第三章最終話「究極の闇の目覚め」
後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。
「もう夜も更けてますし詳しい話は明日にでも……」
「少しだけ話を……出来ないかしら」
その顔は追放され見捨てられる前に二人で術を研究していた頃の懐かしいもので、この家に帰って来て久しぶりに見た。
「少しで良いのよ……お願い」
懐かしくて過去の近いもあって放っておく事が出来そうにない……だからこそ俺は目の前の従姉に対して自然に話す事が出来た。
「…………冷香叔母さんには御恩が有ります。だから明日、炎乃華も交えて懐かしい昔語りでもしましょう」
「えっ、その今夜は……一人じゃ……」
「すいませんが今夜は用事が有りますので、これで失礼します」
用事なんてこんな時間に有る訳が無い。それでも今の炎乃海姉さんと話していれば情に流されてしまうかもしれない。
「でもっ、今は私はっ――――「今は俺よりも炎乃海姉さんには他に側に居てあげなきゃいけない人が居るんじゃないですか?」
襖を開けてその子を部屋に入れるとチョコチョコ歩いて来て炎乃海姉さんの足に抱き着いた。眠そうに目をこすって見上げているのは真炎だった。
「えっ……真炎、どうして」
「母様……遅いから迎えに来てあげた」
少し不貞腐れたように見上げる目は寂しそうで、起きて近くに誰もいなくて不安になったみたいだ。
「あっ、そっかマホちゃんは炎の巫女だから私やレイの結界を探知出来るんだった。優秀だね~よしよし」
「えへへ、アイリス姉様に褒められた!! じゃあ母様帰ろ~」
「で、でも……ふぅ、そう……ね、母様も疲れちゃったから一緒に寝ましょうか」
「仕方ないから一緒に寝てあげる~」
そう言って真炎の手を引いて帰ろうとした炎乃海姉さんは最後にもう一度振り返って俺を見ていた。
「黎くん、ありがとう今日は助かったわ……じゃあ、また」
「はい……では、さようなら……炎乃海姉さん」
「…………ええ」
二人は手を繋いで帰って行くが、よく考えたら同じ南邸だから帰る方向は一緒だ。何も考えて無かった。
(レ~イ、今から夜のデートでもいかが?)
(えっ、ああ……)
聖霊間通信をしてきたアイリスに言われ外に出て庭を見ると既に光り始めていて何をしようとしているかすぐに分かった。
「アイリス、ここでエルゴなんて呼び出したら!?」
「でもレイはこの後、用事が有るんでしょ? もちろん私とのデートだよね」
俺は呆気に取られた後に苦笑して頷くとサポート上手な妻の先導に従って白亜の竜に乗り夜空に飛び立った。
◇
そして翌朝、目を覚まして隣にアイリスが居ないのに不安になり戸を開けると既に隊服に着替えて庭にいた。
「おはようアイリス……どうした?」
「おはよレイ……何か嫌な予感がして」
聖霊使いの嫌な予感というのは当たる事が多い、聖霊が自然界の変化を感じ取り伝えてくる事が多いからだ。
「そうか、昨日は巻き込んで済まなかったな、俺一人じゃ少し……な」
実は不安だった。アイリスに隠し事をしたくないとは表向きの理由で本当は再びこの家に取り込まれるんじゃないかと俺は俺自身を信じられず不安だった。だからアイリスに側にいて欲しかった。
「私は良かったよ、お義母様、お義父様と色々お話出来たしね……それに心配性な旦那様の頑張るとこも見れたから」
「お見通しか……さて、今日から通常業務に戻るから午前中に簡単な挨拶周りだな」
「ええ、レイも早く着替えっ――――何これ!?」
現在、炎央院邸の敷地内には我が社の試作設置型PLDSが配備され、さらに敷地の外には周囲一帯を覆う形で仮の結界が張られているが、その結界が崩壊し各PLDSが緊急作動していた。
「緊急事態か、北海道と同じで結界の無い今の関東ではこうなるか……」
「ええ、先に出るわレイ!!」
俺はスカイを呼び出し状況を確認する。だが事態は予想以上に逼迫はしていなかった。いくら戦力が低下したとはいえ、ここは炎央院の邸で日本の炎聖師の総本山だ。
「アイリス思ったより問題無い、むしろ俺達が勝手に出る方が問題かもしれない」
「えっ……でも……」
スカイから送られて来た情報では被害は俺にイチャモンを付けて来た門番二人と迎撃に出た者で今は別な炎聖師が足止めをしているとスカイから伝達された。
「敵が妖魔と悪鬼だけなら問題無い、それより第二陣や伏兵に注意すべきだ。俺はこのままスカイと索敵をするからアイリスは日本支社に連絡してくれ」
「分かったわ」
俺は急いで着替えると聖具と神器の両方を確認し部屋に置きっぱなしのアイリスの神器を持って行くと彼女はPLDSで日本支社と連絡を取っていた。エレノアさんと連絡がついたようで急行してくれるようだ。
「分かった。だが俺達の出番は無さそうだ……炎乃華が出る」
「あ、じゃあ大丈夫か、見に行かなくていいの?」
「あいつも来年で二十歳だし強くなったから問題無い」
「ほんとぉ~? お兄ちゃんとしては心配じゃないの?」
少し心配だが大丈夫。それより今回のことで炎央結界の発動を急がなくてはいけない。結界の喪失が今回の事態を引き起こしているのは明白だ。
「現在は炎央結界に加えて北の結界も喪失しているから日本の霊的守護は半分まで落ち込んでいるからな」
「無事なのは、ひなちゃんの実家と京都のクリスちゃんの岩壁家の結界よね」
「ああ、本来は結界四つを相互作用させて日本全体を覆って守護していた。結界の弱まる時期や場所に妖魔や悪鬼が出現するだけで討伐は意外と少ないんだ」
俺達が少し遅れて現場に到着すると火影丸を携えた炎乃華と炎の聖霊王の炎虎のタマが敵を蹂躙していた。
「炎皇流、上火斬!!」
最後の妖魔を真っ二つにすると火影丸を鞘にしまいタマを撫でていたが俺達に気付いたようで慌てて駆け寄って来た。
「黎牙兄さん、アイリス姉さんも、私が全部倒しておきました」
「そのようだな……昨日教えた技をもう使ったのか」
「はい、どう……でしたか?」
「ああ問題無い、実戦で使えているのもポイント高いぞ」
そう言って昔のように頭を撫でると炎乃華も当たり前のように頭を出して上目遣いで見て来て懐かしくなっていると横の妻がニヤニヤしていた。
「さっきと言ってるが違いますね~、お兄ちゃん?」
「うっ、つい……」
「何のことですか二人とも?」
俺は恥ずかしくなって話を切り上げると奥の間の衛刃叔父さんに報告に行く炎乃華に付き添う事にした。
◇
「ふむ、やはりか……早急に結界の再構築を急がねばな炎乃海、もう発動させるのみと聞いたが、どうか」
あれから約二時間、炎央院の本家一族が勇牙を除き集まり、主だった分家の当主や旧十選師の当主や代理等の関係者が炎央院の広間に集まった。俺とアイリスとエレノアさんの三人は叔父さんの計らいで当主の座に近い予備の席番の席に着いていた。
「はい当主、いつでも展開は可能ですが次期嫡子の帰還を待ってからの予定では」
「本来なら勇牙に見せる必要が有るのだがレイ殿の話では新しい炎央結界は要以外は単純な術式と聞く、改めて勇牙にキチンと伝えれば問題無いと判断した」
叔父さんが言った瞬間に分家の人間たちが一斉に俺やアイリスを見てボソボソと小声で話を始めていた。
(何か水森や涼風とだいぶ違うね……)
(ああ、そもそも今回は会議というよりも緊急の社内総会みたいなもんだから)
昨日までの話し合いと違って今回は関東中の聖霊使いに衝撃を与えた案件だ。炎聖師の総本山が攻撃されたのだから当然だ。そして、この事態を解決するには消失した炎央結界の復活が必要不可欠だ。
「し、失礼ながら……ご当主衛刃様に進言が……ございます」
「焔樹家の政信か……何か」
一応は俺の親戚なはずだが覚えていない。昔と違って分家までともなると、もはやリソース割いてる場所なんて無いから忘れた。
「はっ、我らも結界を早期に展開し被害を抑える事に異議はございません。勇牙様に関しましては、この火急の事態に家に居られないのは天命でしょう……しかし」
嫌味だけは一人前だな俺の弟に文句言うとは後で嫌がらせでもしてやるか覚えたぞ。叔父さんもピクリと眉根を動かしたが気付いてないようだ。
「しかし何だ?」
「はっ、我ら炎央院分家六家の全てが今回の炎央結界そのものに対し深く疑義を抱いております」
「同じく不知火家も……異国の技術を取り入れたと聞き及びました危険なのでは?」
そう言って俺の方を一瞥したのは不知火家の老婆だった。当主代行として出席しているようで後ろには嫡子として俺と同年代の男も参加している。昔、俺の追放の際にはクソ親父に同調し俺を叱責していた人間だ。
「分家の懸念は分かります……ですが新しい結界は完璧に作用する事は確認されているから問題は有りません」
「失礼ながら炎乃海お嬢様には聞いておりませぬ、ご当主にお伺いしております」
「なっ!?」
これは驚いた口答えなんてクソ親父の時代なら有り得ない暴挙だ。実際に元十選師の家の者はざわめいているし、古くから仕える忠臣の家柄の者達も驚いていた。
「不知火嫗の言い分も分かる。しかしこれは盟友ユウクレイドル家からもたらされた確かな技術、しかも厚意によって技術貸与されたものだ問題は――――」
「その治してもらった足と同様に……でしょうか、当主?」
底意地の悪い笑みを浮かべた老婆は衛刃叔父さんを嘲るように言った。これには十選師の生き残りが怒りの声を上げる。さすがは脳筋部隊だ一瞬にして会議の場は騒然となった。
「せっ、静粛に、静粛にっ!!」
「落ち着きなさい!! 外部の人間もいるのよ!!」
炎乃華や炎乃海姉さんが落ち着かせようと声を上げるが落ち着かない。なるほど、こいつら分家はクソ親父のシンパか。
(レイ、我らは動くか?)
(エレノアさん、それにアイリスも今は動くな……あくまで炎央院の話だ)
エレノアさんが聖霊間通信で指示を仰いで来たが俺は動くなと言うだけに留める。そしてアイリスの目を見ると少し不安そうに揺れていた。
(分かった……継承者の意のままに)
(レイ……私は……)
(アイリス……動く時は俺が最初に動く、いいな?)
そう言って俺達は再び目の前の喧騒に目を移すと分家の者数名と目が合ったが無視した。不知火の老女は鼻で笑ったが、他の当主らはこちらを睨むと口を開いた。
「我ら浅学な身では炎乃海様の説明を理解できません……そこでどうでしょうか異国の方にご教授頂くのは?」
「なるほどのぉ、それがいい」
どうやら向こうから仕掛けて来た。しかし、まだ動かない。ここで勝手に動いて叔父さんの顔に泥を塗る事は出来ないから飽くまで要請されたら動く。
「彼はあくまで今回は見届け人として来てもらっただけであって……」
「ご当主……何をおっしゃる。そちらはあなた様の甥で当家に戻られるのではないのですか?」
不知火嫗の一言に嫌な静寂が辺りを支配した。その沈黙の支配する中で俺は一人でフッと口元に笑みをたたえると分家の連中を改めて《《視》》た。
「「「っ!?」」」
「こっ、これは……」
「レイ殿、申し訳ない……どうかこの場は」
叔父さんが真っ先に俺に謝ったせいで元十選師の家が今度は俺の方に向かって騒ぎ出すが炎乃華が必死に止めている。だから俺は口を開く事にした。
「こちらこそ失礼しました衛刃殿、我々と炎央院家は対等な関係です……が、力は違い過ぎる。つい加減を間違え下位術師の方々を視てしまいましたこと謝罪します」
俺がした事は昔と何ら変わらない無能と呼ばれ蔑まれていた時と同じ相手を視ただけだ。しかし今は桁外れの聖霊力の圧が付いて来る。最近は意識的に抑えていたが今この場に関しては遠慮はしない。
「い、意趣返しのつもりか……むっ、無能だった……くせ、に」
「これはこれは……老体に鞭打って出て来た方には刺激が強過ぎたかな?」
俺は戯れでヴェインを呼び出す。それだけで力の無い聖霊使いは動けなくなるし先ほどまで意気揚々と喋っていた老女は震えて喋る事が出来ずに歯の音をカタカタと鳴らし、その横で連れて来た嫡子は白目を剥いて倒れていた。
「私の聖霊のヴェインです」
ヴェインは優雅に一礼し俺の横に侍るように片膝をついた。最初はこんな感じだったのにアイリスが中に入ってる時との変化は余りにも大きかった。数ヵ月前はここまで強烈な違和感にすら気付けなかった。
「人型……」
「噂は真だと……」
「ありえん聖霊帝など」
「あっ……ああ」
この分家筋の連中は炎央院の本拠近郊にはおらず他の関東六県にそれぞれ拠点を置いていた。例の当主交代劇にも名代を立てていたから聖霊帝を見るのが初めてなのだろう。
「最後に皆様に一つだけ、これは以前にも話したのですが私の名前はレイ=ユウクレイドル……炎央院黎牙と呼ばれた元嫡子は三年前に死にました。皆々様はどうか、ゆめゆめ忘れること無きよう重ねて申し上げます……次は無いぞ!!」
最後に聖霊力を込めて睨むと何人かの分家の当主は気絶し運び出される事態となってしまった。少しやり過ぎたと思って叔父さんを見ると頭を抱えていた。
「はぁ、仕方ない……皆、しばし休んでくれ合議は十五時に再開と――――」
衛刃叔父さんが指示を出そうとした時だった。バタンと広間の奥の障子戸が開かれ二人組の男が乱入して来た。それは俺にイチャモンを付けた門番の二人で先ほどの戦闘で負傷し治療を受けているはずの者達だ。
「何事だ!! 当主を始め重鎮が集まるこの場に、ただの炎聖師如きが」
「むっ、貴様ら門番の……うわああああ」
すぐに反応したのは十選師の生き残りの二人で門番たちを取り押さえようとしたが逆に吹き飛ばされた。唖然とする一同の中で俺とアイリスとエレノアさんは既に動いていた。あまりにも濃密な闇の気配に自然と体が反応していた。
◇
「炎乃華、炎乃海姉さんは衛刃叔父さんを守れ!! 親父たちも簡易結界を!! 敵は闇刻術士だ全術師は警戒を最大限に!!」
俺が叫ぶと同時に弾かれたように炎央院の家の者達が動き出す。そして同時にアイリスとエレノアさんが門番の二人をレイブレードで斬りつけた。黒い靄が出現し二人は呻いた後に気絶した。
「レイ、遠隔操作型だよ……どっかで見られてる!!」
「どこだ、術士の反応が無い……」
二人が浄化し切れなかった黒い靄が飛び立ち逃げ出したが、その先にいたのは意外な人物だった。
「いけない不知火の婆さん!!」
「なっ!?」
そして黒い靄は不知火媼の体に吸い込まれビクビクと体を数度震わせると先ほどまでカタカタ震えていた老婆は白目を剝きながら背筋を伸ばすと明らかに若々しい声で笑い声を上げた。
『ふっ、いい中継地点を見つけたわ、そこの雑魚二人じゃ歩かせるだけで苦労したのよ……ふふふ、久しぶりねえ光の継承者、それに光の巫女ぉ!!』
「う、嘘でしょ……その声」
「ダークブルー、違うな……闇の巫女だと」
聞き間違う筈が無い四卿との最終決戦でその正体を現した光の巫女の対の存在、それこそが闇の巫女ブルー=F=ジャーラカン。
「でも、あんたは私のスパークル・バスターで……」
『ええ、消滅したわ私の体は……でも私は消えなかった。光の巫女、あなたが聖霊に憑依出来るように私にも出来るの……ただし私の場合は人だけどねぇ!!』
アイリスのスパークル・バスターは単体火力なら俺の一撃すら上回る程で、その攻撃を他人に憑依する事で逃げ延びたとでもいうのか。
『ええ、最高の依代があったから……それよりも私がここに現れた理由を聞きたくないのかしら?』
「お前が憑依出来るだけの存在なら脅威でも何でもない!! 憑依している聖霊使い諸共斬るのみだ!!」
俺はレイブレードを展開して奴に突きつける。最悪の場合この場で神器を抜く事も厭わない。
『でしょうねぇ、でも残念……これは私の意思を飛ばしているに過ぎない、再会はもっと劇的に、そして最高の舞台にする必要が有る』
心底楽しそうに声を上げる闇の巫女に俺達は平静を失いつつ有った。その中で背後で聖霊力の高まりを感じ振り返るとそこに居たのは真炎だった。
「黒くて嫌な聖霊力!! 消えちゃえええええ!!」
「真炎こんなとこで撃ったら!?」
俺とアイリスや気付いた術師は避ける事に成功したが不知火の婆さんと近くの数名が巻き込まれ後には消し炭すら残っていない。
『危ない娘ね……なるほど炎の巫女、前代とは違って苛烈ねえ、初代の系譜かしら』
「マホの攻撃……避けられた?」
声の聞こえた方を見ると不知火の婆さんの身体をコントロールする闇の巫女は天井に張り付いてこちらを見下ろしていた。
「ちっ、真炎ごめんな……炎乃海姉さん!!」
「え?」
俺は真炎の首根っこを捕まえて後ろ手でハンドサインを送る。俺とあの人しか知らない秘密の暗号だ。そのまま俺は後方に真炎を投げた。
「もうっ!! 分かったわよ!!」
炎乃華が悲鳴を上げていたが炎乃海姉さんは一切の迷いなく俺の投げた真炎を空中でキャッチしている。現に後ろで泣きながら文句を言う真炎の声が聞こえて来た。
「ふぅ、真炎のお陰で冷静になれた……聞いてやる何が目的だ」
『もちろん宣戦布告よ。私と「闇の支配者様」のね』
「闇の支配者……それって」
アイリスが天井の闇の巫女を睨みつけて言うと奴は待ってましたと言わんばかりに声を張り上げた。
『初代以降は一度も現れなかった私達を導く存在……それが闇の支配者様……光の継承者と対をなす究極の闇よ……あの方が間も無く完全に覚醒するのよ』
「光の継承者の対の存在……そんなもの文献にすら残されてないわデタラメよ!!」
奴を睨みながら俺はエレノアさんと通信していた。アイリスが珍しく冷静さを失っているから咄嗟に年長者に頼っていた。
(既に日本支社の全員に声はかけている。可能なだけ情報を引き出せ)
「興味深い話だな……」
(了解です……)
「レイ、でまかせに決まってる、明らかに怪しい情報よ!!」
『それは今に分かる……あら、ちょうどいい、その証拠を今見せてあげる!!』
奴が叫んだが特に何も起きない。ハッタリなのかと思った時だった突然凄まじい衝撃と振動で邸全体が揺れ設置型のPLDSが次々とショートし煙を上げ機能停止した。そして炎央院の門下一同は大いに動揺していた。
「じっ、地震かっ!?」
「たわけが!! 落ち着け、今は敵がいるのだぞ!!」
たまらず親父が大声で怒鳴ると場が静まり更に清涼な風が吹くと場の聖霊使い達は落ち着いていた。アイリスも幾分か落ち着いてハッとした顔をしている。
『今のが闇の支配者様の力の一端よ……では待っているわ光の継承者、それに光の巫女……狂える都でね』
そして目の前の老婆の体が爆散して黒い靄ごと消滅した。俺が咄嗟にレイフィールドを展開しなければ周囲に被害が及んでいたかもしれない。そんな中で再び扉が開かれ連絡要員と思われる炎聖師が慌てて入って来た。
「ご、ご報告をっ!!」
「被害状況など後で良い!! 邸内を探索し残敵掃討を徹底せよ!!」
「で、ですが!! 緊急事態です……ご当主!!」
「分かっている!!」
しかし伝令役はなおも食い下がった。よく見たら正規の伝令役では無くて俺と一緒に聖霊学の基礎講座を受けていた若手の聖霊使いだった。
「叔父上、聞きましょう……火織家の次男だったか、報告してくれ」
「あっ、レイさん……あ、あの、父さん、じゃなくて観測班の報告で、京都の岩壁の……けっ、結界が『|偉大なる祖国《G r e a t U S A》』が先ほどの衝撃で消滅しました!!」
この日、京都の岩壁本家は邸の周囲数キロに渡って消失した。そして守護を失った地がどうなるかは明らかだ。この日から束の間の平穏は終わりを告げ再び光と闇の戦いは始まった。そして、その裏の本当の敵の存在に俺達はまだ気付いていなかった。
誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。
ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。




