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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第89話「語られる過去と真実(後編)」

後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。


 そこで一度ため息を付くと叔父さんは俺たち三人を見た。まるで続きを聞くのかと確かめるような目だった。


「失礼、ご当主様、お茶の方も温くなってきたので代えますが、いかがですか?」


 ここからが本番と思ったタイミングで口を出して来たのは炎央院楓果だった。俺は別に茶なんてどうでも良かったが隣のアイリスが動いた。


「そうですね!! じゃ私が淹れまっ――――「炎央院の家のことなので私がします、お客人は座っていて結構」


「おい、アイリスがせっかく気を――――「いいよレイ、えっと余計な事を……」


 怒って立ち上がろうとする俺をアイリスが制した、俺だけならまだしもアイリスまで邪険にするのは許さないと目の前の女はため息をついた。


「ふぅ……ですが今の時間では人手が足りないのも事実、迅速に用意するためにも手伝って下さるかしら、お客人」


「え? は、はいっ!! 行きます、お義母さま~!!」


 そう言うとアイリスはあの女に付いて行ってしまった。何か裏で嫌味でも言われるんじゃないだろうか今さらながら心配だ。


「珍しい、ですね……」


 あの女が何をするのか分からないが、それこそ嫁いびりとかなら全面戦争も辞さないと思った俺の気勢をいだのはクソ親父だった。


「ああ、どうやら楓果は嫁殿が気に入ったようだ……当家では二人目だ」


「何の話だよ……おやっ……補佐筆頭、殿」


「楓果が自分の仕事を手伝わせるのは流美くらいだった……あとは対抗して嫁入り前に冷香と対立した時だったか」


「ありましたね……どちらが優秀か決めると言っていた時ですか、懐かしいですね」


 あの女は昔からそんな感じだったのかと妙に納得して二人の話を聞いていたらふすまがスッと開かれアイリスとあの女が戻って来た。


「お待たせしました~、衛刃様と、こちらはお義父様とお義母さまので~す」


「ありがとう、アイリスさん」


「嫁殿、感謝する」


 アイリスのお盆の方には湯飲みが三つだけで俺達の分が無いと思っていたら俺の前に湯飲みを置いたのはあの女だった。


「どうぞ……」


「あっ、どうも……ありが、とう、ございます」


 焦った俺は一口(すす)ると驚いた、渋くない。英国に七年もいると紅茶が基本でアイリスに合わせて甘いミルクティーが中心だったから日本で飲む緑茶は渋くて苦いと感じていた。


「驚いたでしょ、私も淹れてもらって先に飲んだんだけど苦くないんだよ~」


「ああ、最近飲んだのは苦くて大変だったもんな特にアイリスはさ」


 俺とアイリスがそんな事を話していると正座で座り直したあの女が得意そうに喋り出していた。


「最近とは涼風の家で安い茶でも飲まされたのかしら? 相変わらずね、あの家は」


「いや、そんなことは……」


「そういえば楓に出してもらったお茶苦かった……はっ!?」


 俺は咄嗟にかわしたがアイリスは素直過ぎた。実際に向こうで楓に苦いと文句を言っていたが『日本茶は苦いものなの』と言われ苦いと連呼していた。


「でしょうね……涼風は先代と先々代と経費削減を旨としていたし、奥様は嗜好品には無頓着で先代当主もご苦労していたもの」


「つまり高いのか……これ?」


「そうよ黎くん。うちは基本的に楓果伯母さまが玉露しか淹れないもの」


 玉露、これが……なんか渋い抹茶のイメージが有ったのに渋くないし飲みやすいんだ初めて飲んだ。日本茶のイメージ変わるなこれ。


「ぎょくろって何レイ?」


「ああ、俺も詳しくは知らないんだが高いお茶だ……」


「ウェッジウッドの茶葉みたいな感じ?」


「どちらかというと産地や製法の方だった気が……よく分からないな」


 そんな感じで雑談をしていると俺は今さらながら気付いたことがあった。


「待て、家追い出される前にも俺こんなの飲んだこと無いぞ……」


「それは出す必要性が無かったからよ……」


「ああ、なるほど無能に飲ませる茶は無いってか!?」


「レ~イ落ち着いて、緑茶ってカフェインが多いし眠れなくなるかもだから子供にはそれで出さなかったとか……」


 なるほど確かに俺は嫡子として肉体面は気を付けられていた気がする。なんて俺が思って見ると、あの女は茶を一口飲んで言った。


「ふぅ、私は無駄な投資はしないのよ……」


「やっぱり俺の言った通りじゃねえか、騙されるとこだった!!」


「わわっ、お義母さま~!! さっき言ったじゃないですか~!!」


「話は聞いたけど守るなんて言っていません。それにしても改めて随分と下品な口調になったわね……冷静さが肝要だとあれほど――――」


「なぁ~に今さら母親面してんだ俺を追放して偉そうに……」


 そして俺たちの口論はアイリスとクソ親父と衛刃叔父さんが仲裁してやっと収まった。俺はアイリスによしよしと頭を撫でられながら奴を睨みつけるが当人は形だけの謝罪をして後ろに下がった。


「じゃあ続きをお願いします、お父様」


「ああ、私も二人を見て考えが変わった炎乃海よ……どんな形でも真実は伝え、誤解は解かねばならないとな」


 それは俺とこの女のことか、誤解なんてしてないと思いながら姿勢を正すと叔父さんは話を再開した。





「これが……涼風の家に伝わる神器『断空だんくう破迅拳はじんけん』と我が家の至宝を合わせた神器の本当の姿!?」


「そうです。各家の当主と直系の五席までの人間にしか明かしてはならない秘事中の秘事、《《混合術》》です」


「凄い、迅人様でも使えなかった神器を……こんなにアッサリと……やはり」(この人にして正解だった……私は今度こそ)


 叔父さんと炎央院楓果……面倒だからここでは母と呼称する、今回だけだ。二人は炎と風の合わさった術の力で突撃するクソ親父の圧倒的なまでの聖霊力の爆発を目の当たりにしたそうだ。そして敵は吹き飛ばされた。


「やったか!? しかし混合術……ここまでとは秘事と言われることはある」


「刃砕様お怪我は!?」


「問題無い楓果……少し聖霊力を使い過ぎた」


 いくら無敗の炎皇と呼ばれていても謎の敵との連戦の負担は凄まじく何よりも禁じられた混合術はそれだけ消耗が激しかった。そして身重だった母は真っ先にクソ親父に駆け寄ったらしいがそれがマズかった。


「義姉上!! 後ろですっ!!」


「えっ、しまっ――」


 消滅したかに思った化け物は半身を失いながらも母に襲い掛かった。それを防いだのは衛刃叔父さんとその聖霊だった。


「間に合え犀火ぁ!!」


 敵の攻撃を防いだのは叔父さんのサイ型の聖霊獣『犀火さいか』だった。しかし敵と接触したと同時に還されてしまった。


「だが時は稼げた、終わりだ炎走斬!!」


 その一瞬で炎の聖霊力を足に纏わせ、もっとも早く威力の高い術で謎の敵を蹴り付けた。そして今度こそ敵は白い光を放って消えた。その一瞬で視界が遮られ晴れたと同時に叔父さんの叫びが周囲に響いた。


「ぐあああああああ!!」


「どうした衛刃よ……っ!? 奴はどうなっ――」


「衛刃殿、あっ、足が……」


 敵の殲滅と同時に叔父さんの足もすねから下が消滅していた。クソ親父の話によると出血していて傷口は光位術で片腕を消滅させられた祐介と似た感じだったそうだ。


「そ、それよりも……二人は、ご無事です……か」


「ああ、俺たちは無事だ。お前達が守ってくれたからな、それより足が、衛刃早く山を降りるぞ」


「それ、より……あ、ね……うえを連れて……下山を……」


「何を言っている貴様は重症だ!! まずは止血せねばバカ者が!!」


 普段は泰然と構え戦闘狂なクソ親父もこの時はかなり焦ったらしい。とにかく叔父さんを連れてすぐに山を下りようと必死だったそうだ。


「あに、うえ……こそ、当主、なら、なら自分……と、あと、とりを第一に……かん、がえろっ!! この……のう、きんがっ!!」


「衛刃……だ、だが……」


「……そうだ、あの女、冷香さんはどこに!?」


 母の発言にクソ親父は今さらながら冷香叔母さんが負傷して置いてきたという話をしていた。


「はぁ、構い……ません。我らは捨て置き下さい……まずは、あね、うえと子と何より自分……を、守るの、が……当主の、義務です」


 あくまで譲らない衛刃叔父さんを動かすのは無駄だと判断した親父は身重の母を両手で抱えると全力でその場を離脱することを決めた。


「くっ、楓果……行くぞ、こういう時の衛刃の判断は……正しい」


「ですがこの怪我は……結界を抜けたらすぐに私の術で周囲の術師を集めます!!」


 そして可能な限り早く結界外に出ると特務隊、後の十選師を呼び山に残された二人は救助された。二人は救助されるまで聖霊間通信で連絡を取り合って励まし合っていたらしい。


『すまぬな、冷香……私が不甲斐ないばかりに』


『いいのですよ、あなた……』





 途中からは叔父さんよりも意識の有った親父と母の話がメインとなっていた。そして最後に叔父さんは予想外のことを話し出した。


「私と冷香はそれぞれ聖霊病棟に運ばれ私は片足を失ったが、この時は冷香の症状はまだ出ていなかった」


 その時の戦闘の後遺症が原因だと思っていたが違うようだ。俺が悩む一方、炎乃海姉さんは当時の記憶を辿りながら叔父さんに確認している。


「私の記憶では炎乃華を生んで少ししてから身体の調子は優れてなかった。そうですよね、お父様?」


 炎乃海姉さんの言葉に頷くと炎乃華の生まれる前後から少しづつ聖霊力が保てずに抜けるという不可思議な状況に陥っていたらしい。


「ああ産後の経過が少し悪いだけと本人は言ってな……」


「あの女、冷香は嘘が得意だったものね……ほんと」


「伯母様の嫌がらせも同じくらい上手くごまかせてましたけどね」


 そこで炎乃海姉さんが過去のことをチクリと一言、あの女を睨みつける。だがそれを庇ったのは衛刃叔父さんだった。


「まあ、あれは嫌がらせと取られるだろう、だが……」


「やはりお父様は知っていたのですね!! 母様はいつも辛そうで、だから私はいつか……」


 いつか当主を蹴落とし自分が当主となって追い落とすつもりだった。クソ親父へのクーデターにも協力的で、この女も追い落とそうと考えたからだと今さらながら納得した。


「冷香が心を痛めていたのは義姉上のことでは無い炎乃海よ。いや、ある意味で義姉上のことも無関係では無いが……」


「どう言う意味ですか衛刃叔父さん」


「衛刃殿いえ、ご当主、今はそれはっ……」


 珍しくあの女が動揺したのを見て確信した。いよいよ話の本筋に触れるのだろうと予感したから姿勢を正した。


「いいえ義姉上、今日全てを話します。この子らには知ってもらう必要が有る全てを……」


「楓果、それが衛刃の、いや当主の判断だ……我らは黙して従おう」


 親父の言葉に母は頷いて分かったと返事をしていた。


「では炎乃海、まずは義姉上の嫌がらせに関して冷香は言及していたか」


 叔父さんが正面に座る炎乃海姉さんに問いかけると首を横に振っていた。


「いいえ、いつも悲しそうに笑うだけで『大丈夫』と言ってました……ですがあれは耐え忍んでいた顔でした」


「そうか……当時、義姉上には私と兄上が水面下で対立しているように欺くために一芝居打ってもらっていたのだ長老衆に対してな……」


 当時の炎央院内部では叔父さんを当主に推す声が根強く叔父さんと目の前の女は親父の地位を盤石にするための策を巡らせていたらしい。その一つが奥方同士の対立だったそうだ。


「だから仲違いの振りを? でも母様は本当に悲しそうだった……演技には見えなかった……」


 それは俺も思った、実際に酷いと感じた俺も冷香叔母さんを庇ったことも有った。それを思い出していると、あの女は渋々と言った感じで口を開いた。


「それが私が冷香を嫌いな理由よ。務めと割り切れと言ったのに……あいつは当主の妻である私に同情した。権謀術数なんて今さらなのに冷香は『本心を偽るのはお辛いでしょう』なんて辛そうに言いながら茶を点てた……のよ」


 なるほど理解した。この女が話したがらない理由も全部納得出来た。だがそれに気付いたのは俺だけじゃなくて俺の妻もだった。


「つまり冷香叔母様は、お義母様の切れ味抜群なツンケンしてる性格を心配して同情してくれたんですね~」


 恐らくはアイリスの推測通りプライドの高いこの女は自身の与えられた役割を否定されたと憤ったと同時に自分を理解してくれた人間を傷付けるのを躊躇ってしまったのだろう。そしてその内心を見透かされ困惑して反発した。それこそ演技には見えないほどに……。


「なるほど……優しくされた事が無い人間がどうしていいか分からずに八つ当たりした感じに近いな」


 アイリスの考えを俺なりに解釈して言葉に出して言った後に目の前の母を見ると一瞬黙るとすぐに顔を真っ赤にして声を荒げていた。


「ええ、そうよ、その通りよ。それと息子とその嫁の分際で何を言っているのかしら少しは年長者を立てなさい!! 英国ではオブラートに包んで言うという文化も無いのかしらねっ!!」


「はぁ~い、楓果お義母さま《《これからは》》、そのように致しま~す」


「くっ、本当にそういう所も冷香に似ているわね、あなたも……黎牙も!!」


 遮音もする結界を張っておいて正解だった。今は夜中なんだから少しは時間帯を考えて欲しい。


「なるほどレイの甘々な優しさのルーツはそこなんだ」


「いや、アイリス俺はそこまで……」


「飄々として常に相手を気遣って見通すような態度を取るあなたもよ……アイリス、さん」


「も~、お義母様ったら~、呼び捨てで構いませんよ~!!」


 そんな感じで和気藹々としていたが待ったをかけたのは炎乃海姉さんだった。


「一応は理解しました……許せませんけど、それと肝心の母様が炎央院に殺されたと言われた原因をお話下さい。母様が出したという手紙についても詳しく……」


 そういえば俺は凍夜殿から頼まれて真相を聞き出そうとしていたのだった。炎乃海姉さんの言葉を受けて叔父さんは重い口を開いて続きを話し始めた。


「私と義姉上の策、そして兄上や十選師の活躍で長老衆を排除する事に成功したが、それからすぐだったのだ冷香の症状が発覚したのは……」


 長老衆は地方に飛ばされ俺に剣を教えてくれた祖父もその時に一緒に排除されたそうだ。そして炎央院の力による支配が始まったのだが、その陰で叔母さんの病は進行して行った。


「聖霊病棟に入れと何度も言ったが冷香は頑なでな……自分がもう長くないと分かっていたようだった。だから少しでも長く炎乃海と炎乃華の側に居たいと言って聞かなかった」


「では炎央院に叔母さんが殺されたとは……つまり」


「ああ、私が判断を間違えたのだ、あの時に私が敵に確実にトドメを刺していれば負傷などせず冷香をすぐに助けられた。冷香の症状に早く気付いていれば別な手も打てた……つまり私が冷香を見殺しにしたようなものだ」


 この話を一切の秘密としていたのは冷香叔母さんの遺言で、ただ最後に父親にだけは手紙を送りたいと言って話せなかったことを手紙に託し心情を吐露した。それこそが真実だった。


「そんな、そんな言葉を聞きたいんじゃない!! お父様は母様を見捨てたんじゃないんですか!? 伯母様が陰謀で、何かをしたんじゃないんですか!!」


「私の事は信用しなくてもよい。だから……これを見て欲しいのだ炎乃海……」


 そう言って叔父さんが当主の机の引き出しから取り出した物は今はあまり使われなくなったビデオテープだった。


「こ、れは?」


「私も家中の者は機械は苦手でな、だが冷香は意外と得意でビデオメッセージを残した。後で確認を――――「今見ます。この場で……確認したいです」


 分かったと頷くと叔父さんは部屋にあった埃を被ったビデオデッキを取り出し、そして困惑していた。


「どうしました衛刃叔父さん?」


「うむ……再生の方法が分からないのだ……」


 機械音痴な炎央院の上の者では分からず、かといって昔の家電など使ったことも無い俺もチンプンカンプンだった。どうしようかと思っていたら意外な所から救いの手が現れた。


「あの~私、たぶん繋ぎ方とか再生方法とか分かりますよ」


 恐る恐ると言った感じで手を上げたのはアイリスだった。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども有ればお待ちしています。

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