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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第二章「彷徨う継承者」編
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第12話「全てを失ったあの日の絶望」


 出発の日、俺は普段の光位術士隊服からビジネススーツに着替え荷物を確認した後、SA0のオフィスに顔を出したのだがそこには誰も居なかった。


 そもそもこのSA0と言うチームはアイリス救出のために作られたチームで実質SA3の一部なのだがナンバーで分かるように当主直属でその裁量権は当主の次となっている。


 これは義父さん達、他都市の支社長より上と言う扱いだ。メンバーは俺が課長、そして補佐にジョッシュとフローの夫妻が付いてくれた三人だけの部署だ。ずっと二人は俺を支えてくれていた。


「今日くらいは良いか。もしかしたら二度と帰れないかも知れないからな……」


 俺は普段行かない本社の地下、さらに最奥へと進む。すると白い扉の前で一人の女性が待っていた。一瞬、最も愛しい女性に見えたがその人は髪はシルバーでは無く黒髪で彼女より少しだけ背も高い俺の義母サラさんだった。


「待っていたわレイ。今日は会って行くのでしょう? さすがに一年も会ってあげないとあの子も拗ねちゃうわ」


「はい、ですが俺はあの一件以来、今の俺じゃ彼女に会う資格が無いと……ですが、それでも最後かと思うと、どうしても……」


「ええ、分かってるわ。どうぞ……」


 そして俺は一年振りにその部屋に入った。白い純白な部屋に白い蝶、聖霊が飛んでいる。辺りには俺の聖霊スカイとレオールも待機していた。


「俺より先に居たのかよ……みんなも日本に行くんだ。しっかり頼むぞ?」


 そう言うとスカイは翼を広げ、レオールは唸り声を上げていた。本当に頼りになる仲間たちだ。そしてその二体が守るように待機していたベッドの傍の椅子に座り一年振りに彼女を見た。


「あぁ……アイ……リス。一年振りだね……うぅっ……くっ」


 情けない、だけど我慢が出来ない。自然と涙がボロボロ落ちていく。俺はあの日以来泣いていなかった。アイリスの前以外では……涙を我慢することの無くなった俺は誓いすら平然と無視して彼女のために泣く。

 眠りにつく彼女の前では何も隠す事は出来ず自然と涙が出てしまう。


「俺、また、罪を重ねた……奴らを闇刻術士を見ると、抑えが効かなくなる……君を言い訳にしたくない、のに。君を奪ったあいつらを殺す快感が、悦楽が、愉悦が止まらなくなる」


 情けない、泣きながら深い眠りについている妻に懺悔をするとか情けなさ過ぎる。俺はこんなにも弱くなったよ……君が居なきゃ俺は一人じゃ……そう思って俺はあの日、アイリスを失ったあの日を思い出していた。




――――二年前エディンバラ――――



「あああああああああ!! アイリス、うっ……くっ……」


「何があった!? レイ!!」


 動かない彼女を抱きしめ泣き崩れる俺をSA3の面々が、遅れて当主や義父たち、それに多くの光位術士が集まっていた。


「レイ、お嬢様はっ!? 何がっ!?」


「俺の、俺を助けるために……アイリスが……」


「その様子、アイリスが使ったのは、まさか『シャイン・フォース』か」


 そこでアレックス老は語った。曰く、自らの命を削り生命力を極限まで昇華させ別の一人を助ける。この術自体は使い方を誤らなければ回復出来る程度に生命力を分けるだけで命を削るような事は起きない。


 しかし、もし与える生命力、そして聖霊力が膨大な場合はどうなるか。そう、世界で同等な存在の継承者の場合はその全てを賭して初めて回復が可能となるのだ。


「お、俺が、俺の力が膨大過ぎたから……あ、ああ、こんな力、これならアイリスを失う位なら、俺は無能なままで良かったんだ。力を得た、強くなった? そんな物、俺にはただ彼女が傍に居てくれれば……それだけで」


「レイ……」


「しかしレイ、なぜだ? なぜアイリスの体が残っている?」


 その時の発言を理解したのは各当主だけだった。朱家の当主も頷き、エウクリッドの当主も目を見開いた。


「浄化が行われていない……まだ、まだ希望は有る!!」


「ああ、その証拠に神器がまだ輝いている!!」


 そう、ダークフレイとの最終決戦時、俺の体の一部は光の粒子となって消えかけていた。それを無理やり押し留めたのがアイリスだった。しかしアイリスは俺と同じように体が消える兆候が無い。


 今も俺の腕の中に彼女は居る。そして彼女の首から下げた神器はまだ微かに光っていた。まるで彼女の命の光のように……皆がその神器に注目したその瞬間だった。


『人の子よ、聞きなさい』


「なっ!? 光聖神!!」


「なんと!? こ、これが、神の声……」


 俺の声に反応して、この場の全ての光位術士が驚いていた。全ての術士の脳内にその荘厳な声が響いたからだ。


『巫女の命の輝き、それは巫女が集めた光の輝きです。それは継承者、あなたのために力を蓄えていたようです』


「アイリスが……俺の、ために……」


『しかし彼女は思った以上に集め過ぎたようです。集める量を間違えた。過剰なほど聖霊力を集め過ぎた、だから結果的に今、辛うじて浄化されない状態なのです』


 そう言うとサラ義母さんが、心配性のあの子らしいと泣き笑いを浮かべながら呟いて膝から崩れ落ちそうになり、それを義父さんが支えていた。


『なので彼女は、この状態を保つのが精一杯な状況です。おそらく、このまま一生目を覚まさないでしょう。神器が守ったのは命の輝きのみ』


 彼女が一生目覚めない……死なないけど、そんなんじゃ意味なんて……いや、でも生きてくれているだけでも、そう思ってしまった。しかし俺の微かな希望を打ち砕いたのはアレックス当主の発言だった。


「光聖神様、発言をお許しいただけますでしょうか? 私はユウクレイドル家、第二十一代当主、アレキサンダー=ユウクレイドルです」


『ユウクレイドル家、そうですかあなたが彼らの子孫……聞きましょう』


「孫は、いえ失礼、光の巫女はあとどれくらい生きられるのでしょうか?」


 ざわめきが一気に拡大した。俺も驚いていた。だけど考えてみれば当たり前の事で生きているだけでも奇跡なのだから限界は有ると考えるのは当然だ。

 今の彼女は辛うじて延命している状況だ。そして無情にも光聖神の声が頭の中に響いた。


『三年です……その授けた神器の中の聖霊力ではそれが限界でしょう』

 

「つまり三年後にアイリスは……」


 誰かの呟きに俺は我に返って光聖神に、居るとも分からない空に向かって叫んでいた。憎らしいくらいの晴天でそれが一層俺をイラつかせていた。


「そんな……光聖神!! なら俺の命を彼女に戻す事は出来ないのですか!?」


『不可能です。一度受け渡した力とあなたの魂が共鳴し定着している。それを無理やり引き剥がせばあなたが浄化され、行き場の無くなった聖霊力が霧散するだけ』


 分かっていた。俺がアイリスを止めようとした時に力を戻そうとしても彼女に何一つ返すことが出来なかった。

 むしろ彼女に聖霊力を押し返そうとして、その余波で聖霊力が暴発してレイウイングが発動したようなものだったからだ。


「ならば俺の役目もここまでだ!! 俺は彼女のためにここまで戦って来た。行き場の無い情けない俺を救ってくれた大事な女性で、そして今は最愛の妻それを失った以上、俺に生きている価値なんてもう無いんだよっ!! 光聖神!!」


 涙を流しながら俺は天に向かって再び叫んだ。一層辺りがざわついて中には俺を光聖神に楯突いたとも言われかねないからすぐに謝罪させるように言う術士もいた。


 当たり前だ。聖霊使いと聖霊はパートナーであり主従の関係でもあるが、それは契約している場合のみ、最高位の聖霊で誰とも契約していない光聖神は正に神そのもので、そして光位術士の力の源にも等しいからだ。


『人の子、いえ今代の光の継承者……今の発言に嘘は有りませんか』


「そんなものは一つも無いっ!!」


『良いでしょう。我が盟友であった初代光の継承者の協力者の中には優秀な錬金術師が居ました。その者が作った神の血を混ぜた秘薬『エリクシル』の製法を記した書物がユウクレイドル家には有るはずです。それを彼女に与えなさい。それまでの三年間は私の力で巫女の全てを保護しましょう』


 そう言った瞬間に俺の腕の中のアイリスの体が輝き出して光が包み込んだ。そして最後に光聖神は言った。


『あなたに、継承者にも巫女の力の一部であった私との交信を許可します……今後、継承者の言葉は私の言葉と思いなさい』


 一瞬の静寂の後に、その場の光位術士たちは全員が了承の意を示すように横に一字を切り胸に手を当てた。そして各当主たちは声を合わせ『全ては光聖神の導きのままに』と厳かに光聖神に返礼をした。





「そこから大変だったんだぞ? ギリシャに行って、ダークウィンドーと一騎打ちしてさ、逃げられたけど『イーコール』が手に入らなくなりそうになって、ワリーとベラに助けられてさ……そして一年前に……俺は……ゴメンやっぱり言えないな……だけど、これで最後だから……あれを持ち帰り秘薬さえあれば、君とまた逢えると……だから……」


 俺は立ち上がりスカイ達に号令をかけた。聖霊たちが不可視の状態になり俺に付き従う。その場に残ったのは光の蝶だけだった。俺はそのままローブをバサリと翻して椅子から立ち上がった。


「いつも借りててゴメンな? お守り代わりにこのローブ使わせてもらってる……汚さないようにしてるから……じゃあ、行って来ます」


『行ってらっしゃい……レイ……』


「えっ!? ふっ……かなり疲れているのは自覚してたけど幻聴……か」


 俺はアイリスの病室から出て部屋の外に待機していたサラ義母さんに挨拶すると、このまま日本に出立する趣旨を伝えた。すると見送りに本社前まで一緒に来てくれるそうだ。


「分かりました。はい、その辺りはキチンとしますので……」


「あなたはアイリスの夫であると同時に私の、義理とは言え息子なのですよ?」

 

 その間、機内ではしっかり寝るように、ご飯は栄養バランスを考えて食べるように、向こうのサラ義母さんの実家の高野家にはアイリスの祖父母が居るから尋ねたら歓待するように手配してくれたらしい。

 まるで本当の母のように……あの女とは比べ物にならないほど愛情を注いでくれているのが分かって泣きそうになる。


「はい、必ず、ご挨拶させて頂きます。では……これは!?」


 本社のエントランスまでエレベーターで上がるとそこには光位術士の儀礼服、隊服を来た社員全てが集っていた。本社入り口までアーチのように両サイドに控えて道を作っているようだった。


「レイ、これが八年間あなたが努力した成果よ。あの子が起きていたら自慢していたに違いないわ。だから光の継承者レイ=ユウクレイドル……娘をお願いね」


「はい。必ずここに、寝坊してる妻を起こしに戻ります」


 そしてアーチのようになった光位術士や各術師たちの作った道を歩いて行く。俺が通る度に胸に手を当て目礼を返してくれる頼もしい同士たち。


 すれ違っただけの人間も居れば一緒に仕事をした人、飯を食べた人……そうだった。俺はここで、これだけの人達と接していた。アイリスを失ってから一人だと思っていたけど違ったんだ。


「遅えぞレイ!!」


「アイリスと会って来て遅れた。飛行機の時間は余裕有るしな」


 本社入り口まで出るとそこにはSA0及びSA3のメンバーそしてアレックス老にローガン師とヴィクターさんが居た。


 後ろからサラ義母さんも追いついて来て、いつものメンバーが揃ったのを見るとやはりここにアイリスが居ないのが悲しくなる。


「レイ、湿っぽいのは似合わないだろ? だから俺が言いたい事は一つだ。娘を頼むぜ……息子よ」


「もちろんです義父さん。必ずここに戻ります!!」


 ジョッシュに遅いと背中をバシバシ叩かれ、反対からはヴィクター義父さんから肩をパシっと叩かれた。そして俺の目を見て俺をまた息子と言ってくれた。


 そうだ、アイリスが何よりも大事だけど、俺はこの地で出来た家族もそして仲間も大事なんだ。だがそんな仲間達ともしばらくはお別れだ。


「解析が終わり次第、必ず日本に駆けつける、SA3の総力を持って」


「なのでそれまでお嬢様の守りは任せて下さいレイ。あなたが帰るまで私達が必ず守ります!!」


 ワリーとベラが俺に頷いて任せろと言ってくれる。これで備えは完璧だな。


「アイリスには指一本触れさせないわ。それに私達も準備が終わり次第必ず課長を助けに行くわ」


「ああ、俺達四人はお前の同僚だけどよ、戦友で仲間……だからな!!」


 フローとジョッシュも声をかけてくれてヴィクター義父さんもサラ義母さんとも話し終わると最後に当主に向き直る。


「レイ、昨日私は家族として言いたい事は言わせてもらった。だからここはユウクレイドル家当主として言う。各員、光の継承者に傾注!! 光聖神の加護があらんことを……」


『光聖神の加護があらんことを……』


 その場の全ての光位術士が一字を切り胸に手を当てる。俺も返礼し、そして頷くとキャリーバッグを引きずり本社を後にした。

 そしてヒースロー空港から東京へ約一二時間のフライトだ。到着は明日の午前一〇時過ぎだろう。サラ義母さんにも言われたし少し寝むることにした。




 英国から離れたからか、それとも疲れがたまり過ぎていたからかも知れない。俺は久しぶりに実家での悪夢を見ていた。


「ぐあっ……もう、止めて、くれ」


「情けねえなぁ!! 嫡子様よぉ!! そらっ!! やれ!! 火燕!!」


 炎の猛禽類の聖霊獣、相手の炎聖師の祐介が使役する聖霊が炎の体当たりで俺を襲う。俺はギリギリでかわして木刀を支えに立ち上がる。


「そらっ!! 次だ!!」


「うっ、ぐあっ……がはっ」


 背後から別な聖霊を使って奇襲され無様に倒れると今度は木刀を叩きつけられた。だが苦しいけどそれでも立ち上がる。その瞬間に顔面を殴られ俺は意識を失って倒れた。


「うっ、ここは?」


「黎牙様、いつもの場所、です。今日もまた手ひどくやられましたね」


「あぁ……流美か、仕方ないだろ、俺には聖霊術は使えないんだからな」


「はい……ですが、今年こそは契約も!!」


 そう言ってくれるが流美の目もどこか諦めの表情が浮かんでいた。そう、この頃から俺は誰からも期待されず、ただ同情の目だけを向けられていた。


「兄さん!! 良かった……。また倒されたって聞いて、里中の奴らだよね!! 俺が仇を取ってくるよ!!」


「止めなさい、勇牙。流美も居るのだから。それに実力で負けたのなら、それは黎牙兄さんに落ち度なのだから仕方ないわ」


 救護室に入って来たのは家を追い出される時よりさらに幼い二人だった。今思えば勇牙以外の二人はこの前後から俺の事を軽んじ始めたんだったな。


 どうせあの人に入れ知恵されたのだろうが……真っすぐで騙されやすそうだった。だから忠告はしていたが弱い俺の忠告なんて聞いて無かった。


「でも、俺の兄さんを!! 兄さん、()()()()使えなくても俺が必ず助けるから今度から言ってよ、父上にも言っておくから!! じゃあね!!」


 そして勇牙は何も含むところが無い心からの笑みで退出し、それを見送ると炎乃華だけが少し遅れて出ようとすると俺の方を見た。


「黎牙兄さん、また契約出来ないようなら次は私の神器を貸してあげます。黎牙兄さんは剣だけなら強いですからね?」


「ああ、助かるよ炎乃華……その時は頼むよ」


「っ!! もっとしっかりして下さい!! そんなんだから……失礼します!!」


 俺は彼女に頭を軽く下げて言うと彼女は一気に不機嫌になったのか勇牙の後を追って出て行った。流美もどこか俺を見る目が冷めている。


 当たり前だ嫡子が親族とは言え臣下のそれも年下の少女に頭を下げたのだから男系でしかも第一子を嫡子とするこの家ではあり得ない行動だからだ。


「炎乃華様のいら立ち、私も少し分かります……あ、申し訳ありません黎牙様」


「ふっ、気にするな無能の嫡子がこの扱い、お前も俺になど付かずに勇牙に付いてやれ」


 正直、先の無い俺よりも勇牙の取り巻き上手く行けば愛人くらいに収まれば安泰だろう。父もそうだが離れに愛人を囲っていたからな、勇牙も父に従いそう言う慣例に従うだろう。そう思って流美を見ると彼女は俯いて呟いた。


「それはっ、わ、私は……私はっ……こ、これが仕事ですので、勝手に主を変えるなど……それに私は……」


「それもそうか、わざわざ無能に付けられてお前も苦労するだろうが、あと数年の辛抱だ。勘弁してくれ」


 そうだ。今になって当てつけのように言ったのは悪かったな上司からこんな事言われたらパワハラのようなもんだ。

 本当は嫌で仕方なかった仕事でも真面目に取り組んでいたのもその辺りか、そう言えば前にロンドンに来た時もアイリス相手に熱心に働きかけていた辺り仕事は熱心にしていたようだ。そして夢だから唐突に話は飛ぶ。


「はぁ、黎くん? この程度の術も受けられないの? 祐介は余裕で捌けるのに」


「すいません。炎乃海姉さん……っく……」


「痛いフリでもすれば同情するとでも思った? 残念、私は強い男にしか興味無いの、だから強くなってね? 弱い弱い黎くん?」


 さらに炎乃海の契約している孔雀に似た聖霊王の炎雀えんじゃくの羽から連続して火の粉を浴びせられ火傷を負ってしまう。


 熱いが耐える、実は炎聖師なら火傷など滅多にしない聖霊力が有るからだ。今の俺なら問題は無いけど、当時の俺はそんな力なんて無いから痛みに耐えていた。


「精進……します」


「そればっかり、精進しても雑魚は雑魚、本当に父さんは何で私にあなたのような男を割り当てたのかしらね……娘が可愛く無いのかしら、炎乃華には優秀な男を当ててるのに……私にはあなた程度がお似合いだとでも!!」


 咄嗟に来る蹴りを避けて離れると炎乃海の怒りは極限に達していた。


「避けるんじゃないわよ!! 黎くんのくせに!! 何で避けるのよっ!!」


「すいませっ、ぐっ、今度は――――「避けないでくれるのかしらっ!? いい加減にしなさいよ!! 弱いくせに!! 私より弱いくせにっ!!」


 その後、炎乃海の聖具の炎の鞭、『炎獄縛』で何度も叩かれた。痛みで何日も動けなくなり俺が家で療養している間、炎乃海は祐介や複数の炎聖師の優秀者たちと代わる代わる稽古やデートそれに、その先の関係にまで発展していたそうだ。


 この時は一応俺の許嫁だったのにだ……しかし彼女の不貞を正面から正すのは家の中で一人しか居なかった。


「このバカ娘がっ!! 嫡子の許嫁の黎牙に悪いと、申し訳ないと思わなかったのか!?」


「お父様、私は炎央院の家のために強い男を探しているの、こんな弱い男は炎央院に相応しくないわ」


「バカ者が、これから先必ず武力以外の力が必要になる、我らは近い内、必ず時代遅れになる……兄上の考えは余りにも古い」


「現当主への侮蔑などして、黎くんみたいな無能を庇うの? 本当に愚か……だから当主にもなれず代行なんてやってるのよ!!」


 そう言うと説教されていた炎乃海は部屋を出て行った。たぶん祐介かそれとも別な男の所か、いずれにしても俺の所になんて来てくれない。小さい頃は優しくしてくれた分、余計に辛く感じたのを覚えている。


「すまない。黎牙。私の教育が間違っていた。里中の家へのけん制も含めて私が……」


「大丈夫です叔父上、俺が来年までに契約出来れば炎乃海姉さんも帰って来てくれます。そうすれば昔のように」


 そんな甘い事を考えて俺はその年もそして翌年の炎の祠の試練で完全に無能と言われ、あの家を追い出された。そう、追放された……一度目の全てを失った時、だけどそのお陰であの子に、アイリスに会えた。


「本当に全てを失ったのは一度目なのか、二度目なのか、分からないな……」


 苦しい悪夢の最後くらいはアイリスを見たいと思ったのに最後に出て来たのは黒髪の小さな女の子だった……可愛らしいその子がなぜかニコリと微笑んで俺の夢は終わった。起きるとまだ三時間程度しか経っておらず日本まであと七時間もあった。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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