表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第四章「止まらない継承者」編
118/121

第104話「二人の黎牙とキレるアイリス」

「レイが二人!?」


「えっと、黎牙兄さんと……若い黎牙兄さん~!?」


 驚いて声すら出ない俺とは対照的に周囲のどよめきは最高潮に達しアイリスと炎乃華の声が周囲に響くと黎牙と名乗った俺と瓜二つの少年は心底嫌だという表情を隠さずに口を開いた。


「はっ、誰かと思えば恩知らずの脳筋か、お前のような女が従妹とは情けなくなる」


「ひっ、な、何か少し前の黎牙兄さんみたいなんだけど……」


 思わず隣の炎乃海姉さんに隠れるくらいには炎乃華が恐怖を隠せずにいた。少し前と言うが俺はあんなにキツイ言葉を発した覚えは無いと思っていると炎乃海姉さんと流美も同じような表情で闇の支配者を見ていた。


「そうね……でも、それだけじゃないような気が」


「はい、炎乃海様……目の前の方は間違いなく……」


 その言葉を聞くと奴は視線を動かし二人を見るとまたしても嫌なものを見たという感じの冷たい視線を向け口を開いていた。


「どうやら厄日か二度と会いたくない腐れビッチと裏切者まで用意するなんて最高の気分だ……弁明が有るなら聞かせろ闇の巫女よ」


「申し訳ございません……この場、この状況こそが光の継承者と貴方様の魂の共鳴と分離の好機でしたので、どうか御寛恕とご理解をお願いしたく」


 あれだけ高圧的だった闇の巫女の態度にも驚いたが一番驚いたのは今の闇の巫女の弁明の言葉だ。俺から魂の共鳴と分離だと意味が分からない。


「はっ、気に食わんが仕方ないか」


「これは……一体どうなっているのだ!?」


 親父や叔父さん、あとは楓が連れて来た勇牙も全員が亡霊でも見るような目で見ていて困惑の色を隠せずにいた。


「ああ、何だこれは非常に不愉快だ!! 俺を追放しやがった連中……裏切者のオンパレードじゃないか反吐が出る!!」


 そして言葉を発しただけで術師だけでなく光位術士も何名か吹き飛ばされ気絶し妖魔や悪鬼などは消滅していく。そのまま敵味方を問わず聖霊力で容易く周囲をねじ伏せる圧倒的な光景がそこには有った。


「素晴らしい、では存分に闇の支配者としての力をお示し下さい、黎牙様!!」


「ああ、まずはそこの気に食わん間抜け面を斬る!!」


 奴はダークフレイが落とした黒い刀を取ると真っ先に俺に斬りかかる。俺も咄嗟に神の一振りで応戦するが奴の方が速かった。


「レイ!!」


「くっ!? お、お前は本当に俺なのか!?」


 アイリスの叫び声が響くが俺は視線を送って頷くと奴と鍔迫つばぜり合いをして、その場に留まる。しかし俺達の聖霊力のぶつかり合いで光と闇がスパークし周囲の物が吹き飛ばされ誰も近付けずにいた。


「愚問だ……だが答えてやる俺は炎央院を追放され全てから見捨てられ世界を彷徨い、それでも戦い抜いた貴様自身だ光の継承者(レイガ)!!」


 もう一人の俺は叫びながら炎皇流の構えから炎刃裂破を放った。しかし俺の技とは違って黒炎で俺よりも速い一撃だった。まるで居合のような一撃に俺も昔は少し齧っていたのを思い出す。


「速さは俺の方が上のようだな継承者!!」


「くっ!? 炎皇流の型……やはり過去の俺なのか!?」


 俺は困惑しながら何とか態勢を立て直す。しかし未だに頭の中では疑問符だらけで目の前の男、もう一人の自分に向かって剣を構え直し向き合った。



――――アイリス視点


 静かになったのは一瞬で未だ闇刻術士らの脅威に炎央院邸は脅かされている。下位術師は惚けていたけど私たち光位術士は違う。既に行動を起こしていて攻撃を開始し始めていた。


「闇の支配者……本当にいたなんてね、おまけに懐かしい私の旦那様の姿を使うなんて……実は、ひなちゃん逆に闇の巫女乗っ取り返したりしてない?」


 そして私は身体を乗っ取られた親友を見た。確かにレイの言う通り明らかに悪い顔になってメイクはドギツイ感じで私の親友の好みとは真逆だ。こんな趣味の悪いメイクさせられて思わず同情していた。


「さあ? でも目的は殆ど達成したし後は私とあなたの決着だけよ光の巫女、今日こそ消してあげるわ……アイちゃん?」


 私は上空で戦うレイと闇の支配者の聖霊力を感じながら目の前の親友の顔をした敵を睨みつける。今の会話で分かったのは目の前の女は私の親友では無く敵だ。そして同時にまだ助けられると確信した。


「闇の巫女、あんたに教えといてあげる巫女は全員、強い信念を持っている、それと私の親友はね……心の強さは私以上なのよ!!」


「戯れ言を!!」


 私は軽い牽制でレイアローを放つが弓では向こうの方が上で私の放った矢は全て打ち落とされた。さすがは私の親友の体だ恐らく闇の巫女は彼女の能力を全て使えると見ていい、その証拠に聖霊帝も私の方に攻撃しようと接近して来た。


「よそ見はいけないわ光の巫女!!」


「それは、こっちのセリフよ!!」


 ひなちゃんの聖霊帝の葵ノ乙女が突っ込んで来た瞬間、巨大な岩の壁が出現し敵を遮ったと同時に炎の竜巻が闇の巫女を襲う。


「おっしぃ~!!」


「こらマホちゃん、出力強くし過ぎよ!!」


「え~、だって相手は闇の巫女だよ楓お姉ちゃん?」


 闇の巫女の死角から放たれた炎と風の巫女の合体技は聖霊と闇の巫女を分断に成功していた。そして岩の壁が輝き出し清浄な聖霊力を放出し始めた。


「わ、私達だって、い、いるんですよぉ~」


「いや、クリス、そこで震えて言っても相手が怯まないから……」


 奇しくも一人が敵になっているタイミングで私たち五人は揃ってしまった。本来なら五人が揃って覚醒した時に勝ちが確定するはずなのに闇の巫女の予想外な手で今は最悪な状況だ。


「四封の巫女が勢揃い、でも今は三人の役立たずかしら?」


 ひなちゃんの顔をしながら邪悪な笑みで挑発して来る闇の巫女は私達をあざ笑うかのように氷の矢を放つ。


「だとしても、あんたの聖霊帝を足止めくらい出来るわ行くわよ二人とも!!」


「楓お姉ちゃん張り切りすぎ~!! ま、いっか火久李しっかり戦って~!!」


「恵土守お願い!!」


 三人が同時に聖霊帝を出すのを見て私も光の蝶、エルゴの分身態を呼び出した。これで水の聖霊帝は抑える事が出来る。そもそも闇の聖霊力で無理やり支配下に置いてるはずだから動きも鈍いはずだ。


(レイ、こっちは何とか抑えるから、お願いね)


 私は上空の夫に祈りながら親友の体を操る敵をある地点におびき寄せるために行動を開始した。楓は大丈夫だけど真炎ちゃんだけが気がかりだ。暴走しなきゃいいけど不安だ。




 戦闘開始から数十分経過したが初実戦での巫女四人のコンビネーションは想像以上に上手く行っていた。むしろ未熟なクリスと猪突猛進な真炎を楓が上手くカバーして私の攻撃の隙を作ってくれた。


「闇の巫女、余裕が無さそうね!!」


「ちょうどいいハンデよ!!」


 楓がブルーを煽りながら風聖術を放つ。確か絢爛の牙という日本のオリジナルの術だ。今さらながら日本には特殊な術が多い。過去にお爺様が日本は術師がガラパゴス化し独自の進化を遂げているという話も頷けるものだ。


「逃がさない、吹き飛べ炎走斬!!」


 今度は真炎ちゃんが両腕を手刀にして炎の斬撃を放ち、それが地面を走り闇の巫女に殺到する。まるで炎の龍のように伸びるが敵の闇の障壁で無効化される。


「今のは日本の炎聖術の中級の術なはず、威力が高過ぎる、さすが炎の巫女といった所かしら有象無象とは違うという事ね」


「逃がしません!! 岩刹弾!!(ロックシューター)


「ちっ!?」


 今度はクリスが周囲の岩の壁と結界から岩の砲弾を無尽蔵に発射する。それ自体の威力は高く無いが、これで広範囲に攻撃が出来るから闇の巫女が氷奈美から奪って使用していた水聖術の水影柱や水麗走は実質無効化し封じる事が出来た。


「舐めるな!! しょせんは下位術師が!!」


 しかし水聖術が使えないと分かると今度は闇刻術を展開する。私の準備も終わったと楓に通信を入れると目で返事をして他の二人に指示を出す。


「二人とも散会!! アイリス!!」


「了解!! レイ・キャノン……ダブル!!」


 そして私は後方からデカイ一撃を放つ係だ。私は剣術もそこそこで接近戦も決して弱くない……と思う。でも私の本領は大出力の光位術での一撃必殺と癒しの術が一番得意だ。


「ダブルですって!? そんなもの存在が……くっ!?」


 レイ・キャノンは本来は光の巨大な光弾を相手に放つ術で闇刻術士には必滅の一撃だ。しかし欠点として聖霊力を大幅に使うため好んで使う術士はあまりいない。でも私やレイのように豊富な聖霊力が有れば別だ。


「純粋に二発放つのと違うでしょ!! どうよ!!」


「だけど遅いわ!!」


 三人の巫女の波状攻撃を足止めに今放ったのは私が独自に改良したオリジナルの術で威力はそのままに二つの光球を放つ術……では無く前段階だ。


「そして……スプレッド&シャワー!!」


「なっ!? これはっ!?」


 そして巨大な光球が弾けると小型の光球となって周囲にばら撒かれ、さらに周囲に展開したクリスが先ほど放った岩の砲弾の残骸に反射させてシャワー状になった光球が闇の巫女に降り注ぐ。


「あぐっ……くっ……やって、くれるわね」


「まだまだ!! 三人とも!!」


 巫女は下位術師の中でも特別なのは主に聖霊力の大きさも有るが、それ以上に四大聖霊帝の上位存在の聖霊神からの加護を受けている点だ。今の三人は完全覚醒しているから私が光聖神からの力を受けているのと同様にそれぞれの神からの直接の聖霊力を供与されている状態で規格外だ。


「炎の巫女の最大の……え~と、とにかく行け鳳凰!!」


 呼び出した炎の聖霊王の鳳凰に飛び乗り一緒に突撃する真炎。


「奥伝発動!! 風・嵐・応・牙!!」


 自分を中心に無数の聖霊力をまとった真空刃を放つ楓。


「今の私なら岩刹突き(ロック・ランサー)!!」


 そしてクリスの技で巨大な岩の槍を眼前に展開し射出した。まるでミサイルのようで闇の巫女に直撃した。


「ぐっ、があっ……バカな……」


 三人の巫女は今、本来の自分の術を何倍もの威力で放つ事が可能で、つまり闇の巫女にも対抗できるだけの力が備わっている状態だ。


「はぁ、はぁ、いいのかしら? この体がどうなっても」


「問題無いわ……だって、ひなちゃんの体はノーダメージだからね」


「なっ、どういう意味、こ、これはっ!?」


 やっと気付いたようで闇の巫女は自分の状態に焦っていた。自分は確かにダメージを受けているのに肝心の氷奈美の体は無傷だからだ。それは当前で聖霊術は基本的に人間を傷付ける術では無い。悪鬼や妖魔そして暴走した聖霊にのみ効果のある術だ。例外の禁術は存在するが基本は無害だ。


「私達が一度でも聖具や神器を使った? 答えはノーよ、その意味が分かる?」


「まさか……私を直接ですって、そんなバカな……」


 そして神器や聖具の役割が正にこのためだった。神器や聖具の役割は聖霊力の増加や底上げなどの理由も確かに有る。しかし一番の理由は敵対する聖霊使い、つまり人間を傷付け直接、聖霊力を送り込みダメージを与えるためだ。


「聖霊使いは上位や下位を問わず神器や聖具を戦闘に使用するのは戦いが古の祓いなど悪鬼や妖魔に対するものから対闇刻術士、つまり同じ聖霊使い同士の戦いに発展したからなのよ」


「てか私も知らなかったしね、当たり前のように聖具使ってたけど」


 長い戦いの歴史の中で忘れ去られた事実の一つだ。横で楓が呟いてクリスもコクコクと頷いていたが、ここで意外な答えを発したのは真炎だった。


「え? それジョーシキじゃないの?」


「マホちゃんは巫女として私の次に覚醒したから常識だったのよ炎皇神からの直接の教えも有って特別だったの」


「マホ特別~!!」


 ヨシヨシと頭を撫でて少し気になったが炎皇神も随分と色々と教えたものだと感心してしまう。光聖神なんて神託は割と少ないから私が独自に調べた事実の一つだ。


「でも闇刻術士のあんた達は長い聖霊使い同士の戦いの中で、その性質を忘れてたんじゃない? だって神器や聖具が当たり前になってたからね」


「くっ……そ、そういえば有ったわね……そんな話」


 明らかに動揺しているように見えた。これは知らなかったなと感じたけど私の中に同時に一つ疑問が浮かんで来た。


「ふ~ん、そもそも変なのはあんた自身もよ……ま、良いわ、とにかく対策が分かったから後は捕まえて尋問するだけよ!!」


「バカね、教えてどうするの!!」


 しかし私はニヤリと笑うと胸のペンダントに聖霊力を注ぎ込む。そして光の結界を再構築しレイフィールドを全開にした。


「じゃあ私も、量産型だけど光位術バッテリー付けて来たのよね~」

「マホも母様とおばあ様のムチ借りて来た~!!」

「私も愛宕の護りを展開しますアイリスお姉様!!」


 それぞれの聖具を用意した三巫女は私に頷いた。それに対して未だに理解出来ないのか闇の巫女は焦っていた。


「なっ、今、自分達で言った事を忘れたのかしら!? お、愚かね……」


「あんたは私達の攻撃で聖霊力を大幅に消耗したでしょ? 維持するだけでも凄い聖霊力が必要だからね……つまり、こっからは体も痛めつけて肉体を捨てさせるのが狙いのターンよ? どこまで耐えられるかしらね?」


 私は腕をポキポキと鳴らしてニタァと笑みを浮かべた。色々と鬱憤も溜まってるし今度こそトドメを刺してやる。


「くっ、そ、それでも巫女の体は傷付くわ!! あなた達の、な、仲間でしょ!!」


「良いのよ多少傷付いても私の回復術で完璧だし……それにね」


「何よ……何なのよ……」


「もう、その体と中身は売約済みなのよ!! 言ってて頭に来た!! やっぱり何発か殴らせてもらうからね、ひなちゃん!!」


 そうなのよ、あんたが余計なことしたせいで私の親友は傷物で、しかも引き取り手が私の大好きな旦那様なのが確定的事実。昨日は澄ました顔してたけど本当は私の怒りはマックス状態なのよ。大事な親友だけど許せる限度はとうに超えている。


「あんたがっ!! ひなちゃんを唆さなければねっ!! 私のっ!! 家庭はっ!! 平和だったのよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 そこからは一方的な私の連続攻撃だった。炎乃海お姉様よりも激しく攻撃したから少し不安だけどフォトンレインを使えば大丈夫だろう。


「うっわぁ……何でアイリスあんなキレてんのよ、氷奈美と仲良しでしょ?」


「何でだろ? え? 炎皇神様も秘密なの?」


「聖霊神さまも秘密なら余程ですね……大丈夫なんでしょうか?」


 後ろで三巫女が余計な事実を知ろうとしてたから光聖神経由で素早く他の四神を黙らせた。ひなちゃんの側室の話はまだ出来ない。あくまで私たち三人と、この余計な事した闇の巫女だけだ。


「ぐっ……ううっ……」


 そろそろフィニッシュねと言って私は最後の一撃を放った。そして結界を解くと、いつの間にか上空でレイの気配が消えていて少し離れた炎央院邸の西館付近で戦っている気配を感じた。



――――レイ視点


「さすが、もう一人の俺だ!!」


「くっ!! 何が目的だ!!」


 やつの炎皇流の剣技が次々と放たれる中で俺は過去の俺と名乗る存在と問答を交わしていた。


「そんなものは無い、俺は……生き残るだけで、それだけで何もいらない!!」


 その答えを聞いて確信した。こいつは間違いなく俺自身だと……失意のまま家を追放され世界を放浪していた時の俺だとハッキリ理解した。


誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ