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光を受け継ぎし者 ―追放された光は導かれ再起す―  作者: ネオ他津哉
第三章「歩み出す継承者」編
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第87話「過去と今」

後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。

「あっ、黎牙兄さんとアイリスさん。おはようございますっと、そういえば家の姉が探してましたよ」


「昨日の続きだな……」


 昨晩は色々と頑張ってしまった俺とアイリスだが寝坊して慌てて起きると南邸には俺達以外おらず簡単に食事を済ませ本邸に来ると炎乃華と出くわしていた。


「聞きましたよ~、聖霊学って実戦に全く必要無いあれですよね。黎牙兄さんは強いんだから不用だと思いますけど」


「あ、ああ……流美の奴がうるさくてな、仕方ないから子供に混じって受けてるさ、ところで昨日から気になってたが勇牙はどうした?」


 勘違いした炎乃華の話題を反らすために俺は昨日から気になっていた弟の勇牙の事を聞いた。昨日から見ないから土産も買って来たのに渡せてないままだ。


「ああ、実は勇牙は昨日から京都なんです」


「京都、岩壁の勢力圏に? まさか……」


 まさかクリスさんに会いにか、それとも岩壁との極秘の会談なら把握する必要が有るし……いやいや勇牙は嫡子とは言えまだ権限はないはずだ。ならば炎央院や岩壁の運命を儚んで駆け落ちなのではと考えてしまう。


「ええ、実は……一昨日から修学旅行なんです」


「修学旅行……確か学校行事だよな? 俺は嫡子だったから小中と行く事が禁じられていたからな少し羨ましかったもんだ」


 俗世と交わるなとか色々と言われ俺は学校行事に割と出席を禁じられていた。そんな過去を思い出していたら二人が固まっていた。


「おい、どうし――――「そう言えば黎牙兄さんって学校行事とか出席禁止だった」


「えっ、そうだったんだ……」


「いやいや昔のことだし羨ましいと思っていたが……そう言えばあの間だけは炎乃海姉さんが無駄に優しかったような……」


 流美が居ない時は定例でも無いのに料亭で飯を食わせてもらった気がする。そもそも当時は互いに話すらしない関係だったのに律儀に相手をしてくれていたものだ。


「さすがのお姉様でも不憫に思ったんだね~」


「私は家に帰って来て流美がいなくて黎牙兄さんと二人で楽しかったという思い出が……」


 今日は炎乃華はオフらしく相手をして欲しそうにしていたが昼は仕事だからと言うと寂しそうにしていた。するとアイリスがその背中に声をかけていた。


「炎乃華ちゃん良ければお昼一緒にどう? 今日は涼風家とオンラインでランチミーティングするからさ」


「良いんですか!? 涼風ってことは琴音も?」


「ああ、報告会だし叔父さんも同席するから問題無いと思うぞ」


「じゃ、じゃあお昼ですねっ!! ちょっと素振りして来ます!!」


 そして落ち着きなく走り去って行く姿を見ながら昔からあんな感じで走り回っていたなと感慨深くなった。その後、西邸に行くと炎乃海姉さんを発見した。





「あ、いたいた、お姉様~」


「ずいぶん遅かったわね、もう十時よ」


 昨晩は八時には合流と言っていたから完全に俺たちの遅刻だった。予定も押しているらしいから謝っておくがアイリスは違った。


「昨日の夜はレイが激しくって~、寝かせてくれなくて大変でした」


「そ、そう……」


「はい、私たち新婚なんで、つい歯止めが効かなくなっちゃって~」


「アイリス、すいません。それで本日は例の寮の候補を見せて頂けるということで良いのですか?」


 アイリスがやたら昨晩の夫婦生活の話題を出すから慌てて今日の予定を話してごまかす。今日は寮となる建物への案内を頼む予定だ。そしてそこで今後の話し合いをする事になっていた。


「え? ええ……昨日の資料をまとめたものを見てもらおうと思ってね。その子も来るのかしら」


「はい寮には俺とアイリスも入る予定ですので二人で下見をするのですが……何か不都合でも」


「いえ、別に無いわ……」


「では、お姉様には私たちの新居へ案内してもらいましょう!! ゴーゴー!!」


 アイリスは乗り気だけど炎乃海姉さんは色々と考えているようだ。何か新しい事が分かったのかもしれない。そうなると外の人間という認識のアイリスには教えたくないのだろうか。


「炎乃海姉さん、何か有るなら後ほど聞きますが」


「ええ、では遅くなったけど案内するわ、車は?」


「社の車を使うので駐車場まで行きましょう」


 そもそも何で炎乃海姉さんが案内なのかというと炎央院のお家騒動の時まで遡る。炎乃海姉さんは、あの女の片棒を担いで俺の追放に加担し数ヵ月前は衛刃叔父さんを失脚させようとして失敗した。その際に代償として財産を全て没収された。


「その没収された資産の一つがこれってわけ」


「四階建てのマンションか、大きいし随分と良い物件ですね、ただ……」


「周り田んぼしか無いね……レイ」


 そうなのだ郊外どころか田園地帯にポツンと建つ高級マンションは目立ち過ぎる。俺たちの仕事の性質上、一般人に目立つのはマズイ。それに俺たち聖霊使いもコンビニくらいは近くに欲しいのが本音だ。


「実は炎乃華が政府のお偉方に押し付けられた土地なのよここ、霊脈も通ってるから引き受けたのよ」


「政府に押し付けられたって、何があったんですか?」


 炎乃海姉さんの話によると炎乃華が部下数名と一緒にこのマンションの土地に巣くう悪鬼を祓った時に偶然にも《《視える》》人間がいたらしく政府から補助金を出すから土地を引き取ってくれと押し付けられたらしい。


「じゃあ厄介な土地? それにしては割と清浄な聖霊力が……」


「ええ、その通りよ。むしろ浄化したら聖霊のたまり場になったのよ、聖霊使いを週一で派遣してからは霊脈のチェックも出来るし」


 二人が話している間に俺はスカイを呼び出し地上からも探るためにレオールとアルゴスも呼び出し周囲を見回らせると違和感に気付いた。


「なるほど、地下に研究室の一つでも作りましたね」


「さすがね……聖霊でも発見が難しいように結界を張り巡らせたのに」


「炎央結界ならまだしも、この程度の結界では気付きます。光位聖霊の目なら見通す事が出来ますよ、このレベルなら」


「改めてそこまでの差なのね光位術って……じゃあ入りましょう。黎くんの言う通り地下が有るのだけど、そこなら周囲を気にせず話せるわ」


 中を案内するフリをして実際は地下に誘導するのが狙いだったのか。俺とアイリスは案内されるままに地下に降りるとそこで懐かしい物を見た。





「あっ、俺の聖具……」


「黎くんの壊れた聖具『暁の牙Ver.1.3』だったわね……解析が終わったし複製も出来そうだから返そうと思ってね」


「もう解析したんですか、そもそも複製なんかしても使えますか?」


「幻崔堂がデータを欲しがってたから日本流にアレンジする気よ。幸い日本刀だし使える人間もいるでしょ」


 俺は即座にアイリスに確認を取るが俺の裁量で判断して問題無い案件だそうだ。さすがに神器の量産や複製なら問題だが俺の聖具なら大丈夫らしい。


『ま、さり気ない技術流出ならね。日本の術師界に足りてないのは聖霊力よりも技術力だし……これくらいなら大丈夫だよ』


『なら良いけど、この人は性格や思想はあれだけど研究者としては凄いんだよ』


『そうなんだ、レイが話してくれないから知らなかったよレイの家族の話』


 アイリスは俺の交友関係は元より実家関係も知りたがっていたから、この手の話はよく聞きたがるし昨晩も色々と聞かれた。


「ちょっと、堂々と聖霊間通信しないでくれるかしら?」


「あ、すいません少々確認をしてました」


「夫婦の秘密の会話なんで許して下さいよ~、ね、レイ?」


「ふぅ、夫婦ならそう言うものなのかしらね……じゃあ本題に入りましょうか」


 そして俺たちはここ数日で分かった事を話し合う事になった。まずは冷香叔母さんの症状だがデータベースで問い合わせても分からない未知のもので不明だった。


「恐らくですが呪い系の一種かと……実は闇刻術士サイドの人工聖霊の中には回復を阻害させる術や光位術士の装備を無効化する術が有るんです」


「初耳ね……」


「極秘事項でしたので、俺は目の前で使われた事が有るんで、よく知ってます」


 俺の初めての部下達を殺したあの術を俺は忘れない『闇の牙』などと呼んでいるが正式な名前は分からない。冷香叔母さんの件とは無関係だろうが術士を死に至らしめるもの、そして術を阻害するという二点で似ていると考えていた。


「つまり黎くんの考えでは母様の聖霊力が漏れていた原因は闇刻術士の未知の術であると言いたいの?」


「いえ闇刻術士に襲われていたのなら全滅していたはずです。よくてクソ親父か叔父さんのどちらかが逃げられたくらいでしょう」


 俺が思いついたのは未知の術では無く失われた術の方だ。俺がアイリスを見るとすぐに伝わったようで頷いていた。さすがは俺の嫁でパートナーだ。


「なるほどレイは『古代術式』を疑ってるんだ」


「また知らない単語ね、解説してもらえる光の巫女」


「はい、ですけど名前の通りです。古代つまりビフォー世代で使われていた術や封印された術で私のスパークル・バスターとかフォトンレインも古代術式扱いです」


 ビフォー世代、400~600年前さらに初代の継承者の逸話の残っている1000年前などに開発され強力過ぎるために封じられていた術だ。


「つまり炎央院で伝わっている封印術みたいなものね? 真炎が使っていた炎逆陣なんかがそれよね」


「ああ、真炎が暴走した時に使っていた術ですね。確か炎乃海姉さんが資料隠して秘匿してたあれですよね? まだ何か隠してるんですか?」


「だから今日は全部出すわよ……真炎も協力的じゃなくて教えてくれないからね、これが隠されてた資料よ」


 古い紙と紐で縛られた昔の本をめくると過去の炎央院に伝わる封印術、英国では古代術式と呼ばれるものが複数記載されていた。


「レ~イ~、難しくて読めないよ英訳して~」


「後で翻訳してあげるからから、なるほど……秘匿したのは最後の頁が原因ですか」


 漢字とカタカナの文字列にアイリスは頭を抱えていた。一応は職務中だが俺もついつい甘やかして頭を撫でると炎乃海姉さんが我慢出来ず咳払いをして話し出していた。


「ゴホン、黎くんの言う通り最後の『炎の神を越える超越の神のための供物……その生贄の一部』この一節があまりにも不吉で誰にも言えなかったわ」


「俺は役に立たない無能でしたからね」


「違うわ。単純にあなたが幼かったからよ。これを見つけたのは私が八歳で、あなたが五歳の頃よ」


「なるほど俺が本格的に術解析に協力し出したのは七歳の頃ですからね」


 まだ仲が良かった頃で俺を大事にしてくれた時代で最近までは思い出すことさえ苦痛だった。今は少しだけ郷愁にかられる程度だ。


「私の知らないレイかぁ……可愛かったんだろうなぁ……」


「たぶん写真なんて俺のは残ってないよ」


 恐らく俺の痕跡を消すために必要最低限の写真以外は処分されたはず。それが炎央院のやり方だ。俺と叔母さんが写った写真が残されていたのは炎乃海姉さんが母親の形見として所持を許されていたからだろう。


「ううん、写真は無くても思い出だけは捨てないで。それも私の大好きなレイの大事な一部なんだから」


 ギュッと握られた手を握り返して微笑み合っていると今度はバタンとダンボールを持って来て置いた炎乃海姉さんがこっちを見ていた。


「ど・う・ぞ!!」


「研究資料ですか、また随分と古い……これは!?」


「アルバム……えっ!? これって……」


「母様の写真を探していた時に見つけたのよ、たぶんあなたの昔の写真も有るわ」


 ダンボールを開けて一番上のアルバムを見ると幼い頃の炎乃海・炎乃華姉妹の写真や叔父さんや叔母さんの写真も有った。そして俺とあの女の写真も有った。


「処分しなかったんですか?」


「さあ、たぶん昔の私の気まぐれね……時間は良いの? もうすぐ昼よ」


「そうですね涼風との会談も有りますし、良ければ炎乃海姉さんも」


 炎乃華も出るから一緒にと誘ったが用事が有るからと断られた。確かに昼の時間を気にしていたし急いでいるようにも見えた。


「ただ、後で時間を作って欲しいの……私と二人きりで、構わないかしら黎くん」


「それはちょ~っとダメですよ、お姉様!!」


「炎央院の家の話よ炎央結界の構築について話したいの」


「っ!? なる……ほど、なら仕方ないアイリス、これは君が目覚める前の約定だ、すまないが今回は」


「ふ~ん……そっか、分かったよレイがそこまで言うならね」


 アイリスに納得してもらい炎央院に戻ると、そのまま今度は涼風とミーティングに入った。炎乃華は久しぶりにPC越しで琴音と話していたが早馬さんと俺と叔父さんは横で真剣な話し合いを始めた。





「なるほど委細承知した……しかしレイが嵐野家に、いや旋賀家の後見か……」


「はい、それに伴い当家とユウクレイドル家は暫定的ながらよしみを結びました」


「早馬殿の言葉に相違ありません衛刃殿」


 俺が横で言うと衛刃叔父さんはお茶を飲んでため息をついた。今この場には俺とアイリスと炎乃華と叔父さん、そして画面の向こうは早馬さんに楓と琴音の三人だ。


「そうか……つまりこれで涼風とは手打ちということか」


「俺は、いえ私は最初から涼風家とは和解する気でした。親友でもある楓殿とも昔から親交も有りましたので」


 俺が言うと画面の向こうで楓も頷いていた。チラっと後ろに巧の姿も見えたから上手くいってるようで安心した。


「なるほど、これで当家とはますます縁遠くなりそうだな……」


「何を言ってるんですか自分はしばらくは炎央院で講習なんですよ衛刃殿」


 そこで話題は俺の聖霊学についての話題になった。最初は驚いた涼風の面々だったが琴音は今さら不要と言って炎乃華も同意してくれたり、逆に楓や早馬さんには大事だと途中からは俺への説教になっていた。その様子をアイリスは微笑みながら横で見ていて俺も笑うしかなかった。


「では本日は誠に良き会談が出来た。互いに当主となって日の浅い身同士ゆえ今後とも良い関係を続けたいものだ早馬殿」


「いいえ当家こそ弱体化し一度は牙を剥いたにも関わらず水に流して頂き恐縮です。今後は互いに繋がりを密にしていきたく思います衛刃様」


「うむ、では本日はこれにて失礼しよう」


 そしてPCのカメラを切ってマイクをオフにし俺が頷くと衛刃叔父さんはため息をついて椅子に深く沈んだ。


「大丈夫ですか叔父さん」


「ああ、すまぬな、機械にはとんと疎くてな……普段は炎乃海に頼んだりしていたのだが今日は急に外せない用事が出来たそうだ」


「俺も昼に誘ったのに変だと思ったんですが……」


 その後は雑談と炎乃華と軽く鍛錬などをして過ごしていると時間になったから相手をアイリスに任せると俺は炎乃海姉さんとの合流場所へと向かった。


「じゃあ炎乃華、アイリスも強いから鍛えてもらえ、用が終わってから俺も見てやるから少し待ってるんだ」


「はいっ!! アイリスさんお願いします!!」


「ふふん、お任せ、自慢じゃないけど……私は甘やかしちゃうよ~?」


 そこは厳しいじゃないのかアイリスよと思いながら従妹の聖霊力の高まりを後ろに感じて俺は今度こそ合流場所の南邸へと向かった。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


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