第105話「激突する光と闇、そして剣士の矜持」
更新再開します。よろしくお願いします。
俺が目の前の過去の俺の答えに動揺していると完全に隙が出来た俺は気付けば間合いに入られていた。
「動揺しているな? だが戦闘時に無駄な考えが出来るとは成長したな、俺っ!!」
「っ!? 本当に俺のようだな!! 考えてる事が筒抜けかよ」
「当たり前だ!! フェアじゃないから教えてやる、俺の記憶は英国で闇刻術士に攻撃を受けた所で途切れ後は目覚めた時に全て共有された!!」
そして奴は炎皇流の炎牙双極斬で俺への二連撃を決めた。俺もグリムガードとレイブレードで防ぐと距離を取った。
「やはり本当に過去の俺なのか……お前は」
「より正確に言えば闇の支配者として分離した魂と記憶を依代に新生した光の継承者のコピー、それが俺だ!!」
そこで奴は黒炎をまとった状態で必殺の一撃を放つように構えた。あの動きは見憶えが有る、だけど有り得ないあの技は……。
「まさか、お前っ!?」
「見せてやろう黒炎の処断者!!」
それは先ほどまで戦っていたダークフレイの技だった。しかし威力はオリジナルの技より遥かに強く俺はレイブレードで対抗したが威力を減衰させるのが限界でギリギリで離脱した。
「なんとか避けられたか、しまった!? 下は!?」
しかし時既に遅し、下を見ると巻き込まれた者が敵味方問わず多くが闇に飲み込まれ消滅していた。あまりにも凶悪な黒い炎は炎央院の家を火の海に変えていた。
「ちょうどゴミ掃除が出来たじゃないか、感謝してくれよ?」
「お前、自分が何をしたか分かっているのか!?」
俺が怒声を浴びせるが奴は俺を見て、せせら笑うと冷笑を浴びせながら実に愉快そうに顔を歪ませて叫んだ。
「お前こそ、下に居るのは俺の敵だが? まさか今さら自分を見捨てた相手を心配するとでも思ったのかよ、なあ、光の継承者!!」
俺は奴の言葉に一瞬動揺し反応が僅かに遅れた。しかし、その隙は決定的で地面まで一直線に叩きつけられる。どうやら少し離れた場所に墜落したようで周囲を見ると見憶えの有る松の木が有った。
「ぐあっ……やってくれるな」
「黎牙兄さん!!」
「炎乃華!? 下がってろ危険だ!!」
俺はすぐに立ち上がり周囲を確認すると、やはり西邸と本邸の渡り廊下付近だ。ならばと俺は近くの聖霊を全て呼び戻した。別の場所で戦っていたヴェインも到着し万全の体勢で上空の奴を見上げた。
「で、でも……え?」
「本当に頭が足りないな炎乃華、物覚えの悪いバカだとは思っていたが、ここまでとはな!!」
奴は上空から急降下して炎皇流、炎刃裂破を放つ。しかし狙いは俺では無く隣の炎乃華だった。俺はグリムガードを展開するが危険だと判断して咄嗟に炎乃華を突き飛ばして庇っていた。
◇
「黎牙兄さん!?」
「くっ、やはり防ぐのは無理か……」
嫌な予感は当たるもので俺のグリムガードは容易く貫通され俺の左肩からは鮮血が流れていた。炎乃華を逃がして正解だった。
「おいおい邪魔をしてくれるなよ!! もう一人の俺!!」
「ぐっ!?」
俺は吹き飛ばされながらも何とか構えるが危険だ。フォトンシャワーする隙すら無いから回復もままならない。防戦一方になった俺が至近距離でレイブラスターを放つかと考えていた時だった。
「うおおおおおおおおおおお!!」
「そのまま一気にお願い!! 清一!!」
叫び声を上げながら炎央院邸の西邸の中を突っ切って突撃してくる気配が有った。それと同時にレイアローが連射され邸の一部が吹き飛んで出て来たのは光位術バッテリーを発動状態にして奥伝を解放した清一だった。
「これはっ!? お前とは一度本気で戦いたかった……清一っ!!」
「ええ、俺もですっ!!」
氷の刃を展開した状態で斬りかかるのは水森家次期当主にして俺の弟子の清一だった。俺は急いで駆け寄って来た炎乃華に肩を借りて後退しようとすると後ろから到着して手を貸してくれたのはセーラだった。レイアローを撃って援護していたのは彼女だったみたいだ。
「レイ、回復します負傷箇所を」
「ああ、助かる……回復次第、俺も――――「手出し無用です師匠!! この状態の師匠と俺の一騎打ちをお願いします!!」
氷の刃で斬り付けながら牽制の水聖術を放ち距離を取った清一が俺達に向かって叫んでいた。そして、それは意外な結果を生み出していた。
「それには同意だ、継承者!! 清一、俺に成長を見せてみろ!!」
そう言うと闇の支配者は周囲に黒い炎をまき散らし人工聖霊や悪鬼と妖魔を全て駆逐していた。
「……分かった」
「レイ、良いのですか!? 私たち四人でなら!!」
セーラが反対するが俺や炎乃華も目の前の二人の一騎打ちを認めていた。奴が周囲の敵を全て片付けたのもそうだが純粋に剣士同士の戦いを見たいという欲求の方が強かった。
「セーラ済まないが一騎打ちだ、その気遣いは遠慮しておくっ!!」
「ほう、女が出来たか……偉くなったなぁ、清一!!」
そして二人の剣戟が始まった。最初は試すように数合打ち合った後は両者が術を展開するが闇の支配者の黎牙の圧勝だ。当然だろう上位の術と下位の術では聖霊の質や術の強さが違うからだ。
「そんな事、最初から分かっていた!!」
氷の刃をパージして水龍の牙は今度は水の刃を飛ばす。水森家に伝わる水聖流の技の一つ水鱗断だ。刃を地面に突き立て地の中に聖霊力を送り込み予測不能な位置から水の斬撃を発射する技だ。しかし、それらも容易く闇の炎に蒸発された。
「さあ次はどうする清一っ!!」
「まだだ!! 水聖流……水龍無尽剣!!」
今度は斬り付ける軌跡に水の刃が遅れて来る時間差の刃が闇の支配者を襲うが本命は違った。全く違う方向から水の刃が出現し敵の肩を掠めていた。
「なっ!?」
「師匠対策の……実戦技も効かないか……やっぱり、あんたも黎牙さんだ」
「これは……そうかっ!? 水の刃から別な水の刃が!?」
見ると清一はニヤリと笑って頷いた。以前、俺と戦った時は出さなかった技だ。水の刃を飛ばすのは見た事が有ったが次が違った。闇の支配者が避けた水の刃が二つに分裂し軌道を変えると襲い掛かったのだ。
「凄いな……」
「あんな技出されたら私や勇牙じゃ対応出来ない……」
周囲を分裂し増え続ける水の刃で闇の支配者は徐々に追い詰められていたが、いきなり刀を鞘に戻すと両腕を左右に広げて構えた。
「ならば行くぞ、闇の舞風!! ダーク・ディケイ・ウォール!!」
左腕から闇の風撃を、右腕から黒い土壁を展開し清一の水の刃を全て防ぎ切った。増える前に闇の土壁に吸収され澱み、また別な刃は黒い風に飲み込まれた。
「今の術は、一体……」
「あ、あれは四卿の、ダークウィンドとダークソイルの闇刻術!?」
セーラは七年前に俺やアイリスと共に戦場に立ったから覚えているはずだ。あれは間違いなく闇の四卿の技だ。
「術はここまで……じゃあ続きは剣で語ろうか清一!!」
「はいっ!!」
どうやら腐っても昔の俺らしく対等な戦いを望んでいるようだ。俺も来日して清花に案内され水森の家に来た時は同じリアクションだったのを思い出して目の前で戦う闇の支配者は、やはりもう一人の俺なんだと実感した。
「くっ、やっぱり……貴方にも勝てないか……」
「剣だけじゃ、俺の方が上だな清一?」
見ると黒い刃で清一の神器の水龍の牙を弾き飛ばし膝を付かせたのは黎牙だった。今の俺に比べて粗雑な剣の中にも炎皇流が色濃い戦い方は旅をしていた頃の俺にそっくりで懐かしさすら覚えてしまった。
「さすがです……トドメは刺さないんですか?」
「…………清一、俺と来ないか? 俺の仲間にならないか?」
「「え?」」
俺は妙に納得していたが炎乃華とセーラは驚いていた。
「なっ、何を言って、きゃっ!?」
「部外者は黙っていろ光位術士の女ぁ!!」
俺たちに黒い炎を飛ばし黙らせるとセーラが反撃に入ろうとするが俺は手で制し神の一振りを抜いた。その反応に炎乃華も火影丸を構えて俺の後ろに付いた。
「師匠、どういう意味……ですか?」
「そのままだ、俺は……この家で多くに裏切られて全て失った、だが幼い頃に遊んだお前と氷奈美は別だ、他にも確かに俺を助けてくれた人がいて俺はその者らに危害は加えたくはない、この世界の秩序を変えるのに協力しないか?」
炎乃華とセーラが息を飲んで清一を見ていた。だが俺は泰然と清一を見ていた今のあいつなら間違えないと確信していたからだ。
「本当に、黎牙さん、師匠なんですね……嬉しいです素直に」
清一は落とした水龍の牙を拾うと神器の損傷具合を確認していた。その際に黎牙に背を向けて堂々と納刀した。襲われないと分かっているように後ろの相手を信頼しているのが良く分かった。
「……そうか、ダメか」
「すいません、俺は水森の次期当主ですから」
「お前は立派に当主の器か、そうか、まあ良い……だが氷奈美はどうする?」
「っ!? それは……」
「俺の一声で巫女は氷奈美を解放する、あいつは俺の命令を絶対に聞くからな、その上でもう一度聞く、いや今度は命令だ俺と来い清一!!」
今度こそ俺が動こうとした時に光の槍が投擲され黎牙と清一の間に打ち込まれた。その一瞬の隙を突いて清一は後退して俺たちの方まで来ていた。
「残念、最後の詰めが甘い所は昔のあなたと同じねレイ?」
「この光の槍は……光位術か!? 光の巫女!!」
「ええ、それと、ひなちゃんは返してもらったわ!!」
するといきなり出現したように見えたのはシャイン・ミラージュでアイリスの他にも三人の巫女にワリーとベラと炎央院家の面々が揃っていた。何より大地の聖霊帝に拘束されるように運ばれグッタリしている闇の巫女、ひなちゃんがいた。
「お待たせ、あなた!!」
「ああ、さすが俺の妻だアイリス!!」
さあ形勢逆転だ。闇の支配者いや、もう一人の俺……次はどう戦う?
◇
「くっ、やはり完全に制御下に置いていなかったか……ふっ、最後は俺一人か……」
皮肉なものだと闇の支配者の黎牙はニヤリと笑った。あの諦めたような表情を俺は鏡で何度も見た事が有る。旅の最中で何かを為す度に故郷を思い出しては戻れないと嘆き悲しんでいた時の表情だ。
「まだ策は有るのか?」
「どうかな?」
俺の問いかけに若かりし頃の俺は黒い刀を油断無く構えると同時に俺と光の巫女を見た後に周囲を取り囲んだ全ての聖霊使いを憎悪の対象のように睨み付ける。
「残念だけど闇の支配者、闇の巫女はこの中よ」
「ほう、それが噂の霊子兵装か……」
アイリスが言うと風の聖霊帝が前に進み出て光の牢屋のような物を取り出し、その中に黒くて淡い聖霊のような生物が捕らえられていた。
「そうよ、ね!!」
『ガアアアアアア!! お、おのれぇ、光の巫女ぉ!!』
「うっさい、うりゃ!!」
どうやら俺の妻は相当お怒りのようでレイブレードを細くして闇の巫女の本体をツンツン突いている。まったく案外と意地が悪いな。
「なんか日本に戻って来てすぐの黎牙兄さんが刃砕伯父様にしてたのと似てますね、槍でツンツンしてたのと……」
「そ、そんな事有ったか炎乃華?」
気のせいだ、そんな事は数ヵ月前のことなので覚えてません。そんな炎乃華との会話をしている間にも妻の拷問は続いていた。
『アアアアアアアアアア!!』
「あんたのせいで私の家庭はねぇ!! うりゃ!! ひなちゃんの恨み~!!」
しかもアイリスのレイブレードは威力を生かさず殺さずといった威力にしているから性質が悪い。
「これでチェックだ、闇の支配者」
「ふっ、確かにこれは大変だ……大ピンチだ、だが、それがどうした?」
闇の支配者は少しの溜息と同時に嘲笑を浮かべ黒い刀の切っ先を俺に向ける。何か策が有るのかと周囲の者らは警戒しているが違う本当に何も無い。俺にはよく分かる、だって俺自身なのだから。
「「絶体絶命なんて慣れっこだ!!」」
そして俺と過去の俺は再び互いに刃を交えた。アイリスが何か怒鳴っているが正直なところ俺は少し昂っていた。清一との戦いを見て思い出していた。
「ただ一人の剣の使い手として!!」
「戦うのをだろうっ!!」
俺の斬撃を受け止めすぐに闇の炎を至近距離で放つと奴は鋭い突きを放った。今のは見覚えが有る。
「炎皇流の確か炎燐突き……だったかしら、でも誰も出来なかったはずよ、黎くんだって術が使えなかったから動きを真似ただけで」
「そうなのですか、私は初めて見ました」
炎乃海姉さんと流美が話している通り過去に俺は奥義書の一部と師の動きだけを頼りに術の使えない俺なりに夢想し練習していた。
「お前に出来るか未来の俺!! そんな刀でない剣で何が出来る!!」
「調子に乗るなよ!! レイブレード・ダブル!!」
闇の炎をまとった突きをPLDSのグリムガードで威力を減衰させつつ暁の牙も取り出し二刀流になった状態でレイブレードを同時に展開する。
「遅いな、年を食って動きが鈍ったか?」
「じゃあ見せてやるよ二刀流での戦いってやつをな……クソガキが!!」
俺はニヤッと笑って過去の俺と刃を交える。見ると相手も似たような顔をしていて意見は一致しているようだ。
◇
――――アイリス視点
「あ~もうっ!! レイの馬鹿ぁ~!!」
「お嬢様、私とワリーが介入しますか?」
「本当はそうしたいけど今の二人に割って入ったら二人でも大怪我よ、レイったら力を抑えてないで戦ってるもん」
レイは普段よほどの相手じゃないと全力を出さない。理由としては継承者としての強過ぎる聖霊力は並みの結界なら軽く破壊してしまうから周囲の被害を考えると力を抑える必要が有るからだ。
「確かに、闇の日事件では黎牙兄さんは凄かった……アイリス姉さんと揃った時なんて凄い聖霊力がドバーっと出てて」
横で炎乃華ちゃんが炎央院の家の方に報告が終わったようで私の横に来て力説している。それに答えながら私は側近の二人に目配せして指示を与える。一瞬、ベラが怪訝な表情をしたが私は目で黙らせるとワリーに話を振る。
「ふふん、でしょ? それより炎央院邸の周囲は大丈夫なのワリー?」
「今はエレノア様や他の炎聖師たちが悪鬼や妖魔を抑えている、さらに都内で戦っている残りの聖霊使いも呼び戻しているから問題は無い」
炎央院の実動隊たしか『十選師』という部隊だ。今は三人しか居ないが彼らと麾下の部隊が善戦してるらしい。そして一番の問題児は目の前の私の夫である。
「レイ、あれは目の前しか見えてませんね……お嬢様」
「ええ、それにしても闇の支配者って何なのよ答えなさい闇の巫女!!」
そして捕まえている闇の巫女にレイブレードを突き刺す。今度は周囲には聞こえないように結界を張っているから問題無い。例外は他の巫女くらいだろう。特に取り押さえている風の聖霊帝の主人の楓は苦笑いして私を見て来る。
『くっ……ご自身であの方が語られた通り、あの方は光の継承者の影、光の巫女あなた知ってる? 初代の光の継承者と闇の支配者は双子だったのよ』
「えっ……」
『最高位の聖霊使いとして二人は育った、そして対立した……理由は1000年以上前で知らないわ、私すら生まれていないのだから』
そうだ、そもそも光位術士と闇刻術士は聖霊使いとして存在し世界を守っていた。そして何かが原因で対立した。その何かは私も最近は気になってはいたんだ。
「あんたって初代から封印されたんじゃないの?」
『私が封じられたのは二度目の大戦、あんた達には継承者がいて我々は支配者を封じられて戦った、おまけに下位術師なんて厄介な者を生み出して私や多くの旧代の闇刻術士は封印された』
気になるワードがいくつも出て来たが、ここから闇の巫女の語る歴史の一端を聞いて私は更に困惑することになる。それと同時に目の前のレイと昔の黎牙だった頃の二人の戦いも激しさを増して互いの死力を尽くしていた。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。




