第3話
初めて魔力を流した日から1年がたった。
今では、魔力は滑らかに流れていて、ドロドロだった魔力が嘘みたいだ。
こっそり見た本に書いていたが、魔力は滑らかなほど速く使えて、澄んでいるほど密度が濃くて強いらしい。
魔力を使い続けて半年とちょっとたったくらいで、魔力の滑らかさが変わらなくなった時は、とても焦った。
もう強く慣れないと思った。
レイは氷魔法の使い手、それも特別な才能を持っている。
自分の魂がレイに入ったせいで魔法が使えなくなったのかとさえ思った。
「れも、つかえう」
(でも、使える)
努力は無駄ではなかった。報われたのだ。
(アイス……)
そう念じると、目の前に巨大な氷が現れる。
(簡単な魔法なら無詠唱で使えるようになった)
無詠唱は、基本的には熟練の魔法使いじゃないと使えない高等な技だ。
それを俺は、簡単な魔法だけど可能にした。
やはりレイの才能は凄まじい。
(でも、これを活用しない手はない…)
他人がこれ程の才能を持っていたら、チートすぎて妬んでいただろうが、自分が持っていると、優越感しか感じない。
(俺、少し性格悪いかも)
でも、それでも、お嬢様を助けられる可能性が増えるなら、それでいい。
(まだ俺は、1歳とちょっとだ……剣を振ったりするのは、まだ早い)
だから今は魔法を極めるしかないのだ。
俺は魔法を鍛える為に魔力を体全体に流す。
最初は拙くて、流れにくかったが、今は水の様にスラスラと流れていく。
その魔力を指先に集めて、そこから氷柱を出す。
(そしてここから!)
魔力を鍛えるのではない。魔法を鍛えるのだ。
魔力みたいに垂れ流しで鍛えられるものでは無い。
指先の魔力をコントロールして、氷柱の大きさ、形、強度を変えていく。
少しでも失敗すれば、魔法は消える。
さらに言えば、消える時に音がするので、母さん達にバレる可能性がある。
これ程魔法を効率的に鍛えれるものは、他にはないだろう。
右手で太く強い氷柱を作り、左手で薄く鋭い氷柱を作る。
同時に作ることで操作性はみるみる高くなっている。
(速さ、強度、繊細さ、どれもほとんど完璧だ)
指先に魔力を集めて魔法を発動させるまで、1秒もかからない。
日本人特有? の想像力で無詠唱で魔法を発動させ、強度と形を一瞬で決めて形作る。
(恐らくこれができるのは、俺だけだ…この力があれば)
そう考えてからハッとする。
何事にも絶対は無い。
もしかしたら剣で氷柱を切られるかもしれない。
その後に接近されたら、対抗出来ない。
(自分がまだ剣の練習が出来ないのが、もどかしい)
レイはゲームではレイピアを使っていた。
でも、俺はレイピアなんか使えない。
なので俺は、長剣を使うつもりでいる。
長剣は比較的扱いやすく、それに小回りが効く方だ。
(それにあれを応用すれば…!)
とは言っても出来ないものは出来ない。ので、しばらくはずっと魔法の練習だろう。
俺はまだ氷を生み出すアイスと、氷柱を生み出すアイスニードルしか使えない。
本には、床一面に氷を張るアイスフィールド、氷の槍を生み出すアイスランス、氷の矢を生み出すアイスアロー、変わったもので言ったら、氷の剣を生み出す氷剣なんてものある。(何故漢字かは、触れないでいよう)
(それらも強いけど、氷系魔法最強の技がある)
地面だけではなくその空間一帯を凍らせる魔法、氷結地獄、これは扱えるものは古の時代に数人しかいなかったそうだ。
(つまり氷結地獄を使えるようになれば、可能性はある)
(魔法が発達していた古の時代でも数人しか使えなかった魔法? 数人使えていれば、俺には問題ない)
幸い付け焼き刃だけど、知識だけはある。
魔力量は、鍛えて増やせる分は全て増やした。
操作は、魔力を手足の様に、呼吸するように動かせる。
詠唱も、頭の中に魔法が描かれるから大丈夫。
(これなら大丈夫だ!! 氷結地獄は無理でも、剣が振れるようになるまでに、氷結地獄以外の、アイスアロー、アイスランス、アイスフィールド、氷剣を使えるようになる)
氷剣が使えるようになれば、戦闘中に剣を短剣にしたり、刀にしたりと様々な戦い方ができる。
氷剣は硬く鋭く、そして自由だ。
形は決まっていなくて、人によって大剣だったり、ナイフだったり、長剣だったりする。
形が無い代わりに、どんな形にもなれる。 最強の魔法だ。
でも、氷剣自体はあまり人気がない魔法らしい。
何でも形の想像が難しくて、でこぼこになったり、切れなかったり、すぐ折れたりするらしい。
(でも、俺にはピッタリの魔法だ! 俺ならどんな形にも完璧に変えられる)
救う為に、一刻も早く力を身につける。そう決意した俺は、今まで以上に魔法の練習に励むのだった。