第2話
「うぅ……」
何かに包まれている気配がして俺はそっと目を開けた。
「あぅ?」
しかし何故か目は開かず、眩しいということしか分からない。
(どういうことだ? 頭を打っただけで失明するはずがない)
「起きたの? レイちゃんは可愛いでちゅね〜」
突如頭の上から声がした。
(レイって誰のことだ? ……まぁいいここはどこかを聞こう)
「あぅ〜あうぁ」
(ここはどこだ?)
「ん〜お腹すいたの〜?」
(なんだと!?)
話しかけたつもりが、謎の奇声しか出なかった。
あぅ〜とかどんな声だよと自分で自分に文句を言う。
(それにしてもさっきから女の人の声がするけど、何をしてるんだ?)
「レイちゃん?」
また女の人が誰かの名前を呼んでいる。
誰のことだろうと思い、考えようもしたら、いきなり何かに抱きしめられた。
「レイちゃんは可愛いね〜」
耳元で甘い声が聞こえる。
(レイ? ……まさか!? いや、そんなはずは)
ありえないと思いながらも、俺はある一つの仮説を出した。
「あうあぅあ……」
(もしかしたら……)
そんなはずは無いと理性が叫ぶが、本能で理解している。
ここは……恐らく異世界だ。
そして俺は……
「あうやぅやうよぅよいういにれんれいりれぅ!?」
(悪役令嬢の執事に転生してる!?)
謎の奇声、幼児の声が響く。
(不味いぞ…寄りにもよってレイだなんて)
『レイ』
悪役令嬢の執事であり、容姿は美少女に見える程の中性的な顔、華奢な体、声も高くて、毛も生えていない。魔法や剣等の扱いがとても上手く才能に溢れている。
これがレイの説明だ。
はっきり言って何でこんな天才が悪役令嬢の執事をしているのかは、別の機会として、まずは目の前の状況を考えなければならない。
(このままでは、間違いなく死んでしまう)
そう、それは悪役令嬢の執事であるが為の運命、 抗えぬ未来なのだ。
はっきりと言って悪役令嬢の執事にならないという可能性は、ゼロだ。
レイの家は先祖代々悪役令嬢の家に使えている。
執事になることは、生まれた時から決まっているのだ。
(それに……)
悪役令嬢には悲しい過去がある。
レイはそんな彼女を放っておけなかったのだ。
(悪役令嬢に使えるのが、確定だとして、死なないためには何をすれば……)
俺は生き残る為に必死に考える。
(確かレイは氷魔法の使い手だったはずだ! 魔力は幼少の頃からの訓練で大幅に増える…なら!)
俺は決意した。
死なない決意を、悪役令嬢を殺させない決意を、悪役令嬢を普通の令嬢に変える決意を。
「あぅあう〜!!」
(やってやる!!)
「レイちゃん?」
(やば!)
母親の心配そうな声が聞こえたので、取り敢えず俺は寝たフリをするのだった。
次の日
俺は早速魔力を増やす訓練をすることにした。
(ゲームの設定では、心臓の隣に魔力を司る器官があるはず…!!)
俺は全身に意識を集中させる。
5分くらいだろうか、しばらく集中していると不意に、魔力らしきものを感じとれるようになっていた。
(これを体内で循環させて放出する)
グルグルとゆっくりだが、ドロドロの魔力を体内で循環させて外に出していく。
(くっ、これ結構体力が……)
俺は何とか歯を食いしばって(生えてないけど)魔力を流し続けた。
少し魔力のドロドロ具合がマシになってきたかと思った瞬間俺は気を失った。
数時間後
「あう……」
俺はゆっくりと目を覚ました。
気絶した原因はわかる。魔力不足だ。
魔力不足は、体内の魔力を限界まで使うと、生きる為に必要な魔力が減少してしまったと体が慌てて気絶することで、魔力の消費を少なくしようとする現象だ。
でも、こんなところで終わる訳にはいかない。
(もう一回だ!)
気の所為か、ほんの少しだけ魔力がさっきよりも滑らかになっている気がする。
(これを続ければ!!)
俺はさらに魔力を循環させて体外に放出すると言う動作を繰り返した。
全ては、お嬢様破滅を防ぐ為に。
(待ってろお嬢様、俺が必ず救うから)
こうして俺は毎日のように魔力を循環させるのだった。