有している娘に軽い嫉妬と、それ以上の期待を持った眼差しを向けていた。なぜなら彼女はこう考えていた目の前の真炎は自分が生み出した最高の自信作なのだと。
「凄く強く温かい力と拒絶の力が入り混じった意志の強さを感じました。綺麗な力です」
「そう、なの? さすが私の娘ね……私があなたと同じ頃はまだ聖霊と契約すら出来てなかったのよ……ふふっ、あなたは素晴らしい。決して無能では無いわ」
そう言って思い出すのは決まって一人の少年の事だ。まさに六歳までは神童として謳われていた自分の年下の従弟で次期当主と言われていた許婚。しかし彼の能力はそこまでで偽物だった。自分は騙された粗悪品を掴まされたと激怒した。
「ええ、あなたは最高よ……あの子とは違う……さ、真炎。鍛錬をしましょう。久しぶりに母様が相手をします」
「っ!? はい……よろしくお願いします」(どれくらい手を抜けばバレないかな? レイおじさんなら全力で戦っても止めてくれるんだろうなぁ)
良い意味で親の心子知らずと言った状況の真炎だった。彼女の心の中はレイと出会うまでは目の前の母と多少は可愛がってくれた父と面倒を見てくれている叔母の炎乃華だけだった。
しかし、今ではその比率は大きく変わり炎央院家を1としたら残り9はレイに向けられていた。それは恋では無く憧れ、憧憬の念に近いもので一族の誰にも向けた事の無い不思議な感情だった。
◇
「それでレイさん。事情はお話して頂けるのですかっ!?」
「いやぁ……何と言ったら困りますね」
「昨日のあの大爆発もレイさんですよね!? 無能の私でも聖霊力の流れが分かりましたから」
俺達は今、カフェで遅めの昼食を摂っていた。時刻は昼過ぎ、あの襲撃から約半日が経過していた。夕方にホテルを出て車を走らせ夜は結局は車の中で過ごした後、次のホテルを見つけ手続きを済ませると彼女、水森家のご令嬢の清花との約束の為にここで落ち合っていた。
「それにしても清花さんも無能ですか……昔の俺と同じか」
「何を言ってるんですか? レイさんはあの凄い術を使いこなしてるじゃないですか!? 無能なんて縁遠い言葉ですよね?」
「ふっ、昔は俺も無能だった……さて清花さん。俺の話をする前に聞いて頂きたい話が有ります」
そして俺は彼女に対して下手に話すよりも直接要求を言った方が協力してもらえると判断した。彼女は聖霊術の薬物への利用法もある程度理解しているし早い話、俺の目的の物を引き渡してもらえる可能性が高そうなのだ。なので直球で水森家の本家へ自分を客人として招いてくれないか尋ねた。
「私の実家にですか……良いですよ? それで会いたいのは誰ですか? お父様それとも兄さま? まさか姉さま!?」
「ご当主と、あと清一に、じゃなくて次期嫡子殿と、ひなちゃ……氷奈美殿にもお会いしたいです」
「あのぉ……家の内部事情に割と詳しそうなんですけど……兄さまや姉さまとはお知り合いなんですか?」
「顔見知り程度です。清一……殿とは何度か剣の相手をしてもらいまして」
そこで一言二言話していくと彼女は何かに気付いたように突然大声を上げた。
「ああああああああ!! あなた何年か前に新聞に載ってたイギリスの英雄の人!! えっ? で、でも、あなたは死んだんじゃ、兄さまが凄い悲しんでいて……姉さまも寂しそうに……」
「他人の空似……って訳には行きませんね。じゃあ、めんどうな事は省くが俺は死を偽装して別人になった炎央院黎牙だった男。今の名はレイ=ユウクレイドルさ」
「うっそ……じゃあ、炎央院の前代の無能嫡子《出来損ない》って……レイさんの事っ!? あ、すいません」
そう呼ばれていたのか他の家では……。実家では普通に無能嫡子か雑魚としか呼ばれなかったからな。親族や一門の実力者達は俺をそう呼んでいた。唯一庇って俺を無能と呼ばず名前で呼んでくれたのは衛刃おじさんだけだった。
「本当の事だ気にしないでくれ。にしても清一の妹はひなちゃんしか居ないと思ってたんだが」
「あはは……私小さい頃から安定して力が使えなくて、たまに使えても暴走傾向にあったんで中学に上がるまでは家でほぼ軟禁状態でして……」
「へえ、それでか……じゃあ君は無能と言うよりも『災厄』の方か」
「ええ、災厄認定を受けたらそれこそ一生軟禁になるんで、お父様が『無能』の判定をして能力を一切使わず生きて来ました。幸い聖霊を見る事は出来るので」
日本の術師には術師や当主、筆頭など以外にも例外的な位階があって、それが無能や災厄だ。どちらも能力を使いこなせないのは一緒なのだが危険度は大きく代わる。
十五歳時に一切の聖霊術が使えない者を『無能』、術を行使して一切の制御が出来ない者を『災厄』と言う。そして制御が効かず暴走する術師は非情に危険なために一生を軟禁生活で過ごす事になるのだ。
「そうか……そう言えば日本は『矯正』とか『調律』が無いんだ……遅れてるな。ま、俺もお陰で力に目覚めたんだけどな」
「なっ、何ですか!? その『矯正』とか『調律』って?」
「俺の所属するL&R Groupでは術師を後天的に強化するための方法が有るんだ。ある特殊な術をかけて後天的に術師の才能を呼び覚ますのが『矯正』、それで、力を整えるのが『調律』だな」
L&R Group、つまり光の勢力側は慢性的な戦力不足に悩まされていた。確かに光位術士の数は一時の衰退期よりも増えたのだが、それ以上に闇刻術士は増え、そして蘇った。そこで術士そして術師の強化を図る研究が約四十年前から行われていて今から十年前には教育カリキュラムとして完成した。
「何ですか、その目から鱗の情報!! 私でも受けられますか!?」
「まあ、一応は受けられると思う……実際、君と同じくらいの年齢の土聖師を手伝った事も有るし」
「私の災厄の状態は『破段』なんですけど!?」
「いや普通に『急段』こっちで言うレベル5も余裕で調律出来る。破段だとレベル2~3だし余裕で調律可能だな」
そこで彼女は俺の両手を握って来ると泣きそうな顔で俺を見ていた。気持ちは、よ~く分かる。俺も無能だったから向こうに着いて一ヵ月は炎聖師になるために頑張ったが、全く反応すらせず大人しく光位術士の訓練を三日受けたら既に模擬戦で負けていた光位術士と戦えるようになっていた。
「力が無いのと使えないのじゃ違う気もするが気持ちは分かるよ……」
「レイさん……それじゃ――――「ただし、こちらも条件が有る。『草薙の霊根』有るんだろ? 水森家に」
「え? ええ。私の実家の家庭菜園とかに生えてますけど……。育てるって言うか勝手に生えてますし……何なら実家にもそれなりに」
なんだと……そんな雑草みたいな扱いなのか?俺の最後に探し求めていた物は。だけど次の清花の言う事で俺の認識はガラリと変わった。
「えっと、たぶん実家の邸内にしか生えてません。恐らく水森家由来の水に関係してるんだと思います。よく調べて無いんで、あの球根……。ただ名前が付いてるから不思議だったんですよね~」
「そうなのか持ち出すのは不可能かな?」
「うちの水に漬けておくか水森家の人間が居れば大丈夫な筈です!!」
なるほど条件はほぼクリアだな。あとは……そう考えた時だった。誰かに見られている。殺気が四、いや五。こちらを視ている。不躾で、そして不愉快な視線だな。
◇
「清花さん。視られてる……もしかして、つけられた?」
「術師が本気になったなら私が分かる訳無いじゃないですか~!」
「それはそうだね。じゃあ駅まで一緒に付き合ってもらえる? すぐにでも君のご実家に挨拶に行きたいんだけど」
「どうしよ……全然ドキドキしない上に将来の旦那様に言ってもらいたいセリフを勝手に言われたんですけどっ!?」
「意外と余裕だな……来るっ!! 俺の後ろにっ!!」
次の瞬間には足元には赤とオレンジの炎それに鬼火のような紫色の炎……この炎にレイは背筋がゾクッとしていた。彼はこの炎で何度も何度も焼かれた事が有るからだ。そして痛めつけられた事も。
(だけど……こんなに弱かったんだな。この炎は、ダークフレイのあの闇の炎を抜けた俺にとってはマッチの火以下のカスだ)
「ほう、初見で我らの炎央十選師の炎を弾くとは……中々つよ……い……なっ!?」
「どうした統二? 確かに強敵だが……えっ? いやいや、なっ……おまっ」
幼い時に借りの有る二人、門下の名門の二人を見てレイの表情は自然と余裕の笑みを浮かべていた。
「随分とヌルい炎でガッカリしたぞ火津路統二、それに火乃井陽一。お前らが十選師か、どんどん弱体化するな炎央院家は」
そう言って目の前の炎をレイフィールドを展開し軽く消し飛ばす。光の前に炎は容易く飲み込まれる。そもそも光から生まれし四元素の聖霊使いが今のレイに勝てるはずなど無い。
「なっ、無能の黎牙だとっ!? な、なんでお前が、三年前に、いや、そもそも術を使えないはず……それに涼風家の第五席を倒せるはずがっ!?」
「どうした無能の元嫡子なんだろ? その弱い火種を打ち込んでみろよ? 炎央院の誇る精鋭になったのならな? それとも大人しく引くか?」
思った以上に弱くて拍子抜けしたレイだが、明確な攻撃の意思を示した以上は仕方ないと思い清花を守るようにして言い放つ。
「何を恐れている統二!! 我らは誇り高き炎央十選師、あのような無能に負けるわけにはいかん!! 十選師、第三位、志炎大助行くぞ元無能ちゃく……し、なっ!?」
「不意打ちの炎か、弱いな……すまない大助さん。いや志炎大助。今のは……もしかして攻撃だったのか?」
目の前の男の言葉に驚愕と同時に小さい頃、散々痛めつけた弟弟子に自分の最強の術の紫炎が欠片も効いていないのを自覚してしまった。そして格が違うとも気付いてしまった。
「ほざけがっ!? 許嫁を寝取られた無能がああああ!!」
「あ、そう言えばそうですね……あんたも、その一人でしたね、どうでした? 祐介より先に抱けて優越感に浸れましたか大助さん?」
レイは簡単に素手で炎を弾くとニヤリと笑う。アイリスとの出会い、ユウクレイドル家の人達との触れ合い、そして光位術士の仲間達との絆が今のレイには有る。
「おのれええええ!!」
だから今さら過去の事を出されても欠片も心は揺れない。むしろ後ろの清花の方が色々とビクビクしている。少し汚い話をし過ぎたと反省するが、その間にも三人の炎の攻撃が続いているがグリム・ガードの前に全て霧散していた。
「なんだ、あの透明な壁は……防御術式だとでも言うのか!?」
「知らないぞ、あんな術式!? 炎障壁よりも上……だと言うのか」
「終わりなら帰ってくれ、俺は忙しい。さて清花さん、行きましょうか」
そう言ってレイは目の前の相手に興味が無くなり、幼い頃には自分をいたぶっていた相手が思っていた以上に大した事が無かったと体で理解した。そして面倒だからすぐに水森家の本陣へと向かいたいと考えていた。目の前の雑魚にはもう興味は微塵も無い。
「ふざ、けるなよっ!! 無能がどんな魔法を使ったか知らないが!?」
「聖霊使いが魔法なんてあやふやな言葉を使ってはいけない統二。相変わらず理論体系は置き去りで感覚で術を使っているのか……」
「貴様っ!! 炎気爆滅!!」
炎聖師の手から次々と炎の塊が都合三発放出されそれがレイを捉える……ことは無く光の壁に到達すると消えて行く。
「止めろ……下位術師じゃ、お前達じゃ……俺には届かないんだよ」
「なんだその目はっ!! お前は、お前はっ!! 這いつくばって俺達の下で無様に倒れてりゃ良いんだよっ!! 炎陣裂波!!」
今度は炎がまるで波のように襲い掛かる。先ほどから炎の塊を相手に叩きつける『炎気爆滅』と炎の波で相手を引き裂き全てを飲み込む『炎陣裂波』これが出来れば炎聖師としては一人前と言われる中級の術だ。
それを易々と使う彼らは幼少期から更に強くなった。しかしレイには、光の継承者には児戯にも等しく、もう絶対に届かない。
「嘘だろ……こんなの、まるで宗家の血筋、まさか今さら覚醒したのか!? バカな、アリエナイ」
顔見知りの三人と知らない二人の五人が驚愕の表情を浮かべるのを見て少しだけ胸のすく思いがしたレイだったが、それすら虚しくなる。分かっていたが、こんな奴らに怯えていた。自分の十五年間はこんなに無駄だったと理解してしまった。
「清花さん。お願いがあります」
「な、何ですか?」
「今から行う事は全て防衛行動で、あなたの護衛の為であったと水森家の方に報告して頂きたい。面倒なので今から彼らを制圧します」
そう言って今なお無駄に術を行使している五人を見ると清花は頷くと「分かりました」と返事をした。それを聞くとグリムガードを清花に張り守りを固めるとレイは振り向いて暁の牙を抜いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっ、やっと戦う気になったか無能がっ!!」
「無駄な聖霊力を使い過ぎだ。それに聖霊使いが聖霊に頼らず戦う辺り炎央院は変わらないな……岩壁家の方がまだセオリーを弁えている」
「きっさま!! 当主の、刃砕様の子で有りながらその言い草!!」
「ふっ、だから勘当された。だから追放された。それだけだ。来いよ稽古を付けてやる。無能の嫡子がな?」
手に聖具を持って襲い掛かる五人。フォーメーションは組んで連続攻撃を仕掛けて来る。強いのだろうとレイは考えた。少なくとも昔ならそう思えたのかも知れないが、今はその力量差に呆れるしか無く。その差が分かるだろうに突っ込んで来る五人を見て憐れんだ。
「行くぞ」(昏倒させるだけに済ませよう……術は、使わなくて良いな)
「来い!! 俺のぜんりょ――――がはっ、どこか……ぐっ、うっ、見えない」
炎の槍の聖具を使った陽一を軽く小突いて最後は峰打ちで三度打ち込む。恐らく今ので胸骨と両腕の骨にヒビくらいは入ったはずだ。痛みで気を失ったか。次は両腕に炎の短刀を持った二刀流スタイルの大助が迫った。しかし遅い、遅すぎる。
「陽一!! くそぉ!! 俺は祐介を倒し必ず門下筆頭を!!」
「やめた方がいい志炎大助。あの人は強さでしか人を判断しない諦めて真っ当な人を探した方が――――「うるさいっ!! うるさいっ!! 貴様などに!!」
そしてレイは黒き刃で簡単に殴打し、そして二本の短刀を砕いた。確か彼の家に伝わる上級の聖具だったはずだ。幼少期に自慢をしていたのを覚えている。本人同様に脆いのは変わらないな。
「なんで……今さら、お前が強くなったら……あの人は、絶対に……うっ……」
さらに顔は知らないがこちらに敵愾心を抱いている二人を睨むと残った統二と一緒に攻撃をして来たが、それをレイは簡単に避ける。
これは術すら使わず本来のレイの力だけで避けている。つまり聖霊力さえ使えれば最初から彼らなど相手では無いのだ。
「くっ、前から避けるだけは上手かった!! だからかっ!?」
「ああ、それが俺に許されていた数少ない神の制約と……何より、あの子の想いと願いだった」
三人とも聖具は刀で聖霊も呼び出していた。いずれも聖霊獣……この時点でレイはこの三人は昨日倒したバーナビーより弱いと判断する。そして冷静に一閃した。それだけで三人は同時に地面に這いつくばる事になった。
「何で……どうしてっ!?」
「その疑問、少しは自分で考えるんだ……そうすれば、いずれ分かる。じゃあな……俺の過去……」
そして刀の鍔で後頭部を殴打され統二は意識を失った。まだ意識の有る残りの二人は恨めしそうにレイを見るが、もはや抵抗の意思すら持てない。微かに瞳が恐怖に揺れているのを見て取れた。
「では行きましょう。清花さん」
「は、はい!! レイさん!!」
そしてレイ達がその場を離れようとした時、頭上から炎の槍が降り注いで来た。それをグリム・ガードで簡単に弾くと上空を見る。見覚えの有る技だからだ。
「っ!?」
「炎央院家門下筆頭!! 十選師、一位!! 里中祐介勝負だ謎の術師!!」
今日はとことん過去に振り回される日のようだと嘆息し、レイは、かつて自分の許嫁だった人間と一緒に自分を追放し、さらに追撃し消そうとした因縁の相手を見上げた。不思議と怒りも恐怖も湧かないのが自分でも不思議だった。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
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