第10話「死闘、四卿の本気と神降ろし」
次回、一章最終話となります。
◇
状況は五分五分、この戦いの単純な戦力比だけで言えば五百年前から蘇った闇刻術士たち、そしてそれを率いる古代のロードの圧勝であろう。
しかしアフター世代のみで構成された光位術士たちはそれを分かった上でこの戦いに臨んでいる。考える時間は何百年もあったのだ対策は用意していた。
その一つが英国の光位術士に先行配備されていた人工聖具『PLDS』の全世界への配備であり、さらに近代技術を応用した補助装備や、神器や聖具の近代化兵装へのバージョンアップ、光位聖霊たちの強化、さらに各下級術師の能力の向上であった。
これはレイが継承者となる前から行われていた事で、故に単純な戦力比が四対一だとしても戦場は膠着し、連携と聖霊たちとの絆の力においては光位術士サイドは闇刻術士を圧倒していた。
「だぁかぁら~? それがどうしたっ!! 雑魚は雑魚だろうがぁ!!」
しかし、まるでその考えをあざ笑うように一人の金属製の義手を装備した男が光位術士たちの一団の中に現れた。そして彼を中心に黒い炎が燃え上がる。
「くっ!! ロード出現!! ただちっ――――」
「おせえよ!! 雑魚がっ!! 四卿が一人……ダークフレイ。準備運動に付き合えや!! 雑魚どもっ!!」
ダークフレイは瞬く間に周囲の光位術士を闇の炎に包み込み十人以上の術士とそれを守護していた聖霊たちが消滅させた。
「数と装備だけはご立派だなぁ……光位術士ども蹂躙してやるよっ!!」
しかしダークフレイの周りには未だ数十人を越える術士が、さらにその奥には数百の術士及び聖霊がいた。それを睨みつけて或いは笑みを浮かべて彼は自分の神器のハンマーを振り回した。
それと呼応するかのように少し離れた戦場では大地が割れ、隆起し光位術士たちを飲み込んでいた。その光景を見て思わずダークフレイはニヤリとしていた。
「奴も動いたか……仇討ちなんだろ? 派手にやってやれ、ソイル!!」
◇
「ふふふ、愚かですね光位術士ども。装備も人員も地の利も上……だから私に勝てるとでも思いましたか? 遊んであげましょう!!」
その黒髪の美青年は酷薄な笑みを湛え悠然と歩いていた。歩くだけで溢れる闇の聖霊力がまるで大地を汚染し、浸食しているような不気味な光景が目の前に広がり光位術士たちは動揺した。
しかし一部の勇敢な者達がそれぞれレイ・ランスとレイ・ブレードを展開して突っ込む。しかし到達する前に闇のオーラで弾かれ岩の壁が出現する。
「各員データ通りだ。ロードダークソイルとは以前の戦闘データ通りで力は段違いだが問題はなっ――――」
「問題は何ですか? そうそう今代の私の子孫を弄んでくれたそうですねぇ……彼には代々封印の中から指導していたのですよ……優秀な子でした。気付けば私より年上になっていて、それでも頑張ってくれていた……だから、あなた方は徹底的に苦しめて殺してあげますよ!!」
そう言うと岩の壁が崩れ爆発した。ただの防壁と思っていた者が次々と岩の槍や巨大な礫に潰されあるいは串刺しにされ絶命して行く。
「なっ!? 今のはっ!!」
「ああ、これは現代で興味深い物を見つけて術に応用したのです。反応装甲と言うのですか? それを攻撃にのみ特化したしたのが今の術の正体。そうです進化したのがお前達だけだと思い上がるなよ光位術士どもっ!!」
そうして次の瞬間には岩の壁が出現、爆発を繰り返しその周囲の光位術士を全て殲滅していた。その一帯が空白になり誰も居なくなったかに見えたところに一か所だけ白い壁に覆われた場所があった。
「見事。さすがは四卿それも封印時代より強くなっていると見て間違いない。だが、この『光壁のローガン』の守りを越える事は叶わんようだな」
「ほう、これは……私達に匹敵する聖霊力、お名前を伺っても?」
「英国L&R Group、SA1特別顧問ローガン=L=スワンプラドだ」
「ルーカス、ライリー……懐かしい名前ですねぇ……なるほど、彼らを、光の四守護騎士を継ぐ者ですか……つまりあなたが今代の守護騎士の一人と見て?」
「そんな初代様のような大仰な地位では無い。ただ称号は受け継ぎ、そして今は我が子に継承させた。よってここに居るのは一人の光位術士だ、行くぞロードよ!!」
英国においての光位術士のほぼ最高位と言っても過言では無い光壁のローガンが四卿の一人と衝突を開始した。光の防壁と闇の障壁がぶつかり合い辺り一帯が光と闇の聖霊力に包まれた。
◇
「ぐっ、どうなっている!! 敵は、敵はどこっ!?」
「落ち着けPLDSで反応を見ろ!! 冷静に対処すればもんだ――――」
武闘服をアレンジした中国からの応援で朱家の親衛隊の術士たちは困惑していた。終始圧倒し残敵を掃討していたのに突然一人が闇に包まれた。この謎の霧のせいだと気付いた時には一人、また一人と霧の中で倒れていた。
「あ~ら残念。遅過ぎていけないわ。私をもっと感じさせてよ。光位術士さ~ん?」
現れたのは黒いローブを目深にかぶり口元しか見えないが声とローブの上からでも分かる豊満な体つきで女性と判別できる術士だった。
「まさか、霧自体がっ!?」
「気付くのが遅いわ……さようなら」
そして彼らは何の抵抗も出来ずその場で倒れ闇に飲み込まれ消えた。既にこの毒の霧と内部からの闇刻術の浸食と言う方法で二〇名以上の朱家の精鋭が葬り去られていた。
「ふぅ、つまらない。倒してもこの程度ではあの方への贄にすらならない。私がわざわざ出張ったのだからもっと楽しませてくれないと……っ!?」
女が一人気持ちよく喋っていると次の瞬間、一面に炎が巻き起こり続いて風が吹き荒れる。まるで火災旋風のような現象がその女を襲った。そして急激な炎でその辺り一帯の霧が晴れて行く。
「よし、もう良い!! 炎聖師隊、風聖師隊は下がり後方で結界補助と生き残りの救出を!!」
「あらあら、私の術への対処法を知っているあなたはだ~れ?」
「朱家嫡男!! 朱・俊熙!! これ以上の犠牲は出させない、ロード・ダークブルー!!」
そう言うと俊熙は両手の手甲から鉤爪を展開し聖霊力を込めた。一方の四卿の一人、水のロード、ダークブルーも口元を歪めて術を放つ。
今までの霧のような補助術では無く氷の弾丸、そして水も無い所から突然、鉄砲水のような急激に流れる水が光位術士たちを襲う。
だが彼らも中国を代表する朱家の最精鋭。すぐに対応して反撃を試みる。その筆頭の俊熙は術の隙を見逃さずその鉤爪にレイ・ブレードを纏わせ突撃する。
「そこだ、もらったぞ!! 水のロード!!」
「ふふっ……ざぁんねん。真っすぐ過ぎよ?」
確かに仕留めたと思ったその光の刃の切っ先には手応えが無く、次の瞬間には水の塊に変わりバシャっと弾けて消えた。
「変わり身!? しまっ!?」
「水よ、闇よ、舞い狂え!! 青・乱・舞・龍!!」
いつの間にか別な場所に現れたダークブルーは既に術の解放状態で水の龍を四体同時に出現させていた。自分以外の精鋭は二人が術を受けきれず消滅し、残り一人は光の盾、グリム・ガードで致命傷を避けていたが動けずにいた。しかし自分は術の展開は間に合いそうに無い。
「危ない兄さん!! レイ・アロー!!」
「なっ!? 凜風!? ぐっ、助かった……奴が水のロードだ」
そこで助けに入ったのは朱家の長女で俊熙の妹の凜風だった。彼女は後方に控えているように当主から言われていたが兄の事が心配で前線まで出て来ていたのだ。
「あら? あなた……似ているわね? あのチンチクリンの子に……そう、確か名前は……明風だったかしら」
「なっ!? ご先祖様の名を!?」
「やっぱりぃ……そこの女の子ソックリよ……ああ、忌々しい。あの方への余計な事をして、まあ代わりに片腕になってもらったのだけどね? ふふっ」
それは事実だった。朱家の五〇〇年前、まだ朱家などと呼ばれず、ただの一戦士だった先祖が朱家を立ち上げる時にその奥方は隻腕、当主は右目を失っていたと伝えられていた。
「ああ、そうなの、目を奪ったのはあの方……支配者様よ。まだお眠りだけど……さぁ、お互い楽しい因縁が分かったのだから、感じ合いましょうっ!!」
「散って行った戦士たちの無念!! そして先祖の仇、取らせてもらうぞ!! 行くぞ!! 凜風!!」
「はいっ!! 兄さん!!」
二人は油断なく構えるとロードと相対した。目の前のダークブルーは余裕の笑みを浮かべ周囲に闇のように黒い液体を染み渡らせるように流し出した。
自分の得意な水のフィールドを広げたのだ。水のロードは、その不気味さを増して二人を迎え撃つ体勢を整えたのだった。
◇
光術士陣営の本陣では三大家の当主と代表が刻々と入る報告を受けていた。三当主はエウクリッド家の者が状況確認の報告をするために到着すると、その場の全員に届くようにPLDS越しに報告を共有させていた。
「はっ、報告致します。PLDS及び聖霊たちの交信によると戦線は全てこちらに有利に働いています。四卿はそれぞれ三人まで出現、現在は警察及び政府機関により避難誘導は終わっており結界内に侵入者は居ません」
「まずは結界内に追い込めたのは良かった。エディンバラ全域で出現した時は肝が冷えたぜ。この三年で主要都市の上層部とはそれなりに話を通してたから良かったが一般人は、術師はおろか光位術士など知らんからな」
義父と当主が状況を確認しながら各戦線からの情報を共有していく。光の結界を使い奴らを内部に囲い込み動きを封じる。
これによって戦場を固定させ外に被害を出さないようにするのが作戦の第一段階だった。そしてこの結界の維持には下級の聖霊使い達が尽力していた。
四つの聖霊力はそれぞれの力を合わせ始めて光の力と同等の力を発揮する。つまり一つの術の力では四分の一の力が限界となる。なので本来は術による戦闘よりも結界の補強や修復などが術師の仕事なのだ。
「義父さん、それに当主、我らはまだ待機なのですか」
「おう、レイそれにアイリスか。実はダークフレイが思った以上に厄介だ。だからお前らに出てもらう。SA3と直掩にエウクリッド家の部隊に付いてもらう。ま、親族だ。気軽に構えてろ」
そう言われると俺とアイリスは合流のため本陣から出る。するとSA3のメンバー及びオーストラリア支部の制服に身を包んだ四〇名の術士が待機していた。そしてアイリスがその先頭に立つ少女に気付くと駆け出していた。
「レイもエウクリッド家の者とは何度か会ってるよね? セーラ良かった来てくれたんだね!!」
「はい。お久しぶりです。光の巫女さま」
「もうっ!! はとこ同士なんだからそれは止めてよセーラ!!」
「一応立場ってのが有るのよ? アイリス? あなたは名実共にお姫様なんだからそこはちゃんとしなきゃダメなのよ?」
この間、英国に出張に来ていた時よりも少し硬い印象だが彼女とはこれで会うのは二度目だ。セーラ=エウクリッド――ユウクレイドル家の分家で今はアレックス老の弟君が家を継いでいるのでその孫に当たるセーラはアイリスと、はとこ同士の関係だ。
そしてその人物の指揮する直掩の部隊なら信頼は出来る。その時だった、本陣に対して強襲があったのは……。
◇
突風が吹き荒れ本陣の一部の施設や術士が吹き飛ばされ立っていられない者も出るような事態が発生している。主力が集うここに仕掛けるとは相当な強者だ。そしてその闇のローブを着た者が本陣に降り立った。
「ここが光位術士の本陣か……ほう、強いな貴公が継承者か」
「ああ、そうだ。お前が古代の風のロード・ダークウィンドーか」
「ああ、俺は貴様と一対一の決闘を望む、かつて前代の継承者に敗れた俺はこの機会を待っていた」
そう言うと風のロード、ダークウィンドーは刀身が黒紫に光る日本刀を出し構えた。その構えは正眼の構えだった。
「日本刀!? 日本人なのか!?」
「いかにも、今は名も無きただの剣客よ。お前も同郷と聞いてこれも巡り合わせ、ぜひとも手合わせを求めたく参上したっ!!」
「いいだろう、神の――――「ちょっと待った!! お前の相手は俺だ!!」
そこに乱入したのは俺の義父ヴィクター=ユウクレイドルだった。そして素早く俺たちの間に割って入ると耳打ちする。
(これは時間稼ぎだ。ダークフレイが中心部で何かしようとしている、急げ!!)
「なっ!? 分かりました!! アイリス!! 皆!! ダークフレイのところに向かうぞ!!」
号令をかけると若干困惑したが全員がレイ・ウイングを展開すると即座に飛び立つ準備をする。
「ほう、こちらの狙いがバレたか、ならば時間稼ぎをさせてもらおう」
「だからっ!! それはこっちのセリフだ行け!! レイ、アイリス!!」
攻撃を仕掛けて来た風のロードに対して義父さんがレイブレードを構え、更に飛び立つ俺達全員に追いついて来た義母さんがグリムガードをかけて送り出した。二人に頷くと本陣からダークフレイの居るポイントまで俺達は一気に飛翔した。
◇
「来たか……待ちかねたぞ継承者!!」
「ダークフレイ!! 今日こそは逃がさない!!」
開幕は上空からの俺のレイブレードによる遠距離からの一閃だった。奴はそれを自らの戦槌で弾く、前戦った時よりも聖霊力が明らかに強くなっているのが分かる。まるで燃え上がるマグマのような爆発力の有る聖霊力だ。
「すっ、凄い!? こ、これがロードの力!?」
「セーラ怯えないで、他のロードはそれぞれの場で抑えられています。ここで私たちが倒せば形勢は一気にこちらに傾く」
アイリスがそう言うと歓声が上がり部隊は一気にロードに殺到する。だが次の瞬間に数名がダークフレイの炎に巻き込まれ消滅していた。さらにその闇の炎に紛れて闇刻術士たちが次々と現れる。
「くっ!? ダークフレイがっ!? アイリス、ここは我らエウクリッド家にお任せをっ!! 奴の追跡を優先して」
大混戦となった戦場でSA3のいつもの六人でダークフレイを追跡する事になり俺達は途中の妨害にも屈せず確実にダークフレイを追い詰めて行った。
「ひよっこ共がっ!! ぐっ!!」
「各員、レイを起点に再度フォーメーションを組め!! 突撃!!」
ワリーの指示が飛びベラのレイ・ランスの突撃、アイリスとフローのレイ・アローが行き手を遮りジョッシュのレイ・ブレードがダークフレイを掠めた。そして最後に俺が中距離からレイブレードを伸ばす。
「ぐおっ!! 継承者だけでも厄介だと言うのにこれだけの猛者が……まるで守護騎士……いや継承者の周りに居るのだからそう言う事か、だが負けん!!」
ダークフレイの聖霊力が爆発的に高まる。どこにそんな力が有ったのかまるで理解出来ないが、一瞬で力が湧いたような感覚がして闇の炎が吹き荒れる。おかしいと思い後退するとアイリスも俺の横に降り立つ。
「変よレイ。確かにダークフレイは強くそして強靭。だけど戦っている途中で回復しているような雰囲気を受けるわ。まるで無尽蔵のエネルギーのような……」
「どう言う事なんだ……? ん? ワリー!?」
PLDSで周囲を調べた結果をワリーが俺達のPLDSに送信して来た。それによるとこの付近の大地は先ほどまでダークソイルが破壊しつくし更にダークブルーの闇の水聖術が撒き散らかされた場所だと言う。
今は戦場を移しそれぞれが朱兄妹とダークブルーが、ローガンと応援に駆け付けたオリファー率いるSA1が交戦中らしい。
さらに本陣ではヴィクター義父さんやサラ義母さんが応戦しながらアレックス老と朱家当主、朱守光老師も出てダークウィンドーを撃退してしまったらしい。
ダークウィンドーは後から来た部下に守られ敗走しながら辺り一帯に大竜巻を起こし行方を晦ましたそうだ。
「これは……まさか、だが試す価値は有る!? 俺が前に出る!!」
「でもレイ、敵の術の正体が分からない限り危険よっ!!」
でもこのまま動かないで居ても何もならない。だからまずは俺が仕掛けようと考えPLDSで他の四人に俺の考えを送りアイリスには口頭で伝えると突撃した。レイブレードを通常状態にして神の一振りに合わせダークフレイに斬りかかる。
「まだやるかっ!! さすがは継承者!!」
「レイブレード・ダブル!!」
神の一振りを右手だけで振りながら左手からレイブレードを生やし二つの刃でダークフレイを追い詰める。敵の戦槌が左手のレイブレードを弾く、その隙をついて地面に神の一振りを突き刺した。その瞬間に地面に光の聖霊力が伝わり地面が輝いた。
「くっ!? やはり汚染されていたかアイリスっ!!」
「ちぃ!! 気付いたか!!」
単純な話、この付近半径一キロ圏内は光の結界に囲まれながらも地面には四つの元素と闇の力が合わさり闇刻術士にとっては回復ポイントとなっていた。
つまりこの場所に居る限りダークフレイは最高の状態で戦う事が出来る。それを調べるために神器を地面に刺した。それを見たアイリスも浄化の体勢に入った。
「だが仕掛けがこれだけだと思うなよっ!! 来い!! 俺の元に!!」
ダークフレイの号令で現れたのは術士……では無かった。それは黒い塊、闇刻聖霊だった。地面から染み出るように浄化されてない場所から続々出て来る。
だがそれは普通の闇刻聖霊では無かった。通常、獣の姿や動物を模して聖霊はこの世に具現化するのだが、それはただの黒い球体で、それがふよふよと浮いている。
「なんだ? この気味の悪い聖霊は……」
「敵意が無い? でもこの胸騒ぎは?」
「二人とも今はダークフレイを!!」
ベラが槍を構え突撃しながら動きの止まっているジョッシュとフローに声をかけると二人もハッとして動き出すがワンテンポ遅れていた。
その間にワリーは既にダークフレイにレイブレードで斬りかかっていた。そして後方ではアイリスが結界術のレイ・フィールドを展開し大地の浄化を開始する。
「じゃあ行くぜ!! 闇よ燃え上がれ!! 『黒炎の処断者』 吹き飛べええええ!!」
ダークフレイは戦槌、つまりはハンマーに闇の炎を纏わせそれを浮かんでいる暗黒聖霊に叩きつけた。そして叩きつけられた球体の聖霊はいきなり中心の巨大な一つ目を見開き奇声をあげ、周囲を巻き込み大爆発を起こした。
「なっ!! ぐあああっ!? ぐっ、これは……なんだ……まるで、爆弾?」
斬りかかったワリーは直撃こそ免れたが派手に吹き飛ばされ、爆風に巻き込まれただけなのだが、その凄まじい威力に驚愕した。
ダメージを受けたが何とかベラに助け起こされフォトンシャワーで回復をされ戦線に復帰をするがその顔は冷や汗をかいて驚愕の表情が浮かんでいた。
「ああ、そのとーり!! 古代の聖霊爆弾だ。術士の血肉で出来ているから聖霊力は高いだろぉ!! なんせエネルギーの塊のようなものだからなぁ!!」
「なんですって……ではこれは……」
「そう、ここで死んで果てた光位術士と闇刻術士のなれの果て!! 魂の有効利用って奴だぜ!!」
死んだ人間の聖霊力や魂を純粋なエネルギー体として闇刻聖霊の核とする悪魔のような所業。これが闇刻術士の術の一つ『反魂呪縛の術』と呼ばれるものだった。
五〇〇年前にも使われた術だったが余りの忌々しさに記録すらされていなかった術であった。この事態に五人は一度浄化をしているアイリスの場所まで後退する。
「ワリー!! どうする!!」
「正直策は思いつかない……ここまで汚染された聖霊を爆弾として使われればこの地は汚染される。現に俺も爆風だけで闇に浸食されかけた……一発でこの威力、ならばこの数千体の聖霊を使われた場合……」
ワリーやフローは冷静に考えれば考えるほど最悪な想定しか出て来なかった。これが全て爆発したら結界は崩壊しエディンバラ一帯が汚染地帯となり壊滅する。だがそこで意外にもダークフレイが口を開いた。
「心配するな爆弾はもう使わねえよ。この程度じゃ継承者には勝てないのは知っている……だから神を呼ぶ……闇刻の神よ、闇刻聖霊と我が神器そして俺を糧としてここに降臨しろおおおおおお!!」
「まさか『神降ろし』を!? そんな、でもこの禍々しい気配……レイ、皆、本当に神が、もしくはそれに近い何かが降臨します!!」
アイリスが叫ぶとそれに呼応するようにダークフレイに向かって殺到する黒い球体の聖霊が次々とまるで互いを捕食するように集合してダークフレイの体を飲み込み押し潰して行く。その光景は余りにも悍ましく、辺り一面が闇に支配された。
「神がぁ……降臨シタァ!! 闇刻神よっ!! チカラオオオオオオオ!!」
それは余りにも歪だった。神の降臨とは言うが見た目は全身に漆黒の鎧を身に纏ったダークフレイなだけで手に持つ神器は義手と一体化し腕から先がハンマーとなり、目からは血を流して毛は逆立ち赤銅色に染まっていた。
それは神と呼ぶには余りにも禍々しい化け物としか見えなかった。神を模した化け物との戦いが始まる。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。




