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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第四章「止まらない継承者」編
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第92話「千の門と後悔の果て」

後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。


 中から出て来たのは五人の中で一番年上と思しき少女で年齢は十代後半だ……どこかで見覚えが有るような気がするが覚えていない。


「俺を知っているのか? すまないが初対面だと思うんだが……」


「えっと、その……は、はい……そう、です初対面……です」


 これは明らかに相手は知っているけど俺は知らないパターンだな。例の聖霊新聞で顔だけ知っているのかと思ったが隣のアイリスが驚いて声を上げていた。


「あっ、もしかしてレイと清花ちゃんに因縁付けて襲って来た子じゃない?」


 アイリスに言われ思い出したのは隣にいる氷奈美の妹、清花に襲い掛かって来た今は亡き岩壁家の元嫡子バーナビーと取り巻きの集団だ。アイリスはヴェインに憑依して近くに隠れて見てたらしく覚えていたみたいだ。


「あの時のか……一瞬で倒したから記憶に無かった」


「そ、そうです……そ、その説は、本当に……すいませんでした!!」


 ガタガタ震えて頭を下げられると俺が悪い事をしたみたいになるから不思議だ。前回は仕掛けて来たのは向こうだし今回は救援に来たのにこの扱いとは……。


「もう気にしないでくれ、街中で仕掛けたのはかなり問題だが……それより今日は他の奴らはどうした」


「皆、全滅しました……私と、あっ、私は石谷稟せきやりんと申します。岩壁家の分家で本邸の守護を任されていた一族です。もう私達しか居ませんけど……」


 彼女の後ろには小学生くらいの男女四人がいた。妹が一人と後は親戚の子だそうで非戦闘員として逃がされ稟と数名が護衛に回っていたらしい。


「私以外の護衛は皆、あの黒い聖霊に……とにかく皆で逃げて……」


「そうか、もう大丈夫だ……しかし生き残りは君達だけか、岩壁家は全滅……」


 そう、この分だとクリスさんを始め当主代理のジュリアスさんや前当主の奥方の京子さんも亡くなったという事になる。


「そ、その……この山科の岩壁本邸に本家の方は誰もおられませんでした……実はクリス様達は伏見の別邸に昨日からご家族で……」


「クリスさんは無事なのか!? 連絡は出来るのか?」


「わ、分かりません、スマホも通信も繋がらなくて……」


 そこで黙ってしまうと一番年下の男の子が泣き出してしまった。石谷さんが宥めているが泣き止みそうもない。するといきなり光の蝶が一羽、二羽と舞い出した。


「こ、これは?」


「稟姉ちゃん、これ、せ~れい?」


「光のちょうちょ?」


 もちろんアイリスの聖霊魂の光の蝶でエルゴの集合前だが初めて見た光位聖霊に子供たちは興味津々だった。


「黎牙兄さん入りますよっと……あ、あなた」


「ほ、炎乃華先輩……」


 子供達が落ち着いたのを確認してか炎乃華が後ろから入って来ての第一声がこれで石谷さんも名前を呼んでいた。意外な所で繋がっていたようだ。


「炎乃華の知り合いか?」


「まあ、知り合いというか後輩みたいなもので術師研究院の……」


 衛刃叔父さん達の主催で作ったという若手の育成と交流を兼ねた教育機関だと聞くが炎乃華は在籍はしているが家の仕事が忙しく殆ど出ていなかったそうだ。


「ああ、聞いたな……」


「炎乃華先輩のお知り合いなんですか……」


「う~ん、説明すると複雑になるから今は取り合えず出よう」


 外に出ると周囲数十キロは完全に荒野と廃墟で土聖師の家が何十と有っただろうに消えていた。幸いにも離れた住宅街や一般施設に被害は及んでいないが地震の被害は出ているようでチラホラ人が見えた。


「それで先ほどの話の続きだが伏見の本邸へ案内を頼めるか?」


「それは構いませんが……この子達を放っておくわけには」


「俺達はヘリで来てるから政府関連施設にも降りられる手筈になっている、案内は良いとしても安全は保障する」


「じゃ、じゃあお願いします……」


 俺たちはすぐにヘリに戻って市内に飛んだ。それこそ走った方が早いのだがヘリをそのままに出来なかったし子供たちも運ぶにはこれが一番だ。





 俺達は京都市内に潜んでいた炎央院の配下や岩壁家ゆかりの者に子供達を任せるとすぐに凛の案内で動く事になった。


「京都市内は被害が無いのか……」


「みたいだね……逆にさっきまでいたヤマシナ? って所は壊滅状態だったね」


 アイリスの言う通りで市内に目立った被害は無く。地震が有った程度のように見える。ともかく凛の案内で伏見の邸に行くとそこも襲撃された後だった。しかし生存者が複数人いて話を聞く事は出来た。


「ううっ、おまえたちは……」


「L&R社と炎央院からの救援部隊だ、何が有った?」


「えんおーいん? なるほど……嫡子を送り込んで、まで我らを……」


 声をかけたらいきなりそんなことを口走った。人の顔を見るなり嫡子とか怪我人じゃ無ければ一発ぶん殴ってるとこだが今は仕方ない。


「あのな、俺は嫡子では無いと何度言えば……」


 だがここで俺の中にある違和感が湧いてきた。俺は海外から来た聖霊使いとして知られているだけで、元が炎央院の人間であるということは親族や関係者は知っていても他家の、それも末端の人間は詳しくは知らないはずだ。


「クリ……ス様をたぶらかすとは、炎央院め……」


「ん? 俺じゃない……まさか」


「レイ、たぶん……これって」


 アイリスを見ると流美まで頷いていた。この場に炎乃華や親父がいなくて良かった。恐らく俺の弟は今、クリスさん達と一緒にいるのだろう。会食相手も誰か分かって来た。


「なら方針は決まった……急ぐか」


「でもクリスさんを探そうにも反応が……」


 アイリスの言う通り流美の探知にすら引っかからないくらい聖霊力が弱いのが今のクリスさんだ。封印されているとはいえ微弱過ぎて探すのが困難らしい。


「あの奥様、以前の話では力が封じられても巫女同士なら何らかの形で感じられるという話だったのでは?」


「うん……でも、あの時は光位術の結界内で人数も少ないっていう状況だったから、そもそも最初から探知出来たらイギリスに居た頃にやってたよ」


「じゃあ近くに行けば分かるんだな……よし、メンバーは俺とアイリス、ひなちゃん、ベラ、流美でワリーは炎乃華や親父の面倒を見てくれ」


 別室で凛から話を聞いていた炎乃華と親父の元に戻ると今の決定を伝えた。出来れば待機してもらいたいが無理そうだ。見ると炎乃華は俺達と行く気満々な顔をしているし親父は別な懸念が有るように伺えた。


「うむ、それなのだが黎牙よ、勇牙の件だが……」


「ああ、だから市内の探索を頼みたい、ワリーは万が一の連絡要員兼護衛だ」


 俺の勘が正しければ今はマズイんだ。とにかく大事なのは炎央院と岩壁を接触させない事だ。その上で俺達が先にクリスさん達と合流することが必要だ。


「ふむ、助かるが良いのか岩壁の娘の方が重要度は高いのだろう?」


「まあな、だが我が社と炎央院は同盟を結んでいる、ならば次期嫡子を捜索したいという願いも聞くべきだと判断しただけだ」


「だが現状では立場は明らかに違う、力も含めてな……何が有るのだ」


 今日は無駄に頭が回るなこの脳筋、まさかとは思うが地頭は悪くないのか。いやいや、それだけは認める訳にはいかないし勇牙の事は炎央院の家にとっても一大事だから今は黙らせておこう。


「有ったとして言うと思うか炎央院刃砕殿、立場の違いが分かっているのだろう?」


「なるほど理解した」


 そのくらい物分かりが良ければ俺が家を追放なんて……いや、何も言う必要は無い。今はクリスさん達を保護するのが最優先で、その鍵は勇牙が握っている。俺達は炎乃華たちと別れ行動を開始した。





「流美、すぐに勇牙の聖霊力を探知しろ、親父たちにバレないようにな」


「なるほど、それでレイさん、いえ支社長はワリーさんを二人に?」


 納得したようにポンと手を叩く氷奈美と分かっていない流美とベラを見て俺は、ある推論を話しながら仮拠点を出ていた。


「あ、あの!!」


「君は石谷さんか、どうした?」


「市内の道案内なら私がします、あの子たちも保護して頂いたので何かお役に立ちたいんです」


 正直なところ不要だ。今回は勇牙を見つければ高確率でクリスさんを見つけられるからだ。断ろうとしたがアイリスが聖霊間通信で連れて行こうと言うので仕方なく連れて行く事にした。


「レイ様……勇牙様の聖霊力の探知出来ましたのでご案内出来ます」


「ああ、ベラ……シャイン・ミラージュで後ろから頼む」


「了解……」


 それだけ指示を出すとベラは視界から消えた。驚く凛を無視して流美の後に付いて行くと辿り着いた場所はおあつらえ向きの場所だった。


「神社……か、確かに危険な気配がするな、各員戦闘配置」


 事前の指示通り、すぐに氷奈美が動いて周囲に人払いの結界を展開しアイリスが補強していく。そして流美が探知を続けていると敵が現れた。


「あ、あれは山科の本邸に出た黒い聖霊!?」


「各巫女は応戦しつつ流美と石谷さんを護衛しつつ俺に付いて来い」


 そして聖霊間通信でベラには最後尾から姿を消したまま護衛を頼むと流美から通信で特定したポイントへ先行する。レイウイングを使うまでもなく神社内の大量の鳥居を走り抜けると周囲に敵が次々と出現した。


「ちっ!? 来い、レオール、スカイ!!」


 聖霊を呼び出しながら自身は暁の牙を振るい闇刻聖霊を次々と浄化するが山道は若干戦い辛い上に鳥居も多過ぎる。どこまで行っても赤い鳥居が続いている。先はまだ長くて軽くハイキングしているようだ。


『レイ、本殿でも被害者多数だよ、どうする?』


『可能なだけ民間人を保護してくれ、悪鬼は後でどうにでもなるが妖魔と闇刻聖霊はしっかり撃退してくれ』


『了解~』


 そして俺は今にも消えそうな聖霊力の反応を複数人確認する。闇刻術士を含めた敵は五十を越えている。非常に危険だと判断してすぐに千は有るかもしれない鳥居を走り抜けて先へ急いだ。





「くっ、完全に囲まれたのか」


「勇くん……もう、ダメなのかな」


 僕はクリスの手を握って首を横に振ってそんな事はないと断言して彼女を守るように前に出た。僕は炎央院勇牙、これでも最近まではかなり上位の聖霊使い……だと思っていた炎聖師だ。


「諦めちゃ駄目だよクリス……」


「そうだ勇牙殿の言う通りだクリス、君と京子さんは何とか逃がしてみせる」


 先ほどから満足にダメージすら与えられずに防戦に徹している僕と違って当主代理のジュリアスさんは昨日から連戦で闇刻術士を一人、闇刻聖霊を三体も倒していた。


「僕にも、その光位術バッテリーさえ使えたら……」


「素手用のバッテリーは未だに開発されていないから仕方ない、向こうに戻ったら君のお兄さんに頼んでみたらどうだ?」


「そう、ですね……」


 それを言われて複雑な気持ちになる。数ヵ月前までは死んだと思っていた僕の兄で一族を追放された人、それが黎牙兄さんだった。でも兄さんは戻って来た。唯一の欠点と言われた聖霊術を完全に習得した上に僕達の予想を簡単に凌駕して最強の域に達して復活を果たした。


「せめて私が、巫女の力じゃなくても、あの時の、お父様を倒した時の力だけでも出せれば……足手まといになんて……」


 クリスは身体強化など一部の聖霊術は使えるし聖霊と契約もしているが並み以下の力しかない。これは特訓に付き合った僕がよく知っている。ただ過去に一度だけ、実の父のアイザムさんを倒した時に爆発的な聖霊力を発揮していた。


「足手まといなんかじゃないよ……聖霊力だとか、術が使えないとか……そんなので、そんなことで差別なんてダメなんだ!! もう、絶対に!!」


「勇くんは優しいね……」


 違う、優しくなんてないんだ僕は……分かっていたのに流されたんだ。兄さんを庇いながら得意になってた時期だって有った。情けない、兄さんが死んだと聞かされて初めて追放の本当の意味を理解したのが僕で認識が甘かった。


「ありがとう……今度は僕が囮になります、ジュリアスさん、クリスを頼みます、兄さんなら必ず来てくれますから!!」


「なら俺が代わりにっ――――」


 それを聞かず僕は闇刻聖霊に奥伝を発動させ渾身の秘奥義を打ち込む。微かに態勢が崩れた。やはり兄さんは凄い、奥伝からの秘奥義だけは例外的に攻撃が通るのを発見して教えてくれたのも兄さんだった。


「ぐっ、でも……僕じゃここまで」


 闇刻聖霊に投げ飛ばされ、さらに妖魔に囲まれ蹴り飛ばされる。情けない、いくら実戦経験が少なくても妖魔ごときに弄ばれるなんて炎央院の恥だ。


「に、いさんは……いつも、こんな気分だったのかな」


 何も出来ずに、それでも自分のやるべき事を探して戦っていた兄、僕以外からは許嫁だった炎乃海さんにですら虐げられていた。僕なら耐えられたのか分からない。それでも僕はクリスを大事な人を守りたい。


「だから兄さん、みたいにやれることを……ぐはっ――――」


 でも付け焼き刃じゃダメみたいだ兄さん。自分に出来る事が囮役なんて情けないけど……それでも頑張ったんだ。鳥居に叩きつけられながら聞こえたのはクリスの悲鳴だ。たぶん僕はあと数分も持たないから早く逃げて欲しい。


「一体でも……多く、道連れを……」


「その考え方は止めた方がいい勇牙、勝敗よりも大事な事は一つだ、まず生き残ることを考えろ……いいな?」


 目の前の黒い聖霊が光の粒子となって消え妖魔がバラバラに斬り刻まれた。赤い鳥居をバッグに光の中から現れたのは僕の待ち望んだ人だった。





「まったく、お前はそういうキャラじゃないだろ……そう言うのは兄ちゃんに任せとけ!! 来いヴェイン!!」


「――――っ!?」


「勇牙を連れて皆を守れ……コイツらは俺がやる、俺の大事な弟に手ぇ出しやがったんだからな、行くぞレイブレード・ダブル!!」


 俺が到着した時にはフラフラの勇牙と生き残りの土聖師が数名、ここに来るまで遺体が十以上は有った。護衛含めて二十名近くいて壊滅寸前。酷い状況だが間に合って良かった。


「くっ、継承者だと……予定より明らかに早い!?」


「だが闇の巫女様はそんなこと……」


 今の話でこいつらが捨て駒なのは分かった。ならばもう用は無い。


「尋問して聞き出す必要も無いな……浄化してやろう」


 指示を出している闇刻術士に一瞬で近付くと暁の牙にレイブレードを合わせ斬り裂いた。悲鳴すら上げる間も無く光の粒子となって敵が消えて行く。さらに周囲の情報がスカイから入り全ての敵にレイブレード・ディヴィジョンを展開し残りの敵を全て殲滅する。


「レイ殿か……」


「ジュリアス殿、それに京子様、あとはクリスさんご無事で何よりです」


 他にも数名の生き残りも数ヵ月前の護衛の者達ばかりで顔見知りしかいないから安心した。そして後ろから後を追って来たアイリス達もタイミングよく合流する事が出来た。


「ありゃ~、勇牙くんボロボロだね……」


「アイリス、さん……すいません私が力を発現出来ないばかりに……勇くんが」


「事情は後で聞くとして大事な義弟のピンチはお姉さんに任せなさい!! フォトンレイン」


「ちょ、アイリス!?」


 フォトンシャワーじゃなくてレイン……あれは聞いた話だと光位術士でも強力過ぎると噂が有るのだが大丈夫なのだろうか。


「ぐあああああああああ!!」


 やはり強力だったようだ、今さらながら勇牙は実験台になってしまった。すまない弟よ俺の妻は一生懸命で頑張り屋で可愛いのだが周りが見えない時が有るのが玉に瑕なんだ。


「やはり強力だったか……」


「で、でも凄い……傷が治ってる」


 追いついた中で凛だけは光位術を見て驚いている。他の聖霊使いにも俺とアイリスがフォトンシャワーをかけて回復させ周囲を確認する。おかしい、奴は闇の巫女は俺達を呼び出すのが狙いなはず、顔の一つも出さないのは不気味だ。


「ひなちゃん、結界は?」


「問題無く機能していますわ」


 ならばここをすぐに襲撃される事は無いと思ったその時だった。俺とアイリスのPLDSが緊急通信を告げた。


『こちらワリー!! 現在、京都の川付近、え? カモガワと言う場所ですか刃砕殿? そこで闇の巫女及び人工聖霊と接敵!! 周囲に闇刻結界を展開されつつ有る、至急救えっ――――プツ』


 ワリーからの通信が途切れた。まさか陽動なのか、だが有り得ない。あっちは光位術士が一人と炎乃華と親父だけ、巫女を潰す好機を奪ってまで襲う対象では無い。俺は激しく混乱していた。


誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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