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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第四章「止まらない継承者」編
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第106話「裏切りと始まりの末裔たち」


「なら決着がつく前に全部話しなさいよ、時間稼ぎ手伝ってあげるわよ?」


『あら、お優しい光の巫女、なら私も助命を乞うために話しましょうか、何を聞きたいのかしら?』


 そこで私は聞き出すべき事を考える。私の知らない歴史、つまり光位術士と闇刻術士が歴史の表舞台から消える前後のことを聞き出すべきだと考えた。


「一般的に下位術師に伝わっている四大聖霊帝の偽りの歴史、その歴史が日本から広がっているのはなぜ? 大家は英国や中国にも在ったのに何で?」


 歴史が曖昧なのは初代の終わりと二代目の始まりの時、そして次に曖昧なのが光聖神が眠りにつく前の戦いだ。更に四大家なんて呼ばれて崇められている家が日本だけに存在するのも不思議だった。


『さあ? ただ当時の光の継承者……四代目を名乗っていた黒髪の男、そういえば今の継承者と似た髪色の、あの男が何かしたのでしょうね私は他の多くの者達と封印されたから、それ以上は知らないわ』


「そ、そう……」

(四代目、じゃあレイは五代目? それに四代目が何かをした?)


 私は動揺を隠すのに必死だった。答えを求めた質問で新たな疑問が出て来た上に闇の巫女はまだ何かを隠しているようにしか思えない。一方でレイ達の戦いは佳境を迎えていた。




「「炎皇流!! 炎牙双極斬!!」」


 俺は二刀から繰り出し、目の前の過去の俺は一刀のみで同じ技を繰り出す。結果は互角、俺の双極斬は突きと斬りの同時攻撃に対し向こうは合わせたようにほんの少し一呼吸以下のズレで俺に対応していた。


「遅いぞ継承者!!」

「軽いぞ支配者!!」


 奴は確かに素早く鋭い一撃を放つ。しかし力とスタミナは俺の方が上だ。それに少しとはいえ清一と戦った後で奴の手の内も分かっている。だから勝機は俺に有る。


「ふぅ、やるな……自分の敵は自分とは言ったものだ」


「ああ、厄介だよ考えが読まれているとしか思えない」


 だけど今までの敵の中で一番厄介な相手で一番面白い相手でも有った。それは向こうも同じようで微かに笑みを浮かべている。


「お前が継承者じゃ無ければずっと戦っていたかった!!」


「俺もだ、だが不可能な話だ!!」


 俺が継承者だから目の前の存在は出現した。こいつや闇の巫女の言葉から俺の魂が別たれた存在、つまり闇に落ちて分離したのが支配者だ。敵対し俺を倒すために生まれたのがこいつだから俺達は戦う運命で同時に存在する事は無理な話だ。

 そこからは炎皇流の技のぶつけ合いとなっていた。合わせ鏡のように互いの技を確かめ合うように俺と黎牙は果てることなく刃をぶつけ合う。


「やはり剣では決着がつかないか……」


「成長が無いんじゃないのか? 未来の俺っ!!」


 耳の痛い言葉だ確かに奴の言う通り俺は光位術を使えるようになってから術メインで戦い得物も刀から両刃の剣へと変わっている。修行よりも実戦経験は積んだが目の前の昔の俺を圧倒できない時点でそう言われても仕方ない。


「ならばここからは実戦で!!」


 神の一振りを輝かせレイブレードを纏わせる。これで斬れない敵はいない、一撃で威力は桁違いだ。やつは一瞬焦った後にすぐ防御を選択したようで地面に手をかざすと黒い聖霊力が迸る。


「俺を守れ闇の壁よ!!」


 そして地面から闇の聖霊力を帯びた壁が出現しレイブレードと接触し僅かに耐えた。その一瞬だけあれば元の俺には黎牙には、じゅうぶんで即座に離脱し体勢を立て直していた。


「だが、それは分かっている!! 俺は逃げるのは得意だったからな!!」


「なっ!?」


 闇の支配者の逃げそうなポイントは三ヵ所で俺はレイブレードで強引に奴ごとポイントの一つを捉える。その際に炎王院邸の一部も吹き飛ぶが奴を逃がさないためだから仕方ない。


「こんな大出力の技使えるか? 支配者!!」


「くっ!? 聖霊力を一気に!? 膨大な量の一撃をここまで正確にっ!?」


 残りの二か所の内の一つは俺が暁の牙を投げて奴の行動を阻害し結果的に奴が逃れる場所は一つのみ、基本的な戦術だが刹那の時に考えた中ではマシな部類だ。


「まだまだ素人剣士感覚が抜けてないぞ支配者っ!!」


 そして着地の瞬間を斬る。だが捉えたかに思えた一閃を奴はギリギリ刀でもって威力を殺し左腕を犠牲に離脱していた。


「ぐあっ!? うっ……く……やってくれるな」


 だらりと左腕から血を流しながら右腕の刀を構えるのは満身創痍で、いつもギリギリの戦いをしていた過去の俺を思い出す。自分で自分を傷付けるのは嫌な光景だ。


「黎くん……」


「レイ様」


 後ろで炎乃海姉さんと流美がそれぞれ険しい表情で俺達の戦いを見ている。二人は色々な意味で複雑な心境なのだろうが正直言うと俺は楽しい。


「はぁ、はぁ……利き手が無事なら戦える」


「言うと思った……では死合おうか」


「いいだろう、俺は負けなっ――――何だこれは?」


 全員が固唾を呑んで見守る中、俺が一歩動いた瞬間だった。ぞわっと総毛立つ感覚が俺を包みアイリスも何かを感じたようで同時にその方角を見る。そこには数名の影が有った。




「お前達は……それにこの力は」


「何だ、この不気味さ」


 俺と黎牙は同時にこの場の闖入者、場違いな人間を見て言った。先頭に立つ二人は俺も知っている人間で驚いたが気配が違った。


「空也、それに祐司も無事だったか……裏門が壊滅したと聞いて心配していたぞ」


 衛刃叔父さんが近付き声をかけた面々は炎央院の配下の里中家の当主の空也そして次期嫡子の祐司だったが俺は油断しないで闇の支配者よりもそちらを警戒する。


「さすがに敏いですな継承者それに支配者殿も」


 そこで返って来た言葉で俺は違和感を感じた。それは黎牙、もう一人の俺も同様で怪訝な顔をしている。炎央院の面々は全員が援軍の登場に油断しているように見えたが俺は嫌な予感が脳裏を過った。


「どうしたのだ空也、それに皆も」


「いえいえ……では衛刃様、死んで頂く!!」


 突然、里中空也の炎の刃が届く前に炎障壁が展開され攻撃が防がれていた。油断していなかった男が一人だけ炎央院サイドにも存在していた……それは親父だった。


「馬鹿者が衛刃!! 敵だ!!」


「なっ……ですが兄上、里中の家が敵など……」


「戦場で聖霊力をぶつけて来た者は全て敵と思わんか、たわけが!!」


 そう言って逆に里中空也に闘気を込めた聖霊力の炎の拳を叩き込む。しかし、そこでまたしても予想外の出来事が起きた。親父の拳が何かに阻まれて逆に流血する事態になったのだ。


「馬鹿な……我が拳が……ちぃっ!!」


 親父は咄嗟に衛刃叔父さんを突き飛ばし安全エリアに避難させると自らの二柱の聖霊を呼び出し壁として距離を取る。そして炎瑞鳳と炎鎧亀が突進するも数秒と持たず還されていた。


「アイリス!!」


「分かってる、レイキャノン!!」


 俺の叫びに反応して一切の躊躇無しで威力の高い術を放つのはアイリスで、この攻撃に対し里中空也は場を跳躍して離れた。アイリスの一撃を簡単に回避したのだ。


「全員、落ち着け!!」


「皆さん、周囲に新たに悪鬼と妖魔が出現、邸が取り囲まれています!! 敵の援軍です!!」


 親父以外は炎央院の連中は勿論、巫女たちですら反応が遅れていた。それにどういうわけか光位術士のセーラやSA3のメンバーも惚けている有様で今の状況に反応できていたのは俺とアイリスと親父、そして号令を出した流美だけだった。


「はっ、すいませんレイ、お嬢様!!」


「悪い……どうなってるんだ?」


 ベラとワリーがすぐに聖具を構えるが俺やアイリスが居なければ未だに動けていない可能性すら有ったように見え、こんな混乱した状況で口を開いたのが闇の支配者である黎牙だった。


「貴様……祐司、それに里中の……お前ら、いつから炎聖師を辞めた」


 乱入して来た里中の一族を睨みつけ黎牙が呟いた。俺との勝負に水を差されたからか少し不機嫌にも見えた。


「さすがは闇の支配者殿か、それに継承者も違和感に気付いているようだな」


「な、空也、一体なにを言っている」


 衛刃叔父さんが娘たち二人に支えられながら起き上がると里中家の当主・空也に向かって茫然として尋ねたが返答は馬鹿にするような嘲笑が返されるだけだった。


「おめでたいな炎央院家の咎人とがにん共よ……まったく愚かだ、自分達が何者かも知らずに我らを封じて来たのだからな」


「確かに里中の者らには苦労を強いたがそれ相応の立場を――――」


「愚か愚か、そういう次元の話では無いのだよ炎央院刃砕!!」


 少し前までは臣下で幼少期から親父とは親交が有ったはずの者の言葉とは思えなかった。気でも触れたかあるいは闇刻術士に操られたのか? だがそれにしては黎牙の様子から違うと判断出来る。


「……祐司どういうことだ?」


「聞けば何でも答えてくれると思わない事です黎牙様、いや光の継承者」


 元守役の男も昼に会った時とは違って俺を睨みつけて来る。それに明らかに先ほどの親父を負傷させた術は炎聖術では無かった。最初に叔父さんを攻撃した術とは明らかに違っていた。


「まあ、つまり裏切った……そういう意味でしょレイ!!」


「そうらしい……各員!! 敵だ!!」


 アイリスの至極当然の一言で俺も納得して闇の支配者に注意しつつ新たに敵になった一団を睨んだが里中家の当主は不敵な笑みを浮かべ状況は三すくみで一触即発に陥った。




 こういう状況の場合の対応策は二つ有ると俺は思っている。一つは状況判断のために撤退または防戦に徹し情報を得て事態の推移を見守る方法だ。しかし今回はそちらは選ばない。先手を取られた場合のリスクが高いからだ。


「だから先に面倒な方を潰す!!」


「くっ!? まだ完全では無いが……アデヴよ、全てを無に!!」


 俺は目の前の負傷している闇の支配者つまり過去の俺から踵を返し里中空也にレイブラスターを放つ。必滅の光が直撃するかと思われたが何と捻じ曲げられる。


「父上!! ヒンガよ!! 炎空壁!!」


 さらに謎の詠唱を唱えて隣の祐司が明らかに出力の大きい炎聖術を使い俺の攻撃を防ぎ切っていた。


「嘘……でしょ」


「馬鹿な……」


 アイリスと俺の二人の呟きが静かに響いた。光位術を相殺もしくは防ぐことが可能なのは同じ上級術でもある闇刻術を使う闇刻術士のみだ。そしてこれには後ろの黎牙もポカンとした顔で驚いていた。


「なっ、祐司……お前、いったい……」


「懐かしいお顔だ黎牙様……そのお姿も元守役として嬉しく思います」


 明らかに炎障壁よりも強力な炎の壁で俺のレイブラスターを防いだ里中祐司は一瞬だけ過去に俺を指導していた顔に見えた後に表情を能面にし黙っていた。


「当初の予定とは大きくズレたな……炎央院刃砕やはりあなたは厄介だ」


「俺も驚いた元側近がそこまで強い力を隠していたとは、なぜ隠していた空也」


 そうだ親父の言う通りだ。何でこいつは里中の家の者達はこんな力を隠していたんだ。そもそもこんな力があれば炎央院を壊滅させるのだって簡単だ。


「ふっ、色々とこちらも有るのです元当主……だがその前に、流美よ早く我が家に戻れお前は大事な存在なのだからな」


「父さん……いいえ里中殿、何を?」


 忘れそうになっていたが目の前の里中家の当主は流美の父親だ。確か流美は俺をスパイするように言われ逆に家を爆破させて逃げて来たと言っていた。家との仲は絶賛冷え冷えなはずなのだが……。


「お前こそがくうの巫女なのだからな……」


「何ですか、それは? 私は以前にも言ったはずです、仕える方のためにもう迷わないと言いました!!」


「流美……」


 過去を悔いそれでも炎央院の家で生き俺が戻った後は俺に仕えることを諦めなかった流美の言葉は俺の胸に響いていた。


「仕える……仕えると、くっくっくっ、我らが全ての始祖である虚倥之神に仕える里中の、いや邑無禍さとなかの家の女が何を言う!! 光聖神や闇刻神など元を正せば虚倥之神に仕える下級の神だと言うのに!!」


「虚倥之神?」


 アイリスが聞いた事の無い謎の単語を噛みしめるように自分に言い聞かせるように呟いた。


「無知よな光の巫女よ!! 全ての始まりも、三百年前の戦いの顛末も、炎央院や四大家の血の秘密も知らずのうのうと生き説教を垂れていた痴れ者が!!」


「戯れ言をっ!! 私たちユウクレイドル家は!!」


 動揺したアイリスがレイアロートリプルを放つ。その軌跡は狙いを違えず空也に一直線に飛んだ。


「「「アデヴよ、我らを守りたまえ、空を歪ませたまえ!!」」」


 しかし後ろに控える里中家の三人が前に出ると一斉に先ほど里中空也が使った謎の障壁を展開し完全に攻撃を受け止めてしまった。


「なっ……そんな」


「ふっ、光位術など我ら空総術の劣化コピー、守護騎士の家系に偶然顕れた巫女だから真実を知らぬのは当然か、そもそも忌々しい四代目が真実を隠そうと日本へ渡った事すら知らんのだからな」


 四代目とは俺の前代の継承者の話なのか? 分からない、奴が何を言っているのか理解出来ない。


「その話、どういう事!!」


「話す必要は無い!! ただ一つ我ら虚倥の神は待っていた、光位術と四つの力で封じられた日本という檻から出るのを!!」


「一体どういうことなんだ……アイリス」


「分かんない、分かんないよレイ……」


 力無くへたり込みそうになる妻の元に走り寄り抱き寄せ何とか支えて奴らを睨みつける。空也の嘲笑が響く中、その嗤いを遮断するように女の声がピシャリと響いた。


「落ち着きなさい光の巫女アイリス!!」


「あっ、お義母さま……」


 炎央院楓果、俺の産みの母が指揮所から数名の炎聖師を引き連れ戦場に現われていた。そして俺と黎牙を見るとすぐに里中空也を睨みつけた。




「これはこれは前当主奥方殿」


「まったく、あの忌々しい女の、冷香の言う通りとは里中の家に注意しろと、こういう意味だったのね」


 母はそう吐き捨てるように言って俺を見た。そして俺も思い出していた。冷香叔母さんのビデオレターでの言葉だ。里中の家に気を付けろと叔母さんは確かにそう言っていた。


「あの女は厄介だった、炎央院の封印を崩すために何代もかけ炎央院に近付いた我ら一族の計画を見透かしていたように妨害していたからな」


「そう、だから衛刃殿の足を奪った時に消そうとしたの?」


「違う、我らの神の封印を強める儀式の妨害の副産物、虚空之神の分体が触れただけの事故ですよ」


 そう言うと空也の側に京都で闇の巫女が出現させた半透明の聖霊が出現するが今度は京都で見たものと違い蛇型だった。あの時とは桁違いの聖霊力でこの場の全てを圧倒しているように見える。


「その蛇……そういう事、あの日、私達を消す気だったのね」


「見えて来たぞ楓果よ、衛刃の足を奪ったあの日の儀式も貴様の策略か!!」


 親父が叫ぶと衛刃叔父さんや炎乃海姉さんも空也を睨んだ。今の話が本当なら冷香叔母さんを死に追いやったのは目の前の男だからだ。


「ええ、正確には私の父の計画でしたが……しかし失敗した、まさか四代目の遺産が四大家にバラバラに保管されていたとは……混合術とは流石と舌を巻いた」


「空也よ、どうしてだ、なぜだ!!」


 叔父さんの悲痛な叫びが響くが目の前の男はそれを一蹴すると不気味な笑みを浮かべ俺たち全てを憎悪の対象とし責めるように叫んだ。


「どうしてだと? 本来なら全ての頂点に立っていたはずの我ら一族の悔しさと先祖の無念さが貴様らに分かるか炎央院!!」


 その怨嗟と怒気を孕んだ声は場を支配した。余りにも突拍子も無い話と真実に俺達は混乱する。俺が生まれる前の冷香叔母さんの山での一件はこいつら里中家の陰謀で叔父さん達を殺す気だったという話だ。


「一歩間違えれば俺も生まれる前に死んでたか」


 俺が呟くとハッと息を飲む音が聞こえ見ると闇の支配者である過去の俺も面白く無さそうにして空也を見た。だがそれより先に動いた人物がいた。


「じゃあ、あんた達が母様を!! 許さない……里中ぁ!! 爆鎖天昇!!」


 炎乃海姉さんだった。両腕に炎の鎖をまとわせ相手に叩きつける炎聖術で力を得てから仕えるようになった上位の炎聖術だ。報告では弱い闇刻術士なら消し炭にしたほどの一撃だ。それが里中空也に襲い掛かった。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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